才流では、日々さまざまな企業と営業やマーケティングに関する情報交換を行いますが、次のような声をいただくことがあります。
- 提供サービスの品質にばらつきが生じてしまう
- メンバーの成長スピードが上がらない
- 業務の引継ぎがうまくいかない
詳しく伺ってみると、こうした課題を抱える会社の多くが、業務遂行をメンバーの属人的なスキルに依存し、個人が持つ業務の情報や知識を体系化する仕組みがないことがわかりました。
課題を解決するためには、個人が持つ業務の情報や知識を、メンバー全員が使える汎用的なメソッドとして型化する必要があります。
才流では、これを「業務プロセスの体系化」と呼んでいます。
業務プロセスの体系化に取り組むことで、再現性の高い業務遂行が可能になります。プロジェクトの成功確率は上がり、経験値の浅いメンバーでも最短ルートで成果を出せるようになるのです。
例えば、才流が提供する「マーケティング戦略・施策の立案」サービスでは、クライアントへの提供プロセスをすべて体系化しています。そしてプロジェクトを重ねる度に、全コンサルタントがプロセスを磨く仕組みを作っています。
参考:才流の「マーケティング戦略・施策の立案」サービス紹介ページ
また「業務プロセスの体系化」を始めるタイミングは、早ければ早いほど良いと考えています。事業や組織の成長に伴い、蓄積される情報や知識は指数関数的に増えていくからです。
本記事では才流の社員用マニュアルとして活用している「業務プロセスの体系化 9つのチェックリスト」を紹介します。
業務プロセスの体系化に取り組みたい、体系化の方法を知りたい、と考えている方の参考になれば幸いです。
体系化の手順は3×3の9ステップ
体系化の手順は課題設定、内容作成、実行改善の3つに分けられます。また、各々3つのステップがあり、合計9つのステップがあります。
それでは、各ステップの内容を解説していきます。
課題設定
①対象の特定:誰の業務プロセスを体系化するか、対象を定めているか?
- 対象についての理解度が高いほうが、業務マニュアルなどのコンテンツを作成する際に、より伝わる言葉を選びやすい
- 例えば本チェックリストは、才流社内では「メソッド開発のメソッド」と呼んでいるが、社外向けには「業務プロセスの体系化」という言葉で伝えている。どちらの表現が対象となるグループに伝わりやすいかを見極める
②ゴールの明確化:業務遂行者にどうなってほしいか、ゴールを明らかにしているか?
- 対象グループの業務遂行者にどうなってほしいのか。具体的なゴールを、可能な限り行動レベルにまで落とし込んで明確化する
③仮説の設定:どの範囲のスキルを体系化すべきか、仮説を立てているか?
- 業務遂行者のスキルを考えたとき、どの範囲のスキルを体系化すべきか仮説を立てておくと、次のステップ(内容作成)に進みやすい
参考:リンクアンドモチベーション社が提唱する人材要件フレーム
内容作成
④事例の理解:OK(目指したい)・NOT(目指したくない)事例を知っているか?
- 業務遂行者が達成したいゴールは、世界の誰かが既に達成している可能性が高い
- 候補となる事例をリストアップした後で、個別の事例理解を行う
- OK事例と併せてNOT事例を知ることで、体系化したい業務プロセスに対する理解が深まる
- 事例理解には、4分類に基づく手法がある。手法によって特徴が異なるため、目的に応じて使い分けると効果的
参考:見込み顧客インタビューの効果を高める26のチェックリスト~ビザスク活用編~
⑤要素の分解:業務遂行に必要な要素を適切に分解しているか?
- ステップ③「仮説の設定」であたりをつけた体系化の範囲について、事例をもとに業務に必要な要素を分解する
- 分解の切り口には「因数」や「プロセス」など、様々なパターンが存在する。適切な分解の切り口を見つけるためには、一定量の事例理解が必要になるケースが多い
○ 例)因数で分解する方法
「マーケティング調査= 顧客の調査 × 競合の調査 × 自社の調査」のように、マーケティング調査に必要な要素を因数で捉える
○ 例)プロセスで分解する方法
「売れるロジック=問題提起+原因の深掘り+解決策の方向と結果+解決策としての商品紹介+信頼+安心+行動の後押し」のように、売れるロジックを考えるために必要な要素をプロセスで捉える
- 分解された業務の要素は、業務遂行者が理解できるように表現を調整する。具体性を高めるほど実行されやすくなる
⑥ポイントの発見:分解した要素のなかで、特に重要な要素を見つけたか?
- ステップ⑤で分解された業務プロセスの要素を、すべて体系化したり習得したりするのは難しい。ゴールを達成するために分解された要素のうち何を体系化すべきか、何を習得すべきか。最も注力すべき要素を見つける例)
才流のBtoBマーケティング担当の業務プロセスにおいて、重要な要素は?
