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質の高いターゲットアカウントリストをつくる方法|ABM 入門と実践ガイド第3回

法人営業
コンサルタント
政次 貴弘
コンサルタント
名生和史

「営業の生産性を向上したい」
「大手企業や特定企業との契約を獲得したい」

このようなビジネス課題を解決し、自社のビジネスを成長させる戦略に、ABM(Account Based Marketing[アカウント・ベースド・マーケティング])が注目されています。

そこで才流では、『ABM 入門と実践ガイド』として、全6回にわたりABMの基礎知識から実践方法までを体系的に解説します。

第3回は、ターゲットアカウントの選定です。

ABMでは、ターゲティングの質が重要です。自社の商品・サービスが課題解決や価値提供に貢献し、同時に自社の事業成長にもつながる企業をターゲティングします。投資意欲と自社へのポテンシャルの高さ(LTVが高い可能性はあるか)でセグメントし、ターゲットアカウントのリストをつくりましょう。

前半では、自社にハウスリストや既存顧客リストがあることを前提にしたターゲットアカウントリストの作成方法を解説します。後半では、ハウスリストが少ない、または事業を立ち上げたばかりでターゲティングのセグメントがわからない場合の対応方法を紹介します。

才流では、「ABMに興味を持っているが、自社に適しているかわからない」「ABMを始めたものの、成果が見られない」とお困りの企業さまを支援しています。才流のABMコンサルティングは、マーケティングから営業までを一貫して支援できる点が強みです。ABMのお悩みや不明点がある場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。⇒サービス紹介資料のダウンロードはこちら

投資意欲とポテンシャルからターゲティングする

ABMにおけるターゲットアカウントリストとは、自社の商品・サービスが課題解決や価値提供に貢献し、自社の事業成長を促進する企業(アカウント)をセグメントし、優先順位をつけたものです。

そのなかでも、最優先すべき企業を、Tier1(ティアワン)と呼びます。

ABMのターゲットアカウントのセグメントは、投資意欲と自社へのポテンシャルの高さ(LTVが高い可能性があるか)の2軸から定義することをおすすめします。

セグメント軸①投資意欲

投資意欲では、今後、新しいプロジェクトや技術、事業拡大に対して、投資する意欲や計画がある企業かどうかを見ます。投資意欲が高い企業は、新しい商品・サービスを 導入する可能性が高いとみなすのです。

投資意欲は、売上高・利益の規模や財務諸表(BS・PL・CF)、中期経営企画書や決算説明書などを参考にします。

セグメント軸②ポテンシャル

ポテンシャルとは、自社にとって高いLTVが見込めるかどうかの指標です。

一例として、次のような要素が挙げられます(企業により高LTVを実現する要素は異なります)。

投資意欲やポテンシャルを測る指標や情報は、デスクトップサーチや企業情報の購入などで手に入ります。また、自社に必要なポテンシャル指標が測れるツールがあれば、ツールの導入も検討できます。

過去のデータ分析も参考になります。既存顧客、受注・失注分析、解約顧客分析からは、どのような企業に自社の商品・サービスが支持されているか、またはどのような企業には提案を控えたほうがよいのかがわかります。

ターゲティングの質を高めるのは、顧客から得られる一次情報

ターゲティングの質を高めるためには、顧客から得た情報、つまり一次情報を多く収集することが大切です。営業に対するヒアリングや、商談への同行も、顧客のリアルな声に触れられる機会です。既存顧客に対して面談を打診しましょう。

また、インタビュープラットフォームを活用し、ユーザーインタビューやエキスパートインタビューを行えば、データに現れない顧客の業界や市場動向も調べられます。

Webから見つかる公開情報や購入できるデータは、競合他社も取得できます。営業活動やインタビューなどで得られる一次情報を活用し、ターゲティングの質を高めましょう

キーポテンシャル(隠れた共通点)を見つける

各分析の結果を踏まえて、高LTVが期待できる企業に共通する、キーポテンシャルを見つけます。

キーポテンシャルとは、一般的に潜在能力を意味しますが、ターゲットアカウントを選定するうえでは、「商品・サービスの導入において顧客間に存在する隠れた共通点のこと」と考えてください。

