新規事業アイデアを客観的に評価・絞り込むには、評価軸とプロセスの明確化が不可欠です。そこで本記事では、「新規事業アイデアの評価軸と評価方法」を解説します。
具体的には、以下を紹介しています。
- 評価に使える6つの軸(市場性・収益性・競争優位性・実現可能性・親和性・意思)
- ウェイト付けを含む評価プロセスの4ステップ
- ダウンロード可能なExcelテンプレート(ウェイトあり/なし)
テンプレートを使うことで限られたリソースを効率的に活用し、成功確率の高いアイデアを見極めましょう。
新規事業アイデア評価・絞り込みテンプレート(Excel形式)※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとダウンロードされます。

新規事業のアイデアを選定するまでにやるべきこと
本記事の解説にあたり、前提として新規事業アイデア選定の全体像を整理します。フェーズは4つに分けられます。
- 評価・絞り込み
- 複数の事業アイデアを6つの評価軸で採点
- 優先度の高いアイデアを2〜3個に絞り込む
- 事業アイデアのサマリー
- 選定されたアイデアの詳細をまとめる
- ターゲットや課題、サービスの提供価値、競合との差別化要素を整理
- 事業アイデアの検証
- 絞り込まれたアイデアに対して見込み顧客インタビューを実施(各3〜5件)
- 課題の深刻さ、提供価値、価格などを検証
- 事業アイデアアップデート
- 検証結果を基に事業アイデアを改善・調整
- 次の詳細検証やプロトタイプ開発につなげる

本記事で解説するのは、「評価・絞り込み」についてです。自社が参入を検討する事業分野(例:HR tech、Fintechなど)で複数のアイデアがあっても、すべてのアイデアを検証できるわけではありません。そこで客観的な指標にもとづいて評価・絞り込みを行うことが重要になります。
評価・絞り込みが必要な3つの理由
理解を深めるために、評価・絞り込みが必要な理由をもう少し詳しく解説していきます。
1. リソースを有効活用する
複数の新規事業アイデアすべてを対象に顧客インタビューを実施することは、人的・金銭的リソースの観点から現実的ではありません。優先的に検証するアイデアを絞り込むことで、限られたリソースを最大限活用できます。
2. 経営層や関係者へ客観的に説明する
「感情」「勘」「好み」による判断では、社内の関係者、とくに経営層に対して説得力のある説明ができません。客観的な評価軸を用いることで、「なぜそのアイデアを選んだのか」を明確な軸で説明できるようになります。
3. 市場理解を深める
評価プロセスでは競合分析や市場規模調査を実施するため、担当者はアイデアの実現可能性に向き合う必要があります。このプロセスを経ることで、事業化に向けた具体的な課題も明確になり、市場への理解も深まります。
重要なのは、ここでの評価で低い点数がついたアイデアに価値がないわけではないということです。あくまで、この時点での検証優先度を決めるためのものであり、状況が変われば再評価することも可能です。
※関連記事:新規事業アイデアを創出&事業化するためのフレームワーク【テンプレート付き】
アイデアを評価する6つの評価軸
評価・絞り込みのための評価の軸について、解説していきます。才流では、アイデア評価において以下の6つの評価軸を推奨しています。各評価軸には複数の評価項目があり、テンプレートにも加味されています。
また、会社としてウェイトを置きたい項目に加点することで、自社が目指す方向性と合っているかを確認し、現実味のある評価が可能です。
新規事業アイデア評価・絞り込みテンプレート(Excel形式)※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとダウンロードされます。
【6つの評価軸】
- 市場性:市場の魅力度を測る
- 収益性:持続可能なビジネスとして成立するか
- 競争優位性:競合に対して優位なポジションを築けるか
- 実現可能性:アイデアを実際に事業化できるか
- 親和性:自社の強みを活かせるか
- 意思(志):困難に直面してもやり抜けるか
1. 市場性
市場規模の大きさや成長性、顧客の切実な課題(バーニングニーズ)の有無、類似ビジネスモデルの成功事例などを評価します。
具体的には、TAM(Total Addressable Market)の規模、年間成長率、顧客の部門長レベルでの課題認識、構造的で継続性のある課題かどうか、類似ビジネスモデルでの成功事例の有無を確認します。
2. 収益性
持続可能なビジネスとして成立するかを判断します。ターゲット顧客の予算規模と意思決定プロセス、事業継続に必要な利益を確保できる単価水準、価格競争に巻き込まれにくい価値提供、複数の収益源による事業拡大の可能性などが指標になります。
3. 競争優位性
競合他社に対して優位なポジションを築けるかを評価します。既存競合のアセット(プロダクト力、マーケティング力、顧客基盤)を上回る要素、他社と差別化できるバリュープロポジション、参入障壁の構築可能性、ターゲット顧客へのアクセス方法の確保について確認します。
4. 実現可能性
技術的に実装が可能なのか、必要なリソースは確保できるか、初期顧客候補の具体性はあるか、現実的な収支計画は策定できるかなど、実現の可能性を評価します。
5. 親和性
