BtoBマーケティングにおいて「事例」は、営業活動に貢献する重要なコンテンツの1つです。顧客の声や成果をWebサイトに掲載する企業は多く、才流でも注力しています。
一方で、「顧客の許諾が取れない」「制作の負荷が高い」「商談で使いにくいと、営業から言われた」などの課題もよく聞きます。コストやリソース、スキル、顧客の事情などさまざまな制約があり、現実的に制作がなかなか進まないこともあるでしょう。
そんなとき私は、顧客にこうお伝えしています。

外部に公開できなくても、事例コンテンツを作りましょう!
大抵の方は、「外部に公開しなくて、意味があるんですか?」とおっしゃいます。しかし、外部に公開できなくても、「営業が売りやすくなる」強力なコンテンツを作ることはできます。
必要なのは、「どんな課題を持つ顧客に何が響いたのか」「競合とどんな点が比較され、なぜ自社を選んだのか」など、営業担当者と顧客のやりとりや商談のプロセスを言語化していくことです。私はこれを「受注ストーリー事例」と呼んでいます。
受注ストーリー事例は、実際に受注した営業担当者へのヒアリングだけで作成できます。社内用のため顧客の許諾は不要で、最小限のリソースで今日からでも着手できる事例コンテンツです。
施策をスムーズに進めるための2つのテンプレートも用意しましたので、ぜひ取り組んでみてください。個人情報の入力は必要ありません。クリックするとダウンロードされます。
営業ヒアリングテンプレート(Excel形式)をダウンロードする受注ストーリー事例テンプレート(PowerPoint形式)をダウンロードする受注ストーリー事例とは
あらためて言葉の定義をしておきます。
「受注ストーリー事例」とは、商品・サービスが顧客に売れた背景、営業の提案、決め手になったことなど、受注までの一連のストーリーをまとめた事例のことです。会社によっては、「商談事例」「社内用事例」などと呼んでいる方もいるかもしれません。
受注ストーリー事例は、主に以下の内容をまとめます。
- どのような課題を持つ顧客に、どのような提案をして受注できたか
- 顧客は競合と、どのような点を比較していたか
- 受注までにどのようなプロセスを経たか
こうした情報を営業担当者からヒアリングし、可視化することで、同じような規模や業界、課題感を持った見込み顧客に対するアプローチが各段にしやすくなります。
(例)スライド1枚にまとめた場合の受注ストーリー

上記はスライド1枚にまとめた例ですが、スライド枚数を増やし、決め手になった「キラートーク」や「よく聞かれる質問」なども含めれば、商談時に営業担当者が自分の言葉で語るための助けになります。

才流コンサルタントの実践アドバイス
私も前職の事業マーケター時代、まさにこの「受注ストーリー事例」を実践していました。
「どんな商品・サービスであれ、それを最も売っている営業は必ずいて、その人ならではの“勝ちパターン”を持っているのではないか」という仮説をもとに、1時間のインタビューを敢行。商談プロセスやトークを「受注ストーリー事例」として全社に公開していきました。
営業部からは「同僚の生のプロセスやトークがリアルで参考になる」と、予想以上に喜んでもらえたのを覚えています。
「アカウント営業に、どうしたら注力商品を売ってもらえるか」と頭を悩ませているマーケターの方にとって、受注事例ストーリーは効果的な一手になるはずです。
「受注ストーリー事例」と「成果事例」の違い
多くのBtoB企業が取り組んでいるのは、「導入するとどんな課題を解決でき、どんな成果が出るのか」に焦点をあてた成果事例です。インタビュー記事やスライド、動画などさまざまな形式があり、自社のWebサイトやSNS、商談などで見込み顧客に公開するために作成します。
外部公開を前提にしているため、まずは顧客に許諾をいただくハードルがあり、さらにはインタビューや記事を作るコスト、人的リソースも必要です。社内や顧客側のチェックも経て、公開できるのは数か月先ということも珍しくありません。
一方、受注ストーリー事例は導入後の成果は必須ではなく、公開範囲は社内限定です。顧客の許諾は必要なく、マーケターが営業担当者にヒアリングするだけで作れるという利点もあります。
形式は社内で共有・蓄積しやすければよいので、スライドやドキュメントなど、社内で作りやすいものを選択できます。


