企業のコンサルティングやシステム開発、保守運用など一貫したソリューションサービスをワンストップで提供しているNTTデータ ルウィーブ株式会社様。2023年4月に、新規事業であるオフィスの座席予約・在席管理サービス「Desk Mosaic(デスク モザイク)」をローンチしました。
新規事業の立ち上げ当初、チームメンバー全員がエンジニアだったこともあり、営業・マーケティングの知見が不足していたという同社。自分たちで試行錯誤しながら施策を進めることに限界を感じ、専門家の手を借りて最短で成果を出すために、才流(サイル)にご相談いただきました。
才流では、2023年1月から新規事業の戦略立案プロジェクトに参画し、顧客獲得戦略の立案から施策実行、営業プロセスの改善を伴走支援。才流との約1年半のプロジェクトを振り返って、同社の阿部さん、岩崎さんに成果や感想を伺いました。
理論だけではなく実践的な知識を専門家に教えてもらいたい
ー新規事業「Desk Mosaic」が誕生した経緯を教えてください。
阿部 発端は2020年頃、コロナ禍でオフィス縮小やハイブリッドワークの普及により、オフィスの在り方が変わりつつあったことです。
もともと当社は、自社利用を目的に開発した会議室予約システムを販売していました。ですが、コロナ禍で出社する人が減って、会議室自体が使われない状況に。さらに、今後はフリーアドレス制の導入による座席予約の需要が高まると考えられたんです。
そこで、既存の会議室予約システムを一部応用して、フリーアドレスの座席予約・在席管理サービスとして「Desk Mosaic」を開発しました。
ー新規事業をスタートさせてから、どのような課題に直面しましたか。
阿部 最大の課題は、SIerとはまったく異なるマーケットアプローチが必要だったことです。当社の主力は金融機関向けのシステム開発事業で、お客さまの要望に応じてシステムを構築し提供するSI事業が中心でした。しかし、「Desk Mosaic」のようなサービスでは、そのアプローチが通用しない。販売方法を一から模索する必要があったのです。
ですが、チームメンバーにマーケティングのノウハウがまったくありませんでした。私たちはエンジニア中心の組織で、製品を開発することはできても、それをどう売っていくかがわからない。ツールを使ってデータの収集や分析はできても、そのデータを活用してどのようにマーケティング施策に結びつけるかがわからない状況でした。
-才流にはどのような経緯でご依頼いただいたのでしょうか。
阿部 最初の1年は自社で試行錯誤を重ねましたが、なかなか成果が出ませんでした。その過程でビジネス書やマーケティングの専門書を購入して学習を始めたところ、才流の代表の栗原さんの著書『事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践』に出会ったんです。
その本にあった階段設計の考え方を取り入れて、Webサイトのコンバージョンポイントを見直したところ、すぐに効果が出ました。本に書かれていることを実践して実際に効果が出たので、才流は理論だけでなく実践的な知識を持っているのだなと信用できました。
才流であれば、私たちの業界や商品特性を理解したうえで、効果的なマーケティング戦略を立案し、実行を支援してもらえるのではないか。1年間自分たちで苦労した結果、専門家に依頼するのがベストな選択だと考え、支援を依頼しました。
※関連記事:階段設計とは?BtoBマーケティングで商談・受注数を最大化するポイントを解説【ワークシート付き】
マーケティングの戦略立案・実行から営業プロセス改善までトータルで支援
-プロジェクトでの取り組み内容を教えてください。
中島 お取引の始まりは新規事業である「Desk Mosaic」のマーケティング戦略を立案するプロジェクトでした。戦略立案後はマーケティング施策実行のほか、営業支援、プロダクト改善のアドバイスなど、包括的な支援を行っています。
プロジェクト初期の調査・分析フェーズでは、まず見込み顧客にインタビューを実施。どのようなチャネルで情報収集を行っているのか、どのような要素で比較検討しているのか、どのような社内稟議のプロセスなのか、同時に想起される製品は何かを探ることから始めました。
見込み顧客インタビューと並行して、競合他社のプロモーションの調査を実施。他社のサービスはどのようなチャネルでどのような訴求をしているのかをリサーチしました。
中島 初期の調査をもとにターゲットやバリュープロポジション、売れるロジック、カスタマージャーニーなどを整理。現在の予算とメンバーのリソース、目標とする受注数と期限を考慮して、どのような施策をどのような優先順位で実施するかを検討しました。
その後、施策ごとに期日と実行マイルストーンを置き、どのような準備がいつまでに必要かを整理しご提案しました。
遠山 初期の段階で業界経験者にインタビューができたので、どのような施策や訴求が有効なのかが見えてきましたね。
