SaaSの新規事業でよくある課題のひとつが、サービスの導入は進むのに活用されないというものです。「アカウント配布で止まってしまう」「カスタマーサクセス活動やオンボーディングまで手が回らない」といった悩みをよくご相談いただきます。
SaaSの新規事業を支援するなかで感じるのは、活用されるかどうかは「導入後の最初の体験」でほぼ決まるということです。利用者に「使ってみよう」というモメンタム(勢い)をつくれるかが、活用の分かれ目になります。そのモメンタムをつくる場が、利用者説明会です。
この記事では、サービスの活用率を高める利用者説明会の設計方法を解説します。そのまま使える説明会資料・案内メールテンプレートも用意しているので、あわせて活用してください。

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アカウントを配布するだけでは、サービスは活用されない
SaaSでは、導入を決める人と実際に使う人が分かれることがよくあります。経営層やIT部門、DX部門が導入を決めたり、営業企画部門が導入して営業現場に配布したりするケースです。こうした構造があるため、導入の背景や期待される使い方は、現場に届きにくくなります。
利用者の立場では、いきなりログイン情報が送られてきて、「使ってください」と言われるだけ。なぜ自分が使わないといけないのか、日々の業務のどこで使えるのか、手がかりがないまま放置されます。
実際に、あるSaaS提供企業がアカウントだけを配布した結果、1か月経ってもアクティブな利用者は全体の1割にも満たない状態になりました。
原因は、利用者がサービスのメリットを感じられず、自分の業務でどう使えばいいかもイメージできていないことにあります。サービスの存在は認識していても、自分にとって何の役に立つのか、日々の業務のどこに組み込めばいいかが見えていません。導入の背景や期待される使い方が共有されないまま「使ってください」と言われても、利用者は最初の一歩を踏み出せないのです。
アカウントの配布と同時に、利用者が「これは自分のためのサービスだ」と感じられる説明会を用意する。この設計が、活用率を左右する分岐点になります。
モメンタムをつくる説明会の5つの原則
説明会というと、「使い方を説明する場」と捉えられがちです。画面共有をしながらボタンの場所を一つひとつ案内するような、マニュアル読み合わせのイメージをもつ方も多いかもしれません。説明会に求められる役割は、それだけではありません。
利用者に「使ってみよう」と思わせるモメンタムをつくること。これが、説明会が果たすべき役割です。
説明会でモメンタムをつくるには、参加者を集め、参加者に「使えそう」と思ってもらう、この両方が必要です。多くの現場では、内容よりも「人が集まらない」ことが先に壁になります。
この2点を押さえるために整理したのが、以下の5つの原則です。
原則1.対象を絞って声をかける
最初から全員を対象にしようとすると、かえって誰にも刺さらない案内になりがちです。
まずは、意欲が高そうな人に声をかけましょう。具体的には利用頻度が高くなりそうな人や、課題が明確な人が対象になります。
さらに、チーム内で影響力のある人を加えると波及効果が期待できます。サービスのよさを周囲に広めてくれるエバンジェリスト的な存在が1人いるだけで、「あの人が使い始めたなら自分も」という連鎖が生まれ、周囲の利用者を動かしていくきっかけになります。
原則2.業務上の効果を前面に出して案内する
「◯◯の説明会を実施します」と案内しても、忙しい現場メンバーの優先度は上がりません。
参加者が参加するかどうかを判断するために必要なのは「自分の業務がどう変わるか」「参加すると何を得られるか」という情報です。「営業準備が半分の時間で終わる方法をご紹介します」「提案資料の下書きをその場でつくれます」といった業務上の効果を前面に出すと、参加意欲を高めやすくなります。
また、案内を1回送って終わりにすると、多くの人の目に留まらないまま流れていきます。事前告知(説明会の1〜2週間前)、本案内(説明会の1週間前)、リマインド(開催前日や当日朝)と、少なくとも3回に分けて接点をもつことをおすすめします。加えて、上長やマネージャーが参加を推奨するひと言を発信すれば、現場の優先度は上がります。