ビジネスゴールを「売上げを上げる」ことに置いているので、売上げの因数分解をすると商談数が最も影響を与える要素である
→よって「商談を生み出す力」が最も注力すべき要素だと判断
- 重要な要素がわからない、優先順位がつけにくい場合、発想法のフレームワークなどを活用してみる。
例えば、オズボーンのチェックリストを見ると「拡大できないか?」という項目がある。上記の例でいうと、売上を因数分解し「どの要素が最も拡大できる可能性が高いか」という視点で考えてみる。
受注率は30%未満に落ち着く、単価は2倍、3倍にはならないが、商談数は数十倍にできる可能性がある、という示唆を得られやすくなる- 例)オズボーンのチェックリスト
- (他の方法で)転用できないか?
- (似たような業務から)応用できないか?
- (違う形に)変更できないか?
- (物理的な大きさや時間などを)拡大できないか?
- (物理的な大きさや時間などを)縮小できないか?
- (他の素材やアプローチで)代用できないか?
- (他の言葉や場所に)置換できないか?
- (順番や上下を)逆転できないか?
- (目的を)結合できないか?
- 例)オズボーンのチェックリスト
実行改善
⑦基準の明確化:内容は十分に体系化された、と判断できる基準があるか?
- 業務プロセスの体系化をした、と作成者が考えているだけでは体系化されたとは言えない。ステップ②「ゴールの明確化」で定めたことを、業務遂行者の全員が実現しなければ体系化の意味がない
- 十分に体系化されたと判断できる基準は、人によって異なる場合が多い。基準を作る際は、業務のゴール(何を実現したいか)に加え、一人ひとりに合わせて業務の期限(いつまでに実現すべきか)、業務の対象(具体的には何に取り組むべきか)などを明確にする必要がある
- 例えば、才流では「キックオフミーティング」にて、クライアントとのプロジェクトにおける要件整理を行う。体系化された業務プロセス(才流のメソッド)に基づいてサービスを提供した結果、当該のプロジェクトにおいては何を達成すれば良いかの基準を設定する
⑧実行の仕組み化:個人のモチベーションに頼らない仕組みになっているか?
- どれだけ質の高い内容を作成しても、実行されなければ評価ができず、改善もされない
- 一方で、個人のモチベーションに頼ると実行されないことが多い。一人ではなく他人やコミュニティの力を借りると実行されやすい
- 一般的に有効な手段は、誰かと一緒にやる、進捗を見える化し確認し合う時間を設ける、進捗に対して即時のフィードバックをもらう など
- 例えば、才流では「業務プロセスを改善するためのSlackチャンネル」を設けていて、次のような仕組みになっている
- Slackチャンネルには全コンサルタントが参加
- コンサルタントは体系化された業務プロセス(才流のメソッド)を活用しながら、クライアントとのプロジェクトを進める
- プロジェクト遂行中に、プロセス上で改善できるポイントを見つけた際にはSlackチャンネルに投稿
- 専任の担当者が改善ポイントを集約し、業務プロセスを適時修正
⑨内容の評価:対象のゴールは達成できたか、評価をしているか?
- 「十分に体系化された」と判断するには、実施後に事前に定めたゴールに基づいて評価する必要がある
- 例えば、才流がプロジェクト実施後に「振り返り」を行う理由の1つは、自社が開発したメソッドの実効性を評価し、再現性をより高めてクライアントに貢献できるようになるため
さいごに
実際に活用いただく際は、チェックリストの各項目を往復しながら考えることをおすすめします。①~⑨までの項目は相互補完の関係にあるため、独立して1つずつ考えることは難しい場合があります。例えば、全くの事例理解なしに課題設定をすることは難しいでしょう。
また、本チェックリストは、これから業務プロセスの体系化を目指す方には基本の手順を確認するものとして、既に体系化に取り組まれている方には抜け漏れを見直すものとして活用いただければ幸いです。
本記事を執筆した背景には、才流の「体系化の方法を体系化する」ことへの挑戦があります。社内では「メソッド開発のメソッドを開発する」という言い方をしています。
メソッドカンパニーとして、どんな顧客課題も再現性の高いメソッドに基づいて解決したい。
この想いを実現するために、本記事では「業務プロセスの体系化」というテーマを2つのアプローチで捉えました。
1つ目のアプローチは、これまで偉大なメソッドを開発した人たちはどのようにメソッドを開発したのか、という帰納的な視点です。公文式のような個人向けの事例から、トヨタ生産方式のような組織向けの事例まで、メソッド開発に至る思考の共通項を探りました。
2つ目のアプローチは、「人はどうすればメソッドを効果的に学習できるのか」という演繹的な視点です。メソッドという学習コンテンツを開発するために、1つ上のレイヤーに位置する”あるべき学習体験”から逆算して開発することにしました。これは「ワンランクアップの法則」に沿った考え方です。
海外では学習体験デザイン(Learning Experience Design)と呼ばれる領域の研究が進んでおり、それらを参考に学術的な視点も踏まえました。
参考:NovoEd Foundations of Learning Experience Design
業務プロセスの体系化を目指す方々に、活用いただければ幸いです。
才流では、特定の手法やツールにとらわれず再現性の高いメソッドに基づき、戦略の立案から実行まで関わりたい方を募集しています。
詳細は募集要項をご覧ください。