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創業メンバー自ら“ドタキャン”の代わりをしたことも。初期ユーザーの成功体験を追求しPMFしたタイミー

新規事業
株式会社才流 代表取締役社長
栗原 康太

BtoBスタートアップのPMF(Product Market Fit)ストーリーを紹介する本連載。今回登場するのはスキマバイトサービス「タイミー」を運営するタイミーだ。従来アルバイトの採用においては当たり前だった“面接と応募”をなくし、働きたい案件を選ぶだけですぐに働ける点が特徴の同サービス。開発前からユーザーにとっての「コアバリュー」を徹底的に考え、3ヵ月でPMFに到達したものの、主戦場としていた飲食業がコロナ禍で打撃を受ける。しかしそこからいくつかのアクションを経て、二度目のPMFにたどり着いたという。
※出典:MarkeZine / 公開日: 2021/09/07
※関連記事:PMF(プロダクトマーケットフィット)達成ガイド~基礎から事例まで、新規事業を成功に導くためのコンテンツ集

全店舗での本格導入がPMFのサイン

タイミーは代表取締役の小川嶺氏ら4人のメンバーが2017年8月に立ち上げた。現在の主力サービス・タイミーは“すぐ働きたい人とすぐ人手が欲しい事業者をマッチングするスキマバイトサービス”として2018年8月から運営している。

タイミー代表取締役 小川嶺氏

同サービスの特徴は、これまでアルバイトの採用時に当たり前となっていた「面接と応募」のフローを取り払ったこと。働き手となる個人はアプリ上で働きたい案件を選ぶだけですぐに働くことができ、勤務終了後にはすぐに報酬を受け取ることができる。一方の企業側も来て欲しい時間や求めるスキルを登録しておきさえすれば、条件にあった個人が自動でマッチングされる仕組みだ。

近年は少子高齢化の影響でさまざまな業界で人手不足が課題となっているが、タイミーでは「眠っている『潜在的な労働力』を掘り起こす挑戦」に取り組んできた。採用のプロセスを簡素化することで、今まで十分に活用されてこなかった潜在的な労働力を喚起し、顕在的な労働力へと変えていくサービス。小川氏はタイミーをそう表現する。

この特徴が個人と企業双方のニーズにも合致し、リリースから3年で200万人以上のユーザーと4万4,000を超える事業者に利用されるまでの規模に広がった

そんなタイミーがPMFを迎えたのはいつ頃だったのか。小川氏は「30%の手数料を支払ってでもタイミーを全店舗で導入したいと思ってくれる企業が出てくれた時」がPMFだと考えており、そのタイミングはリリースから3ヵ月後に訪れたという。

「企業にとっては1度も会わずに人を採用するなんて、今まではありえなかったはずです。30%の手数料を支払ってまで、タイミーを本格的に活用したいと思ってもらえるのか。この検証を終えることが、僕たちにとってのPMFでした」(小川氏)

PMFに到達するまで、小川氏たちどのようなことを考え、実行してきたのか。その裏側に迫っていきたい。

タイミーのPMFアクション

プロダクトを作ってから「PMFに挑戦しよう」では遅い

「アプリを本格的に作る前からでもサービスの検証はできると考えていました。PMFに至るにはいろいろなプロセスがあるため、アプリが完成して初めて『よし、PMFにチャレンジしよう』という考えでは、手遅れになる可能性があると思っていたんです」

小川氏はPMFに対する考え方をそのように説明する。ではサービスを本格的に開発する前に何をすべきなのか。タイミーで重視したのは「どんなターゲットに、どんなコアバリューを提供するのか」を徹底的に考えること。つまり「ユーザーに一番刺さるのは何か」を考えることだったという。

そもそもタイミーは小川氏自身の原体験が一つのきっかけとなって生まれている。実際に日雇いのアルバイトをいくつも経験する中で、その度に応募と面接が苦痛だと感じた。面接を経て、先方から「採用します」とレスポンスがない限り働き始めることができない。

「特に日雇いの場合は明日にでも働きたいニーズがあるのに、即レスがない。根本的に働きづらい環境になっていました。ユーザー目線ではスキルなどの条件に合致していれば、働きたいと思った瞬間に働けて、すぐに給料がもらえるべき。リーガルの問題や実現可能性などは一旦置いておいて、あるべき姿から考えていったのが原点です」

当時小川氏は現役の大学生であり、自身だけでなく周囲の学生には間違いなくニーズがあると考えた。だからこそPMFに至るまでの初期フェーズにおいては、求人を出す企業側の声にフォーカスしたという。

「『(面接もせずに)当日いきなり店舗に来た人がきちんと働けるのか』『30%の手数料は高い』など、いくつか企業側が気にする可能性があるポイントも想定していたので、それが受け入れてもらえるのかをまずは検証しようと考えていました。サービスの特性上、企業から案件を出してもらえなければサービスは成立しませんし、反対に案件が増えれば働きたい人とのマッチングも活発になります」(小川氏)

飲食業界からアプローチ開始。業界選定の理由は“パッション”!?