さらに、説明会は1回で全員が参加できるとは限りません。不参加だった人への個別フォローの仕組みまで含めて設計しておきましょう。録画の共有、少人数での追加セッション、1on1でのキャッチアップなど、フォローの選択肢を事前に用意しておくと、機会損失を最小限に抑えられます。
原則3.短時間で参加しやすくする
説明会の時間は、「とりあえず1時間」で設定されがちです。しかし現場のメンバーは忙しく、1時間の時間を確保するのは難しいこともあります。ある企業では、15〜30分に短縮し、昼休みの時間帯に重ねることで、参加率が大きく高まりました。「これくらいなら参加できる」と思える長さに設定することが、参加のハードルを下げます。
説明会の時間を短縮するには、サービスのすべてを一度に伝えようとしないことがポイントです。最初の説明会では導入背景と代表的なユースケースだけに絞り、詳細な機能紹介は別の機会やドキュメントに譲る方が効果的です。
案内の段階で、短時間であることと事前準備が不要であることを明示しておくと、参加ハードルがさらに下がります。
原則4.ユースケースで「自分ごと化」する
参加者に機能を説明しても、「自分の業務のどこで使うか」がイメージできなければ、使い始めてもらえません。そこで有効なのが、参加者の業務に即したユースケースを見せることです。
「あなたの業務ではこう使えます」と、具体的なシーンで伝える。たとえば営業担当者であれば、営業前の企業調査、提案資料の下書き、次回商談の準備といった例を提示すると、活用イメージが一気に立ち上がります。
他部署での活用事例を見せることも効果的です。「営業部のAさんはこう使っている」「カスタマーサポートチームはこの機能でこれだけ時短できた」といった具体的なエピソードがあると、参加者は自分の業務に重ね合わせて考えられるようになります。
ユースケースは、参加者の職種や業務内容にあわせて選びましょう。同じサービスでも、営業担当者とマーケティング担当者では刺さるユースケースが異なります。部門ごとに説明会を分けるか、複数パターンのユースケースを用意しておくとよいでしょう。
原則5.その場で体験してもらう
聞くだけの説明会と、手を動かす説明会では、その後の参加者の行動に大きな差が出ます。話を聞いて内容を理解しても、実際に使い始めるまでには心理的な距離があります。
ある営業支援SaaSを扱う企業では、説明会のなかで「最近営業した企業を調べてみる」「次回アポイントの提案資料をつくってみる」といったワークを実施しました。このように参加者自身の業務をテーマにしてもらうと、心理的な距離を一気に縮められます。
ワークは5分程度の短いもので十分です。参加者が「自分の手で成果物をつくった」という実感が、説明会後に自発的にサービスを使い始めるきっかけになります。
ここまで解説してきた5つの原則をすぐに実践に移せるよう、才流では説明会資料と案内メールのテンプレートを用意しています。
説明会の準備から実施で使える3つのテンプレート
説明会は、顧客側の推進者が実施する場合と、ベンダーの営業担当者が実施する場合があります。
ベンダーが実施する場合は、サービスをつくった意図やこだわりを直接伝えられます。顧客側の推進者が実施する場合は、社内の業務に即した使い方を具体的に届けられます。
とくに導入初期や重要顧客に対しては、ベンダー側が直接実施する方が効果的です。つくり手の思いが直接伝わることで、利用者の受け止め方が変わります。
才流では、どちらのケースにも対応できるよう、推進者向けとベンダー向けの2つの説明会資料と、案内メールのテンプレートを用意しています。
| テンプレート | 誰が使うか | 何に使うか |
|---|---|---|
| 説明会資料(推進者向け) | 顧客側の推進者 | 社内で説明会を実施するための資料・進行台本 |
| 説明会資料(ベンダー向け) | ベンダーの営業担当者 | 顧客企業に対して説明会を実施するための資料 |
| 案内メール(6種類) | 顧客側の推進者、またはベンダーの営業担当者 | 説明会への参加を促すための案内メール |
2つの説明会資料は、実施者の立場に応じて構成が異なります。
推進者向けは、社内で利用者に使い始めてもらうことを目的とした構成です。初期設定・ログイン手順から始まり、デモ・操作体験、活用事例、質疑応答まで網羅しています。各スライドのノート欄に進行台本が記載されているため、初めて進行する推進者でも安定した説明会を実施できます。
