クラウドソリュ―ションサービスやインバウンド向けソリューションを提供するMTテクノロジーズ株式会社様。2022年11月に会社を立ち上げ、クラウドサービスプラットフォーム「パブリッククラウド」の販売強化に取り組んでいます。
同社では、早期の営業網構築に向け、パートナー(代理店)販売に注力したいと考えていたものの、社内にパートナー戦略の経験者はおらず、推進するための知識やノウハウが不足していたといいます。
才流(サイル)は2022年7月から3か月間、パートナー戦略立案をご支援させていただきました。MTテクノロジーズ代表取締役の松井様、営業の冨田様、竹下様にプロジェクトの率直な感想を伺います。
「パートナー戦略で、早期に販路を構築・拡大したい」
ー「パートナー戦略の立案」を才流に依頼した背景を教えてください。
松井 海外企業との合弁会社を設立することが決まり、そこから11月の会社設立までに急ピッチで販路を整えたいと考えたことが、才流に依頼をした背景です。
松井 一緒に組む海外企業は、海外企業ならではの強みを活かしたサービスや販売ノウハウはあったのですが、日本国内での認知は低い状態。日本での販路構築のためには、パートナー戦略が必要だと考えたのです。
クラウドソリューションという事業の特殊性も考慮し、どのようにパートナーを選べばよいのか、売ってもらうためにすべきことはなにか。ゼロから考える必要がありました。
とはいえ社内は、会社設立に向けて直販営業をしながら、新会社のための組織づくり、インサイドセールス、デジタルマーケティングなどを垂直に立ち上げている状態。パートナー販売の戦略策定やアウトプット作成まではリソース配分ができず、 プロダクトリストや競合比較も片手間になってしまう懸念もありました。
新たに専任の担当者を採用することも考えましたが、新会社設立の期限は決まっており、スピードを重視したかった。そこで、コンサルティング会社への依頼を検討し始め、偶然才流のことを知ったのです。
他にも複数社に話を聞きましたが、コンサルティングの実績や専門性、スピード感を重視し、才流に依頼することを決めました。
パートナーの選定から提案資料の作成まで、3か月でご支援
ー依頼を受けてから才流としてはどのようなことに取り組みましたか。
桂川 最初の1か月は、業界の構造や潮流を把握しながら、顧客理解とパートナー理解を進めるための調査・分析に取り組みました。
桂川 今回ご支援した「パブリッククラウド」は、200以上のソリューションが組み込まれたプラットフォームです。業界特有の専門用語も多く、理解を深めるのに苦労しました。ただ、その都度竹下さんに伺いながら、認識をすり合わせて進めていけたのは大変ありがたかったです。
調査・分析を進める中で見えてきた仮説から、ターゲットセグメントはゲーム・メタバース・映像配信の3つに絞り込めると判断。さらに深くターゲットや業界の商流、プレイヤーを理解するために、見込み顧客・既存顧客・業界のエキスパートへのインタビューも実施しました。
また、パートナー企業の理解も必要なので、競合サービスや周辺領域で働く方、ゲームやメタバースに携わる方などをひたすら探し回り、最終的に13名の方にお話を伺いました。
2か月目からは、調査・分析で得た情報をまとめ、戦略に落とし込みました。パートナーに自社の商品を売ってもらうためには、パートナー側が売りやすい状態を作ること、メリットを感じてもらうことが重要です。
そこで、短時間で商品の魅力を訴求するエレベーターピッチを作ったり、ペルソナや競合商品との比較など、戦略のよりどころとなる情報をまとめたりしましたね。
桂川 そして3か月目には、戦略をまとめた資料のほか、パートナーへの提案資料、事例インタビューやプレスリリースの準備、パートナー募集のWebページなども作成しました。
ユーザーやパートナーの解像度を上げ、ターゲットを決定
ー事業理解や顧客分析に時間をかけたわけですね。MTテクノロジーズ様は、どのような印象を持たれましたか。
松井 商品や業界理解のために、ここまでインタビューに取り組むというのは正直驚きました。インタビュー先のリストには「よくこの会社にヒアリングできたな」と思うところもあり、かなりツボを抑えた相手に話を聞けたと思いました。