※関連記事:
バリュープロポジションとは?作り方と事例~テンプレート付きで解説~
売れるロジック
カスタマージャーニーマップの作成手順【BtoB向けテンプレート付き】
ーその後、実行フェーズに移ったんですね。
中島 はい。プロモーションをスタートする期日は決まっていたので、それまでに必要になるクリエイティブや、依頼する実行会社の選定など、実行部分の準備を進めていきました。
準備期間では、LP(ランディングページ)の作成、広告運用の初期設定、営業資料の作成、営業プロセスの構築をNTTデータ ルウィーブさんや施策実行パートナーの方々と一緒に行っていました。
阿部 才流には戦略立案から営業プロセスの改善まで、幅広く支援していただきました。別のプロダクトでまったく売れなかった経験から不安もありましたが、昨年度の「Desk Mosaic」は、目標の受注数を達成するまでになりましたね。
中島 施策を実行してからは、成果を踏まえて各施策の改善と最適化を行っていきました。LPや広告の微修正を繰り返したり、商談や営業資料を改善したり、プロダクトの価格や機能について協議したり……。施策やプロダクトのご提案と併せて、組織体制に関する助言もさせていただきました。
初期の成功後に直面した停滞期から成果創出までの全プロセス
ープロジェクトは順調に進んだのでしょうか。
阿部 サービスを開始した当初は、想定どおりにリードを獲得できていましたし、早い段階で受注も獲得できました。しかし、ある時からぱったりと問い合わせが来なくなってしまったんです。その後1〜2か月ほど、思うように成果が出ない時期が続きました。
ー売れない状態の中で、どのように目標の受注数を達成したのかを教えてください。
中島 リード・商談の数が想定の目標に達していないほか、一定数あった商談も最終的に成約に至らず、顧客獲得ができていない状況でした。プロダクト側の改善と営業・マーケティング側の改善のどちらも必要だったため、並行して着手していきました。
中島 まずは商談を通じて売れない理由を特定していくなかで、プロダクト自体の機能面や価格面に改善余地があるという仮説を持ちました。
そこで、改めて競合調査を実施。プロモーションだけでなく、価格や機能についても詳しく分析した結果、競合と比べて劣っている点が明らかになったんです。
当時、「Desk Mosaic」は他社に比べると機能は限定的。さらに価格は高めでした。そこで、これまでの商談で明らかになった顧客ニーズと、機能に関する競合調査を照らし合わせ、新機能の開発予定を協議。「顧客の購買の決め手になるであろう機能から開発する」という方針の目線合わせを改めて行いました。
また、価格体系の変更についてもご提案させていただきました。自社の利益を担保しつつ競合と戦える価格をすり合わせ、新たな価格体系を決めていきました。
ーマーケティング活動ではどのようなアプローチをしましたか?
中島 リード獲得単価が目標値を大きく上回っており、マーケティング活動の改善が急務でした。同時に、営業プロセスの改善が必要な状況でもありました。
まず、広告運用の改善に着手。広告代理店のパートナーと協力し、出稿キーワードの最適化や除外設定の調整を行いました。さらに、広告文の改善と入札設定の見直しも実施し、広告パフォーマンスの向上を目指しました。
同時に、LPのリニューアルも実施。NTTデータ ルウィーブさんのデザイナーと協力して、デザインや内容の改善に取り組みました。具体的には、ページの構成やメッセージングを見直し、コンバージョン率の向上を図っています。
改善の結果、コンバージョン率が大幅に向上し、リード獲得単価も当初設定していた目標値を達成することができたんです。現在も良好な成果を維持しており、BtoB SaaSの業界標準と比較しても高いパフォーマンスを示しています。
ー営業プロセスでは、具体的にどのような支援を行いましたか。
中島 リードを獲得した後、商談や受注に結びつけるためのご支援として、営業プロセスの改善を行いました。具体的には、毎週の定例ミーティングで各商談を振り返り、課題を特定することからスタート。この過程で、インサイドセールスのヒアリング項目を見直し、より効果的な情報収集を図りました。
同時に、商談で使用する営業資料やスクリプトも継続的に改善を重ねました。さらに、お客さまからよくいただく質問とその回答例を蓄積し、営業チーム内で共有することで、対応の質を高めていったんです。こういった取り組みによって、初回商談からクロージングまでの一連のプロセスを最適化し、受注率の向上を目指しました。
岩崎 私自身、それまでルートセールスの経験しかなく、Webマーケティングについてはまったくの素人。最初は戸惑いもありましたが、中島さんから提案された施策を1つずつ実践していくことで、徐々に成果が出始めるのを実感しました。
