BtoBマーケティング組織の立ち上げや変革には、経営や営業とコミュニケーションを重ねる、地道なプロセスが欠かせません。変革の推進者は、どのように周囲を巻き込んで組織を動かし、変えていったのか。本連載では、そのプロセスに焦点をあて、読者が自社の組織づくりにいかせる実践的な学びを提供します。
第4回は、株式会社ミスミのRevOps(レベニューオペレーション)にフォーカスします。RevOpsとは、マーケティング・営業・カスタマーサクセスなど収益に関わる部門のデータやプロセスを統合し、横断で収益を最大化する仕組みや組織を指します。
ミスミが2019年に本格展開を開始したオンライン機械部品調達サービス「meviy(メビー)」は、累計ユーザー数24万人を突破。国内のユーザー数シェアNo.1(※1)を獲得するまでに成長しました。その成長を支えた組織と仕組みが、RevOpsの先行事例として注目を集めています。
ところが、meviyの立ち上げに携わり、事業部長として成長を率いてきた柳沢さんは「社内でRevOpsという言葉がでてきたことは一度もない」と言います。あるのは「創って作って売る」というミスミが長年培ってきた思想と、製造業ならではの考え方でした。
聞き手は、当社が主催する「BtoBマーケティング研究会」の責任者、澤井 和弘です。
才流では「同じミッションを抱えた他社の組織が何をしているのか」「先進的な企業はどのような取り組みをしているのか」「生々しい成功事例・失敗事例を聞きたい」といった企業様に、BtoBマーケティングに関する情報やつながりが得られる研究会を開催しています。BtoBマーケティングに関するお悩みや課題をお持ちの方は、ぜひご覧ください。⇒BtoBマーケティング研究会の詳細はこちら
※1:テクノ・システム・リサーチ調べ(2025年)

柳沢 将人
株式会社ミスミ ME事業グループ 管掌役員補佐
株式会社インクス、株式会社アマダマシンツールを経て2016年に株式会社ミスミに入社。新規事業「meviy」の立ち上げに参画し、サービス開発を主導。2018年より事業部長として開発・販売を統括し、2023年に企業体執行役員、2025年に企業体社長代行に就任。グローバルな事業成長を牽引したのち、2026年よりアグリテック領域の新規事業開発を担当。これまで培った「ものづくり革新」の知見と「新規ビジネス立ち上げ」の実績を軸に、次世代の事業創出に挑みつづけている。
※関連記事:「BtoBマーケティング組織の履歴書」連載ページ
「従来型の売り方では売れない」meviyが直面した課題
澤井 ミスミさんはもともとカタログ販売やECに強みのある会社です。そこにmeviyという新しいサービスが加わったとき、どんな課題がありましたか。

柳沢 従来はカタログに新しい商品が載れば、営業担当者が売りにいくというスタイルでした。「こういう商品ができました。価格はいくらです。いかがですか」という具合に、どうしても価格を中心に話が進んでいたんです。
でも、meviyはそのやり方では売れませんでした。3D CADデータをアップロードすれば見積もりから製造までできる、つまり「時間が創出される」という価値そのものを理解してもらわないと使っていただけないからです。
従来の延長では難しいという課題意識が取り組みの出発点でした。

澤井 meviy事業を伸ばすために取り組んだ組織や仕組みづくりが、RevOpsの先行事例として注目されています。
柳沢 正直に言うと、社内で「RevOps」という言葉がでてきたことは一度もありません。取り組みをお話しするなかで「それはRevOpsですね」と捉えていただき、そのテーマで登壇する機会をいただくようになった、というのが実態です。
ただ、RevOpsという言葉は使っていなくても、考え方はずっとありました。ミスミには「創って作って売る」という思想があります。個別最適ではなく、事業全体を最適化して回そうという発想です。

この思想は、meviyの本格的なマーケティング・セールス体制を立ち上げる際、そのまま当てはめました。
ちょうど「THE MODEL(※2)」が爆発的に広まった時期だったので、企業体(※3)社長としてmeviyの立ち上げを指揮していた吉田が「これをやろう」と言い出したことも影響しています。
※2:THE MODELとは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスに営業プロセスを分業し、各工程をKPIでつないで管理する考え方。福田康隆氏の著書『THE MODEL』で広く知られるようになった
※3:企業体とは事業部門を社内の1つの会社のように運営するミスミ独自の名称
meviy版のセリングモデルとデータ基盤を整備し、売れる組織体制を構築
澤井 柳沢さんご自身は、どのような立場で関わられたのですか。