才流コンサルタントの実践アドバイス
「各社作りやすいものでいい」と説明しましたが、あとから顧客の許諾がとれる可能性がある場合は、スライド形式がおすすめです。許諾が取れたあとに内容を少し調整するだけで、そのまま商談で使える資料になるからです。フォーマットを統一し、探したい事例がすぐに見つかるように「検索性・ストック性」を保つようにしておきましょう。
受注ストーリー事例の作成ステップ
ここからは、受注ストーリー事例の作成手順を解説していきます。
営業担当者へヒアリングする
最初のステップは、営業担当者へのヒアリングです。
営業担当者を巻き込むコツは、「話すだけでいい」状態を作ることです。原稿を書いたり、資料を作成したりする必要はない、ということを伝えておきましょう。そうすれば、ヒアリングを受けるハードルは下がるはずです。
ヒアリング実施前には、Webサイトや社内の顧客情報で調べられる項目は事前に確認しておきましょう。ヒアリングの際には、調べればわかることではなく、営業担当者しか知らないエピソードを聞き出すことに集中してください。
また、ヒアリング後に文字起こしをしたり、聞きなおしたりすることを想定し、録音できるとベストです。営業担当者の方が不安にならないよう、開始時にひと言お伝えしておきましょう。
ヒアリング項目の例
- 基本情報(社名、業種、従業員数、WebサイトURLなど)
- 提供商品・サービス(年間契約額、金額、受注までの経緯など)
- 新規で提供した商品・サービス過去に提供した商品・サービス
- 商談プロセス全体像(初回商談の年月日、きっかけ、契約までの流れ、顧客のニーズなど)接点(きっかけや内容、部署、役職、氏名、顧客のニーズ、提案内容など)
- 内示獲得提案時の顧客・競合・自社の状況
- 顧客(予算、決裁者、課題・ゴール、導入時期、社内体制など)
- 競合(顧客への提案、差別化ポイント)
- 自社(顧客への提案、差別化ポイント)
- 営業の工夫と事例からの学び接点のポイント
- 訴求のポイント
- その他ポイント
- 営業での活用例
- キラートーク
- こういう人に刺さる
- 契約後の成果 ※必須ではない
- 実施したこと成果(定量・定性)※必須ではない
本施策を進めるためには、営業担当者の協力が不可欠です。「ただ話をするだけで事例が作れる。手間がかからない」というメリットを伝え、理解してもらいましょう。
さらに、「受注ストーリー事例に取り上げられる=できる営業」という空気を作り、「自分も取り上げてもらいたい」と思ってもらうために、以下の取り組みも有効です。
- ヒーローインタビューとしてヒアリングを実施する
- 社内掲示板に掲載する
■■ 営業ヒアリングテンプレートの使い方 ■■
才流のテンプレートを使用する際は、以下の手順で行ってください。
① テンプレートをダウンロードしてください。
営業ヒアリングテンプレート(Excel形式)をダウンロード※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとダウンロードされます。
営業ヒアリングシートには、「事例一覧」「営業ヒアリングシート(ひな型)」の2シートが用意されています。


② 営業ヒアリングシート(ひな型)を複製し、シート名を顧客の会社名に変更します。(例:株式会社ABC)

③ 複製したシートに、営業ヒアリングの前に確認できる情報(企業の基本情報や過去の契約状況など)を記入しておきます。
④ 営業ヒアリングを実施し、内容をシートに記載します。事例一覧のシートの【参照元シート名】欄を入力すると、他の項目は自動で転記されます。

営業ヒアリングシートから、ストーリーを抽出する
ヒアリング内容をもとに、依頼の経緯、受注までのプロセス、決め手になったこと、受注のポイントなどをストーリーとして再構成します。
ポイントは、ほかの営業担当者が見たときに、受注までの流れがイメージできることです。
最初は複数のスライドを作成することが負担になる可能性もありますので、以下の情報をスライド1枚にまとめるつもりで抽出してみるとよいでしょう。
- 企業名
- 事例タイトル(どんな会社、何が売れて、どうなったを端的に)
- 基本情報(企業名、企業規模、支援内容など)
- 依頼背景(顧客の課題やニーズなど)
- 受注までの経緯(接点や窓口、時系列)
- 決め手になったこと(顧客に刺さっていた行動や言葉)
- 受注のポイント(全体を振り返ったまとめ、次につながる行動)
※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとダウンロードされます
(再掲)

余力があれば、もう少しくわしく、ストーリーを掘り下げていきましょう。才流のスライドテンプレートには、例で挙げた1枚のほかに、複数枚スライドを用意しています。
記入例








才流コンサルタントの実践アドバイス
スライドに落とし込む際、「日本語の整形に意外と時間がかかる」と思う方は、生成AIを活用すると効率的に進められます。
まず、スライドを生成AIに読み込ませます。そのうえで、生成AIのチャット欄に営業ヒアリングシートを添付し「このなかから、スライドの入力項目を抽出し、コピーペーストしやすいように整形して」と指示をします。基本はこれだけです。間違っていないかどうかは、必ず人間の目で確認が必要ですが、「誤字脱字以外は修正しないで」「常体(だ、である調)でまとめて」「顧客の声だけは改変せずにそのまま記載して」など追加の指示を出すとよりイメージに近いものになるはずです。
ただし、社内で使用禁止の生成AIを使用しない、入れてはいけない情報を匿名化するなど、社内の生成AI活用ルールを確認してから行いましょう。顧客情報の取り扱いにはくれぐれもご注意ください。
営業展開の仕組みを作る
実は作ったあとの仕組み化が、この施策のもっとも重要なポイントと言っても過言ではありません。事例は作って終わりではなく、使われてはじめて価値があるからです。
営業チームで活用してもらうために、以下のような取り組みが効果的です。
- 営業説明会を実施し、「受注ストーリー事例」の意図や使い方を直接伝える
- 新しい事例ができたら、社内で積極的に発信を行う
- いつでも検索しやすい状態を作る
- 全事例をまとめた「事例集」を作る
- 使い勝手や内容について、営業チームから定期的にフィードバックを受け改善する
- 「受注ストーリー事例」を使った成功事例があれば、共有する
まとめ
受注ストーリー事例は、BtoBマーケティングにおいて営業活動を強力に支援する実践的なコンテンツです。
- 営業担当者が自分の言葉として語れる
- 顧客の課題やニーズに照らし合わせて使える
- チームで共有し、再現性ある提案につなげられる
上記を意識しながら、仕組みづくりを進めましょう。営業担当者へのヒアリングだけで、今日からでも作れます。ぜひ、取り組んでみてください。