新型コロナウイルスの流行を機に多くの企業が導入したオンライン営業。外出自粛の一時策として導入したものの、オンライン営業を前提とした業務ルールや教育など、体制面の整備が追いついていない企業も多いのではないでしょうか。
才流ではオンライン営業を本格導入する際に検討・整備すべき事項をチェックリストにまとめ、公開することにしました。是非、ご活用ください。
また、今回は、本チェックリストに沿ってオンライン営業を本格導入する際のポイントを解説します。
成果の試算
まず、オンライン営業の導入によって得られる成果を試算しましょう。オンライン営業はコロナ禍を背景に浸透しましたが、本来は営業パーソンの移動を削減して生産性を高めるための手段です。本格導入にあたっては「コロナ対策」ではなく「生産性向上の手段」と捉え直すことが重要です。
「営業パーソンの移動時間をどれくらい削減できるのか」「削減した時間でどれくらい商談数を増やせるのか」「訪問しないことでどれくらいの受注率低下がありうるのか」「結果的に、同じ人員数でどれくらいの受注増につなげられるのか」などについて仮説を立て、オンライン営業が生産性向上につながるのか判断しましょう。
この仮説を立てる際に必要なことを以下のチェックリストに定義しています。
- 商談の何割程度をオンライン化するか想定している
- 商談が想定した割合でオンライン化した場合に生まれるリソースを試算している
- 生まれたリソースで増やせるリード対応・過去リスト対応のボリュームを試算している
- 生まれたリソースで増やせる商談数を試算している
- 商談のオンライン化について顧客にヒアリングを行い、影響の大きさを評価している
- 商談のオンライン化による受注率の変化を想定している
- 想定される商談増加数と想定受注率から、増やせる受注を試算している
- 商談が想定した割合でオンライン化した場合に削減できるコストを試算している
- オンライン化に必要な環境整備によって増加するコストを試算している
- 顧客のオンライン商談ニーズに対応できないことのリスクを評価している
- 上記を踏まえ、営業をオンライン化することの合理性を整理している
対象範囲と目的の定義
次にオンライン営業導入で実現したい状態を具体化します。まず、現在行っている営業活動のどの部分をオンライン化するか(しないか)を判断しましょう。以下の「オンライン化検討の評価軸一覧」を参考に、どのような状況をオンライン営業の対象とすべきか定義します。
「大企業向けの新規営業であれば訪問」「中小企業向けの既存営業であればオンライン」など顧客属性・商材属性・営業状況を掛け合わせたケースごとに、オンライン営業の対象とするかどうかを決めていきましょう。
オンライン化する営業活動が定義できたら、それを前提に具体的な目標数値を決めていきます。「削減できる移動時間をどんな活動に充ててどのような成果に繋げたいのか」を数値に落としてください。
組織としての目標だけではなく、以下に示すように個人の目標まで落とし込むことが重要です。削減した移動時間の使い方を営業個人に委ねると、オンライン営業導入の目的に沿った活動が行われません。ある人が商談数を増やそうとする一方で、ある人は営業資料を改善しようとするかもしれません。
組織としての目標が商談数の増加であれば、「削減した時間は商談に充てよう」という明確なメッセージを目標数値に落として伝える必要があります。
オンライン営業の対象範囲と目的を明確にするには、以下を満たす必要があります。
- 営業プロセスのうち、どのプロセスをオンライン化するか(しないか)を定義している
- 顧客属性のうち、どの属性への営業活動をオンライン化するか(しないか)を定義している
- 営業フェーズのうち、どのフェーズの営業活動をオンライン化するか(しないか)を定義している
- 商材のうち、どの商材の営業活動をオンライン化するか(しないか)を定義している
- 営業案件のうち、どの規模の営業案件をオンライン化するか(しないか)を定義している
- 「商談数の増加」「接触頻度の改善」など数値で表すことができる目的を設定している
- 「提案の早期化」「スピーディな情報提供」など顧客メリットを定義している
- 組織として決めた目的を個人目標に落とし込んでいる
効果測定の仕組みづくり
オンライン営業導入で自社の営業活動はどう変化したのか。この点を明確に把握できている組織は意外と少ないのではないでしょうか。一人当たりの商談件数・受注率・受注件数など主要な営業数値を測定し、オンライン営業導入前後でどのような効果があったのか評価できる環境を整えましょう。
CRM・SFAの運用方法の見直しや導入も検討しましょう。オンライン営業は導入後も試行錯誤を続けていくべきものです。どのような使い方をすれば、最も受注効率が高まるのかを検討していく必要があります。そのためにもシステムを用いて正確な営業データ分析ができる状態を整えておきましょう。
オンライン営業の効果測定は以下を満たす必要があります。
- 商談数・提案数・受注率など基本的な営業指標を把握できる
- 営業パーソンの業務中の時間配分を把握できる
- オンライン営業導入前後の営業指標・時間配分の変化を比較できる
- 個人ごとのオンライン営業の活用度合いを比較できる
- 定期的にオンライン営業導入による効果を評価する機会がある
業務設計の見直し