柳沢 私は2016年にミスミに入り、最初のミッションはmeviyのプロダクト開発でした。2018年に事業部長に就任し、本格的に仕組みづくりを始めたのが2019年の年末です。
そこからずっと改善をつづけている状態です。当時、マーケティングは企業体社長の吉田が兼務し、私が事業開発と営業を見る形で、2人で一気に進めていきました。
澤井 もともとはどのような体制だったのでしょうか。
柳沢 2019年までは、営業担当者が顧客対応からセミナーの案内、活用促進、利用サポートまで幅広く抱えている状態でした。
そこから、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの役割を設け、それぞれどの顧客にアプローチするかを明確にしていきました。

さらに、縦軸に「大手・中堅・中小」の企業規模、横軸に「未認知・認知未購入・一般顧客・ロイヤル顧客」の顧客ステージを置き、そのマス目ごとにも担当組織を割り当てました。そうして各組織の役割を細かく明文化していったんです。
社内では「MDMS(meviy DX Model of Selling)」と名付けました。

澤井 当時、一番やりたかったことは何ですか。
柳沢 とにかく顧客を増やしたいと考えていました。数万人単位のユーザー基盤を作りたいと思ったときに、メールやプロモーションで待っているだけでは時間がかかりすぎます。かといって営業が1件ずつ訪問することもできない。どうすれば「面」で効率よく接触できるかを考えて実行することに力を注ぎました。
大手企業は1つの部署に行けば何十人ものユーザーを獲得できるので、営業担当者が訪問し、使わない理由を1つ1つクリアにしていく。一方、中小企業に対しては、インサイドセールスとマーケティングで面を取る。そういう切り分けです。
澤井 役割を分けたうえで、データの基盤はどのように整えたのでしょうか。
柳沢 Salesforceにすべての情報を入れ、プロセスを管理しました。
もともと営業担当者は、1人のお客様に会うまでに30分かけて準備をしていたんです。Excelにある顧客情報、過去の購買状況、他部署の接触履歴、クレームの有無。知らずに接触すると失礼にあたるので、社内のあちこちを見て拾っていました。
Salesforceに情報を集約すれば、そこだけを見て商談に入れます。結果、接触前の確認工数は3分の1になり、その分お客様への接触時間を倍に増やせました。
また、マーケティングオートメーションのシナリオもかなりこだわって作りこみをしています。
見込み顧客の育成、初回利用後のフォロー、リピート購入の促進、クロスセル。お客様の状態に応じて、届ける情報を切り替えていきました。
さらにmeviy上でどの機能を利用しているか、利用していないかといった細かな情報までSalesforceに入れています。これを見れば、営業は「この機能を使っていただいているようですが、こちらは使っていませんか」と会話のきっかけをつくれます。利用状況が手に取るようにわかるデータ基盤を、1つずつ整えていきました。

マネージャーも担当者も、KPIの5割は「売上」に設定
澤井 分業が進むと、各部門が自分たちの数字だけを追いかけてしまい、組織が分断されるケースがよくあります。ミスミさんでは、部門を超えた共通意識をどのように保たれていますか。
柳沢 私の解釈では、RevOpsはTHE MODELの弱点を補うために生まれた考え方です。
THE MODELは美しい仕組みですが、各部門で専門特化し、活動を効率化していくと、組織がサイロ化してお客様や売上から遠くなる。それを顧客視点、売上起点で最適化し直そうという文脈が、RevOpsだと理解しています。
組織が分断してしまう弊害を防ぐために意識しているのは「顧客解像度」「共通の指標」「活動の連携」の3つです。全員がお客様を深く理解していること、部門をまたいで同じ数字を追っていること、そして部門間の活動がつながっていること。この3つがあれば、分業しても顧客から遠くなりません。
吉田も私も、マーケティングの専門家というより事業側の人間です。だから議論はいつも売上と顧客から始まります。意識して「RevOpsをしよう」というよりは、自然とそうなったのだと思います。