ベンダー向けは、顧客企業にサービスの価値を伝えることに特化した構成です。サービス紹介から始まり、活用によって得られる効果を機能別に展開し、役割別の活用シーンまで提示します。進行台本は含まれていません。
説明会資料テンプレート(推進者向け)
顧客側の推進者が社内で説明会を実施するための資料・進行台本をまとめたものです。

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単なる操作マニュアルではなく、「自分ごと化」と「その場で体験してもらう」という2つの原則をスライドの流れに組み込んでいる点が特徴です。

自社のサービス内容や活用シーンに合わせてカスタマイズしてください。最初から完璧なものを目指す必要はありません。1社目の説明会で得たフィードバックをもとに改善を重ねることで、再現性の高い説明会資料が完成します。
説明会資料テンプレート(ベンダー向け)
顧客企業名や活用効果をカスタマイズして使います。

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テンプレートをそのまま使うのではなく、サービスの開発背景やビジョン、導入者と事前にすり合わせた期待利用シーン、現場での具体的な活用事例、顧客固有の課題に紐づけたユースケースを加えることで、説得力が上がります。相手企業の状況に合わせてカスタマイズすることで、利用者に自分ごととして受け取ってもらいやすくなります。
案内メールテンプレート
説明会への参加率は、案内メールの設計で大きく変わります。テンプレートは以下の6種類を用意しています。
| 種類 | 配信タイミング | 配信目的 |
|---|---|---|
| 事前告知 | 1〜2週間前 | 日程確保を促す |
| 上長からの案内 | 本案内の前日 | 上長名義で推奨することで参加優先度を上げる |
| 本案内 | 1週間前 | 日時・内容・参加方法を伝える |
| 前日リマインド | 前日 | 参加を迷っている利用者の背中を押す |
| 当日リマインド | 当日朝 | 参加を忘れている利用者に気づいてもらう |
| フォロー(録画共有) | 説明会後 | 参加できなかった利用者に録画を届ける |
とくに上長からの案内は、推進者からの本案内と組み合わせることで効果が高まります。上長からの案内を先に送り、翌日に推進者から本案内を送る順番が効果的です。
案内メールテンプレート(Zip形式)をダウンロードする※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとダウンロードが始まります。
よくある質問
Q.動画だけで代替できませんか?
動画は説明会の補助ツールとしては有効ですが、最初の体験設計としては不十分です。動画は一方通行になりがちで、参加者がその場で質問したりワークを体験したりすることができません。説明会と組み合わせて実施し、説明会に参加できなかった利用者向けのフォローアップとして動画を活用することをおすすめします。
Q.少人数でも実施すべきですか?
はい。むしろ少人数の方が一人ひとりに合わせた進行がしやすく、活用につながりやすいケースもあります。5名程度であれば、進行者が参加者一人ひとりの業務に合わせた声がけをできるため、ワークの質が上がります。大人数で一度に実施するよりも、少人数で複数回実施する方が効果的な場合もあります。
Q.どのタイミングで実施すべきですか?
アカウント配布直後が最も効果的です。時間が経つほど「もう使わなくてもいいか」という空気が現場に定着し、活用ハードルが上がります。アカウント配布と同日、遅くとも1週間以内に説明会を実施するスケジュールを組んでおくことをおすすめします。
SaaSの新規事業において、活用率は導入後の最初の体験で決まります。
説明会は、利用者にモメンタムを生み出すための施策です。参加者を集める設計と、参加した人に「使えそう」と思ってもらう設計。この2つが揃ってはじめて、説明会は「やって終わり」にならず、活用率を引き上げる施策になります。誰が実施しても同じ品質で実施できる仕組みをつくることで、説明会はスケールします。
まずはテンプレートを活用し、1社でも説明会を実施するところから始めてください。完璧を目指すよりも、実施してフィードバックを得ることが重要です。参加者の反応を観察し、「どこで興味を持ったか」「どこでつまずいたか」を記録しておくと、次回以降の改善につながります。