今回は、才流コンサルタント黒須のYouTube動画「boardは最初の100社をどのように開拓したのか」を記事化してお届けします。fondesk、Bizerに続く、「最初の100社シリーズ」第3弾です。
ヴェルク株式会社が提供するboardは、個人事業主や中小の事業者向けの業務・経営管理システム。見積書・請求書作成や、営業管理・支払管理・売上見込の把握・キャッシュフロー予測などを一元管理でき、バックオフィスの業務効率化を支援するサービスです。
2020年3月現在で、有料顧客数3,200社を突破。99%以上の高い継続率を誇るboard。ローンチ後、最初の100社の集客はどのように行ってきたのでしょうか。代表取締役 田向 祐介さんに話をうかがいました。
エンジニアの経営者が作った業務・経営管理システム「board」
黒須:こんにちは。初めに、自己紹介をお願いします。
田向:ヴェルク代表の田向です。boardは経営者として自分が欲しいプロダクトを、エンジニアでもある自分がメイン開発者として作ったものなんです。
boardを作る以前は、見積書や請求書、案件の一覧などをExcelで管理していました。でも、取引先増加に伴い管理が大変になってきたんですよね。既存の請求書サービスを試してみたんですが、当時のサービスは「Excelで作ったものをただクラウド上で作れる」というだけのものが多くて。
既存のサービスでは、会社の経営判断に必要な見込みの管理や、請求の管理、入金確認などが、Excelを使っていたときよりも逆に見えにくくなってしまったんです。
とはいえ、バックオフィスのために月数万円の管理SaaSを入れるというのは、小規模な会社にとってはなかなかしんどいですよね。当時は社員が5名くらいだったので、規模的にフィットするサービスがありませんでした。
「じゃあもう、自分で作っちゃおうかな」という感じで、boardを作ることになったんです。
黒須:ヴェルクの事業としては、受託開発からスタートしているんですよね。
田向:はい。もともと受託の会社として創業しているので、受託の仕事は今でもやっています。
これまで受託でiPhoneアプリなどを作っている中で、「自分たちも事業としてやれたらいいよね」と話はしていて、いくつかサービスは立ち上げてきました。ただ、最初はあくまでも本業である受託の傍らでという感じでした。
黒須:受託がお好きなんですね。
田向:そうですね。私はアメリカの大学に通っていたのですが、当時からインターンとして受託の仕事をしていました。さまざまな業界のビジネスを知れますし、引き出しが増えるという意味ではとても勉強になるんです。
黒須:たしかに、自分では見つけられないような事業やサービスをいろいろ見られますよね。boardを作る前は、アプリのCMSのようなサービスも作っていましたよね。
田向:よくご存じですね。アプリをゼロから、どんな機能でも全部作れるようにするサービスなので、ECのアプリ化のニーズを抑えているYappliさんよりも、もっと手前にあるニーズを抑えようとしたサービスですね。
受託の仕事で、顧客から「アプリにあまりコストを掛けられないけどやってみたい」というニーズがあったので、それに応えられるサービスとして作っていました。boardはそれに続く、2個目の当社のプロダクトということになります。
「刺さるコピー」でターゲットを明確化し、SNSシェアを伸ばした
黒須:boardを作る前に、ニーズがあるかどうか調査をしたり、聞いたりはしましたか。
田向:とくにそのためにやったことはないんですが、当社と同じような規模の受託開発をやっている経営者に話を聞いたことはありました。
そうしたら、システムの会社なのにやっぱりExcelやスプレッドシートで管理をしていて、同じような課題を持っていたんですよね。そのとき「じゃあちょっと作ってみようかな」という話をした記憶はあります。
最初から事業としてやっていこうとは思っていなくて、プロトタイプを作って上手くいかなかったら社内システムにしようと思っていました。
黒須:なるほど、初めは外販する予定もなかったんですね。プロトタイプで一番やりたかったことは、どんなことだったんですか。
田向:試したいことは2つありました。1つ目は、見積書を入力すると発注書・納品書・請求書に一括で反映されるようにすることです。
当時の請求書サービスって、たとえば納品書から請求書を作る、見積書から請求書を作るみたいな感じで何度も書類を作る作業が必要だったんです。それが無駄だなと思っていたので、見積書を出した時点で全部の処理が出来ていて、必要な場合だけ変えればいいという発想にしたかったんですよね。
もう1つは、複数の請求書を一括で印刷して、自動で送付状を挟むという仕組みです。
当時は郵送で請求書を送ることが多かったので、送付状を作るのも面倒でしたし、封筒に入れても間違いがあるんじゃないかと心配で。入れたのにまた開けて確認するということをしていたんです。
ですから、10件の請求があったら10件全部選んで印刷すると、間に送付状が自動で入ればいいなと。送付状ごとに振り分けて郵送すれば、ラクなんじゃないかと思いました。
黒須:検証は社内で行ったんですか?