澤井 共通の指標というところでいうと、「KPIの設計をどうしたらいいか」とよくご相談をいただきます。ミスミさんでは、どのように設計されていますか。
柳沢 マーケティング組織を分業し、専門性を高めた結果、担当者が自分のKPIだけを追ってしまう問題は、どの組織でも起こりうることですよね。そうならないように、意識してKPI設計をしています。
マーケティング部門では、単純なリード数やコンバージョン数だけでなく、「新規顧客からの売上」という共通のKPIも持たせるようにしています。
マネージャー陣も含め、全員のKPIのうち一律5割を「売上」としています。
澤井 私が知る範囲では、2割くらいの会社は聞いたことがありますが、5割はなかなか大きいですね。
柳沢 ブランディングの担当も、Web広告の担当も、Salesforceの顧客データベースをつくっている担当も、全員が一律で売上を背負う。過去にある業務で予算に余剰がでて、それを別の業務に回すことになったとき、抵抗感が生まれてしまったことがありました。そのため、全員が共通の目標に向かうように設計したという経緯があります。
組織や注力領域はフェーズに合わせて柔軟に組み替える
澤井 組織の形は、立ち上げ時から変わっていますか。
柳沢 大枠は変わっていませんが、インサイドセールスが担当する顧客規模の範囲は、事業フェーズに応じて広げたり狭めたりしています。認知はあるが未購入のお客様に注力した時期もあれば、対象範囲を広げた時期もあります。
初期はユーザー数が重要だったので、「認知未購入」から「一般顧客」へ、つまり初回購入にひたすらパワーをかけていました。フェーズが進むと、今度は顧客単価をいかに上げるかが課題になり、力点がロイヤル顧客側に移っていく。事業フェーズに合わせて、注力領域も変わってきました。

澤井 インサイドセールスをどの部門に置くべきかも、多くの企業が悩むテーマですね。
柳沢 私たちの場合は、フェーズによって変えてきました。インサイドセールスが独立部隊だった時期もあれば、マーケティングに属していた時期もありますし、いまは営業に属しています。初回顧客の獲得が大事なときはマーケティング側に、単価を上げるフェーズになれば営業側に。カスタマーサクセスも、いまは営業組織のなかにあります。
さらにフィールドセールスについても2026年は戦略を大きく変えて、企業規模にかかわらず成長産業などポテンシャルの高いお客様に、事業とセールスが一体となってアプローチする体制にしています。
澤井 組織図を固定せず、事業フェーズのボトルネックに合わせて役割の置きどころを変えてきた。THE MODELをそのまま当てはめるのではなく、自社の状況に合わせて運用されているのですね。
独自に作りこんだデータ基盤と、摩擦を防いだ全社ルール
澤井 RevOpsの要はデータ統合です。苦労された点と、乗り越え方を教えてください。
柳沢 実装面では外部パートナーにも入ってもらっていたので、特別な苦労はありませんでした。あえて苦労を挙げると、Salesforceが独自進化しすぎた点でしょうか。
私たちが取り組み始めたころ、Salesforceはまだ全社では使われていませんでした。先駆けて導入し、meviyに合わせてかなり作りこんだんです。その後「全社で使おう」という話になったときには、私たちの仕組みは相当独自の形になっていました。
meviyは新規事業ですし、ミスミ本体とはドメインも違う。今年、meviyのマーケティングが全社マーケティングに統合されたことで、「システムをどうそろえるか」がいま、まさにテーマになっています。
澤井 全社側に合わせてほしいという要望と、こちらはこの項目も取りたいという事情がぶつかる。ただ、過去に戻ったとして避けられたかというと、難しいところですよね。

