今回は、ロボットシステムインテグレータの株式会社FAプロダクツに、Webマーケティングの事例をうかがいました。
業界特有の商習慣が根強い製造業では、「製造業にマーケティングは向かない」「Webマーケティングから商談創出は難しい」というイメージがあります。
しかしFAプロダクツのJSS事業部は、少人数の体制で、メールマガジンやブログ、ホワイトペーパーの作成、ウェビナーなどの基本的な施策を行い、新しい商談や受注を生み出しています。
同部でマーケティングを担当する、岩木 祐二さんと植地 祐奈さんにお話を聞きました。
聞き手は、才流コンサルタントの岸田 慎平です。
この記事は、BtoBマーケティングで成果を出している企業やBtoBマーケターを取材し、BtoBマーケティングに重要なポイントや注意点など、リアルな声をお届けする連載「BtoBマーケティングの履歴書」第2回です。
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2001年より、複数の企業でコンサルティング・マーケティング事業に従事する。2016年に株式会社FAプロダクツへ入社し、Team Cross FA幹事会社の財務領域、M&Aに関する事案を担当。
2020年に日本サポートシステム株式会社(現・株式会社FAプロダクツ)へ入社。未経験からコンテンツマーケティングを始め、現在はリードナーチャリング領域にも従事。
取材当時、岩木さんと植地さんはFAプロダクツの関連会社、日本サポートシステム株式会社に所属。2023年5月31日付で、日本サポートシステムはFAプロダクツに統合しました。
市場環境の変化で新規顧客開拓が急務に
岸田 はじめに、FAプロダクツの事業内容を教えてください。
岩木 一言でいうと、「ロボットシステムインテグレータ」です。メインの事業は、工場を自動化するFA(ファクトリーオートメーション)装置の開発です。工場全体の自動化構想を提案し、装置の設計・開発から搬入据付、保守メンテナンスまでおこないます。FA装置は一品一様、オーダーメイドで作ることが多いですね。
そのほかにも、加工品の受託製作や各種治具(じぐ)、検査装置の設計・開発、画像処理技術などを使ったデジタルシミュレーションなどを手がけています。
岸田 JSS事業部が、Webマーケティングに注力することになった理由を教えてください。
岩木 最大の理由は、市場環境の変化によって既存顧客の売上が減少し、新規顧客の開拓が急務になったことです。
弊社のお客さまは、OA機器や電子部品、自動車部品メーカーなどの製造業が多く、近年は生産拠点を海外に移す動きが、より加速しています。大口の取引先からの売上が減ったことから、危機感を抱いていました。
一方で、大きな課題がありました。弊社のビジネスは、商材の特性上、認知を獲得してもすぐには受注に結びつきません。認知獲得から2~3年経って、ようやく商談につながることが多いのです。
植地 さらにFA装置は、オーダーメイドという性質から、一度契約したベンダーとの取引が継続する傾向があり、ベンダーをスイッチする機会が多くありません。
「長い付き合いのベンダーでは対応できない領域の仕事がある」「既存ベンダーとトラブルがあった」などの理由があって、ようやく他の会社に相談するのです。そのときに、第一想起されるかどうかが、勝負になります。
新規のお客さまとの接点を増やし、商談につなげるには、まずハウスリストを増やし、存在を思い出してもらえるようなコミュニケーションを継続的にとることが重要です。
岩木 これまで、製造業の情報発信といえば展示会が中心でした。しかし展示会だけでは、FAプロダクツを認知してもらう機会が限られますし、つねにお客さまと接点を取り続けることも難しい。
また、お客さまの情報収集の方法も、展示会だけではなくなってきています。検索したりオンラインでカタログを集めたり、メールマガジンを購読したりするでしょう。
そこで、コンテンツを軸としたWebマーケティングに注力し、お客さまとオンライン上で接点を作り、継続したコミュニケーションがとれる土台を作ろうと考えたのです。
新規顧客からの受注に貢献。BtoB製造業の商習慣にあわせた階段設計とは?
