BtoBの購買活動における情報収集には、職種別に一定のパターンがあるのではないか?― 才流(サイル)では、この仮説をもとに職種別に情報収集の実態調査を行いました。
本記事では、「中小企業経営者」に焦点をあてた調査結果をお届けします。経営層に向けた製品・サービスのマーケティング施策を検討するための一助となれば幸いです。
調査サマリ
中小企業経営者の情報収集行動を、認知、興味・関心、比較・検討の3つの観点で整理しました。
認知
認知の情報源は、テレビ・新聞といったマスメディア、ニュースサイトやYouTubeなど多様で、知人からの紹介が多いのも特徴です。
興味・関心
製品・サービスに興味を持つきっかけは「同業他社の導入事例」が最多です。とくに立場の近い企業や経営者の事例、同じ課題を抱える企業の事例に強い関心を示しています。次いで「事業者からの営業」も効果的で、信頼できる他者からの情報提供やコミュニケーションを重視する傾向があります。
比較・検討
製品・サービスを選定する際に最も重視するのは、「自社の課題を解決できるか」「価格は妥当か」「提案内容が自社にマッチしているか」の3点です。合理的に判断する傾向が見られます。
自社とのマッチ度を確認する方法としては、「営業担当者から説明を受ける」ことが圧倒的に多くなっています。次いで、「サービス資料を確認する」「知人に相談する」といった方法が中心です。検討の過程では、とくに営業担当者との対話が大きな影響力を持つことがわかりました。
調査概要
項目 | 内容 |
調査目的 | 中小企業経営者の購買活動における情報収集の実態を明らかにし、 マーケティング活動の最適化のヒントを得る |
調査対象 | 年間売上高1億円以上50億円未満の経営層(代表取締役・取締役・部長) |
調査対象の従業員規模 | 100名未満 |
有効回答数 | 393件 |
調査期間 | 2025年4月9日~4月10日 |
調査方法 | Webアンケート調査 ※データは小数点第2位を四捨五入しているため、 合計しても100%にならない場合があります |
調査企画・実施 | 株式会社 才流 |
調査結果
1. 中小企業経営者が抱える経営課題
会社経営における課題を聞いたところ、人材の育成(47.1%)、売上・利益の安定(46.8%)、人材採用(45.0%)が上位となりました。

とくに従業員数が20名を超える企業では、人材に関する課題がより顕著になり、「売上・利益の安定」を上回って最優先の課題となる傾向が見られました(下図)。
【クロス集計】従業員規模×課題

従業員が増えれば増えるほど、人材の確保と育成の重要性が高まることが伺えます。この結果は、マーケティング施策においては、人材課題の解決に関連するコンテンツや訴求が効果的である可能性を示唆しています。
2. よく閲覧するメディアと情報源
情報収集においては、テレビ、ニュースサイト、新聞など、マスメディアとデジタルメディアが広く活用されています。

自由回答でよく閲覧するメディアを聞いたところ、とくに日本経済新聞(電子版含む)を挙げる人が多く、回答者の約4人に1人が閲読していることがわかりました。
テレビでは「WBS(ワールドビジネスサテライト)」「NHK」、ニュースサイトでは「Yahoo!JAPAN」や「プレジデント」などのメディアに回答が集中する傾向が見られました。
3. 製品・サービスの認知経路
製品やサービスを認知するきっかけとなる情報収集源を聞いたところ、ニュースサイト(30.3%)、次いで知人からの紹介(27.2%)、業界団体の情報・Web検索(24.4%)と続きます。
とくに注目すべきは「知人」や「業界団体」といった信頼できる第三者からの情報を重視する姿勢が強く現れている点です。このような傾向は、従業員が選定主体となる商品・サービスと比べても顕著であり、中小企業経営者特有の情報行動として把握しておくべきポイントです。

4. 興味・関心を持つきっかけ
製品やサービスに興味を持つきっかけとして、最も多かったのが同業他社での導入事例(30.0%)でした。 業種、従業員規模、エリア、経営課題などのセグメント別で導入事例を整備し、初期接点から活用することが重要だと考えられます。
続いて、事業者からの営業(24.7%)、友人・知人から紹介を受けた(21.9%)となりました。認知経路と同様に、信頼できる第三者からの情報を重視する傾向が見られます。

5. 自社とマッチするか確認する方法
製品・サービスが自社にマッチするかどうかを確認する方法は、営業担当から説明を受ける(35.1 %)が最多。 次いで、サービス資料を確認する(23.2%)、知人に相談する(22.4%)となっています。
これらの結果からは、中小企業経営者は、情報を単独で判断するよりも、信頼できる他者との対話を通じて納得感を得る傾向が強いことが伺えます。
なお、過去に才流が実施したBtoB商材の情報収集実態調査(労務担当者編、経理担当編)と比較してみても、本調査で「営業者担当者から説明を受ける」「知人に相談する」を選択した人が顕著に高くなっています。これが中小企業経営者特有の情報収集パターンであることを示唆しています。

