SaaS界隈では、事業を拡大する打ち手としてパートナービジネスに取り組む事例が増えています。では、実際にパートナービジネスを展開している企業はどの程度「手ごたえ」を感じているのでしょうか?
才流(サイル)がSaaS企業10社に行ったアンケート調査では、パートナービジネスが「成功している」と感じている企業はたった2社という結果に。そして各社の体験談から、パートナービジネスが失敗する際のパターンが判明しました。
そこで本記事では、
- パートナー契約を結んだけれど、受注につながらない
- どこをどう改善したらよいか、わからない
といった課題を抱えているパートナービジネスの責任者・担当者の方に向けて、アンケート調査から見えたパートナービジネスの課題と解決策について解説します。
また、才流では、パートナービジネスの立ち上げについて基礎から応用、実践方法までのノウハウを体系的に学べるガイドブックを無料配布しています。パートナービジネスでお困りの方はご活用ください。⇒『パートナービジネス立ち上げガイドブック』をダウンロードする(無料)
※関連記事:SaaS企業のパートナーセールス(代理店販売)入門~取り組むための判断軸とよくある誤解~
SaaS企業の躍進を支えるパートナービジネスの難しさ
ここ数年、SaaS企業におけるパートナービジネスの重要性は増す一方です。実際に、SaaS上場企業でARR(Annual Recurring Revenue/年間経常収益)の上位10社中9社がパートナービジネスを展開していることがわかっています。
しかしながら、パートナービジネスの成功事例はまだ少ないのが現状です。そのため手探りで成功パターンを模索している企業や、パートナービジネスを始めたものの、うまくいかずに頓挫する企業も少なくありません。
才流はその実態を探るべく、国内のSaaS企業10社にアンケート調査を実施しました。
パートナービジネスを展開している企業へのアンケート調査結果
才流が実施した、パートナービジネスを展開しているSaaS企業へのアンケート結果を紹介します。
- 設問
- Q1:これまで経験した会社で、パートナービジネス(代理店制度)は成功・失敗・改善中のどちらですか?その理由も教えてください。
- Q2:パートナービジネスの立ち上げまでの期間はどのくらいかかりましたか?パートナー経由の売上比率とあわせてお答えください。
- Q3:今から振り返って、パートナービジネス立ち上げに関して後悔や反省点を教えてください。
調査概要
調査日
2022年5月19日
調査対象
国内でパートナービジネスを展開しているSaaS企業10社
内訳:上場企業3社、未上場企業6社(うち3社は20億円以上の資金調達を実施した企業)、海外企業1社
調査方法
オンラインでのアンケート調査
調査結果のサマリー
- パートナービジネスが「成功している」と感じている企業は全体の2割
- パートナービジネス立ち上げまでの期間は半年~1年以上が半数を占める
- 全体の売り上げに占めるパートナー経由の売上比率は半数以上が4割未満
- 自社の営業で売れる道筋をつけてから導入すべきだった、パートナーに対するフォローがもっと必要だった、などの後悔の声があった
Q1:パートナービジネスは成功・失敗・改善中のどれですか?
「成功」が2社、「失敗」が4社、「改善中」が4社でした。
失敗や改善中の理由は、以下が挙げられています。
- 事務処理やパートナーの教育などの見えないコストがかかっている
- プロダクトとマッチしないリードが増加した
- 売るのに詳しい説明が必要なプロダクトのため、販売できるパートナーが限られる
一方、成功した企業においては、多くの新規パートナーを獲得し、育成に成功したといった回答が得られました。
Q2:パートナービジネスの立ち上げまでの期間とパートナー経由の売上比率は?
「立ち上げまでの期間」については、「半年~1年以上」が半数を占めました。立ち上げの定義にもよりますが、パートナービジネスの検討から最初のパートナー契約を獲得するまでは1~3か月程度、パートナーにプロダクトが浸透し販売されはじめるのはそこからさらに時間がかかるようです。
全体の売り上げに占める「パートナー経由」の売上比率については、1割未満と1割を合わせると4社、2割~4割が2社でした。売上比率が過半数を超える状態になるまでパートナービジネスを成長させるのは、かんたんではないことがわかります。
Q3:パートナービジネス立ち上げに関する後悔や反省点は?