具体例として、ある経理向けSaaS企業A社のケースを見てみましょう。

A社が発見したキーポテンシャルは、「顧客がX社かY社の会計システムを導入していること」でした。

2社のシステムは高額であり、リプレイスによるコストメリットが大きいものでした。しかし、システムが複雑であるため、簡単にリプレイスができないという課題も存在していました。この状況に対し、A社の商品はリプレイスの手順をノウハウとして整備していたため、スムーズなリプレイスを実現できていました。

キーポテンシャルの発見により、A社はX社・Y社の会計システムを導入している企業に絞って営業・マーケティングを展開。その結果、大きな成果につながったといいます。

次の表は、キーポテンシャルの例です。意外な項目がキーポテンシャルになる可能性があります。

キーポテンシャルは、先に解説した投資意欲とポテンシャルの要素や、顧客からの一次情報、過去のデータ分析など、さまざまな情報から見つけていきます。

ポイントは、複数の視点から分析することです。事業に関わる全部署の管理職が集まり、受注と失注の差分やうまくいっている共通点は何かを話し合いながら、固有のキーポテンシャルを見つけていきます。

たとえば、カスタマーサクセスがオンボーディング時に顧客から必ず聞くエピソードがあるかもしれません。営業が何気なく顧客と交わす雑談から、同じ職場出身の中途採用者が多いという共通点が発見できるかもしれないのです。

キーポテンシャルは、簡単には見つからないものです。部署の横のつながりをつくり、各部署で示唆を出しながら、キーポテンシャルにつながる共通点を発見していきましょう

営業とマーケティングで一緒にターゲティングを行う

セグメント軸が明確になったら、いよいよターゲットアカウントリストをつくります。

ターゲットアカウントリストは、営業とマーケティングの管理職が同席し、意見をすりあわせながら進めてください。

まずは、マーケティングがターゲットアカウントリストをつくります。ハウスリストや既存顧客リストのなかから、セグメント軸に沿ってターゲットアカウントをリストアップしていきます。

ターゲットアカウントが極端に少ない場合、または新規開拓を行いたい場合は、リストを購入しましょう。ターゲティングツールのなかには、保有リスト外からターゲットアカウントをリストアップする機能を持つツールもあります。

ターゲットアカウントリストは営業の意見を反映する

仮のターゲットアカウントリストができたら、営業が最終的な判断を行います。

営業の状況においては、一旦リストから外すアカウントがあっても構いません。「実際にアプローチしてみたが、実は投資意欲が低かった」「途中で予算が凍結した」など、予測と異なることが少なくないからです。

また、リスト外だが、Tier1に近い企業で、商談が進んでいるという場合は、リストの数を増やしても問題ありません。なお、LTVの目安が3,000万円以上となるABMラージモデルの場合は、1社あたりにかける工数が大きくなるため、リストの社数を増やさずに、優先順位を入れ替えてください

才流が提案するABM3つのモデル

ターゲットアカウントリストをつくるなかで、営業とマーケティングの意見があわないという場面も出てくるでしょう。

このときは、「このセグメントにそった企業を開拓する」ことに同意したうえで、営業の意見を大切にしてください。「このターゲティングが最適だ」とマーケティング側が考えても、顧客と直接関わっている営業側には事情があるものです。

たとえば、マーケティングから「この企業はTier3なので優先度を下げてください」と言われても、営業が熱心に開拓してきた企業だとしたら、急に関わりを止めることは難しいです。

顧客の満足度低下だけでなく、営業部門にとっても急激なモチベーションダウンにつながりかねません。期限を区切って引き継ぎを行う、ゆるやかに優先度を下げるなど、現実的な解決方法を探りましょう。

