「営業が自分が行きたい顧客にばかり訪問し、行くべきところに行っていない」
「多数の顧客を抱え、引き合いの対応で手一杯。優先順位のつけ方を教えてほしい」
営業組織、とくにアカウントセールス部門のマネージャーや事業部長から、このような相談を相談をいただくことがあります。
注力顧客のターゲティングや優先順位は、経営戦略やマーケティング部と連携したうえで決定されていることが求められています。しかし実際の営業活動では、リソースの問題は部門内で対処しなければならないケースが多いです。
そこで本記事では、アカウントセールス型の組織が営業リソースを最適化するためのポイントと、ターゲット選定のための3つの分析パターンについて解説します。
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アカウントセールス型の組織でよくある課題
前提として、営業組織が売上を拡大していくためには、経営戦略やマーケティング部門と連携しながら優先度の高いターゲット企業を選定し、適切なリソースを投入していくのが理想です。
しかし実際の営業活動では、与えられた条件のもとでリソースを適切に配分していかなければならず、理想どおりに進められない実情があることも。ここからは、アカウントセールス型の営業組織が抱える営業リソースの配分に関する課題について解説していきます。
本記事で対象としているアカウントセールス型の営業組織の特徴は以下のとおりです。
- 営業が多数の顧客を担当している
- 取扱プロダクトが多岐にわたる
- 営業組織内で完結できる対策が求められている
目先の顧客対応でリソースが埋まってしまう
多数の顧客を持つアカウントセールス部門では、営業パーソンが顧客の引き合いの対応だけで精一杯になってしまうケースがよくあります。また、受注の見込みの少ない顧客・案件への対応ばかりにリソースが割かれていることも多いです。
その結果、自社に売上をもたらす可能性の高いターゲット顧客にリソースを投下できず、成果を出すことが難しくなってしまいます。
注力すべき優先順位が明確になっていない
営業パーソンが訪問しやすい顧客ばかりに訪問してしまうのも、よくある課題だといえます。
気心が知れた既存の顧客への訪問は居心地がよく、つい必要以上にアポをとってしまいがちです。そこに限られたリソースの大半を注ぎ込んでしまうと、本来注力すべき顧客に訪問する時間がなくなってしまいます。
ターゲット選定が営業に受け入れられない
担当する顧客の数が多いことから、マネージャーがターゲット選定を行うケースがあります。しかし、
「忙しくて時間が取れない」
「目先の売上が減ってしまうから対応できない」
「競合の牙城を崩すのは難しい」
などのさまざまな理由から、現場の営業パーソンに受け入れられないことがあります。このままだと営業リソースの最適化がいつまで経っても進まず、売上の成長が見込めません。
営業リソースを最適化するために必要な2つのポイント
アカウントセールス型の組織が営業リソースを有効活用するためには、自社の状況にあったターゲット選定と、ターゲティングの目的の明確化が必要です。ここでは、2つのポイントを具体的に解説します。
自社の状況に合ったターゲット選定
営業組織として成果を出すためには、ターゲット選定(優先順位付け)と最適なリソース配分を行い、注力すべき顧客に注力する必要があります。限られた営業リソースを有効活用するためにも、ターゲット選定は緻密な分析をもとに行いましょう。
分析には「業種x規模」の指標を用いるのが王道です。しかし、同じセグメントにプロットされた企業であっても担当する顧客ごとに状況は異なるため、粒度が粗い指標だといえます。営業組織でターゲット選定を行うなら、「個社」で分析するのがポイントです。
なお、どのような分析パターンが適しているかは自社の状況によって異なりますが、主に以下の3つの中から選択します。
- 売上高(パレート分析)
- 市場成長性 × 競争優位性(4象限マトリクス分析)
- 財布シェア × 競争優位性 × ポテンシャル(バブルチャート分析)
この後に紹介するフローチャートで、自社に合った分析パターンを見つけるのがおすすめです。
ターゲティングの根拠と目的を明確化
先ほど述べたように、現場の営業パーソンがターゲット選定の根拠に納得していない状態では、選択と集中が進まずに営業リソースは最適化されません。
営業パーソンの反発を回避するには、ターゲット選定の目的を明確にすることが重要です。なぜその顧客をターゲットに選定したのか、その根拠を提示します。
営業個人が目的を理解し、腹落ちすることで注力すべき顧客に注力できるようになるでしょう。
ターゲット選定と営業リソース最適化のためのフローチャート
才流(サイル)では、自社のビジネスモデルに合ったターゲット選定のパターンとリソース配分の施策がわかるフローチャートを用意しました。
このフローチャートで判明した分析パターンを用いて、自社の目的に合った手法でターゲット選定をしましょう。注力すべき顧客が一目でわかるので、営業担当への説得材料にもなるのがポイントです。
フローチャートの使い方
質問1:リターンが小さくともリスクを最小限にしたい
足元の業績が堅調な場合や、企業文化としてリスクテイクを望まないなど、リターンが小さくとも確実性を重視したうえでリソースの再配分をしたい企業が当てはまります。このような場合、「売上高」を指標に分析をします。
質問2:組織やプロダクトに競争優位性がある
組織やプロダクトに強みがあり大きなチャンスがあるものの、リソースが割けずジレンマを抱えている企業も多いのではないでしょうか。このタイプの場合、「競争優位性」と「市場成長性」を使い分析をします。組織やプロダクトに強みがない場合は、「財布シェア」「競争優位性」「ポテンシャル」から分析をします。