田向:社内というか、僕だけです(笑)。自分で作って自分で検証して、「いいと思う」と社内のもう一人の取締役に話をしました。最初は事業計画も何もなくて、せっかく作ったから外に出してみようかというくらいの気持ちだったので。
α版を社内で2~3か月運用して、その後クローズドβ版として知り合いの方10名くらいに使ってもらいました。意見をもらって反映して、そこからまた3か月後くらいにパブリックのβ版として出したという流れです。
パブリックβ版の期間は3か月あって、100アカウントくらいの方に使っていただきました。
黒須:3か月で100アカウントはすごいですね。どうやって集客したんですか。
田向:直接の知り合いは20くらいで、基本的にはTwitterかFacebookで知り合いの方がシェアをしてくれて、そこから増えたという印象です。
黒須:シェアが広がったポイントはどこだと思いますか。
田向:まず1つはランディングページのコピーですね。「バックオフィス業務のために起業したのではない」という言葉が、ベンチャーの経営者層に刺さったんじゃないかと思います。
あとは、今はもう出してないんですが、当初はキーワードとして「受託特化型」と書いていたんです。同じ受託開発の方たちが興味を持って見てくれて、シェアしていただけたんじゃないかと思います。
黒須:受託をやっている経営者の方は、絶対気になりますよね。
田向:そうですね。僕自身はそんなに拡散力がある人ではないですが、周りにいる受託の経営者の方が拡散してくれました。
有料版リリースから100社まで7か月、獲得のために行った施策とは
黒須:パブリックのβ版を3か月試して、その後有料版を正式リリースしたわけですね。100アカウントのうちどのくらいの方が残ったのでしょうか。
田向:約30アカウントですね。
黒須:結構残りましたね。無料から有料になった時点で、この方達が辞めないのはすごいですよね。
田向:そうですね。初期の頃からのお付き合いの会社さんは、名前もよく覚えています。皆さんもう使いこなしてくださっているので、あまり問い合わせをいただくこともないんですが、たまに名前を見ると懐かしいなと。
黒須:今は複数のプランがありますが、当時のプライシングはどのような形だったんでしょうか。
田向:基本当時から価格は変わっていないんです。税率が変わったタイミングで、もともと税込1,980円だったものを、税抜1,980円にしたんですが、価格改定はその1回だけです。
価格を変えるのは、自分たちにもストレスがかかりますし、ユーザーにとっても嬉しいものではない。そんなことをやるよりも、開発に専念したという感じですね。
黒須:最初の30社の後は、集客のために行ったことはありますか。
田向:いろいろと検証をしてみないと判断ができないので、基本的なことはいろいろやってみました。広告系の知り合いに相談をして広告を出したり、SEOをしたり。
ただ、バックオフィス領域のサービスはVCから調達している会社が多いので、広告のキーワード単価が高いんです。うちは資金調達をしているわけではないですし、最初にコストをかけて後から回収するというのもなかなか難しいなと。
結局広告で成果を出すためには5年かかるということで、選択肢から外しました。価格が安すぎるとプロモーションの選択肢ってすごく限られてしまうので、結果的にやれることは少なかったですね。
黒須:すごく面白いと思ったのは、それでもプライシング変更をしていないということですね。LTVが低いとやっぱりマーケティングの選択肢って限られてしまうんですよね。
田向:小さい会社だから出来ることだと思います。スモールビジネスとして成立する事業を作っていけばいいと思っていたんですよね。
当社には営業やマーケティングなど、外に対してやっていく人材がいなかったですし、採用もしていなかった。結局私くらいしか外へのアプローチができない中で、どうやって利益を出そうか、事業構造を作っていこうかという発想に至ったという感じです。
正式リリースから100社までは7か月ちょっとかかりました。他のサービスに比べればスロースタートだと思いますね。
黒須:ほかに、100社獲得までにやったことはありますか。
田向:SEOも継続的にやっています。でも、100社になった時点でもまだ「board」と検索しても上位にはこなかったので、SEO経由の流入はすごく少なかったはずですね。
あとは、広報のプロの方に支援をしてもらっていたんですが、メディアの露出もほとんどなかったです。逆の立場から考えれば当たり前ですが、小さい無名の会社のサービスなので、積極的に取り上げるメディアもなかったです。
でも、スマホアプリを出した時の経験上、そうなることは最初からわかっていました。
ですから、広報の取り組みは「メッセージングをどう出していくか」を繰り返しディスカッションしていました。1年半くらいはずっとそれを継続してきて、その中でboardのメッセージを洗練させてきたんです。
短期的な集客という意味では効果はありませんでしたが、この経験が現在のboardの土台になったと思います。
営業時の訪問に関しては、ほとんどやっていないです。最初の1年くらいは依頼があれば訪問していたんですが、それも数件程度。営業は自分自身得意じゃないというのもあり、あまりやっていなかったですね。
黒須:「boardを他の方に紹介してください」というお願いをしたこともなかったですか。
田向:私がそういうメンタルじゃないんですよね、基本は引きこもり属性なので(笑)。知り合いの人に使ってみてとか、紹介してというのはあまり気が進まなくて。クローズドβのときに、使っていただいてご意見くださいというのはお願いしたことはありましたが。
黒須:となると、自然に少しずつユーザーが増えてくるという感じですか。
田向:そうですね。1か月で売れる数というのは、とても少なかったですよ。最初が30社からスタートしているので、100社になるまでは1か月10社くらいのペースだったと思います。
当時は私自身もフルタイムで受託の仕事をしていましたし、会社の数字上は2~3年目くらいまではboardの売上は見込みに入れていなかったです。そのくらいのんびりやっていましたね。売上の座布団になればいいかな、というくらいの感覚でした。
黒須:でも今は、boardの売上が全体の7割を占めている。すごいですね。やっぱりご自身がエンジニアで作る人であることと、会社の経営者でもあるというのは面白いですよね。
田向:そうですね。ずっとコードを書いている社長というのは、あまりいないですからね。
まとめ
boardの100社獲得までの集客方法は、訪問営業はせずSNSシェアを広げることで、時間をかけて顧客数を伸ばしていくというやり方でした。
また、ターゲットを絞り、刺さるキーワードをLPに打ち出したことも、SNSシェアの大きなポイントだったようです。
田向さんが経営者でありエンジニアであるからこそ、開発に時間をかけ、ユーザーが使いやすいプロダクトになったbroad。ブレない姿勢が、顧客満足度の高さにつながっている要因であると感じました。
スモールチームでのプロダクト開発や、大きな予算をかけずに集客をしたい方は、非常に参考になる内容だった思います。
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