自社の既存の技術・ノウハウ・顧客基盤を活用できそうか、中期経営計画との整合性はあるか、既存事業とのシナジーはあるかなどを評価します。
6. 意思(志)
担当者やチームが困難に直面してもやり抜く意思があるかを評価します。
事業アイデアの評価・絞り込みステップ
ここからは、アイデアの評価・絞り込みの進め方をステップで解説していきます。
評価軸とウェイトを決める
必要な情報を集める
アイデアを客観的に評価するために必要な情報を収集します。調査期間は2週間程度を目安とし、以下の項目について具体的なデータを集めます。
必須調査項目
- 市場規模・成長率データ(業界レポート、政府統計など)
- 競合企業分析(売上規模、市場シェア、強み・弱み)
- 顧客情報(予算規模、意思決定者、購買プロセス)
- 類似ビジネスの成功・失敗事例
- 技術的実現可能性(必要な技術、開発期間、コスト)
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複数人による評価を実施
客観的な評価を実現するため、3〜5名の評価委員会を設置します。構成メンバーは起案者、事業開発経験者、対象市場にくわしい人材、必要に応じて外部専門家を含めます。
- 各評価者が独立して採点(1~5点)
- 評価結果を共有し、大きな差異がある項目について議論
- 必要に応じて再評価し、最終スコアを決定
評価会議は、半日〜1日程度で完了させることを目安としましょう。
アイデアを客観的に評価するために必要な情報を収集します。調査期間は2週間程度を目安とし、以下の項目について具体的なデータを集めます。
評価結果をもとに検証アイデアを決定
評価結果を集計し、総合評価の高いアイデアから優先して詳細検証(顧客インタビューなど)に着手します。ここで選ばれなかったアイデアも、状況が変われば再評価の対象となる可能性があることを忘れないでください。
選定したアイデアは、顧客インタビューなどの詳細検証を行い、事業化の可能性をさらに深く探っていきます。
評価・絞り込みで陥りやすい3つの落とし穴
多くの企業が新規事業アイデアの評価で失敗する原因には、共通のパターンがあります。とくに気を付けておきたい3つの落とし穴をまとめました。
1. 「我が子バイアス」による甘い評価
自分で考えたアイデアは客観視が困難になりがちです。起案者だけで評価すると、無意識に甘い評価をしてしまい、リソースの無駄遣いや事業の失敗につながるリスクがあります。
- 対策
- 評価委員会を設置し、起案者、メンバー、事務局、必要に応じて外部コンサルタントなど、複数人で評価を実施することが重要です。
2. すべての評価項目を同じウェイトで見てしまう
市場性、収益性、実現可能性など、評価項目の重要度は企業の状況によって異なります。例えば、スタートアップであれば市場性を最重視すべきですが、大企業の新規事業部門であれば既存事業とのシナジーも重要な要素となります。
- 対策
- 自社の新規事業の目的に応じて、評価項目にウェイトを設定します。
3. 評価のための情報収集が不十分
「たぶん市場は大きいはず」「競合はそれほど強くないと思う」といった憶測ベースの評価では、正確な判断ができません。特にBtoB事業では、市場規模や競合情報が公開されていないケースも多く、情報収集を怠りがちです。
- 対策
- 評価前に必ず市場調査を実施し、可能な限り具体的なデータに基づいて判断します。
よくある質問(FAQ)
Q.自社の新規事業の評価軸はどうやって選べばいいですか?
最終的には会社が新規事業に何を求めているかによります。短期的な収益貢献が目的なら「収益性」を、将来の成長エンジン創出が目的なら「市場性」を重視するなど、目的に応じて評価軸の優先順位を変えていくことをおすすめします。
※関連記事:新規事業の目的整理のメソッド/進め方【テンプレート付き】
Q.評価が割れた場合はどう判断すべきですか?
評価が大きく割れた場合は、その理由を議論することが重要です。情報の解釈の違いなのか、前提となる情報が異なるのかを明確にし、必要に応じて追加調査を行ったうえで再評価することをおすすめします。
Q.1度評価したアイデアを再評価することはありますか?
評価が低かったアイデアでも、再評価により有望になるケースがあります。市場環境の変化、技術の進歩、自社のケイパビリティの向上などをふまえ、半年〜1年に1度は見直しを行いましょう。
Q.情報収集が困難な場合はどうすればよいですか?
BtoB市場では公開情報が限られることがあります。業界団体のレポート、同業他社のIR情報、展示会やセミナーでの情報収集、既存顧客へのヒアリングなどを活用しましょう。完璧なデータが揃わなくても、入手可能な情報から仮説を立て、論理的に評価を進めることが重要です。
まとめ
新規事業アイデアの評価・絞り込みは、限られたリソースを効率的に活用し、成功確率の高いアイデアに集中するために欠かせないプロセスです。
本記事のポイント
- 6つの評価軸(市場性、収益性、競争優位性、実現可能性、親和性、意思)による多角的評価
- 自社の目的に応じたウェイト設定
- 複数人による評価委員会での客観的判断
- 4ステップの体系的な評価プロセス
これらの手法を活用することで、「感覚」や「勘」に頼らない論理的な意思決定が可能になります。
また、評価は一度で終わりではありません。市場環境の変化や新たな情報収集により、定期的に見直しを行うことが重要です。
テンプレートを活用し、ぜひ取り組んでみてください。