中小企業向けグループウェア「サイボウズ Office」シリーズをはじめ、「kintone(キントーン)」「Garoon(ガルーン)」「メールワイズ」など多数のクラウドサービスを開発・販売するサイボウズ株式会社様。
才流(サイル)は2023年8月から5か月にわたり、同社が展開するメール管理・共有システム「メールワイズ 」のマーケティング戦略立案および施策実行を支援しました。
メールワイズはリリースから20年以上が経過したロングセラー製品であり、これまでも順調に売上を伸ばしてきましたが、ロングセラー製品ゆえの課題感があったといいます。
才流とのプロジェクトの感想や得られた成果について、同社にてメールワイズ事業を担う永井さん、菅原さんにお話を伺いました。
「なぜ売れているのか」がわからなかった
- 今回ご支援をした「メールワイズ」はどのような背景から誕生したのでしょうか?
永井 元々、メールワイズは社内だけで使っていたシステムでした。一人では管理しきれない数の問い合わせメールがきたり、担当者が休んだときに進捗がわからなくなったりする課題を解決するために、複数人がメール対応できるように開発されました。
メールワイズを製品化したのは2003年で、ある時に社長の青野がお客様に社内用メール共有システム(メールワイズ)のことを話したら、「ぜひほしい」と言われたのがきっかけです。
-リリースから約20年が経過したサービスですが、どのような課題があったのでしょうか?
永井 メールワイズはおかげさまで20年間売上を伸ばすことができ、クラウドサービスの流行りにも乗って導入社数を増やしてきました。ただ、がむしゃらにやってきたなかで、「なぜ売れているのか」「なぜ成長しているのか」がわからないままだったのです。
ここ数年は競合の参入もあり、このままだと「何となく頑張っていれば売れる」という状況は続かないんじゃないかなという課題感がありました。
- なぜ才流に依頼されたのでしょうか。
菅原 外部の会社さんに競合調査を依頼しようと思ったのがきっかけで、調査会社やBtoBマーケティングの会社を調べるなかで才流を知りました。
調査会社は色々と比較検討したのですが、そのうちに競合調査もマーケティング施策の一部であり、根本のマーケティング戦略から見直す必要があることに気付きました。そこで、マーケティング施策の上流から支援してもらえる才流に相談しました。
才流との商談では、私たちのぼんやりとした課題感を深掘りしてくれたことが印象に残っています。そのときにアウトプットのサンプルを共有してもらえて、どのような支援をしてもらえるのかをイメージしやすかったので依頼することにしました。
さらなる事業成長のために「準顕在層」の開拓に舵切り
ー 5か月のプロジェクトではどのような取り組みをされましたか。
加藤 まずはマーケティング戦略を立てることからスタートしました。中長期を見越した、継続的な事業成長を達成するためのマーケティング戦略です。
そのために色々な調査をしたり、サイボウズさんとお話ししたりするなかでわかったのが、競合サービスは増えてはいるものの、この業界は顕在層がすでに決まっていて、その顕在層をいかに獲得できるかの戦いになっていたことです。
サイボウズさんは競合サービスと比較してもプロダクトに特徴があるし、実績もあります。その限られたパイの奪い合いをしても負けることはないだろうとは思いましたが、さらなる事業成長を見込むのはなかなか厳しい。その状況を踏まえて戦略の方向性についてディスカッションをした結果、顕在層向けの施策は継続しつつ、新たなカテゴリー(顧客層)を開拓、模索することを決めました。
加藤 最初の3か月は、ペルソナやカスタマージャーニーなどコミュニケーション設計を立てながら、新規のターゲットとなり得るカテゴリーを探索。その後の4か月目、5か月目は新規カテゴリーに向けたテストマーケティングをはじめ、各種施策の伴走支援を行いました。
-新規のターゲット層とは具体的にどのような顧客像で、どのようなアプローチをしたのでしょうか。
加藤 ターゲット候補になったのは、潜在層と顕在層の中間にいる「準顕在層」です。「今すぐにメール共有システムを使わないといけない」みたいな緊急性の高い課題感は持っていないけど、なんとなく課題感はあって、その存在を知っていれば検討してくれる人たち。
課題が顕在化していない人にすぐサービスの導入を検討してもらうのは難しいので、「軸ずらし」(※)のアプローチを提案しました。
加藤 ほかにも、既存顧客の分析を進めていくなかで我々が想定するよりもメールワイズは多様な使われ方をされていることがわかりました。
それまでは何かメールでの事故や不備があったことをきっかけに導入されるサービスだと認識していたのですが、使用方法が多様化しているのであれば、その中から新たなモデルケースを見つけ、訴求して広げていくことができるのではないかということも考えていましたね。
※関連記事:軸ずらし
「重要な意思決定は私たちに任せてくれた」
-才流のコンサルタントと関わるなかで、印象に残っていることはありますか?
