才流のコーポレートグロースとして入社し、現在はCMO兼マーケティング部門長を務める松下は、入社当時こう語っていた。
「才流でやりたいことは、メソッドカンパニーを創ることです」
子どもの頃から”やらされる勉強”が苦手だったという松下は、学生時代の原体験と前職での経験から、確固たる信念を持つようになったという。――いい学習体験を創りたい。そのためには、モチベーションとメソッドが何より重要だと、松下は語る。
20代後半で東証一部上場企業から才流へ転職し、スクール事業(サイル学院中等部・高等部)などの新規事業立ち上げ、採用要件や選考プロセスの設計、育休や時短勤務の環境づくりまで、才流の経営全般に関わってきた。彼は才流で何を得て、何を成したいのか。
テスト勉強が嫌いだった。原体験から生まれた「いい学習体験」への思い
ー 新卒でリンクアンドモチベーションに入社した理由と業務内容について教えてください。
就職活動をしながら私が考えていたのは、ワクワク学ぶ環境づくり、いい学習体験を創りたいということ。
当時、「スタディサプリ」や「MOOC(Massive Open Online Course)」などのオンライン学習が国内でも流行しはじめ、この流れは加速していくだろうと思っていました。一方で、どれだけいいツールや教材があったとしても、みんなが楽しく学べるようになるわけじゃない。結局は一人ひとりが「学びたい」というモチベーションを持っていなければいけないんです。
そこで、「モチベーション」をテーマに掲げているリンクアンドモチベーションに入社しました。
内定が出てからインターンとして働き、まずは国内初の組織改善クラウド(現モチベーションクラウド)のローンチなど新規事業立ち上げに関する業務を行いました。入社後の7月に社内初のマーケターとして正式に配属されたわけですが、そもそも社内にマーケティング部門はなかったですし、知見は一切ない。当時は上司と2人で、社外パートナーの皆さまに支えられながら、手探りのスタートでした。
そして2年後、全社横断のマーケティング部門に異動してからは、モチベーションクラウド全社目標の達成やブランド構築に向けて、社内外のメンバーとチームをつくり、マーケティング活動全般に取り組みました。具体的にはマーケティング予算の編成や管理にはじまり、Webサイトの構築や改善、広告運用のディレクション、MAの導入運用からSFAとの連携、イベントの企画や運営など、BtoBマーケティングの実務業務が中心です。
ー 「いい学習体験を創る」ことには強い思いを持っていらっしゃるのですね。何かきっかけがあったのでしょうか。
はい。小学校高学年のときにテスト勉強が嫌すぎて「何で勉強ってしなくちゃいけないんだろう」と思ったことが大きかったです。
もともと好奇心が強いタイプだったので、調べることが好きで、自由研究は楽しかったんです。でも、テスト対策のためにひたすら暗記する一般的な勉強は嫌いでした。
中学生になって幸いにも自分なりの勉強方法が見つかり、成績は上がりました。でも、楽しいと思ったことはなかったんですよね。
大学まで進み、学校外の活動をして、視野が広くなって。これまでの時間を振り返ってみると、学校のテスト勉強に使っていた時間は結構長いのに、正直内容はあまり覚えていない。時間をかけたのに、もったいないですよね。
一方で、自分がワクワクして学んだこと、学びたいと思って学んだことは今でも覚えています。いい学習体験を創りたいというのは、こうした原体験からきています。
モチベーションを扱うためには「メソッド=型」が重要
ー リンクアンドモチベーションでの仕事では、どのような気づきがありましたか。
入社してから感じたのは、重要なのはモチベーションを扱うための「型」だということ。型というのは、才流でいうメソッドですね。
リンクアンドモチベーションには、「モチベーションエンジニアリング」と呼ばれる技術があります。これまで勘や経験に依存してきたマネジメントや人のやる気といった分野に、経営学・社会システム論・行動経済学・心理学などの学術的な観点を取り入れて科学的に検証して、技術として扱うということなんです。
テーマはモチベーションなんですが、扱い方をきちんと型に落としていくことで、誰もが成果を出せるようになるわけです。
例えば、新卒2~3年目くらいの営業担当者が、ベンチャーの経営者に営業をする際。一個人として対峙すると明らかにビジネス経験が劣っている彼らが、バリューを出せるのはなぜか。モチベーションエンジニアリングの「型」を使って話をするからなんです。
また、振り返ってみると、高校時代に部活動でやっていた少林寺拳法にも、「強くなるメソッド」があったと思うんです。私はまったくの素人で、ただ強くなりたいというだけで入部したんですが、私の学校(早稲田実業学校)は、当時全国で3連覇するくらいの強豪校でした。
練習は毎日長時間ではなく、短く濃い、質が高い練習でした。入部当初は白帯だった私も、引退前には都大会優勝や全国5位入賞までいけました。自分の努力はもちろん大事ですが、創部以来何十年も続いてきた中で受け継がれてきた、メソッドのおかげでしたね。
「メソッドカンパニーを創りたい」栗原の言葉に共感し、才流へ入社
ー 才流のことは、いつ、どのような形で知ったのでしょうか。