柳沢 そう思います。meviyだけでなく、meviyマーケットプレイスなどサービスが広がるたびに項目は増えていきましたし、全社で考えれば商品数も桁違いです。いまのmeviyの仕組みにプラスアルファでは対応できないので、全社として最適な設計を根本から考え直す必要があります。
澤井 自分のお客様にマーケティングやインサイドセールスから接触しないでほしいという、いわゆる「俺・私の客問題」はどうでしたか。営業が顧客情報の登録自体を拒むケースもあると聞きますよね。
柳沢 日本に関しては、そこは回避できました。ミスミにはお客様への接触履歴を確認できる仕組みがあり、お客様と接触したらその情報をシステムに登録する全社ルールがあります。「誰かが接触したら2週間空ける」というルールを全社で合意し、それを守ることで摩擦はほとんど起きませんでした。
澤井 CDP(顧客データ基盤)を入れようという話にはならなかったのですか。
柳沢 出たことがないですね。Salesforceのデータと、サイトのGoogleアナリティクスのデータ。それにBIツールを組み合わせて回してきました。
澤井 BIツールはどのように使っていますか。
柳沢 かなり使っていますよ。特徴的なのは、特定の人がつくったダッシュボードを公開するのではなく、数百人の社員がそれぞれカードをつくって分析していることです。
もちろん「どのデータが正しいんだ」「どこに何があるかわからない」という課題は出ます。でも、その精緻さよりも各自が自分でPDCAが回せることのほうが尊いと考えているんです。オフィシャルな数字をどこから取るかだけは決めていて、それ以外は自由です。
澤井 BIツールをなかなか使いこなせないという議論もありますが、ミスミさんにとっては、あってよかったものですか。
柳沢 そうですね。ただ、必ずしもBIである必要はないと思います。全員がExcelを使いこなせるならそれでもいいし、Pythonで分析できるならそれでもいい。私たちにとってたまたまBIが、最小の労力でデータ分析を回せる手段だっただけです。
上の人間が「こういう数字が欲しい」と言うと、みんなが慌てて作り出すということが日々起こりますよね。それをなくせたのは時短はもちろん、組織が自律的に動けるようになるという意味でも大きかったと思います。
製造業ならではの生産方式と思考が、プロセス改善につながっている
澤井 製造業で培われた考え方が、THE MODELの運用にいきた場面はありますか。
柳沢 ミスミ独自の生産方式である「ミスミ・プロダクション・システム(MPS)」における製造工程改善のアプローチとして、最初に全体のプロセス設計をして、それがうまく流れるように流路や流し方を整える。そしてプロセス全体を数値化し、ボトルネックを改善する。最後に、部分最適を行います。
この発想は、THE MODELと共通するところがあると、社内のプレゼン大会で営業責任者が発表したことがあります。
印象的だったのは「流路をそろえる」という言葉です。
工場では、それぞれの工程に適した材料を集約し、段取り替えをできるだけ少なくすることで、生産性を高めています。それと同じで、お客様も大手・中堅・中小と整理して流路をそろえる。そうすると、その後にどんな営業をすべきかが決まってくるんです。
澤井 ミスミさんは「ボトルネックの改善」を高いレベルでやっていらっしゃるとお聞きしていますが、具体的にはどのように取り組んでいるのでしょう。
柳沢 初期は顧客ステータスを「購入回数」で細かく分けていました。
1~4回のユーザー、5~9回のユーザー、10回以上のユーザー。こう分けると、お客様がどの段階で止まっているかが見えやすくなります。
3回までは購入するのに、4回目の購入につながらないのはなぜなのか。業界なのか、規模なのか、個社の事情なのか、その理由を探しにいくんです。
インサイドセールスの役割も、初回受注の獲得と初回から4回目までの伴走と定義していました。
さらに、ステージ間の「遷移のリードタイム」に注目しています。一番長いところを縮めるために接触を増やしたり、やり方を変えたり。MPSは根本的にリードタイムに着目する考え方で、縮めればコストも下がります。だから素直に「遷移のリードタイムを見よう」となりました。
澤井 誰もが売上を伸ばしたいと思いますが、「ロイヤル顧客になるまでのリードタイムを短くしよう」と最初から考えている組織は多くありません。製造業の根本の考え方が、社員全員に埋めこまれているからこそですね。
柳沢 そうかもしれません。ミスミでは、ボトルネックの見つけ方を学ぶ「改善リテラシー講座」を多くの社員が受講しています。大野耐一さんが書かれた『トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして』(ダイヤモンド社)は、製造業を知らずに入社した人も含め多くのメンバーが何度も読みこむ一冊です。それをマーケティングに適用すると、営業に適用すると、事業開発ならどうか。全社的に、そういう発想で考えるところがありますね。
うまくいっていない現場に、責任者が自分で入っていく
澤井 「全体最適を頑張ろう」と言うのは簡単ですが、実現は難しい。共通KPI以外に、何がポイントだったのでしょうか。
柳沢 私が思う「創って作って売る」の本質は、早く回すこと。組織が大きくなるほど、みんな自分の部門で閉じて解決しようとします。営業担当者がお客様に「ここが使いづらい」と言われても「こう使ってください」とその場で返して終わらせてしまう。それでは進化しませんよね。
営業がお客様の声を持ち帰り、開発に改善を求める。そのサイクルを素早く回せることが、事業の強さだと考えています。