永井 プロジェクトが始まって1か月が経った頃に、今後のプロジェクトの方向性を私たちが決めたのですが、そのような重要な意思決定を私たちに任せてくれたことはとても印象に残っています。
プロジェクトを通じて、事業上の制約が多い当社の事情を理解してくださり、重要な意思決定のタイミングでは私たちの意見を尊重していただきました。
菅原 私はちょっとした疑問でも質問したら丁寧に回答をくれたり、必要に応じて勉強会を開催してくれたりしたことがすごく印象的でした。
そのスピード感というか、投げたらすぐにボールが返ってくるので、今やっている施策の改善点があるなら早いうちにおふたりに投げてみて、その知見を取り入れて素早く軌道修正できました。5か月間のプロジェクトを通じて、各施策のスピードと質の圧倒的な向上を実感しています。
–当初3か月間の支援予定でしたが、伴奏支援を2か月延長されたのはどういった背景がありましたか?
菅原 3か月で構築したマーケティング戦略をスピード感をもって実行に移したかったからです。新規のカテゴリー探索に向けたテストマーケティングを実行に移すタイミングがちょうど3か月の支援が終わるときでしたので。
テストマーケティングでやるべきことはわかっていたのですが、その過程で相談できる相手がほしかったのが大きいですね。あとはテストマーケティングをダラダラやってしまうと検証結果がよくわからなくなりそうだったので、短い時間でやり切りたいというのがありました。
–伴奏支援は具体的にどのように進めるのでしょうか?
渡辺 お客様によってもさまざまですが、サイボウズさんの場合はテストマーケティングの結果を毎週の定例MTGで共有してもらい、それに対して我々がフィードバックするというのが基本的な流れでした。
伴走支援はお客様が施策を円滑に実行できるようにするのが目的なので、「ああしましょう」「こうしましょう」と引っ張るというよりは、壁打ち相手として自分たちも一緒に考えるという感じでしたね。
自走力が高い人が多い組織だからこそ、共通認識ができた意味は大きかった
-プロジェクトの一番の成果は何だと思いますか?
