私が率いる株式会社ガイアックスのソーシャルメディアマーケティング事業部では、3年前から積極的にオンラインアシスタントを活用した業務のアウトソーシングを始めました。
正社員の仕事をコア業務に絞り、アウトソーシングできるものは積極的に外に出す方針を策定。現在は、30名程度の事業部全体で月に約900時間分の作業を発注しています。
その結果、社内のメンバーが、より「考えること」や「専門性を要すること」に時間を割けるようになり、業務の効率も質も向上。事業部としての売上も、2年で5倍にまで成長しました。
今ではアウトソーシングについて「国内トップクラスに活用している」と言われることも多々あり、周囲からも相談を受けることが多くなりました。その中で、気づいたことがあります。
これまでにアドバイスしてきた企業は30社近くにのぼりますが、上手く活用できている企業は約半数程度の印象です。そして成否を分ける要因は「関係性の構築ができるかどうか」であることがわかってきました。これまでの経験をもとに解説します。
関係性構築に時間を割いているか?
私がアウトソーシングの活用をはじめたのは、ひとりで担当していた業務でリソースが不足したことがきっかけでした。雑多なタスクをなんとか減らせないかと取り組み始めたのが、オンライン秘書サービスです。
そもそも何を依頼できるかもわからない状態だったので、まずは毎朝5〜10分の電話ミーティングを実施することにしました。タスクリストを共有して、アシスタントの方から「これはどんな業務ですか?」「それ、私が巻き取りますよ?」と提案を受けながら、徐々に業務を手放していく、という流れです。
また、日常の業務内容以外にも、私の会社におけるポジションや役割、1日の時間の使い方、プライベートの時間の過ごし方までオープンにして共有しました。時には恋愛相談に乗ってもらったこともあります。
一見無駄な時間に思われるかもしれないですが、今振り返ってみるとすごく大事な時間だったと思います。こういったコミュニケーションの積み重ねで、仕事の依頼の仕方だけでなく、お互いの仕事への取り組み方や人となりまで理解しあえたので、普段のコミュニケーションが格段にスムーズになりました。
すぐにパフォーマンスを期待するあまり、とくにコミュニケーションも取らずに業務の依頼だけして、その振り返りもせずに期待以下のパフォーマンスだったら「使えない」と判断する。
私の周りの経営者の方にも、こういうパターンが意外と多くて驚きました。相手もプロフェッショナルとはいえ、人間です。最初に信頼関係を築くためのコミュニケーションの時間を取れるかどうかは、間違いなく重要なポイントです。
外部も内部もない。同じ仲間として働いてもらう
このオンライン秘書サービスは、はじめは個人で利用していましたが、私が部長を務めるチームのメンバーにも使ってもらうようになりました。
導入当初は、不安に思うメンバーもいたことは確かです。「自分の業務がなくなるのではないか」「自分で資料を作った方がクオリティが高いのではないか」などの声もありました。
そこで私は「あなたに期待していることは、パワーポイントのデザインや文字サイズの最適化ではありません。本来のあなたの仕事であるSNSマーケティングのコンサルティングに集中するためにもアウトソーシングを活用してください」と伝えました。
評価軸としても、「外部に切り出せない仕事、本来コンサルタントとして強めるべきポイントを評価する」と伝えました。アウトソーシングで空いた時間は、イベントやセミナー、書籍などで勉強できるように、学ぶための経費は全額会社負担とする制度も作りました。
結果的に、メンバーがアウトソーシング活用に慣れるまでには、3〜6か月はかかりましたが、今では、それぞれのアシスタントの方を活用し、うまく業務を切り分けています。
現在オンライン秘書サービスにお願いしている業務として、以下のようなものがあります。
- 社内会議への参加と議事録作成
- パワーポイント資料作成
- プロジェクトマネジメント(タスクのリマインドやスケジュール管理)
- 新人メンバーの業務へのフィードバック・添削
とくにプロジェクトマネジメント業務は効果的で、タスクやスケジュール管理に社員の工数を割かずに済むため、利益率の向上にも貢献しています。
私たちの組織は普段チャットワークを利用しているので全体のタスク管理がやりづらいのですが、アシスタントが勝手にスプレッドシートに転記してくれて、遅延しているタスクは毎日リマインドを送ってくれる仕組みなので、ミスもかなり軽減しました。
私は、人の成長においては「弱みを克服する」ではなく「強みを伸ばす」ことが重要と考えています。それは社内のメンバーに対してだけでなく、外部のアシスタントの方に対しても同じ考えです。
それぞれの強みを生かし合う組織を目指したい、そのためにアシスタントの方にも強みを存分に発揮して欲しい。だからこそ、こちらの期待以下のパフォーマンスであれば率直にフィードバックしますし、場合によってはアシスタントの変更も打診します。「期待にそぐわなければ切る」ではなく、社内メンバーと同様に「強みを発揮してもらえるようにコミュニケーションを積み重ねる」ことが重要だと感じています。
「今回の資料、本当に最高の出来でした」と伝えたり、「ちょっとイメージと違いました。こういう資料作成は苦手ですか」と電話で聞いたり。とくに導入初期は、成果物に対するフィードバックを入念に行うことが、その後の良好な関係性に大きく影響します。
企業として、「人」との関係性構築が上手かどうか
私たちもすべてが順調だったわけではありません。他のメンバーがアウトソーシングの活用を始めた当初はいろいろと問題もありました。
一番の問題は、「アシスタントの方は上下関係の下側」という認識を持っていたメンバーがいたことです。これは絶対に避けなくてはいけません。私は「発注側と受注側という意識ではなく、共に働く“パートナー”としての関係が構築できないと良い仕事はできない」と信じています。相手を「下請け扱い」してしまえば、信頼関係など築けるはずがない。そのようなメンバーは厳しく叱咤しました。「早急に態度を改善してください。じゃないと、僕はあなたと一緒に働きたくない」と。
一方で、問題が発生する中でも嬉しかったことがあります。それは、アシスタントの方が私に遠慮なく不満をぶつけてきてくれたこと。サービスを受注している側は、不満を言わないのが一般的かもしれません。しかし、私たちとの関係性はそうではなかったのです。
もちろん言われているときは耳が痛く、申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、不満を伝えてくれるのは私たちのことを信頼してくれている証だと思うと、とても嬉しい気持ちになりました。
今もっとも大事にしているのは、アシスタントのみなさんに、私たちとの仕事が楽しい、私たちと仕事がしたいと思ってもらうことです。私たちの組織のファンになってもらえるよう、常に意識しています。
今、人材難だと言われていますが、これからは人が集まる企業と集まらない企業が両極端になっていく。アウトソーシングや外部パートナーだからといって、一緒に働いている「人」との関係性をないがしろにするようでは、うまくいかないと考えています。
アウトソーシングの活用が上手な企業と下手な企業。それはそのまま、「人」との関係性の構築が上手な企業と下手な企業、に言い換えることができるかもしれません。