岸田 これまでに、どのような施策を行ってきましたか。
植地 マーケティング部のミッションは、リード獲得とナーチャリング(※)です。メールマガジンの登録やホワイトペーパーのダウンロードなどで得られたお客さま情報を、リードと呼んでいます。
※ナーチャリング:接点はあるが商談や契約に至っていないお客さまに対し、定期的に情報提供を行い、サービスへの興味・関心を高めるプロセスやその取り組みのこと
まず時系列でお話しますと、2019年に会社(当時の日本サポートシステム)のリブランディングを行い、ホームページもリニューアルしました。そして、2020年にブログやSEO、メールマガジンをスタートしています。
2021年からは、ウェビナーやホワイトペーパーの作成にも積極的に取り組み、2022年より、Google広告とカタログサイト(※)への掲載にも力を入れるようになりました。
※カタログサイト:メーカー横断でカタログ(製品情報)をダウンロードできるサイト
岸田 段階を踏んで、施策が増えていますね。
植地 ホームページのコラムやホワイトペーパーなどのコンテンツは、現在300件以上を掲載しています。今ではサイト全体で、約20万PVになりました。
コンテンツをきっかけに、他社との協業や、外部のセミナー登壇のきっかけも生まれています。
岸田 さきほど岩木さんがおっしゃっていたように、製造業では製品の認知から検討までの期間が長くなります。そのため、商談までのお客さま行動にあわせたコミュニケーションをする階段設計が重要です。
FAプロダクツでは、最初の興味・関心をコンテンツマーケティングで上手に作っていますね。
ホワイトペーパーのDL数が急増。カタログサイトの活用で認知経路が拡大
岸田 ここからは、各施策の具体的な内容を教えてください。まず、コンテンツを作るうえでは、どんなことを心がけていますか。
植地 お客さまのニーズにこたえることです。コラムやホワイトペーパーは、「最近お客さまからどんな引き合いが多いか」「よく聞かれる課題感は何か」を現場の営業職や技術職と協議し、周辺キーワードを調査してテーマを決めています。
ただし、お客さまが欲しいものと自社が売りたいものが違うケースもあります。
お客さまからニーズの高いコンテンツの作成に重きを置いていますが、並行してFAプロダクツの強みやソリューションに直結するコンテンツも企画しています。
岸田 カタログサイトの施策を始めて、どのような変化がありましたか。
植地 カタログサイトには、コラムなどの既存コンテンツをまとめ直したホワイトペーパーを、月1~2本掲載しています。
ホワイトペーパーのダウンロード数は増えています。2020年と施策に力を入れ始めた2021年を比べると20倍に急増、2021年から2022年も1.5倍と増え続けています。
植地 検索ではなくカタログサイト経由で弊社を知る方も増え、リードの属性も広がりました。
自社サイトからホワイトペーパーをダウンロードする方は、メーカーの生産技術職の方が多いのですが、カタログサイトからは商社の営業の方が多いです。認知経路が広がっていると感じます。
また営業によると、お客さまから「カタログサイトからのメルマガでFAプロダクツがダウンロードランキング1位だったのを見たよ」と言われることがあるそうです。
岸田 ホワイトペーパーの発信が、業界におけるFAプロダクツの存在感も高めていますね。
新規契約、大型案件も受注。製造業の理想的なマーケティングが実現
岸田 マーケティングを本格的に始めて、3年ほど経ちました。どのような成果が出ていますか。
植地 まず、新規のお客さまやFAプロダクツとして新しい業種のお客さまとの、契約や商談につながっています。
たとえば初回商談時に、「工場自動化に関するキーワードで検索したら、FAプロダクツのコンテンツがヒットして問い合わせました」というような声をよくいただきます。
岸田 コンテンツをきっかけにFAプロダクツを認知した方が増えていると実感しますね。