得られた回答から、いくつか抜粋して紹介します。
- 直販での勝ちパターンを築いてからパートナービジネスを展開すべき
- 自社におけるパートナービジネスの位置づけを明確にしてから進めるべきだった
- パートナーの絶対売りますという言葉を過信すべきではない
といったように、実際にやってみて失敗した経験から学んだ、貴重な声が聞けました。
パートナービジネスにおける8つの失敗パターンと解決策
パートナービジネスの先駆者に実施したアンケートの結果をもとに、パートナービジネスにおける失敗パターンを以下の8つに分類しました。ここからは、それぞれの失敗と解決策を解説します。
- パートナーは複数いるが成果に結びつかなかった
- パートナーのマネジメントコストが膨大になってきた
- プロダクトの単価が低く、うまくパートナーと組めなかった
- 売る難易度が高いプロダクトでパートナーに敬遠された
- プロダクトがPMFする前に導入してしまった
- 中長期的なビジョンを持たずに始めてしまった
- パートナーの「絶対売ります」を過信しすぎた
- 契約締結後、パートナーのフォローをなおざりにした
1. パートナーは複数いるが成果に結びつかなかった
アンケート結果では「成果」、つまり受注に結び付かなかったという回答が多く得られました。たとえば「パートナーは複数いるが、いずれも受注につながっていない」というケース。販売のノウハウが見つからないまま、パートナーの数だけが増えていったことが原因といえるでしょう。
この問題を解決するには、パートナービジネスの5ステップ(以下の図)におけるStep.1「売れる一人目の発見」が重要です。ここでいう一人目とは、そのパートナーにおける一人目という意味です。
まず、受注したパートナーの営業にインタビューを実施し、売れた要因を分析します。つぎにインタビュー内容をもとに「こうすれば売れる」という仮説を立て、そのパートナーの社内で検証しながら売れる二人目、三人目を生み出していきます。他社でも再現性が高そうなら、他のパートナーにも展開しましょう。
2. パートナーのマネジメントコストが膨大になってきた
パートナービジネスを強化すればするほど、パートナーへの教育やサポートなどの見えないコストが膨れ上がります。
パートナービジネスの立ち上げ段階では、まだコストを気にしすぎる必要はありません。パートナーの契約社数が増えてきた段階で、注力するパートナーを絞るフェーズに移行します。具体的には、年間取引額が上位に位置するようなアクティブなパートナーとそうでないパートナーに分けて、フォローなどの対応の強弱を設定していきます。
また、パートナープログラムの加入条件の見直しも有効です。パートナーを選定する目的を明確にしたうえで、加入条件を検討しましょう。
3. プロダクトの単価が低く、うまくパートナーと組めなかった
SaaS企業のプロダクトでは、販売単価が月額数万円から10数万円程度になるケースが多いです。プロダクトの単価が低いため、そもそも大手のパートナーでは取り扱ってくれないこともあるでしょう。また仮に契約して取り扱いが決まったとしても、パートナーの現場の営業が積極的に売ってくれない状況に陥りやすいです。
単価が低く、インセンティブによる「売るモチベーションづくり」が難しい場合は、パートナーにとっての売るメリットを用意する必要があります。
パートナービジネスを成功に導くためのKSF(Key Success Factor:重要成功要因)は以下の3つです。インセンティブ設計によるメリット以外では、パートナーの事業との相乗効果を出すこと、売りやすい仕組みを構築することに取り組むとよいでしょう。
4. 売る難易度が高いプロダクトでパートナーに敬遠された
CRMやBIツールのような、売るのに詳しい説明が必要なプロダクトの場合、業界理解や商品理解のハードルが高く、販売できるパートナーが限られてしまいます。また、学習コストが高いため、パートナーも積極的には提案・販売しない傾向があります。