6. 製品・サービス選定時に重視したポイント
選定にあたって重視されるポイントは、自社の課題を解決できるか(33.8%)が最多。続いて、予算の範囲内の料金か(30.0%)、提案内容がマッチしているか(28.0%)となっています。 中小企業経営者は、営業担当や知人などから得られた情報をもとにしつつも、合理的な観点から判断を下していることが伺えます。
これらをふまえると、導入メリットや費用対効果、サポート体制など、実務に沿った情報の提示が、検討フェーズでの信頼獲得に直結すると考えられます。

7. セミナーへの期待
中小企業経営者にとって関心の強いセミナーのテーマは、人材不足への対応策、経営者同士の交流・意見交換、最新の業界動向・事例紹介が上位となりました。人材への課題感が強いことがわかっており、その打ち手をセミナーでも探していることが伺えます。

また、積極的に参加したいと感じるセミナーの講演者については、「自身に近い立場の経営者」が最多となりました。ほかの設問と同様の傾向が伺えます。

本調査を踏まえた提言――中小企業経営者へのアプローチを最適化するには
これらの調査結果は、中小企業経営者へのアプローチにおいて、重要な示唆を与えてくれます。具体的にどのような点に留意し、マーケティングや営業活動を最適化すべきか、3つの提言としてまとめました。
1. 同業事例をセグメントごとに整備し、営業活動で活用する
中小企業経営者が「自社と似た企業の導入事例」に対して強い関心を抱いていることが明らかになりました。 とくに業種、従業員規模、エリア、経営課題といった要素でセグメントされた事例は、導入検討の強い後押しになると考えられます。
営業活動においては、こうした事例を初期接点から活用し、顧客の興味喚起と信頼構築を図ることが重要です。
2. 営業担当に期待される役割は「良き相談相手」
意思決定の過程で最も多く活用されていたのが「営業担当からの説明」であることから、中小企業経営者向けには、営業担当の役割が極めて重要です。 ただし、求められているのは自社の商品・サービスの情報提供だけでなく、経営者の課題や背景に寄り添いながら、納得感を持って最適な選択肢へと導くことです。
営業トークの標準化や、事例データベースの社内共有といった支援体制の整備も欠かせません。経営者が抱える複雑な課題に対して、論理と感情の両面から支援できる営業体制を構築しましょう。
3. 認知獲得には「信頼ある情報源」との連携が欠かせない
認知フェーズでは、ニュースサイトや知人紹介など、第三者を通じた情報経路が重視されている傾向があります。 そのため、中小企業経営者にリーチするためには、信頼性の高い媒体との連携や、商工会・地域金融機関など、すでに関係性を持つ団体との共催施策が有効だと考えられます。
リアルな実績やストーリーを交えながら、自社の信頼性を訴求するコンテンツ設計が求められます。とくに経営者が日常的に接しているメディアでの露出は、効果的な認知獲得につながるでしょう。
本調査から導くカスタマージャーニーマップ
以下は、本調査結果をもとにした中小企業経営者向けカスタマージャーニーマップと代表的な試作例です。自社の製品・サービスやリソースにあわせてカスタマイズしてご活用ください。

※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとファイルがダウンロードされます。

調査担当者の視点
本記事では、中小企業経営者のBtoB商材における情報収集の実態を調査データに基づいて解説してきました。最後に、これらの結果から見えてくる、中小企業経営者への効果的なアプローチにおける特に重要なポイントを改めて整理します。
まず何よりも、経営者の深い共感を呼ぶ「同じ立場の成功事例」を提示することが不可欠です。そのためには、「業種」「企業規模」「抱えている経営課題」といった観点から顧客をセグメント分けし、それぞれのニーズに合致した導入事例を丁寧に作成・整備することが求められます。どのセグメントで、どの程度の粒度で事例を用意すべきかは、提供する商材の特性に応じて検証し、最適化していくことが重要になるでしょう。
次に、Webを活用した情報発信と並行して、営業担当者による積極的かつ丁寧なコミュニケーションが、依然として高い効果を発揮するという点も特徴的です。製品やサービスに興味を持つ最初のきっかけ作りから、自社へのマッチ度を確かめる最終段階に至るまで、購買プロセスの各フェーズにおいて営業担当者の介在価値は非常に高いと言えます。オンラインでの効率的な情報提供に加え、営業パーソンを通じた、いわば“血の通った”対話や提案活動が、多忙な中小企業経営者の心を動かす鍵となるのです。
こうした取り組みの成果を測る上では、中小企業経営者との「質の高い接点数」や「具体的な商談獲得数」が、マーケティング・営業活動における重要なKPIとなり得ます。
今回の調査結果が、皆様のマーケティング戦略や営業活動をより効果的なものへと進化させる一助となれば幸いです。