SB C&S株式会社様は、ソフトバンクのICTビジネス流通商社としてスタートし、国内で数社しかないディストリビューター(※)として40万点を超える商材を取り扱っています。
今回才流がご支援したのは、法人向けサイバーセキュリティ製品「シマンテック」のマーケティング戦略立案と施策実行の伴走支援です。ディストリビューターであるSB C&S様は、「シマンテック」の日本におけるマーケティング・営業・サポート活動をされています。
旧シマンテック社の法人事業は、半導体メーカー大手のブロードコムによって2019年に買収され、「シマンテック」を取り巻く環境は変わりました。価格が引き上がり、サポート体制が変更になったことで、販売パートナー離れが進んでしまったのです。
そうした状況を改善し、日本でのリブランディングを進めたいと才流にご相談をいただきました。同社で「シマンテック」のマーケティングを統括する須賀田様に、プロジェクトの成果や感想を伺いました。
※ディストリビューター:顧客に直接販売せず、代理店へ商材を卸す仲介業者のこと。
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代理店離れが進み、日本でのリブランディングが急務に
- 才流にご依頼いただく前、ビジネスはどのような状況でしたか。
須賀田 サイバーセキュリティ製品「シマンテック」は、日本でも利用している人が多い、馴染みのある製品だと思います。もともと米国に本社を置くシマンテックが提供し、個人向けと法人向けの製品を扱っていましたが、法人向け事業は2019年に半導体大手のブロードコムによって買収されました。
ブロードコムとわれわれは、「シマンテック」に関するアグリゲーター契約を結んでいます。アグリゲーターとは、日本でブロードコムに代わって、「シマンテック」のマーケティングや営業、サポート活動を推進する役割です。
われわれはディストリビューターなので、ブロードコムがベンダー、お客さまは販売パートナー(代理店)、そして販売パートナーを通して買っていただいたお客さまがエンドユーザーということになります。
須賀田 ブロードコムは買収後、「シマンテック」の適正価格を再検討しました。これにより、一部のお客さまには、値上げをご案内せざるを得ない状況になったのです。
さらに、問い合わせ先が海外の拠点に代わったことで、日本の販売パートナーはどこに問い合わせをしたらいいのかわからない状況。ようやく電話がつながっても、日本語での意思疎通が難しくなってしまったんですよね。
これまで「シマンテック」を扱ってきた販売パートナーは、次第に離れていってしまいました。われわれがブロードコムとアグリゲーター契約を結んだのは、まさにそんなときでした。
ビジネスを再スタートしようとして、販売パートナーさまに「シマンテックのサポート体制が変わりました」「今後はわれわれがご支援いたしますので、ご相談ください」と挨拶回りをしましたが、厳しい状況でした。買収後、手付かずだった日本でのリブランディングは待ったなしの状況だったんです。
そんななか、私は「シマンテック」の担当マーケターとして着任しました。マーケターが10人居てもおかしくないビジネス規模ですが、担当は自分1人。信頼できる仲間が欲しいと、アドベンチャーゲームを始めるかのように、着任してすぐにパートナー企業の選定をスタートしたのです。
- そこで才流に相談をいただいたのですね。
須賀田 はい。われわれはディストリビューターなので、お客さまは販売パートナーさまです。しかしエンドユーザーさまには、エンタープライズに加えて、いわゆるSMBと呼ばれる中小企業のお客さまも多数いらっしゃいました。ですから、デジタルマーケティングとしてのSMB戦略や、リード獲得とナーチャリングを相談できるパートナーが必要だったのです。
才流以外にも検討した企業はあったのですが、「自分たちが売りたい広告やコンテンツ制作から思考する」ようなエージェントではなく、客観的に商品や顧客、市場を見てマーケティングのアドバイスをいただける会社とお付き合いがしたかったんです。そこにはまったのが才流でした。
ユーザーインタビューで衝撃を受けた、見込み顧客の現実
- 本プロジェクトでの取り組み内容を教えてください。
黒須 「シマンテック」のお客さまである販売パートナーさまとその先にいるエンドユーザーさまを理解するために、双方にインタビューを行いました。過去に「シマンテック」の購入を検討した方や他社製品に乗り換えた方にもインタビューをしましたね。
