本記事では、新規事業の目的を整理する手順や必要なリソースを解説しています。目的を整理するのに使えるテンプレートも用意しているので、あわせて活用してください。
※個人情報の入力は必要ありません。 クリックするとファイルがダウンロードされます。
新規事業で最初に目的を整理すべき理由
新規事業には、経営陣や事業部長、現場の実務担当者など多様な立場・役割の人が関わります。このように多様な関係者がいると、新規事業に取り組む目的や意義に対する解釈や認識が人によって異なることがあります。
認識のズレが生じると、「どの顧客層を優先すべきか」「どの程度の予算と期間を投下すべきか」といった重要な判断に迷いが出たり、「何を優先的に検証すべきか」「いつまでに検証するべきか」という方針が不透明になったりすることが少なくありません。
さらに、その影響で情報収集や作業範囲が膨れ上がり、当初の想定以上に時間やリソースを費やす場面が増え、結果的にプロジェクトが迷走したり手戻りが発生したりするケースも見られます。
こうした状況を回避するためには、新規事業に取り組む最初のステップとして、目的を明確に言語化し、チーム全体で共有することが不可欠です。
最初の一歩を踏むだけで、意思決定の軸が明確になり、新規事業をスムーズに推進できる準備が整います。1日あればできるため、新規事業をスタートさせるときは必ず実施することをおすすめします。
新規事業の目的8分類
新規事業に取り組む目的は、1つだけとは限りません。
企業によって動機や期待する成果は異なり、複数の理由が同時に存在するケースも往々にしてあります。たとえば、短期的には売上拡大を狙いつつ、長期的には自社ならではの技術をいかしたイノベーションを興したい、といったものです。
才流では、新規事業の目的は以下の8つに分類できると考えます。
目的 | 概要 |
---|---|
金銭的リターン | 利益・売上増加のため |
技術的チャレンジ | 新技術の理解や技術の商用化のため |
戦略的パートナーの構築 | 他社と共同で事業を行い、関係性を深めるため |
社内のリソース活用 | 自社内にある資産の有効活用のため |
人材への対応 | 起業家精神を持つ人材の育成や離職対策のため |
新市場への参入 | 新市場や新興市場への参入のため |
事業ポートフォリオの見直し | 次のコアビジネスの構築や新商品・サービスの開発、既存事業の さらなる強化のため |
競争力強化 | 競合他社に対して競争力を高めるため |
これらのうち、どれを重視するかが明らかになるだけでも、新規事業が進めやすくなります。目的が複数ある場合は優先順位をはっきりさせておくと、施策や投資判断などの意思決定のぶれも防ぎやすくなるでしょう。
新規事業の目的を整理するのに必要なリソース
新規事業の目的を整理する際は、以下の工数・期間と担当者が必要になります。
1.工数・期間:1日
新規事業の目的整理は以下の4つのステップを踏んで進めます。具体的な手順は後述します。
- 長期的な会社のビジョンの確認(3時間)
- 新規事業の承認を決定する人へのヒアリング(1時間)
- ヒアリングをもとにした前提の整理(3時間)
- 関係者への共有(1時間)
2.担当者:新規事業の担当者、新規事業事務局
主体的に進めるべきは、新規事業の担当者と新規事業事務局です。
新規事業の担当者は、事業のアイデア構想や企画立案、検証などの現場の取り組みに深く関与します。自分たちが何を目指して動いているのかをあらかじめ把握することで、調査や検証の方向性を誤らずに済みます。新規事業の担当者が主体となって、先述した4つのステップを踏みましょう。
企業によっては、新規事業事務局がアイデアを募集したり、ビジネスコンテストを開催したりするケースがあります。
その際は、新規事業事務局がコンテストを始める前に会社のビジョンや新規事業に求める期待を整理し、公募要件や評価基準に反映させます。そうすることで、応募されるアイデアの方向性を全社方針とそろえやすくなります。
新規事業の目的を整理する手順
ここからは新規事業の目的を整理する手順として、4つのステップを説明します。
長期的な会社のビジョンの確認
最初のステップは、自社の中期経営計画を確認し、会社として実現したい社会像や解決したい課題を整理することです。そのうえで、自社が取り組むべき新規事業について具体的にどのように貢献できるかを言語化します。