3つの分析のパターンとリソースを最適化する施策
フローチャートで自社に合った分析パターンが判明したら、早速ターゲット選定を開始してみましょう。また、それぞれのパターンで使えるリソースを最適化するための施策もあわせてチェックしてください。
パターンA:売上高(パレート分析)
グラフの作成〜分析の手順
Excelで簡単に作成できます。顧客別(さらに詳細にする場合は部署別)に売上高を入力するだけです。イラストは便宜上、3社で区切っていますが、状況に合わせて修正してください。
このパターンに当てはまる会社は、現時点で売上が確保できているため、顧客との関係性や相性が良いと考えられます。この場合、売上の高い顧客にリソースを投下することで成果が出やすい状況といえるでしょう。
注意したいのは、顧客にポテンシャル(予算)が残っているか、リソースを投下して利益が残るのか、という点です。とくに売上額の大きい顧客に対しては、自社にとって低利益のビジネスになっていることも往々にしてあるため、気をつけましょう。
リソースを最適化する施策
- 担当営業の業務負担を軽減し、注力顧客にリソースを集中できる環境を整備する
商社においては、為替予約や乙仲との交渉を営業が個人単位で実施しているケースがあります。こういった業務は、別のメンバーや別の部署へ移管しましょう。
- プリセールスをつける
専門性の高い分野に関してはプリセールスを配置し、営業パーソンはより付加価値の高い業務に集中させるようにしましょう。
- アシスタントをつける
- 営業を増員する
パターンB:市場成長性 × 競争優位性(4象限マトリクス分析)
グラフの作成〜分析の手順
「顧客の成長性」と「自社の競争優位性」を指標として2軸に設定します。
成長企業にリソースを投下することは定石とされています。成長市場において自社の競争優位性が発揮できれば、より安定的な収益化が見込めるからです。ただ、この注力顧客を見つけること自体は容易ではありません。
企業の成長率は以下の方法で算出します。比較対象の期間は同じ長さとなるようにしましょう。
成長率 =(当期の売上高 - 前期の売上高) ÷ 前期売上高
成長率は、海外では10%を区切りとすることが多いといわれていますが、日本企業には少々ハードルが高いかもしれません。そのため、ここでは5%を目安としましたが、正確な定義はありません。
リソースを最適化する施策
- ミドルやベテランを投入
成長企業は機動力があり、戦略の変更もしばしば起こります。いかにその変化に対応できるかが重要となるため、対応力や柔軟性のある営業パーソンをアサインしましょう。
- アウトソース化(業務の巻き取り)
成長スピードが早い企業は、人材の確保が追い付かずに業務過多になっているケースがあります。その業務の一部を自社で巻き取り、アウトソース先となってしまうのも手です。はじめは採算度外視で、関係性の強化に取り組む決断も必要かもしれません。
パターンC:財布シェア × 競争優位性xポテンシャル(バブルチャート分析)
グラフの作成〜分析の手順
「顧客の財布シェア※」「競争優位性」「ポテンシャル」を使って分析します。顧客の財布シェアが低いなかで、ある程度の競争優位性が発揮でき、ポテンシャル(予算)のある顧客をターゲットに選定しましょう。
スライドにある注力顧客は、各顧客のなかで最も魅力的であり、リターンが大きい傾向があります。財布シェアは自社が4番手以下となることを目安としてください。
競争優位性があるのにシェアが低い、競争優位性がないのにシェアが高いということは通常ではあり得ないため、グラフの左上・右下は空白に近い状態になるはずです。
他の2パターンと比較して、最も難易度が高い分析手法です。質問1・2を踏まえ、自社が「リスクを取る、競争優位性は強いとはいえない」ような状況であれば、チャレンジングな意思決定をしてもよいでしょう。
※財布シェア:顧客の財布の占有率、つまり自社の商品・サービスを顧客がどのくらい購入しているかを意味する
リソースを最適化する施策
- 新規開拓が得意な営業をアサイン
メンバーをアサインしたら、まずはアカウントプランを作成します。そして、競合に対する競争優位性の見直しや自社の価値訴求、トークスクリプトの再設計も行いましょう。
顧客に対しては、リプレイスのタイミングや理由をヒアリングし、キーパーソンの特定と関係性づくりを進めます。
また可能であれば、マーケティング部門などの別部門との連携を打診しましょう。とあるグローバル企業では、経営に対してリソースの追加や他部署連携のバックアップを月次報告会で依頼できる仕組みを構築しています。
最後に
本記事では、主にアカウントセールス型の組織で営業リソースを最適化する方法について、ターゲティングに関する分析手法とあわせて解説をしました。
本質的な課題解決のためには、会社全体のビジョン・事業戦略からの落とし込みによる組織再編、オペレーション全体の再構築、ITツールの導入といった施策が最適となることもあるでしょう。
しかし現実的には、機能別の組織体制であったり、大企業のように組織が大きいうえに細分化され、プロダクトも多岐に渡る場合、営業組織内での解決を求められることが多いのではないでしょうか。
ぜひ今回紹介したフローチャートや分析パターンを活用しながら、営業リソースに関する課題に取り組んでいただけますと幸いです。
才流(サイル)では、法人営業に役立つ以下のような相談をお受けしています。
- 組織としてリソースの最適化を設計したい
- 自社に適した営業組織を編成したい
個別相談会も行っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。