植地 また以前は、工場内の一つの工程だけを自動化するような小規模の案件が多かったんです。
今では、「スマートファクトリー」や「全体最適」に関する自社コラムやWebセミナーをきっかけに、ホームページからお問い合わせをいただき、ラインや工場全体を自動化するような大きな案件につながるケースが増えてきました。
さらに、過去、失注や未商談になったお客さまから、あらためてお問い合わせをいただくこともあります。「2年前に1回商談したんですが、再度話を聞きたい」という相談もありました。
岸田 製造業では、受注に至るまでに2〜3年かかるケースも多くあります。「1回失注したら、もうチャンスはない」と考えるのではなく、定期的に接点を持ち続けることが大事ですよね。
マーケティング部からメールマガジンを送り続けるだけでも、効果はあります。
岩木 ピザ屋のチラシみたいなものかもしれません。いらないときはいらないけれど、欲しいときはある。なので、接点を持ち続けることが大切ですね。
岸田 そのほか、施策からはどのような成果が現れていますか。
植地 お問い合わせにつながっているのは、ホームページのコラムです。
2020年に始めた当初は、狙ったキーワードで上位表示を取るために、月10~15件のペースでコラムを公開していました。そのかいがあって、2022年頃からは検索順位1位が取れるようになっています。
リード数は、ホワイトペーパー経由で伸びています。商談が成立する確度の高いお客さまとの接点になっているのは、ウェビナーですね。
ウェビナーは、事業部ごとに月1~2回公開しています。「どこから手をつけていいか分からない」というお客さま向けに、初歩的なコンテンツとして提供しています。
限られたリソースでマーケティング活動に取り組む体制を構築
岸田 日々、たくさんのコンテンツを発信していますよね。コンテンツの制作体制を教えてください。
植地 社内の担当者は、岩木と私の2名です。そして、SEOが得意なコンテンツ制作会社経由で、約10名のライターに執筆を依頼しています。この体制で、コラムとホワイトペーパーを、それぞれ月に5本ほど作っています。
ライターのみなさんも、最初から製造業に詳しかったわけではありません。コンテンツに盛り込みたい情報と骨子は、FAプロダクツ社内で考え、みなさんには制作を通して、覚えていただきました。
岸田 コンテンツを長期間、継続的に発信することは難しく、多くの企業が諦めてしまいがちです。FAプロダクツがコンテンツ制作を継続できているのは、なぜだと考えていますか。
岩木 外部の制作会社やライターと組んでいることが、継続できているポイントですね。毎月発信したいコンテンツの量を決めて、外部の力を借りながら、発信し続けることが結果につながっていると思います。
多くの企業は、自分たちだけでコンテンツを作ろうとしているから、疲れてしまうのではないでしょうか。
また、コンテンツマーケティングは、1〜2か月行ったところで、結果が出るものではありません。数年計画で、腰を据えて取り組むことが大切だと実感しています。
植地 ひとつのコンテンツを多角的に活用していることも、効率的な運用につながっていると思います。コラムの内容を営業資料やウェビナーのテーマにしたり、メールマガジンにも載せたりと、フル活用していけば、発信の量は増えます。
岸田 コンテンツのリサイクルですね。
植地 ウェビナーの「型」化も、コンテンツの量を担保するポイントです。自社の技術者は、お客さま案件の対応が最優先のため、ウェビナーに時間が取れません。
そこで、マーケティング部の私が話せるぐらいの初歩的な内容に落とし込んで、誰でも話せるような型をつくり、特定の技術者だけに登壇者が偏らないようにしています。そのうえで、「具体的に話をしたい方は、直接商談しましょう」の流れにつなげています。
すぐ商談につながらないリードへの具体的なアクションは?