とはいえ、当初はプロダクトも完成していない状態の中で「思想やコンセプト」に対して共感してもらい、導入を決めてもらわなければならない。ただでさえリソースに限りもあるため、「どの業界からアプローチしていくか」は重要な論点だ。極めてロジカルに領域選定をしていきそうな印象もあるが、タイミーが最初の市場に「飲食業界」を選んだのはもっとエモーショナルな理由からだった。

「営業部長だったメンバーがとにかく飲食業界に思い入れがあり、営業戦略を考えるにあたっても業界に貢献したいという熱量がすごかった。僕自身も飲食店でのアルバイト経験があって手応えがあったというのもありますが、プロダクトもない状態においては中核メンバーが最もパッションを持って、熱く語れる業界であることが何よりも大事だと思ったんです」(小川氏)

当初からサービスのコアバリューを「面接応募がなくて今すぐ働けること」と決めていたため、アプリの開発もそれを体現すべく進めていった。Uberのように案件をタップすればすぐに働ける、勤務後はスピーディーにお金が振り込まれるといったかたちだ。

それに合わせて、企業側に必要な要素も検討していく。企業が案件を投稿してもらうことがスタートになるので、まずは少しでも投稿しやすい画面設計になるように試行錯誤を重ねた。一方で必ずしも「来てくれるのは誰でもいい」というわけではないので、条件を提示できるようにもした。

そこからは実際に企業側にも触ってもらいながら随時アップデートを加える。たとえば試しに求人を出してみると「募集時に持ち物を記載しておいた方が良い」ことがわかったので、すぐに項目を加えた。

企業側の協力を得る上では、まずは創業メンバー自身が現場で実際に働くことで信頼関係を構築していったそうだ。ユーザーが“ドタキャン”して働き手が足りなくなれば、創業メンバー自ら穴埋めとして急遽代わりを務めることもあった。

取材の様子(左から)SPROUND Community Manager/DNX Ventures Investment VP 田中佑馬氏、タイミー代表取締役 小川嶺氏、才流代表取締役 栗原康太氏、DNX Ventures Industrial Partner 稲田雅彦氏

初期の成功体験を作ることがPMFにもつながる

コンシューマーと企業、双方の課題を聞きながらプロダクトを作り上げ、ローンチ3ヵ月後には数十店舗を展開するとある企業が、タイミーの全社導入を決定する

つまり、小川氏が考えていたPMFを達成したわけだ。泥臭い施策を地道に積み重ねていった結果ではあるものの、小川氏自身は「気が付いたらPMFを達成していた感覚に近い」という。

それでも、当時を振り返ってもらうといくつかのポイントがあった。まず、初期のクライアントとユーザーに成功体験を提供できるか否かは、PMFを達成できるかどうかに直結する。そのような考えがあったからこそ、最初から彼らの成功に寄り添うことをタイミーでは意識的にやってきたという。

「ユーザーがどのようなペインを抱えていて、自分たちがどのようなソリューションを提供し、それに対する満足度はどうだったのか。最初はこの3つをひたすら考えれば良いと思っていますし、タイミーでもそこに集中しました」(小川氏)

ほかにも、タイミーの開発陣やサポートメンバーはユーザーとなる現場の店長に寄り添った。オペレーションが複雑で活用が進まなければ、その一部をタイミー側で巻き取ることもしながら「現場が使いこなせる状態」を整えていった

また、初期にタイミーを経由して応募した働き手の評判が良かったことが、プロダクトへの信頼・リピートにつながった。プロダクトのリリース直後、小川氏は自身が運営していた学生コミュニティの数百名のメンバーに、ユーザーになってほしいと呼びかけていた。当時はそれほど意識していなかったが、このことが働き手の質の担保につながり、初期の成功体験を作るのに一役買っていたようだ。

タイミーが人手不足の時代に生まれたことも(PMFにおいては)大きかった。もし違う時代だったら『わざわざそんなことをしなくても、ビラを貼っていれば人が来るから』と相手にされなかったと思います」(小川氏)

このように、人手不足という企業側の課題に対して「潜在的な労働力を掘り起こす」という観点から、新たな解決策を提示することで成長を続けたタイミー。しかし新型コロナウイルス感染症の影響で、その前提も変わることになる。

コロナ禍で二度目のPMFを体験

コロナ禍以前のタイミーは対象領域を物流や小売にまで広げていたものの、依然として中核を担っていたのは飲食であり、売上の約7割を占めていた。コロナ禍では都心部を始め多くの飲食店が従来の方法では営業ができなくなり、当然ながらタイミーもその影響を受けることに。一時は売上も大きく減少した。