そういう意味で2020年、2021年は私が事業開発と営業に加えて、ソフトウェア開発も見ていました。かなり大胆な人事ですが、300人くらいの組織を1人で見ることで「これはすぐ開発に入れて」「営業はこれを売ってきて」と意思決定しながら、サイクルを高速で回すことができました。
もちろんずっとその体制では無理があるので、その後は部門長がそれぞれ回してくれています。私の役目が変わった後も、定期的に対話する機会を大事にしています。マネージャー陣が週1回集まって進捗を議論するほか、営業と事業の連携は切り出して週1回30分。meviy事業のバリューに「ABCDE」があるのですが、なかでもBad News Firstはこうした会議でも機能していると思います。
meviy事業のバリュー(ABCDE)
・ATM:明るく楽しく前向きに
・Bad News First:悪いニュースほど先に伝える
・Challenge:挑戦
・Delight:顧客の喜び、期待を超える
・Exploration:知の探索
澤井 立ち上げ当初は、吉田さんと柳沢さんが、かなり現場に入っていたそうですね。
柳沢 そうですね。サービスローンチ後も定例の場を持ち、吉田も私も入って「このKPIがどうだ」と議論していましたね。いまから見れば無駄なこともたくさんしていましたが、私たち自身が学びながら進めたことが大きかったと思います。
新しく入ってきたメンバーには「解像度」が大事だと伝えるようにしているんです。最も重要なのは顧客理解ですが、各現場をどれだけ具体的に把握できているかも同じくらい大切ですね。
たとえばTHE MODELは基本的にSaaSのモデルですが、私たちのビジネスはSaaSっぽくてSaaSではありません。
一般的なSaaSであれば、フィールドセールスが契約を取り、クロスセルはカスタマーサクセスときれいに役割分担ができます。しかし、私たちの最初の取引は3,000円の板金で、買い切りだったりするので、そこでフィールドセールスの成果を問われても困るわけです。顧客が継続して購入してくれると確定しているわけではないですし、単価もさまざまなので、現場に入らないと解像度は高まらないんですよ。
澤井 時間がなくて現場に入れない責任者の方も多いと思います。どんな工夫をされていましたか。
柳沢 自分がやらなくていいことは、仕組みに任せる。レポーティングや分析はBIでかなり楽をさせてもらいましたし、Salesforceを作りこんだのも、余計なことをやめるためです。
そのうえで、結局は優先順位の問題ですよね。私たちはメーカーでもあるので、意識していたのは、全体をプロセスとして見たときのボトルネックはどこか。言い方を変えれば、炎上している現場に入る。うまくいっていないところに、いかに入っていくかだろうと思います。
澤井 多くの会社では「任せたぞ」と言って中間管理職の報告を受け、責任者は二次情報で判断しがちです。でもミスミさんでは、売上に責任を持つ人自身が一次情報を取りにいった。この仕組みが、素早く改善サイクルを回すために機能したんでしょうね。
柳沢 本来は社長や私ではなく、RevOpsの責任者を立てて任せるところなのかもしれません。ただその場合も、責任者が社長からきちんと権限と責任を与えられていることが大事だと思います。
顧客・売上に向く組織のカルチャーがなければ、優れた仕組みでも機能しない
澤井 meviyの立ち上げ時は、全社横断のマーケティング組織からの支援はなかったのですか。
柳沢 ありませんでした。各企業体が「創って作って売る」を完結させることが基本です。ただ、ミスミでも全社横断の機能別組織を検討した時期もありますし、インフラは現在も機能別で運営しています。
そのうえで2026年、meviyのマーケティングが全社マーケティングに統合されました。背景としてはミスミというブランド全体を育てる必要がでてきたこと。そして組織の拡大に伴い、同じお客様に別のプロダクトの営業が何重にも接触する状況を避ける必要があったことです。お客様の視点でどういう体制がいいかを、マーケティングやセールスも含めて考え直すフェーズにきたということだと思います。
澤井 連載第2回のパーソルホールディングスさんも、グループ各社がそれぞれ同じお客様に営業をかけている状況への問題意識が、横断組織の出発点でした。似た構図ですよね。meviyで築いたノウハウを全社に展開してほしい、というオーダーはあったのですか。
柳沢 マーケティングに関しては、meviyのマーケティングチームがそのまま全社マーケティングになり、そのやり方で全社をカバーしていこうと。営業については、meviyほどの規模で営業体制をつくる商材がほかにあまりないのが現実です。ただ、meviyのセールスがお客様と話すなかで、meviy以外のミスミ製品にニーズがありそうなら、その事業と連携して提案につなげていく。そうした流れは、でてきています。
澤井 もし2019年の立ち上げ時に戻れるとしたら、変えておきたいことはありますか。
柳沢 強いて挙げるなら、最初から海外展開を視野に入れておけばよかった。そして海外展開を決めた時点で、Salesforceの運用も一緒に設計しておけばよかったということですね。
アメリカや中国、韓国などにあとから展開した際、現地のSalesforceや運用ルールをどう統合するかで膨大な手戻りと無駄な時間が発生してしまったんです。
Webサイトも、多言語化やデザインの統一を前提に、グローバルで共通のわかりやすいトップページを検討しておけばよかった思います。

澤井 分業しても顧客から遠ざからないように、全員が同じ数字を背負い、責任者自身が一次情報を取りにいく。RevOpsという言葉を使わずに、その本質を実践してきたミスミさんの組織づくりは、多くの読者にとってヒントになるはずです。
※関連記事:「BtoBマーケティング組織の履歴書」連載ページ
撮影:植田 翔、執筆:猪俣 奈央子、編集:安住 久美子