「誰もが自然体で経営できる仕組み」を目指し、会計や人事労務、税務申告など、企業のバックオフィスを支援するfreee株式会社。クラウド会計ソフトfreee会計を提供し、スモールビジネスを展開する事業所・企業のシェアを伸ばしてきた。有料課金ユーザー企業数は31万社にのぼる。
同社では、中心ユーザーである個人事業主や小規模事業者以外にも、中堅・上場企業に対応するため「クラウドERP freee」を開発した。しかし、新しい市場での認知拡大や今後の戦略について課題を抱えていた。中長期のBtoBマーケティング戦略を、プロの視点も加えてしっかりと立てておきたいと考えたという。
才流では2021年7~10月にかけ、「クラウドERP freee」のBtoBマーケティングの戦略立案を行った。BtoBマーケティング担当の渡辺さんに、才流の支援を受けた成果や率直な感想を伺った。
※ユーザー企業数は2021年9月末時点の数字
freee様との取り組み
【課題】
- 「freeeは小規模向け」「価格は安いが、けれど機能が不足している」といったイメージ払拭のため、中規模企業向けの中長期的なBtoBマーケティング戦略の立案が必要
【提案内容】
- 3つの顧客セグメントごとのペルソナの抽出
- 売れるロジックに基づいた中長期のBtoBマーケティングロードマップの作成
※「売れるロジック」とは、才流が開発した商品が顧客の「課題解決」をどのように行うか、ロジカルに説明できるようにするためのフレームワークです。
【成果】
- 中長期のBtoBマーケティング戦略の作成
- 社内のBtoBマーケティングに対する意識改革
市場とプロダクトのギャップを埋め、中長期のBtoBマーケティング戦略を描くために
ー才流に依頼をする前は、どのようなBtoBマーケティングの課題をお持ちでしたか。
渡辺 当社は2012年に創業し、クラウド会計ソフトfreee会計を提供してきました。もともとは個人事業主や数名の小規模法人をメインターゲットに置いてきたのですが、徐々に中規模以上の会社からのお問い合わせも増えてきたんです。
そこで、ワークフローや上場申請にも耐えうる内部統制機能などを実装し、2016年にfreeeの新しいビジネスプランを発表。クラウドERPとして中規模の法人でも使えるプロダクトに進化させてきました。
ただ、市場調査をすると「freeeは小規模向け」「価格は安いが、機能が不足している」といったイメージが根強くあることがわかったんです。プロダクトの進化と同時に、BtoBマーケティングも進化させたい。中長期のBtoBマーケティング戦略をしっかりと描くために、BtoBマーケティングのプロの支援が必要だと感じました。
顧客の声にフォーカスし、ターゲットの新たな仮説も発見
ー取り組んだプロジェクトについて教えてください。
藤原 渡辺さんが先ほどおっしゃったように、freee様は小規模企業が顧客であるイメージが強いため、中規模以上の法人にメッセージを届けることが大きなミッションでした。
また、freee様がすでに自社で調査・検討をしていて、中堅・中小の中でも注力すべきセグメントが絞られていました。
才流としては、その注力セグメントにどのようなメッセージが刺さるのか、顧客は何を知りたいのか、どういうタイミングで会計ソフトを切り替えるのか。それぞれのセグメントごとのペルソナの解像度をより高めるために、既存顧客、想定見込み顧客へのインタビュー、競合分析などを行いました。
ヒアリングや定量調査を経て、セグメントごとにペルソナを設定し、売れるロジックに落とし込んでいきました。これまでにはあまりチャレンジしたことがないチャネルが特定のセグメントには刺さるという示唆を得られた点も、特徴的だったと思います。
渡辺 才流が戦略を作るうえで、まず顧客理解にフォーカスしていく姿勢は印象的でした。
私たちはこれまで、経営者や経理担当者など、バックオフィスに関わりがある決裁者をターゲットにしてきました。そのためペルソナも経営者や経理担当者に設定していました。