また販売パートナーさまから商談の動画をご共有いただき、受注・失注の要因も分析したうえで、ペルソナやカスタマージャーニーを作成しました。マーケティングの全体戦略と施策をご提案しました。
- 須賀田様はインタビューの過程でどのような感想を持ちましたか。
須賀田 まず、ユーザーインタビューを丸ごとお願いできることに驚きました。ユーザーインタビューは本当に価値あるものですが、一方で手間も時間もお金もかかります。
ユーザーインタビューをアウトソーシングできるなんて、考えてもいませんでした。
しかも、才流にはインタビュー先をほとんど紹介していないんです。独自でインタビュー先を開拓し、セッティングもしていただき……。インタビュー後にはペルソナ、カスタマージャーニーマップの作成までしていただきました。当時は、人手が本当に足りていなかったのでとても助かりました。
黒須 調査から、EDRに関する方針を決定しました。
EDR (Endpoint Detection and Response)とは、「シマンテック」製品群のなかでもネットワークに接続されているエンドポイントの操作や動作監視を行うセキュリティソフトです。簡単にいうと、サイバー攻撃を受けてしまった場合に、平常時との違いを可視化し、ただちに対応できるようにするためのものです。
メディアの記事やベンダーの資料を見ると、EDRはエンタープライズを中心にかなり浸透しているように見えます。しかし導入するにあたり今まで以上にコストがかかるため、SMBのお客さまにはまだまだハードルが高い製品と見られがちでした。競合他社も価格を抑える方向で動いているので、そこがネックであると考えられていたんですよね。
しかしユーザーインタビューでわかってきたのは、エンドユーザーのお客さまは、そもそもEDRについてよく知らない状態であるということ。知らないことが、最初のハードルになっていたのです。
そこで、まずはエンドユーザーにEDRを知っていただくこと。そして、「SMB向けのEDR=シマンテック」という第一想起を狙って、マーケティングを展開しましょうとご提案しました。
須賀田 「シマンテック」から競合製品に切り替えた、某有名企業の情報システム責任者の方に行ったインタビューで「なぜ競合製品に切り替えたのか?」機能の話を聞こうとしたのですが、その方は乗り換えた製品の機能のことも価格のことも、答えられなかったんです。乗り換えたのにもかかわらず製品の機能に対する興味はなかったようでした。
国内のEDRベンダーやメディアは、さも当たり前のようにEDRの記事を書き、プロモーション活動をしています。でも、現場ではEDRを知らない情報システムの担当者が多いという事実。これはもう、衝撃的でした。
そこで作ったのが、「EDRハンドブック」です。サイバーセキュリティの機能は、とてもわかりづらいので、「シマンテック」のそれぞれの機能をキャラクターに落とし込み、漫画形式にして、読みやすさにもこだわりました。このキャラクターたちは、動画からスタートし、Webサイト、ハンドブックという順で展開し、プロモーションに活用しています。
黒須 「エンドユーザーの担当者が理解を深められるように、わかりやすいアウトプットにすべき」という議論をしていましたが、素晴らしいクオリティのアウトプットをお作りになり驚いています。クリエイティブの力で、ユーザーが理解しやすいよう作り込まれていますね。
デジタルマーケティングでのリード獲得数は2年で10倍に
- 改めて、今回のプロジェクトの一番の成果は何でしたか。
須賀田 Webサイトの改善と、それによるセッション数、リード獲得数の増加です。月間のセッション数は、取り組み前と比較すると約7倍になりました。アクセスは競合の老舗企業A社の約4倍、プロモーションにお金をかけていて自分が勝手にライバルとして考えているB社の約2倍のセッションを獲得できるようになったというのは嬉しい数字です。
当初は指名ワードで1位が取れず、どうすればGoogleの検索エンジンに現在の正しい情報をインプットできるか、よく黒須さんと議論したものです。そのときから、テクニカルSEOとコンテンツSEOに着手し、昨年の12月には、無事1位表示ができるようになりました。デジタルマーケティングでの月間リード獲得数は、今では2年前の10倍近い数字になっていますよ。
岸田 素晴らしい数字ですね。エンタープライズと違って、営業リソースを多く割けないSMBでは、いかにマーケティングの力でリードを獲得できるかが重要です。その前提でリソース配分についても検討しましたよね。