ただ、タイミーはただでは転ばなかった。もともと一つだった営業部を「飲食」「小売」「物流」に分け、それぞれの顧客の課題に合わせて提案を調整していった

たとえば飲食は特に影響の大きかった領域ではあるが、よくみると「デリバリー」のように伸びている分野もあった。飲食店がデリバリーに力を入れるようになると、バイクの免許を持っている人材など新たな採用ニーズが生まれる。そのニーズに合わせる形でタイミーもフォーカスする分野を変え、一度は沈んだ売上を再浮上させることに成功した。

反対に物流はコロナ禍で需要自体が大きく伸びた領域だ。ECの利用が上がり物流倉庫が忙しくなる反面、人手不足の課題を抱えていたままだった。

「3K(きつい、汚い、危険)と言われるように、何となく良くないイメージを持っている人も多く、採用に苦戦していました。でも実際に現場などを見てみると、カフェテリアが設置されていたり、空調管理がしっかりしていたりと労働環境が改善されていることがわかったんです。それならタイミーが役に立てるはずだと思いました。いきなり長期で働くのはハードルが高くても、1日ならやってみようと思う人がいるはず。そこからリピートや長期雇用に繋げていきましょうという話を進めていった結果、事業が大幅に伸び、コロナ禍でも最高益を達成できました」(小川氏)

各業界のニーズに合わせてタイミーが活用され、それぞれで成功体験が生まれていった。小川氏は「もう一度PMFしたような感覚だった」と当時を振り返る。

難しく考えず、コトに向き合う

最後にタイミーでの経験も踏まえた上で、小川氏にPMFを達成するために必要な考え方を聞いた。

「PMFを難しく考えすぎないことが大事ではないでしょうか。言葉が一人歩きしてしまっている部分もあり、必要以上に複雑に考えてしまいがちですが、分解してみると良いと思うんです。顧客に成功体験をきちんと届けられているのか、その結果として継続的に使ってもらえているのか。要はそこをしっかりやりきれているかどうかですよね」と小川氏は語る。

小川氏はタイミーで初期から投資してきた考え方に「カスタマーサクセス」を挙げる。カスタマーサクセス自体は近年SaaS企業を筆頭に外せない考え方となっているが、小川氏が考えるカスタマーサクセスとは「自社サービスに満足してくれた顧客が、他の企業にもサービスを紹介してくれる段階」にまで至った状態を指すという。

「プロダクトの使い方を説明することがカスタマーサクセスの職務ではない。それを通じて顧客が自走できる状態を作った上で、(成功体験を積んだ顧客が)他社に対してまでプロダクトを広めてくれたというところまでがカスタマーサクセスだと思うんです。その意味で、PMFはカスタマーサクセスをしたのかどうかにも近いと考えています」(小川氏)

特にタイミーは継続的に利用することを前提とした月額定額制のサービスではなく、1回あたりの取引手数料を軸としている。企業と個人がマッチングして初めて価値が生まれるので、苦労して企業に導入してもらっても、満足してもらえなければ、リピートされることもなく関係が途切れてしまう。

サービスの構造上、カスタマーサクセスの難易度が高いからこそ、タイミーでは「本能的に大事にしてきた」と小川氏は語る。そして従業員が約140名になった現在、社内でもっとも人数が多いのはカスタマーサクセスであり、今後も投資をしていく計画だ。

「顧客が人に勧めたくなるようなサービスを作れているのか、まずはコトに向き合うことが大切です。そのためにも顧客がどのような課題を抱えていて、何を求めているのか。シンプルではありますが、そこに注力すれば良いものが作れるし、PMFにも近づいていくと考えています」(小川氏)

タイミーのPMFアクション(再掲)

取材後記

タイミーさんは創業期からよく知っていた会社ではあったものの、外から見ているだけではわからなかった、創業からPMFまでの流れを詳しくおうかがいすることができとても新鮮でした。

3ヵ月でPMFというのは大胆な事業展開ですが、詳しくお伺いすると、「想いが強い業界に照準を合わせる」といった点や、小川さんご自身がいちユーザーとして欲しいサービスを作り上げていたこと、周りに初期のユーザーとなる大学生がいたことなど、いわゆるFounder-Market Fitがある分野を意識的に攻めていたことがわかります。

その後も、初期のマーケットにおいて顧客と向き合いながら課題意識を深めたことが、業務に深く根ざしたサービスへの成長を実現させ、コロナ禍という大きなマクロ環境の変化にも対応できる足腰の強さへとつながっていったのではないでしょうか。

そして、カスタマーサクセスを起点に顧客の成功体験を作り、新たなマーケットへの参入の足掛かりとする事業開発の考え方は、多くの会社にとっても参考になるものだと思います。(SPROUND/DNX Ventures 田中佑馬氏)

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