しかし、今回のユーザーインタビューで、あるセグメントでは「これまで想定していたターゲットとは違うのではないか」という仮説が見えてきました。実は「経営者や経理担当者ではなく、営業部長がある程度決裁権を持っているんじゃないか」という仮説です。
自社の中から見ると、ペルソナに対してどうしてもバイアスがかかってしまうことがあります。才流からもらった中間報告の提案の中には社内で出たことがなかった仮説が含まれており、とても新鮮でした。
私自身も、今後新しいセグメントにアプローチをしていく際の進め方がわかり、とても参考になりました。才流からはセグメントごとの施策もしっかりとご提示をいただいていたので、これから仮説をもとにPDCAを回していくフェーズです。
プロダクト開発だけでなく、BtoBマーケティングでまだできることがある
ー今回のプロジェクトの成果を教えてください。
渡辺 リード獲得数やCVR、受注数など、定量的な成果はこれから検証をしていくところです。一方で、定性的な成果として大きかったのは、中長期に特定セグメントを狙っていくうえで、BtoBマーケティングの施策ロードマップが作れたことだと思います。
道筋が見えたことで、例えば「こういう理由で、これをやりたい。そのためにどれだけの予算が欲しい」と、上にもしっかりと説明ができるようになりました。
また、上司も考え方に変化があったと言っていました。これまで私の事業部では、プロダクトを進化させながら、訴求できるインサイトを増やしてリードも増やしていくという攻め方をしてきたんです。
ただ才流で戦略を立てていただいたことで、「現状のプロダクトでも、BtoBマーケティング次第でまだまだリードや受注数を増やせる」「プロダクトの開発だけでなく、BtoBマーケティングに今までよりも力を入れてもいいのではないか」と考えるようになったそうです。
実はもともと、今回の注力セグメントのリード獲得のために新たな機能を開発していこうと考えていたんですが、一旦開発の優先度を下げました。実はよくよく振り返ると、現状のプロダクトでも十分に今回のセグメントのユーザーのご要望に応えられていたからです。私たちが望んでいるのはユーザーのみなさんの要望に応えていくことですから、リード増加のために機能開発を優先する必要がなかったことに気づきました。そういう意味で、どこにフォーカスをすればいいか、優先順位をつけられたことはよかったです。
エンジニアを巻き込むのは、工数もかかり大変です。そこをリリースできたのは、大きいことだったと思います。
「freeeを深く理解いただき、抽象度の高い質問にもしっかりと答えてくれた」
ー才流とのコミュニケーションは、どのようにとっていましたか。
渡辺 オンラインで週に1回30分ほどのミーティングを行い、それ以外はビジネスチャットでやりとりをしていました。
オンラインのみのコミュニケーションでしたが、フラットに話ができたのは藤原さんのおかげです。返信も早く、抽象度の高いふわっとした質問に対しても、しっかりと返してくれました。
プロジェクトの始めの頃は、freeeのプロダクトや私たちのことを深く理解をしようとしてくださっていました。営業担当にもヒアリングをしていただき、freeeのことを深く理解していただいたからこそ、ポジティブなコミュニケーションがとれたんだと思います。
プロジェクトが進んでいく中でも、タスクはいろいろ出てきましたが、次の週までに仮説をまとめてきてくださって。スムーズに進行できたので、満足しています。
ー才流と仕事をする前と後、イメージにギャップはありましたか。
渡辺 ポジティブなギャップはありました。正直一緒にお仕事をする前は「才流=代表の栗原さん」というイメージが強かったんですよね。
でも今回藤原さんを中心に才流の複数の方とお会いして、ものすごく頼りになりましたし、安心感がありました。才流は栗原さんだけではなく、会社として高い品質のサービスを提供していると感じました。
ー才流の支援は、どのようなフェーズや規模の会社にマッチすると思いますか。
渡辺 当社のように、中長期でしっかりと成果をあげることを目的にし、戦略を作りたい企業にはおすすめだと思います。
(撮影/矢野 拓実 取材・文/安住 久美子 編集/中島 孝輔)