はじめて営業組織のマネジメントに携わることになった新人マネージャーの方々は、多くの期待と不安を胸に、日々の業務に全力を尽くされていることでしょう。
営業マネージャーの役割は多岐に渡りますが、その中でも「チームの売上目標達成」と「メンバーの育成」が大きなウェイトを占めています。しかし、新人マネージャーの中には、
「メンバー個々のスキルや能力を正確に評価するのが難しい」
「 個々に最適化したマネジメントを実現したいが、うまくいかない」
といった課題に直面している方も多いです。
そこで本稿では、SL理論を活用した個々に最適なマネジメントの考え方と実践方法について解説します。効率的な営業組織のマネジメントについて知りたい方は、ぜひご覧ください。
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営業マネージャーの役割とよくある課題
営業組織のマネージャーは、各メンバーがもっとも成果を発揮できるようにそれぞれの役割を調整する必要があります。しかし、各メンバーのニーズやスキルを理解し、それに基づいたマネジメントをすることは簡単ではありません。新人マネージャーが直面する大きな課題の一つでもあります。
こういった課題に対処する方法としてよく耳にするのが、「優秀な営業メンバー(売上目標を達成する者)にはある程度の自由を与え、売上目標達成が困難なメンバーに対してはより積極的なサポートを提供する」という考え方です。
このアプローチは基本的には適切で、この粒度をさらに細かく調整することで、より個別最適化されたマネジメントが可能になります。そこでおすすめしたいのが、SL理論を用いた営業マネジメント手法です。マネジメント対象者や対策までを具体的に体系化できるのがポイントで、新人マネージャーでも行動に移すことが比較的簡単な手法だといえます。
SL理論と営業マネジメント
ここからは、営業マネジメントにSL理論を活用するのが効果的な理由について解説します。
SL理論とは
SL理論(シチュエーショナル・リーダーシップ理論)とは、1997年に提唱されたリーダーシップ理論で、メンバーの状況や成熟度に応じて異なるリーダーシップスタイルを発揮することが効果的であるという考え方です。
具体的には、指示・命令型、コーチ・説得型、援助・参加型、委任型という4つのリーダーシップスタイルがあります。
- 指示・命令型
リーダーは主に具体的な指示を提供し、サポート行動は少ないスタイルです。メンバーがまだ未熟で経験が少ない場合に適しています。
- コーチ・説得型
リーダーから多くの指示を出す一方で、メンバーの意見や感想を求めつつサポートするスタイルです。メンバーはある程度のスキルと経験を持っているものの、自信や能力に不安がある場合に適しています。
- 援助・参加型
リーダーはメンバーに多くの自由度を与え、指示よりもサポートを中心に提供するスタイルです。メンバーにスキルも自信も備わっている一方で、成熟度が若干足りていない場合に適しています。
- 委任型
リーダーが高いレベルの自由度と責任をメンバーに与えるスタイルです。メンバーは成熟しており、自走してタスクを完成する能力がある場合に適しています。
※参考記事:VUCA時代のリーダーシップとは?必要なスキルと意識したいこと
SL理論を活用したマネジメントがおすすめの理由
メンバー個々に最適化された管理を目指す営業マネジメントと、リーダーがメンバーの「能力」「成熟度」「意欲」に応じてリーダーシップスタイルを調整するべきだというSL理論の考え方は、共通点が多いといえます。4つのタイプの切り分け方も、現実の営業現場とほぼ相違ありません。
また、SL理論は非常にシンプルなフレームワークで、具体的な状況に応じたリーダーシップ行動が明確に示されています。新人マネージャーがすぐに理解し実践できること、迷わず自信を持って行動できることもおすすめの理由です。
このように、SL理論は営業組織のマネジメントに適しているといえるでしょう。
SL理論の考え方を営業研修に利用した事例
A社では、新製品の発売に伴い、営業チームの研修を行いました。まずは、SL理論に基づいて個々に最適化された研修プログラムを作成。それぞれのタイプに合わせた研修を実施しました。
タイプ | 対象メンバー | 研修プログラムのポイント |
---|---|---|
指示・命令型 | 新人 | 新製品の特性、価格、対象顧客などの基本情報や 具体的なガイダンスを提供する |
コーチ・説得型 | 若手 | 市場調査や競合分析を通じて 新製品の価値を明確に説明させる |
援助・参加型 | 中堅 | 新製品の販売戦略に積極的に参加させ、 能力とモチベーションに合わせてサポートする |
委任型 | リーダークラス | 具体的な販売目標やプロジェクトにおいて 自主的な戦略を採用させる |
SL理論を応用することで、各メンバーの「能力」「成熟度」「意欲」に応じた柔軟な指導を提供できるため、効率的な研修を実現できます。この結果、A社ではチーム全体の営業成績も向上しました。
SL理論を活用した営業マネジメントの方法
ここからは、SL理論を応用して営業メンバーを4つのタイプに分類し、それぞれの属性や適切なサポート方法について解説します。
1.指示・命令型
指示・命令型は主に新人などの成熟度が低いメンバーを対象とします。彼らには、ヒアリング項目から提案すべき製品まで、詳細にわたって具体的な指示を与えましょう。
指示・命令型の対象と対策
対象 | ・主に新人 ・営業の基本的なスキルや製品知識が不足している ・受動的な姿勢を持つ、または自分で行動を決定する能力が発展途上である |
対策 | ・「この方法でやりなさい」という具体的な指示を与える ・その指示の根拠を明確に示し、理解・納得させたうえで具体的な行動を示す |