訪問を前提とした営業プロセスを見直しましょう。オンライン営業を用いた理想の営業プロセスを検討し、営業組織全員が共通のイメージを持てるようにします。
たとえば、「初期商談はオンライン化し、訪問を依頼するよりもお客様が商談に進みやすい状態を作る。提案フェーズに入ったらクロージング確度を高めるために必ず一度訪問する。」という明確なメッセージを理想の営業プロセスで表しましょう。
また、理想の営業プロセスに基づき、オンラインと訪問の使い分けのルール化、営業パーソンの業績目標・KPIの見直しを行う必要もあります。特に訪問前提で設計された目標は、オンラインを使うと簡単に達成できてしまう可能性があります。新しい営業プロセスに合った目標値を定義し直しましょう。
オンライン営業導入による業務設計の見直しでは以下のポイントを満たせているかチェックしてください。
- オンライン営業を取り入れた理想的な営業プロセスを描いている
- オンライン営業を行うべき条件をルール化している
- 訪問営業を行うべき条件をルール化している
- 訪問営業前提の目標を見直し、オンライン営業前提の目標を設定している
- 訪問営業前提のKPIを見直し、オンライン営業前提のKPIを設定している
教育方法の見直し
営業パーソンの教育内容についても見直す必要があります。オンライン営業で求められるスキルは、訪問営業で求められるスキルとは異なります。オンライン商談ツールの使いこなしはもちろんですが、画面共有の使い方や顧客の反応の確かめ方など、細かなスキルが求められます。
こうしたスキルの習得を現場任せにするのではなく、社内研修に組み込んでいきましょう。オンライン営業で求められるスキルは複雑なものではありません。現場の実践を通じた学びを待つよりも、必要スキルを体系化して研修を行ったほうが効率的です。
また、日常的な教育では録音・録画データの活用もポイントとなります。オンライン営業では容易に商談の録音・録画ができます。上司からメンバーへのフィードバックは、これまでメンバーからの商談報告に対して行われていましたが、オンライン営業では実際の商談音声に対して行うことができます。
フィードバックの精度が確実に上がりますので、上司とメンバーの教育設計に録音・録画データの活用を取り入れるようルール化しましょう。
オンライン営業導入に伴う教育内容のチェックポイントとして以下を定義しています。
- オンライン営業で必要なスキルを定義している
- オンライン営業で必要なスキルがスキルマップに組み込まれている
- オンライン営業で必要なスキルの習得が評価基準に組み込まれている
- オンライン営業導入の目的を理解できる研修を行っている
- オンライン営業と訪問営業のメリット・デメリットを理解できる研修を行っている
- オンライン営業に関するルールを理解できる研修を行っている
- オンライン営業ツールの使い方を理解できる研修を行っている
- オンライン営業を営業側・販売側両方の立場で疑似体験できる研修を行っている
- オンライン営業ならではのポイントを理解できる研修を行っている
- 商談の録音・録画データによる上司との振り返り機会が設けられている
- ハイパフォーマー商談の録音・録画データから学べる環境が整備されている
- オンライン営業の工夫や好事例を定期的に共有する仕組みが整備されている
マニュアル・スクリプトの整備
営業パーソンがオンライン営業に適応しやすくするためにはドキュメントの整備も重要です。オンライン営業と訪問営業の勝手の違いに困惑する方も多いのではないでしょうか。こうした違いに早く慣れるためにはツールの操作マニュアル、トークスクリプトの整備が効果的です。商談で発生する操作や顧客への案内についてお手本となるドキュメントを整備しておきましょう。
オンライン営業のマニュアル・スクリプト作成する際には以下が網羅されているか確認してください。
- 基本機能と操作方法が記載されている
- 通信トラブル発生時の対処法など想定されたFAQが記載されている
- パターン別のトークフローが準備されている
- 顧客をオンライン商談にスムーズに誘導するためのスクリプトが用意されている
- 顧客にツールの利用方法をわかりやすく伝えるためのスクリプトが用意されている
- オンライン通信が途切れた場合に備えて電話番号を伝達するスクリプトが用意されている
- 自己紹介や名刺情報交換のスクリプトが用意されている
- ヒアリングのスクリプトが用意されている
- サービス説明のスクリプトが用意されている
- 価格説明のスクリプトが用意されている
- 実績・事例紹介のスクリプトが用意されている
- クロージングのスクリプトが用意されている
- クロージングできない場合に備えてイベント誘導のスクリプトが用意されている
- 次回アポ取得時のスクリプトが用意されている
- オンライン営業ツールのセキュリティに関する質問への回答が用意されている
- 録音・録画の許可を得るためのスクリプトが用意されている
- よくある質問への回答がリスト化されており、常にアップデートされる仕組みになっている
営業コンテンツの整備
訪問を前提に作成された営業資料も見直しが必要です。オンラインの商談では、顧客は画面共有される営業資料を中心に商談内容を理解しようとします。目の前に表示された資料がわかりにくいとマイナス印象を与えるため、ビジュアルの多用や1スライド1メッセージを心がけ、視覚的なわかりやすさを重視した資料に修正しましょう。