菅原 一番の成果は、チーム全員が同じ目線で考えて動ける土台ができたことです。
「メールワイズってこういうものだよね」「こういう課題抱えてるよね」みたいなことはメンバーそれぞれの心の中ではわかっていました。だけど、その認識がフワッとしていたところがあったのです。
才流の支援によって自分たちの課題や状況を言語化できて、それぞれの立場から能動的に考えられるようになりました。
永井 私も課題が言語化できたこと、何よりチーム内で共通認識を持てるようになったことは非常に大きかったなと思います。数字でみえる成果を上げることはもちろん大事ですが、メンバー間に共通認識ができたことの方が長い視点で見たときには重要だと考えています。
当社は自走力の高い人が多いというか、課題が見えてるとそこに向かって自分で走っていけるタイプが多いので、共通認識ができたのはとても意味のあることでした。
-貴社にとって、才流はどのような存在でしたか。
永井 「先生」という表現が合うかなとも思いますが、学校の先生というよりはもう少し近い存在、塾や予備校の先生って感じかもしれませんね。おふたりとも親近感があり、質問しやすい存在でした。
1伝えたら10理解してくれて、100返ってくるくらいの印象もあって(笑)。おふたりもそうですし、カスタマーサクセスの勉強会を開いてくださった高橋さんもそうでした。才流のコンサルタントさんってそういう感じなのかなとは思いましたね。
菅原 コミュニケーションの印象としては、私たちがバラバラに伝える情報に対して、「要するにこういうことですよね」と理解してくださって、+αの情報をくれるような感じでした。
当社側がリソース面で制約があることを理解してくれて、ただの理想論みたいな提案ではなく、今の状況でできること、ここからなら始められそうみたいなレベルのことから提案してもらいました。
加藤 先ほど判断を委ねてもらったという話がありましたが、提案する際も「こうした方がいいです」というような押し付けではなく、チームとして納得してもらうことを大事にしていました。提案内容がたとえ正しかったとしても、納得感を持ってもらえないと成果にはつながりにくいですから。
(サイボウズの)おふたりは事業への思い入れがあるし、今まで成長させてきたという実績もお持ちなので、リスペクトして、ご意見を尊重しようという意識はありましたね。
先入観にとらわれない提案がロングセラー製品ゆえの足枷を打破
-プロジェクトを振り返って、外部の支援会社を入れたことにはどのような価値を感じていますか?
菅原 先入観にとらわないアドバイスには大きな価値を感じていました。それまでは社内で話し合っても、過去の経験から「できてもここまでだよね」みたいな感じで、“ガラスの天井”みたいなのがあったのです。
当社が抱えるリソースやプロダクトの制約がありながらも、才流が色々な提案をしてくれたことので非常にありがたかったです。
永井 メールワイズは長くやっている製品なので、それなりにいろんなチャレンジをしてきました。それゆえに、これまでの失敗を経験として覚えてしまっていて、何かやろうと思ったときもなかなか踏み出せない、知らず知らずのうちに歴史に足を引っ張られるようなところがありました。
才流は先入観や前例にとらわれずに、その施策が必要な理由を市場のデータとともに説明してくれたり、「ここまでなら問題ないと思いますよ」みたいに線引きをしてくれたりしたので、一度失敗した施策であっても、実行してみようという気持ちになれました。
先入観や前例にとらわれないからといって何でも言われるのは困るのですが(笑)、才流のメソッドには実績があるので、信頼して取り組むことができました。
加藤 メソッドは各プロジェクトやお客様にフィットした形で提供していますが、おふたりをはじめサイボウズのみなさんは優秀かつ一個一個をちゃんと実行してくれたので、コンサルタントの立場からしてもすごく助かりました。
渡辺 おふたりは受け身ではなく、色々なことを一緒に考えてくださり、我々が出す宿題もちゃんとやってきてくださるのでプロジェクトを進めやすかったです。
-才流のサービスを他社におすすめするとしたら、どのような課題を持った会社にフィットすると思いますか?
菅原 自分たちと同じように、長年やってきたことや今やってることに手詰まり感がある会社におすすめしたいです。
同じ製品に長く携わっていると、広告を変えよう、Webサイトを変えてみよう、みたいに川下レベルの小さな施策に目がいきがちです。そうではなく、改めて川上の戦略レベルから見直しできるのが才流の強みだと思います。
永井 自分たちの経験を踏まえると、表面的には上手くいっていても事業に課題感があったり、戦略が迷走していたりする会社にはいいんじゃないかなと思います。一度初心に立ち返ることができるという意味でおすすめしたいです。
「コンサルタント」と聞くと堅いイメージを持っている方も多いかもしれませんが、おふたりはそうじゃない。寄り添ってくれるような存在だったのでありがたかったですし、今後もBtoBマーケティングに悩む全ての方にとって、そういう存在でいてほしいなと思います。
(撮影/関口達朗 取材・執筆・編集/南 大友)