指示は具体的であることが重要です。「できるだけ早く訪問しなさい」「顧客の課題をしっかり聞いてきなさい」のようにあいまいな指示ではなく、「10時までに訪問しない」「とくに○○の点について、現状取り組んでる事項と、それができていない理由を聞いてきなさい」のような誤解の余地がない具体的な指示が重要です。指示はできるだけ定量的に表現して明確さを保ちましょう。
また、指示・命令型では、その指示がなぜ必要かをメンバーに理解・納得させるのもポイント。メンバーが深く理解し、納得できたうえで具体的な行動を示すとより効果的です。
2.コーチ・説得型
コーチ・説得型は、業務にある程度慣れてきた若手を対象とします。指示を与えるだけではなく、アドバイスをしながら自己解決力を育成し、次の段階である援助・参加型への成長を促しましょう。
コーチ・説得型の対象と対策
対象 | ・主に若手 ・営業上の基礎的なスキル・知識はある ・自分で分析し、とるべき行動を明確に思考している ・完全に能動的とはいえず、発展途上である |
対策 | ・ミスを受け入れる ・「どのようなやり方がよいと思う?」と尋ね、その考えに理解を示す ・5W2Hで意見を述べさせる ・考えに間違いがあれば正しい行動や考え方をアドバイスする |
コーチ・説得型の対象となるメンバーは、「自社の強みをしっかりと認識してもらいます」といった抽象的な言葉を使って表現しがちです。その場合、自社の強みは何か、どのように強みを伝えるのか、なぜ顧客に強みを認識してもらえるのかなど、常に5W2Hで意見を述べる習慣をつけさせるようにしましょう。
マネージャーは立場上、「もっとこうしたほうがよい」と指導が多くなる傾向があります。しかし、過度な指導はメンバーの考える意欲を低下させ、成長の機会を奪う原因に。メンバーの考えが間違っていると思われる場合も、ときには挑戦させてミスを受け入れることも必要です。これによってメンバーは自己改善の機会を得ることができます。
3.援助・参加型
援助・参加型は、スキルも自信もついてきた中堅メンバーを対象とします。案件やミッションの進捗具合に目配りをし、相談を待つのではなく自ら声をかけることを意識しましょう。
援助・参加型の対象と対策
対象 | ・主に中堅 ・完全ではないものの、一定の営業スキルや商品知識は持ち合わせている ・能動的で、問題解決に対する自己主導的な意欲が強い |
対策 | ・「必要なサポートがあったらいつでも相談してください」というメッセージを定期的に伝える ・営業活動については任せつつ、必要なサポートを積極的に提供する ・行動をモニタリングして、常に気にかけている姿を示す ・チーム全体の課題に対するミッションを与える |
援助・参加型の対象となるメンバーは、自ら物事を成し遂げたい意欲が強いぶん、問題が発生した際に相談が遅くなる傾向があります。また「自分は優秀な営業だ」「全権を与えられた」と、勘違いしてしまいやすいのもこの時期です。
マネージャーは放任したり相談が来るまで待ち続けたりせず、目配り・気配りをしながら「いつでも相談してください」と積極的に声をかけていきましょう。
4.委任型
委任型は、リーダークラスのメンバーを対象とします。個人目標の達成だけではなく、次期マネージャーとしての成長を促していきます。
委任型の対象と対策
対象 | ・主にリーダークラス ・意識、知識、能力に優れ、個人の目標を自身で達成するための一連のプロセスを完結できる ・マネージャーの下で小単位のメンバーをマネジメントしている(係長など) |
対策 | ・「すべて任せます」と全幅の信頼を伝える ・マネージャーと同等の権限を委譲する ・視座を高め、周囲に対しリーダーシップを発揮するように指導する ・サポートが必要なポイントを見極める |
どれだけ優秀なメンバーにも、得意な分野と不得意な分野、または難易度の高いミッションは存在します。全幅の信頼を伝えつつも、取り組むミッションに対する意識、能力、知識が十分に備わっているかをよく見極めることが大切です。場合によっては、援助・参加型のマネジメントを行いましょう。
マネージャーとしてメンバーを正しく理解するには?
SL理論を活用した営業マネジメントを行う場合、メンバーをどのタイプと判断するかは重要なポイントです。誤った判断をしないためにも、メンバーとのコミュニケーション回数を増やす、チームメンバーの意見を聞く、SFAのデータなどを参考にすることをおすすめします。
メンバーを正しく理解するための行動の例
- 定期的な1on1の実施
- 同行営業
- ロープレのチェック
- 360度評価
- SFAによるモニタリング
【SL理論】メンバーのタイプ診断フローチャート
個々のメンバーについて正しく理解できたら、以下のフローチャートでSL理論におけるタイプを診断してみましょう。
なお、設問の各基準に到達しているかどうかの明確な定義はありません。組織ごとにマネージャーが評価基準を決めておくようにしてください。また、基準に達しているかどうかの判断は、マネージャー自身だけではなく対象メンバー自身にも納得感があり、合意形成ができていることが条件です。
それぞれの設問の判断基準については以下を参考にしてください。
- 基礎的な営業スキル・知識:業務に慣れて営業活動を問題なく行うことができる
- 応用的な営業スキル・知識:中堅クラスの経験を持ち、高いレベルの営業活動を展開できる
- 意識、知能、能力に優れている:経験豊富でリーダークラスの営業活動を展開できる
新人マネージャーの方や営業組織でマネジメントに課題を抱えている方は、ぜひ本稿を参考にしてSL理論を活用した営業マネジメントを実践してみてください。
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