顧客の関心に応じて動画やWebページなど様々な画面共有を行うことができるよう「お役立ち情報」をリスト化してすぐに使える状態にしておくことも重要です。
前述のマニュアル・スクリプトと営業コンテンツはオンライン営業のプロセスに沿って整えていきます。新しい営業プロセスの各フェーズで営業パーソンを支援できるドキュメントを整備していきましょう。
- 営業資料がトークスクリプトに沿った内容になっている
- 営業資料が複数ファイルを行き来しなくて良い設計になっている
- 営業資料が視覚的に理解できるスライドになっている(読み物のようなスライドになっていない)
- 営業資料が1スライド1メッセージになっている
- お役立ち情報がリスト化されており、顧客の関心に応じて画面共有や送付ができるようになっている
- 各営業パーソンが作成・発見したお役立ち情報が共有リストに蓄積される仕組みになっている
- 顧客に送付できるオンライン営業ツールの操作方法マニュアルが作成されている
- アポ確定後、商談前日までに営業資料とアジェンダを事前送付することがルール化されている
- 名刺代わりとなる自己紹介スライドをフォーマット化している
- すぐにクロージングが困難な顧客をナーチャリングするためのセミナーや勉強会を用意している
ツールの選定
次にオンライン営業ツールの選定についてお伝えします。既に多くの企業がオンライン営業ツールを導入しているかと思いますが、現在のツールが長期的な運用に相応しいのか改めて確認しましょう。セキュリティや業務効率の観点から安定的に利用できるツールを選定できていることが重要です。
オンライン営業ツールの評価ポイントとして以下を参考にしてください。
- インターネット通話と電話のどちらが適切か判断している
- 接続の安定性が担保されているか(自社IT部門の基準を満たしているか)確認している
- セキュリティの安全性が担保されているか(自社IT部門の基準を満たしているか)確認している
- パスワード発行が可能かどうか確認している
- 顧客側のソフトウェアインストールが必要か確認している
- 顧客側のアカウント作成が必要か確認している
- 多くの顧客が使っているブラウザに対応しているか確認している
- 海外通信に対応しているか/海外通信に対応している必要があるか確認している
- 想定される最大参加人数に対応しているか確認している
- メモ・チャット機能の有無と利便性を確認している
- 画面・ファイル共有機能の有無と利便性を確認している
- 録音・録画機能の有無と利便性を確認している
- トークスクリプト表示機能の有無と利便性を確認している
- 自動議事録作成機能の有無と利便性を確認している
- バーチャルスクリーン機能の有無と利便性を確認している
- 活動データの集計の粒度やダッシュボードの機能性を確認している
- 他システム連携機能の有無と利便性を確認している
- 導入数・導入企業から十分な実績があるか評価している
- 自社の使い方に適した課金体系であるか/コストパフォーマンスが比較的高いと言えるか確認している
- 評価項目に優先度に基づく係数を掛けて点数比較している
ツール利用ルールの整備
また、オンライン営業ツールの利用ルールも必ず整備しましょう。オンライン商談では「別の顧客からのメール通知が表示されてしまった」「開いていた機密情報のファイルを表示してしまった」といった情報漏洩が起こりやすい環境にあります。情報漏洩を防ぐためのルールを徹底する必要があります。
- オンライン営業中の他アプリの通知オフをルール化している
- デスクトップ、ブラウザタブの非表示をルール化している
- 録音・録画データの格納・消去についてルール化している
- 個人所有のデバイスからの利用禁止をルール化している
- オンライン会議室へのパスワード設定についてルール化している
システム環境の整備
最後にシステム環境の整備です。オンライン営業ツールを安定的に利用するには、ツール自体の品質だけではなく、システム環境が安定している必要があります。通信の安定、顧客ストレスの抑制、業務の効率性などの視点で環境を整えます。
オンライン営業ツール使用時のシステム環境の整備については、以下のチェックポイントを確認してください。
- ツールが推奨するネットワーク環境を整備している
- 動画通信の同時接続を想定したネットワーク環境を整備している
- ツールが推奨するPCスペックを満たしている
- PCにカメラが内臓されているか/専用カメラを導入する必要があるか確認している
- 通話品質の評価している
- ノイズキャンセリング機能の必要性を評価している
- 顧客の映像・営業資料・議事録などを同時に表示できるようデュアルディスプレイを整備している
※関連記事:オンライン営業を成功に導く100のチェックリスト
まとめ
オンライン営業を本格導入する際のチェックポイントを紹介してきました。オンライン営業を前提とした組織設計を行うには、新たに考えなければならない点が数多くあります。ご紹介したリストを活用いただき、オンライン営業導入による生産性向上の一助となれば幸いです。
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