改善前はとくに、リード獲得後の対応に課題があったんです。たとえば、問い合わせいただいたお客さまとの初回商談の組み立て方や、その後のフォローアップの進め方など、手探りの状態でした。ですが、才流から改善策を学び実践した結果、お客さまのニーズに沿った提案ができるようになったと感じています。
中島 岩崎さんをはじめとした営業チームの課題に対応するため、簡易的な営業マニュアルを作成しました。基本的には一般的なSaaSのセールスモデルの流れをベースにしていますが、人数が少ないなどの状況を踏まえて、使いやすいように若干調整しています。
また、毎週の定例会議では、プロダクト、営業、マーケティングの全員が集まり、プロダクトの開発状況や案件の進捗状況をすべて共有しています。この取り組みにより、プロダクトサイドと営業・マーケティングサイドでスムーズな連携が取れるようになりました。
岩崎 才流の支援で、未知の世界だったWebマーケティングと連動した営業活動が本当に面白くなりました。営業のプロセスが明確になり、チーム全体の営業スキルも向上したと感じています。
中島 プロダクト、営業、マーケティングをトータルで改善していくことで、目標の受注数を達成することができました。
さまざまな改善施策を同時に実施したので、受注数が向上した要因を1つに特定するのは難しいです。しかし、先ほど説明した営業マニュアルの作成や定例会議での情報共有など、複数の取り組みが相乗効果を生み出し、全体的な成果につながったと考えています。
数字上の成果だけではない、組織の進化とメンバーの成長という価値
-本プロジェクトの成果についてお聞かせください。
阿部 まず、定量面での成果が顕著でした。2023年度は7件の契約を獲得でき、当初の目標をクリアすることができました。また、リード獲得単価も大幅に改善しましたね。
メンバーの意識にも変化がありました。特筆すべきは、マーケティングに興味を持つメンバーが現れたことです。マーケティング業務を担当しているメンバーは、マーケティングを自身のキャリアの軸にしようという意識が芽生えています。
また、以前は何をすべきか分からず、行き詰まることが多かったのですが、今では社員が自ら考えて仮説を立て、行動するようになってきました。
中島 私も、メンバーのみなさまの意識に大きな変化を感じています。チーム全体のディスカッションの質が飛躍的に向上しました。以前は広告の出稿方法などの初歩的な話題が多かったのですが、今では顧客セグメントや訴求内容、プロダクトの改善点など、より詳細かつ核心的な議論ができるようになりました。
-組織全体での変化はありましたか。
阿部 はい、大きな変化がありました。マーケティングの重要性が組織全体に認知され、最終的には事業部化につながったことです。
売上も事業部に直接計上されるようになり、より成長に向けて投資を増やしていこうという意思決定がなされましたからね。2024年4月以降は、より積極的に販売活動を行う体制が整っています。
新規事業の立ち上げは難しい。だから専門家の包括的な支援が有効
ープロジェクト全体を振り返った感想を教えてください。
阿部 効果的なマーケティング手法を学び、実践できたことが非常に大きな収穫でした。私たちはSIerとしての経験はあっても、SaaSビジネスのマーケティングについてはまったくの素人。才流の支援を受けることで、理論だけでなく実践的なノウハウを獲得できました。
新規事業の立ち上げは本当に難しい。試行錯誤を重ねながら着実に成果を出せるのがどれだけ難しいか。最初はまったく見込みが立たない状況でしたが、今では具体的な数字目標を立てて達成できるまでになりました。
ー才流のコンサルタントとのコミュニケーションはいかがでしたか。
岩崎 チームの一員として深く関わってくれました。あるとき、中島さんが「Desk Mosaic」のことを「我々のサービス」という言い方をしてくださったのが印象に残っています。単なる外部のコンサルタントではなく、プロジェクトの成功に向けて一緒に取り組んでくれているという実感がありました。
阿部 柔軟な対応力も素晴らしかったです。当初はマーケティング支援が中心でしたが、プロジェクトの進行に伴い、営業支援やプロダクト改善のアドバイスなど、事業全体を包括的にサポートしてくれました。私たちの状況や課題に応じて、常に最適な提案をしてくれたことが非常に助かりました。
ー才流の支援を他の会社におすすめするなら、どのような会社にフィットするとおもいますか。
阿部 ある程度の歴史がある企業で、新規事業に取り組もうとしているところには、非常に良いと思います。既存の組織文化や仕組みがあるなかで、新しいことを始めるのは難しいものです。そういった状況で、外部の専門家の支援を受けることは非常に有効だと実感しました。
また、支援会社に完全に丸投げするのではなく、自社のチームも一緒に学び、成長していく姿勢が重要だと思います。そうすることで、プロジェクト終了後も自立して事業を展開していけるようになるでしょう。
(撮影/関口 達朗、取材/三浦 一紀、執筆・編集/河原崎 亜矢)