最初に才流のことを知ったのは、栗原さんのTwitterがきっかけでした。また上司が「SAIRU Academy」の受講をすすめてくれて、2019年の夏に受講しました。
「SAIRU Academy」では、それまで3年かけて自分がやってきたことが、1回で体系的にまとまっていることに驚きました。「やってきたことは間違いじゃなかった」と確認できた半面、「最初にインプットできていたら、もっと早く成果を出せたのに」とも感じましたね。
ー 「SAIRU Academy」受講から転職まで約1年。どのような経緯で転職を決めたのでしょうか。
前職で約4年間マーケティング業務を行ってきた中で、手探りの立ち上げ期から、型化してどんどんメンバーに渡していくフェーズに入ってきました。そこで、もともと自分がやりたかったことや、仕事の幅をもう一段広げたいと思うようになりました。
実は、大学生のころ慶應大学の友人と一緒に「早慶学生ドットコム(現UniLink)」という受験相談サービスをつくったんです。リンクアンドモチベーションに入り、そのサービスからは離れていたものの、いい学習体験を創りたいという思いは変わっていなくて。また学習領域でやっていくためにも、まずは自分で事業を創る、経営に関わる仕事をできるようになっておきたいと。
ですから、大手企業ではなくて、規模の小さいベンチャーで、経営に直接関われるポジションで働きたいと思っていました。
そんなとき、栗原さんの過去のブログに「メソッドカンパニーを創りたい」と書いてあったのが偶然目に止まったんです。「モチベーション」と「メソッド」はいい学習体験を創るための2大テーマなので、才流ならばメソッドを深めていけるのではないかと思いましたね。
当時の才流は数名規模でしたが、事業の創り手になりたかった自分にはむしろ魅力的でした。メソッドというテーマと少数精鋭の組織が、入社の決め手です。
コーポレートグロースの仕事とサイルビジネス学院の立ち上げ
ー コーポレートグロースというポジションで入社され、具体的にどのような仕事をしているのでしょうか。
大きなところでいうと、「才流がどうしたらメソッドカンパニーになれるのか」ということが大上段にあり、経営において何がイシューなのかを考えること。社内ではイシューアナリシスと呼んでいます。そこから事業や組織に落としていくまでが私の仕事です。
現在の具体的な仕事は、事業で言えば、新規事業の開発や既存事業の業績管理、業務プロセスの改善など。組織で言えば、採用要件や選考プロセスの設計、社内の環境づくりなどです。
才流は経験豊富でモチベーションの高い人たちの集まりです。また正社員だけではなく、業務委託やインターンなど働き方も多様。社外パートナーとの関わりも多いです。社内で育成するというよりは、彼らの能力が最大限発揮され、事業が正しい方向にいくような環境やコミュニケーション設計を重視しています。
ー 入社後、新規事業として子会社であるサイルビジネス学院を設立されたということですが、どのような目的があったのでしょうか。
サイルビジネス学院は、通信制オンラインスクール「サイル学院中等部・高等部」を運営するために作られた子会社。サイル学院中等部・高等部とは、全国から受験なしで何年生でも転入学できる、中高一貫の通信制オンラインスクールです。
設立した目的は、大きく2つあります。
まず1つ目は、企業で働く人だけではなく学校で学ぶ人にもメソッドを届けるため。才流の社名の由来は「才能を流通させる」という意味が込められています。一人ひとりの潜在能力を引き出し、才能を広く社会に流通させたい。そのためには、より多くの方にメソッドを届ける必要があると考えています。そこで、企業で働く人だけでなく、学校で学ぶ人にも価値を届ける事業が必要だと考えました。
2つ目は、ニーズの高まりを感じたこと。
現在、小・中学校における不登校生徒数は24万人超(2021年)と過去最多です。高等学校においても2015年以来、不登校の生徒数は増え続けています。文部科学省の資料(※)によると不登校の要因のうち約半数が「無気力、不安」です。しかし根本の原因は、日常生活と学校生活のズレにあると、私は考えています。
※出典:文部科学省「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」
私たちの生活は、集団一斉から個別最適に変わりました。みんなで同じ時間に同じ番組を見る時代から、それぞれが見たい時間に見たい動画を見る時代へ。みんなで同じ場所に集まって働く時代から、テレワークの時代へ。「遊ぶ」も「働く」も変わっているのに、「学ぶ」だけは変わっていない。
若い世代ほど個別最適型の生活に慣れており、集団一斉型の学校教育には違和感を覚えやすいのではないでしょうか。
それでも無理に合わせようとして、うまくいかず「どうせ自分は……」と無気力になってしまう。そもそも合わせたくはないけれど、まわりと自分が違うことに対して不安を抱く方が多いのだと思います。
全日制のリアルスクールから通信制のオンラインスクールへ。「遊ぶ」も「働く」も変わったように、「学ぶ」も必ず変わる時代がくる。従来の学校教育に違和感を覚えやすい若い世代に、いち早く新しい学校教育を届けるために、2022年4月に高等部を、そして2023年4月に中等部を開校しました。
育児休業に時短勤務の環境をつくり、子育てと両立。才流での働き方とは?