たとえば「環境にやさしい社会をつくりたい」といったビジョンが明文化されているなら、それを実現するためにはどんな技術開発や商品・サービスが必要になるのかを逆算して考えます。もし自社が脱炭素を大きなテーマに掲げているとわかれば、再生可能エネルギー関連の領域に新しい事業機会があるかもしれません。
このような仮説をチームで共有して言語化していくことで、新規事業が会社全体の方向性とどうつながるのかが明確になります。
- ポイント
- 仮に精緻な根拠がなくても「こういう位置づけになりうる」という段階の想定で構いません。あくまで初期の作業として、会社のビジョンに沿った形で事業の目的をイメージし、言葉にしていきましょう。
新規事業の承認を決定する人へのヒアリング
新規事業の方向性を言語化したら、実際に新規事業の承認を決定する立場の人へヒアリングを行います。目的は、「今回の新規事業をどんな目的やゴールで進めようとしているのか」をダイレクトに確認することです。
具体的には、以下の9つについて質問し、回答を得ます。ヒアリング内容をまとめたテンプレートも用意しているので、ぜひ活用してください。
新規事業の目的整理テンプレートをダウンロードする(PowerPoint形式)※個人情報の入力は必要ありません。 クリックするとファイルがダウンロードされます。
1.目的
はじめに、先述した新規事業の8つの目的のうち、どれが最も近いかを確認します。複数ある場合は、それぞれの優先順位を明らかにします。
目的を明らかにすることで、どの方向に進むべきか?を判断する軸が定まります。
- ポイント
- 目的が明確に決まっていないケースもあるので、選択肢を用意して選んでもらう形が答えやすいでしょう。ステップ1で得た仮説をもとに選択肢を用意しておきましょう。
2.目指す事業の大きさ
次に、事業の大きさを確認します。事業の規模によって、投資額やリスクの取り方、成功の基準が変わるためです。
まずは、大きく投資して大きく狙う「ホームラン事業」を期待しているのか、それとも比較的着実に利益を狙う「ヒット事業」でよいのかを二択でたずねましょう。相手が考えている方向性をつかみやすくなります。
- ポイント
- 実際には、この二択に限らず小さく始めて徐々に拡大する方法や、ニッチな領域を深堀りする方法など、さまざまな選択肢があります。二択をきっかけとして、相手が「どちらでもない」または「別のアプローチがある」というアイデアを示してくれることもあるため、あくまで話を切り出す際の目安として考えてください。
3.目指す事業の具体的な事業目標
売上や利益、ユーザー数など、何をどの程度達成すべきなのか、指標と数値を確認します。
具体的な指標があると成功基準が明確になります。チームが「何を達成すればOKなのか」を把握でき、施策や検証の優先度を決めやすくなるからです。
4.事業目標の達成期間
ヒアリングした事業目標について、期限を確認します。
たとえば、1〜2年の短期達成を求められるのと、3〜5年かけて育てる想定では、商品・サービス開発の進め方が変わります。仮に期間が短い場合はスピードを優先し、中長期の場合は段階的に検証を繰り返す判断ができるようになります。
5.既存事業との距離感
新規事業が既存事業にどれだけ依存するかを確認します。既存の強みをどこまで活用できるか、どの部分がゼロベースでの開発になるかを見極めやすくなります。
たとえば、既存市場×既存製品に近い事業なら社内リソースやノウハウを活かしやすい一方、新市場×新製品レベルのチャレンジだとリスクや投資が大きくなります。
以下のイメージを見せて選んでもらうのがわかりやすいでしょう。新規事業の目的整理テンプレート内にも入っています。
新規事業の目的整理テンプレートをダウンロードする(PowerPoint形式)※個人情報の入力は必要ありません。 クリックするとファイルがダウンロードされます。
6.市場の攻め方のイメージ
市場の攻め方とは、新規事業が「どのような市場に、どのタイミングで、どんな価値をもって参入するか」の総合的なアプローチを指します。市場の攻め方は大きく2つあります。市場創造と後発参入です。
新しい市場を創造するなら先行者メリットが期待できますが、需要予測が難しくリスクも高くなります。逆に後発でも大きな市場に参入する場合、検証コストは低めですが、競合他社が多くなる可能性があります。
どちらを目指すかで開発やマーケティングの戦略が異なるため、早めに把握しておく必要があります。