プロジェクト後半に着手したインサイドセールスによるアプローチ強化も、そのひとつですね。セキュリティ製品は乗り換え時期が限られているため、顧客の検討度合いが高まるタイミングを逃さずキャッチすることが重要なんです。限られたリソースのなかで、効率的に商談・受注につなげるためのポイントだったと思います。
- Webサイトのセッション数とリードの獲得数が大きく増えていますが、具体的にどのような打ち手が効いたのでしょうか。
須賀田 プロジェクト初期に才流から指摘されたのが、問い合わせフォームの改善です。才流がBtoBマーケティングで目安としているのは、フォームからの登録率が25%。要は100人来たら、25人はコンバージョンさせなければならない。これを下回っていたら改善が必要とのことですね。われわれはリードが欲しいと思いながらも、そこまで数字を見れていませんでした。才流のセオリーに沿ってCTAを改善したところ、コンバージョン率は短期間で2.4倍になりました。
また旬なワードや検索性の高いキーワードに対するコンテンツを作ったほうがいいとのアドバイスもいただき、SEO会社の選定も始めました。決定したSEO会社からリストアップされたキーワードを才流にもチェックしてもらい、どういうコンテンツをどの順番で作るべきか、精査をしていただきましたね。同時並行で行っていたテクニカルSEOも大きく成果を出した要因になっています。
そうした結果として、セッション数が大きく伸びたのだと思います。
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「才流の価値は、リードの獲得数だけでは測れない」
- 才流のコンサルタントとのコミュニケーションはいかがでしたか?
須賀田 才流のいいところは、業者でもなく、先生でもなく、パートナーであるところだと思います。コミュニケーションはフラットで、電話やSNS、Teamsなどさまざまなコミュニケーションツールを使って対応していただきました。
黒須さんの知見、岸田さんの知見、私の知見が組み合わさることで課題解決ができると感じ、お二人には戦略立案の後、3か月間の伴走もしていただきました。
- 外部の支援会社を入れる価値は、どのような点にあると感じますか。
須賀田 才流と契約するにあたり、社内で稟議を通しました。その際、わかりやすい指標が必要だと考え、【コンサル料÷1リードの獲得コスト】という計算式を作ってみたんです。「才流を入れると、これくらいリードが増えます」と目に見える形で出すのが目的でした。
ただプロジェクトを振り返って思うのは、才流の価値は、単なるリードの獲得数では測れないということ。サイトを改善したり、EDRハンドブックを作成したり。さまざまな施策のメソッドを共有いただき、一緒に議論してきました。コンサルから1年を経て、当時蒔いていた種が今、さまざまな形で芽を出しています。
自分が知らないことを教えてくれる、コンサルという存在価値
- 才流のサービスを他社におすすめするとしたら、どのような課題を持つ会社にフィットすると思いますか?
須賀田 「うちの会社は特別でマーケティングも必要ないから、コンサルを入れても変わらないよ」と、考えている営業会社や技術会社にこそ、ぜひ才流をおすすめしたいです。そういう会社に才流が入ることで、デジタルマーケティング領域はもちろん、パイプジェネレーションを意識したマーケティング施策ができる組織に生まれ変われます。
と言う私も、コンサルを入れてもたいして変わらないだろう、だったら自分でやろうと思っていた張本人です。あのとき、黒須さんや岸田さんと蒔いた種の成長に驚いています。
そんな私が才流に依頼しようと思ったきっかけは、副業先のWebマーケティング講座で、自分が教える生徒から学ぶことが多いと気づいた点でした。いつも講義の冒頭で、生徒と講師の自分がリラックスして授業を始めるために、”Good and New”というアイスブレイクをしています。
これはアメリカの大学教授が考えた手法で、24時間以内の「良いこと(Good)」や「新しい発見(New)」を1人1分で話す、というもの。
その“Good and New”を通して、生徒さんから新しい情報や価値観を教わることがすごく多いんですよね。その人が経験した体験や新しい発見を聞けるって単純にすごくないですか?
BtoBのマーケティング領域でさまざまな体験をしている才流のコンサルタントのノウハウを自分のビジネスに活かすことができる。これが醍醐味です。
才流のコンサルの価値は、まさにそこにあるのではないでしょうか。
(撮影/植田 翔 取材・文/藤井恵 編集/安住 久美子)