ー 才流初の育児休業、時短勤務制度を利用したと伺いました。
はい。入社したのがあと2か月で子どもが産まれるタイミングで、実は内定前から育休を取得したいというのは栗原さんに相談をしていました。
ただ、才流では前例がなかったので、自分でプロセスを作る必要があって。サポートいただいている業務委託の方や社労士事務所の方と連携をとって、「育児休業申請書」の雛型を作るところからはじめました。
時短勤務も、制度としてはなかったので、栗原さんと相談をして決めました。10月末に子どもが産まれて、11月は育児休業を取得し、12月は時短勤務で働きました。
ー フルリモートでの勤務という点は、いかがでしょうか。
不便さなどはなく、むしろ助かっています。夫婦で役割分担をして、一緒に子育てをしたいと妻とも話していたので、通勤がない分、時間を有効に使えています。
また、コミュニケーションの面でのやりにくさもありません。社内の方が集まる機会は少ないので、私は入社後すぐに全員と個別にオンラインでランチの時間を設定しました。いろいろな話をし、どんなモチベーションや気持ちで働いているかというのを知れたので、リモートでも会話は問題なくできています。
ー 才流の皆さんとお会いになり、どのような印象を持ちましたか。
皆さんが全員「コト」に向いている感じがして、すごく素敵だなと思いました。「顧客をこうしていきたい」とか、「この仕組みをもっとこうしたい」という話がとても多くて、むしろそれしかないと言ってもいいぐらい。入社前はなんとなく「冷たい感じなのかな」と思っていましたが(笑)。
入ってみたら全然そんなことはありませんでした。Slackもめちゃくちゃ盛り上がるんですけど、その話というのが顧客のこと、仕組みのこと。これはいい意味でのギャップでしたね。
ー 才流にはどのような方が向いていると思いますか。
もちろんマーケティングのスキルは大事なんですが、それ以上に大事なのは「細部までこだわり、やり切る」という部分だと思うんです。メソッドは才流の中にあり、いくらでも学べますが、実行の部分で差がつく。ですから、実行力が高い人が合っていると思います。
また、才流の場合はコンテンツを作って発信していくことで、メソッドを普及させていこうとしています。ですから、コンテンツを作れるとか、気づいたことを思わずまとめてしまうとか。そういうことが好きな人には向いていると思います。
場所や時間の制約にとらわれず、才能を発揮できる組織へ
「メソッドカンパニーを創りたい」という目標は明確です。
BtoBのマーケティングはもちろんですが、営業でも、採用でも。ビジネスのさまざまな領域で、顧客の課題解決ができるメソッドを作っていきたいと思っています。
特に、これから何か新しいことを始めるときや、何かに挑戦するというとき。メソッドを学んで、もっと楽しく、ワクワクしながら自分のやりたいことを実現していける。そんな環境をつくっていきたいですね。
さまざまな領域のメソッドを作っていくためにも、いろいろな才能を持った人たちが働ける組織を創っていかなければいけないと思います。日本全国、海外からでも才流に入れるようになればいいし、育児や家庭との両立、副業などでも働きやすい環境をつくりたい。場所や時間の制約にとらわれず、誰もが才能を発揮できる組織にしていきたいです。
今まで働いてきた中で思ったのは、1人の力では何もできないということなんです。チームになれば1人より大きな成果が出せますし、そのほうが楽しいなと。才流のメンバー全員で、メソッドカンパニーを目指して頑張っていきたいと思っています。
(撮影:矢野拓実 取材/文:安住久美子)