竹下 ユーザーインタビューの報告を見ると、営業先でお客さまからよく言われることと類似する内容もあったんです。私たちが日頃感じていながらも、言語化できていないことだとあらためて気づかされましたね。
冨田 私は、インタビューの中でも「パブリッククラウドは双方向通信が強い」とお客様が認識していることを知り、商品の強みを改めて確認できたことは良かったと思います。戦略立案に向けて大きな気付きがありました。
桂川 インタビューを通じて、想定外なこともありました。ゲームやメタバース業界では、エンド顧客の技術者がベンダーと直接契約する構造だということがわかったのです。つまり、パートナーが介在しておらず、パートナー経由での代理販売が成り立っていなかったのです。
そこで、自社のシステムに組み込んで販売するプラットフォーマーやコンテンツ事業者をターゲットとし、エンド顧客を強く意識した内容でパートナー向けの資料を作ることにしました。
既存顧客へのインタビューから「バーニングニーズ」を発見
ー「既存顧客のインタビューでサービスの強みを再認識した」ということですが、具体的にどのようなことだったのでしょうか。
桂川 見込み顧客はサービスの良さを理解しているものの、決め手がないために導入していないわけですよね。そこで、既存顧客が「なぜパブリッククラウドを採用したのか」を深堀りしていきました。
すると、「Webブラウザ対応」という新たな強みが、キーワードとして浮かび上がってきたんです。
冨田 従来のメタバースでは、ゴーグル型のヘッドマウントディスプレイや専用アプリを入れる必要がありました。
冨田 しかしこれらの機器は、性能により高画質な映像処理ができず、遅延が発生してしまうことがあったのです。メタバースでは双方向での通信が生じるため、遅延が発生するとボタンの反応が遅れ、会話がずれてしまうことが問題でした。
一方「Webブラウザ対応」では、Webブラウザからメタバースに入ることで、メタバースの処理をクラウド側で行い、使用機器の影響を受けることなく使えます。Webブラウザ対応ならば、画質をかなり上げることができ、リアルに近い体験を提供できるのです。
パブリッククラウドはWebブラウザに対応しており、 社内では「ここが強み」という認識はあったのですが、お客さまも同じ認識をしてくださっていた。パブリッククラウドの特異点があらためて確認できたと感じました。
桂川 「Webブラウザ対応」であることが、パブリッククラウドを本格的に検討するきっかけになり、導入検討の壁を超える「買った理由」だったわけですよね。
才流では、見込み顧客が本格的に検討するきっかけとなるニーズを「バーニングニーズ」と表現しています。バーニングニーズが明確になったので、ここから、どのように伝えるかを考えるフェーズになったと認識しました。
冨田 強みが見つかったことで、これまでレッドオーシャンだった市場が、一気にブルーオーシャンになるような市場のニーズを認知できたことは、非常に大きいと感じましたね。
この強みを打ち出すことで、大型の案件の受注にもつながっており、効果はすでに現れていると思います。
200以上のソリューションの強みをエレベーターピッチに凝縮
ーインタビューのほかにも、印象に残ったことがあれば教えてください。
松井 エレベーターピッチの表現が非常に良かったと思います。サービスのよさをギュッと濃縮して、そのうえで「超低遅延」のような印象の強いキーワードを選んでいただいたことで、わかりやすい内容に仕上げていただきました。
桂川 エレベーターピッチは、みなさんそれぞれに商品への思いがあるので、とてもやりがいがありました。既存顧客、パートナーへのインタビュー、導入事例や競合調査などの分析結果を踏まえ、顧客が望んでいる価値を「Must have」と「Nice to have」にわけてバリュープロポジション(※)を作り、文章に落とし込みました。
※バリュープロポジション:value proposition/自社が提供できて、競合他社が提供できない、顧客が求める独自の価値を表したもの。