ターゲットアカウントリストの作成が完了したら、各営業に担当アカウントを割り振ります。次のチェックポイントを参考に、割り振りを行ってください。

営業アサインチェックリスト

  • 1人あたりのアサイン社数は適切か
  • 組織や担当者の得意・不得意を考慮しているか
  • 初めてコンタクトをとるアカウントは新規開拓が得意なメンバーが担当しているか

営業一人あたりの適切なアサイン社数は、自社が取り組もうとしているABMモデルによっても変わります。

先に紹介したABM3つのモデルを参考に、仮でアサインを行い、状況に応じて社数を調整してください。

新規でターゲットアカウントリストを作成する場合

ここまで、自社にハウスリストや既存顧客リストがあることを前提としたターゲットアカウントリストの作成方法を解説してきました。

しかし、新規事業の立ち上げやスタートアップの場合、有効なハウスリストは少ないもの。実績が少ないために、セグメントの軸がはっきりしないというケースもあるでしょう。その状態で外部からリストを購入しても、有効なターゲットアカウントリストはつくれません。

まずは、「最初の顧客10社」を獲得することから始めましょう

最初の顧客10社が獲得できると、ターゲットアカウントのセグメント軸が見えてきます。それをもとに、リストの購入やターゲティングツールの利用を通して、ターゲットアカウントリストをつくってください。

最初の顧客10社を獲得する方法は「まず売ってみる」

最初の顧客10社を獲得する方法の1つに、「まず売ってみる」があります。

新しい商品・サービスは、売れるか売れないかがわかりません。しかし、まずは企画段階であっても、見込み顧客へ提案し、売ってみることをおすすめします。その理由は、次の3点です。

  1. 売れることが実証される
  2. 顧客のニーズに基づいて、商品・サービスを改善できる
  3. 導入事例を作成できる

それぞれの理由を解説します。

売れることが実証される

企画やMVPの段階で商品・サービスを提案し、売ることで、現実的に売れるかどうかを検証できます。商品・サービスをつくったのに売れない状況を回避することにもつながります。

MVPとは、Minimum Viable Product(ミニマム・バイアブル・プロダクト)の略で、完成された商品・サービスではなく、顧客に価値を提供できる最小限の状態の商品・サービスのことです。

顧客のニーズに基づいて、商品・サービスを改善できる

商品・サービスを売ることで、さまざまなフィードバックが得られます。MVPへのフィードバックだけでなく、見込み顧客が抱える課題も明らかになるでしょう。その結果、売り方や商品・サービス自体も改善され、より売りやすくなっていきます。

導入事例を作成できる

商品・サービスが売れると、導入事例を集められます。多くの顧客へ商品・サービスを売っていくためには、必ず導入事例が必要です。モニター価格も検討しても構いません。実際にお金を出して契約し、使ってくれた顧客の導入事例を集めましょう。

最初の顧客10社を獲得する4つの打ち手

最初の顧客10社を獲得する打ち手は、大きく分けて次の4つに整理できます。

  • コネクション(リファラル、紹介)
  • Web広告(リスティング広告、SNS広告)
  • 展示会
  • アウトバウンドの営業

次のフローチャートを参考に、適切な打ち手を検討しましょう。フローチャートの「検証予算」は、マーケティング予算として100万円程度の金額を想定しています。

なお、最初の顧客10社が獲得できなければ、まだABMを検討するフェーズではないと考えられます。商品・サービスの改善を優先しましょう。

※関連記事:新規事業で最初の10社を獲得するための打ち手大全|フローチャート付き


ABM 入門と実践ガイド第3回として、ターゲットアカウントの選定を解説しました。

第4回では、プランニングについて取り上げます。アカウントプランの作り方を解説します。

才流では、ABMの基礎知識から実践方法を1つのコンテンツとしてまとめた『ABM 入門と実践ガイドブック』を無料でダウンロード配布しています。ABMを実践し、成果を出している企業の事例を交えながら、ABMの基礎知識、実践方法、組織体制と評価指標の設計を解説しています。ぜひ、ご参考にしてください。

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