7.事業ポートフォリオ内での位置づけ
新規事業が自社の事業全体でどのような役割を担うのかを確認します。新規事業が自社の事業ポートフォリオ内でどんな役割を担うのかによって、商品・サービスの設計や収益モデル、他の事業との連携方法が変わります。
たとえば、顧客接点を広げるフロント商材として展開するのか、既存顧客に追加価値を提供するクロスセル用の商材にするのか。事業の狙いが異なれば、求められる機能や価格設定、マーケティング戦略も変わってきます。そのため、あらかじめどう位置づけたいのかを明確にしておきます。
8.投資額
具体的な投資余力を知ることで、どこまでリスクを取れるのか、開発やマーケティングにどれだけ予算を割けるのかを把握できます。損益分岐まで赤字が続くことをどれくらい許容するのかも大切な判断基準です。
9.体制
新規事業に取り組む体制を確認します。
新規事業にフルコミットするのか、既存業務と兼任するのかで、必要なリソースやスケジュール感が大きく変わります。専任チームを組める場合は、新規事業に多くの時間を集中させられるため、スピードを優先した進め方が可能です。一方、兼務体制ではリソースが分散しがちで、新規事業への注力度が低下する懸念があります。また、工数管理や社内調整もより複雑になり、進行が滞るリスクが高まります。
- ポイント
- 才流では、新規事業を兼務で進める体制は推奨していません。同じリソースを割く場合でも、多くのメンバーが少しずつ関わるより、少数のメンバーが多くの時間を集中して取り組むほうが成功しやすいと考えているからです。
以上9つの質問を投げかけることで、新規事業の承認を決定する立場の人が想定している事業の規模感や成長イメージ、会社として許容できる範囲などが具体化されていきます。ここで得た情報を踏まえて、次のステップである「前提の定義」がより的確に行えるようになります。
なお、新規事業は朝令暮改で方針が変わる可能性があるため、当初の発言を録音・録画しておく、あるいはメモを残すことも重要です。あとになって方針が変わった際に責任の所在が曖昧になったり、思わぬ誤解を招いたりするリスクを防ぐためです。
ヒアリングをもとにした前提の整理
ヒアリングを終えたら、ヒアリング内容をベースに新規事業の前提を整理します。
整理に使えるテンプレートを用意しているので、ぜひ活用してください。
新規事業の目的整理テンプレートをダウンロードする(PowerPoint形式)※個人情報の入力は必要ありません。 クリックするとファイルがダウンロードされます。
関係者への共有
前提条件を整理したら、その内容を新規事業開発に関わる人たち全員に共有します。一人ひとりの認識をそろえ、この前提をもとに新規事業の検討や意思決定を進めていきましょう。
また、序盤に目的や前提を言葉にして共有していないと、周囲が「わかってくれるだろう」と思い込んで方針が頻繁に変わってしまう恐れがあり、チームとしての足並みが乱れがちです。こうした混乱を防ぐためにも、早い段階で情報を整理し、チーム内で共有するのがおすすめです。
- ポイント
- プロジェクトの目的や前提条件は変わることがありますが、事前に明文化して共有しておくことで、変更点を関係者に明確に伝えやすくなります。また、明文化された資料があれば、方針変更が起きても関係者が迅速に理解し、必要な調整をスムーズに進められます。
記事のまとめ
新規事業をスムーズに進めるには、まず「何のために、どこを目指して実施するのか」を明確に言語化し、チーム全体で共有することが欠かせません。
以下の4つのステップを踏めば、わずか1日で整理でき、その後の意思決定を加速させる準備が整います。
- 長期的な会社のビジョンの確認(3時間)
- 新規事業の承認を決定する人へのヒアリング(1時間)
- ヒアリングをもとにした前提の整理(3時間)
- 関係者への共有(1時間)
新規事業の目的整理は、手間やコストをかけずに着手でき、手戻りも減らせるプロセスです。新規事業の最初の一歩として実施し、「何のために、どこを目指すのか」をチーム全体で共有してからスタートをきってください。
ヒアリングや目的の整理に使えるテンプレートも用意しているので、ぜひ活用してください。
新規事業の目的整理テンプレートをダウンロードする(PowerPoint形式)※個人情報の入力は必要ありません。 クリックするとファイルがダウンロードされます。