200以上のソリューションがあると、どこにフォーカスして伝えればいいか迷いますよね。このキーワードを入れたいが、入れるとわかりにくい。この言い方では伝わらないのではないか……議論を繰り返し、完成まで1か月ほどかかりましたね。
意見が分かれ、話が拡散したら、顧客が望んでいる価値を振り返る。才流としては客観的な立場でディスカッションさせていただきました。
石田 私もサブ担当として参加させていただきましたが、桂川さんはかなりキャッチアップに時間をかけていましたね。
桂川 ネット検索はもちろん、書籍やYouTube、Googleアラート、インタビューなどあらゆる手を尽くしました。
冨田 個々の営業が商談でなんとなく感じていたパブリッククラウドの良さを言語化していただきました。みんながぶれずに訴求できるようになったのは大きいですね。
竹下 桂川さんが作成したパブリッククラウドの沿革資料には、私たちすら知らないことが書いてありましたよね(笑)。
桂川 そうでしたね(笑)。海外企業の方がYouTubeで話されている内容を参考にして、独自に作りました。
パートナー戦略において、後発のサービスが既存市場を切り崩すには表面的な機能説明だけでは足りません。プロダクトの設計思想や会社の沿革など、パートナーの心をつかむ共感の演出が鍵になります。
いっしょに新しい世界を創りましょうというスタンスですね。ですから、パートナー向けの提案資料は、細部の沿革も含めて一貫したストーリー設計にこだわりました。
パートナープログラムのアウトプット資料が完成
ーエレベーターピッチ以外にも、さまざまなアウトプットを作成したそうですね。具体的に、どのようなものでしょうか?
桂川 パートナーランク制度や営業マーケティング活動のサポートプログラムの方向性をまとめました。いまは立ち上げ期のため優先順位は下がりますが、数年後には検討するタイミングが訪れます。パートナープログラムを途中で変更する負荷は大きいので、今から議論をしておいて、手戻りを少なくしました。
また、業界構造を加味してパートナー候補をリストアップしました。センターピン(業界で影響力が大きい会社)となる企業とアライアンスを組むことを最優先にしています。
例えば、メタバース業界は大企業からスタートアップまで業界を問わず参入が続く黎明期の市場。これからどこが抜きん出るかは誰にもわかりませんが、いま技術者が一目置いていて影響力がある企業は調査・分析で見えました。
冨田 10月に大規模な展示会に出展したのですが、才流からはネーミングやブース運営についてもアドバイスをいただきました。
竹下 キャッチコピーをがらっと変えて、「いままでのメタバースはこうだったが、パブリッククラウドでは違う」ということをうまく表現いただいたと思います。
松井 当社のブースに来ていただいたお客様の取りこぼしがないよう、動線の確保をする。デモンストレーションを見られない方のフォローをして、展示会後につなげるなど、現場でも具体的なアドバイスをいただきましたね。
石田 他のブースは呼び込みに必死ななか、MTテクノロジーズ様のブースは人が溢れかえっていましたよね。少しでもお役に立ててよかったです。
「社内の人と同じレベルで理解し、提案してくれる」
ー才流の支援を振り返って総評をお願いします。
松井 われわれの事業を理解するために、徹底した情報キャッチアップをしてくれたことで、社内の人と同じレベル感で会話できるようにしてくれたことは、ありがたかったです。
顧客インタビューも、とても労力がいる取り組みだと思いますが、こんなにも取り組んでいただけるのかと感心しました。
われわれはもともと大企業の新規事業部門として立ち上がり、子会社として独立しました。ですから同じように、大企業で新規事業を立ち上げる際には、才流をおすすめしたいと思いました。
業界や業種によって、マーケットやプロダクトは違いますが、これほど理解をしてくれるならば、どんな業界業種でも安心だと思います。
ー今後の展望について教えてください。
松井 才流とパートナー戦略に取り組んだことで、実際にお客様に売れることがわかり、自分たちで売る際の勝ち方も明確になりました。「売れる」感覚をつかめたので、今後も多くの方に使っていただけるよう、販路拡大をはかっていきたいです。
(撮影:矢野 拓実、取材・執筆:水口 幹之、編集:安住 久美子)