この問題を解決するには、自社で売り方を明確にする必要があります。営業資料や比較表を精微に作り込み、パートナーが顧客に説明せずとも資料が補完してくれる状態にします。そのうえで、商談に同席をしてパートナーに売り方を体感してもらうのが王道です。
売るのが難しすぎてパートナーに敬遠されがちなプロダクトに関しては、販売ではなく「紹介契約※」を強化することも一手です。
※紹介契約:パートナーから案件を紹介してもらい、商談から契約締結までは自社で対応する契約のこと
5. プロダクトがPMFする前に導入してしまった
今回のアンケートでは、販売を急ぐあまり、PMF(Product Market Fit:プロダクトマーケットフィット)に至るまえにパートナービジネスを始めたケースが見られました。
そもそもPMFしていないと、自社の営業が売ることすらままなりません。この状態で外部のパートナーに販売を期待しても売れる可能性はゼロに等しいです。
このケースでは、まずは直販でプロダクトを磨き、PMFを目指すことを優先する必要があります。パートナービジネスで成功しているAI inside社も、1年間は直販のみでプロダクトに磨きをかけてから、パートナービジネスに舵を切りました。
PMFを測る4つの指標と留意点を以下の記事で紹介していますので、参考にしてください。
※ 関連記事:PMFを測る4つの指標と留意点
※ 関連記事:PMFの到達に必要なアクション・考え方とは?【8社の事例をまとめて解説】
6. 中長期的なビジョンを持たずに始めてしまった
パートナービジネスにおける中長期的なビジョン、つまり戦略をあいまいにしたまま導入している例も少なくありません。たとえば、パートナービジネスの売上比率をどの程度まで上げるのか、ターゲットとする顧客セグメントのどの部分をパートナーに補完してもらうのか、などが決まっていないケースが挙げられます。中長期的な戦略を明確にしたうえで、自社がどこまでの役割を担い、パートナーに何を求めるのかを決めましょう。
7. パートナーの「絶対売ります」を過信しすぎた
アンケートからもわかるように、パートナーと契約したら手放しでプロダクトが売れていくわけではありません。とくにSaaSプロダクトは単価が低いことが多いため、パートナーの販売力を過信しすぎると計画倒れになる可能性があります。先述の3の解決策と同様ですが、パートナーが売ってくれるのを待つのではなく、パートナーが積極的に売りたくなる理由をつくるところから仕組みを構築しましょう。
8. 契約締結後、パートナーのフォローをなおざりにした
パートナーへのフォローを軽視すると、パートナービジネスはうまく立ち上がりません。売れるようになるまでには時間がかかりますし、売れた後や契約後もパートナーに対する継続的なフォローは必要です。フォローしないまま放置しておくと、パートナー内での顧客への提案の優先順位が下がり、案件が増えません。
売れるパートナーになるか否かは、パートナー契約を締結した直後の2〜3か月の動きで成否が決まるといっても過言ではありません。勉強会や商談同席、ビジネス開発などを行い、オンボーディングをしましょう。軌道に乗った後は、注力パートナーの場合は最低でも週に1回の接点を持ち続けましょう。
まとめ:パートナービジネスを成功へ導くポイント
パートナービジネスを展開しているSaaS企業へのアンケート調査から判明した、パートナービジネスを成功へ導くポイントは以下のとおりです。
- 売れるパートナーを見つけて、再現性の高い仕組みをつくる
- 注力するパートナーを絞り、マネジメントコストを抑える
- パートナーが売りたくなる理由と売りやすい仕組みをつくる
- パートナービジネスはプロダクトがPMFしたあとに導入する
- 契約後も定期的にパートナーへのフォローを行う
「成功はアート、失敗はサイエンス」といわれるように、パートナービジネスの失敗には再現性があります。失敗のパターンを学び、失敗を避けることでパートナービジネスの成功確率を上げていきましょう。