岸田 検討期間の長い製造業では、リードがすぐに商談へつながるわけではありません。でも、「最初の問い合わせから2〜3年後に再度相談が来た」ように、リードは大切な顧客資産であり、ナーチャリングが必要です。
ナーチャリング施策としてメールマガジンが挙げられます。FAプロダクツでは、メールマガジンをどのくらいの頻度で配信していますか。
植地 週1回の配信です。開始時の配信リストは約1万件でしたが、2年間で倍増しました。開封率も15%から20%に上がっています。
岸田 開封率まで上がっている要因は、何でしょうか。
植地 2つあると考えています。1つ目は、PDCAを回していることです。メールの件名のつけ方や、取り上げるコンテンツをこまめに見直しています。
簡単にできる割に効果が大きかった改善は、メールマガジンの「差出人名」です。
以前は、「FAプロダクツの○○事業部です」と事業部名で送っていましたが、現在は「FAプロダクツの植地です」「植地からの情報です」と個人名に切り替えました。
すると、私宛にメールや電話で相談が来たり、新しいお客さまと話すときに「メルマガの植地さんですね!」と、打ち解けて話ができたりするようになったのです。
差出人名が「○○事業部」だと誰に連絡すればいいのかわかりませんが、個人名だと「植地さんいますか」と電話がかけやすいのだと思います。「毎週メールをくれる人」という親しみやすさにもつながっているようです。
植地 メールマガジンの開封率が上がっている2つ目の要因は、メールマガジンの再配信です。
毎週水曜日に配信していますが、未開封の方には月曜に再配信しています。「しつこいと受け取られて購読停止になってしまうのでは」と心配になるかもしれませんが、意外とそうでもないのです。
皆さん、多くのメルマガを購読しているので、一度だけでは気づかない方もいます。1回目の配信は、開封率が20%程度ですが、2回目はそこから5~8%上がりますね
岸田 シンプルな施策ですが、大きな成果につながっていますね。基本をやりきることの重要性を感じます。
マーケ部と営業が連携し、顧客解像度を高める
岸田 マーケティングと営業、技術チームとの連携について教えてください。具体的なお問い合わせや商談化しそうなリードがあったときは、どのようなコミュニケーションをとっていますか。
植地 営業・技術チームとは、効率的に情報を共有する仕組みをつくり、すぐにお客さま対応ができるようにしています。
お問い合わせは、対応漏れが起こらないよう、いったんマーケティング部の私にすべて集約し、適切な担当者へ引き継ぎます。問い合わせや資料ダウンロードなどのデータは自動的にCRMのデータベースに蓄積していくようになっています。
「営業につなげたほうがいいな」と思った案件は、マーケティングと営業のチャットグループに、都度通知しています。案件はスレッド形式でまとめられ、担当できる人が挙手します。
植地 ただ、システムだけに頼るとうまくいかないこともあります。営業とは席も近いですし、「この話であれば◯◯さんが良さそうだ」と見当をつけて、直接話しています。商談後は、クローズ理由等を管理シートに記入をしてもらい、コンテンツに反映しています。
岸田 失注の理由も、コンテンツにいかしているんですね。ほかにも、お客さま理解のために実施している取り組みはありますか。
植地 お客さまから声を聞く機会は、数多くつくっています。
まず、お取引直後のお客さまに対してインタビューを行い、弊社を利用した印象を中心にうかがっています。技術面についてはマーケティング部でヒアリングしきれないため、対応スピードのような改善しやすい部分についてうかがい、業務に反映しています。
さらに、納品先への満足度調査アンケートもおこなっています。3か月後、半年後、1年後などに「装置の状況どうですか?」と聞き、何かあれば別の部署につなぎます。これはメール配信システムで一括配信する仕組みですから、手間もかかりません。
私自身は、初回商談に同席することがあります。すると「数年後を踏まえて、今のうちにこれをしておきたい」とリアルなお客さまのニーズを聞けるんです。
すると、お客さまの普遍的な悩みに気づけ、「弊社の商品であれば先手を打てます」と解決策を提案するコンテンツのアイディアへつなげられます。問い合わせ内容もコンテンツに反映しています。
このように、お客さまとの接点を持つことで、マーケティング担当者も顧客の解像度を高く理解し、コンテンツの改善に取り組めています。
WebやコンテンツからFAプロダクツの存在感を高めたい
岸田 終わりに、これから取り組みたいことを教えてください。
植地 「リピーターを作る」「利益率をあげる」の2つです。
利益率をあげるためには、利益率の高い商材をレコメンドすることが重要です。弊社は工場のFA装置の販売がメインですが、それ以外にも付随製品を販売しています。
納めた装置に対する保守メンテナンスのサポートやデジタルシミュレーション、コンサルティングなどがその例です。利益率が高い商材をクロスセルしていくことで、利益率アップにもリピーターを作ることにもつながります。
このような流れを、Webマーケティングやコンテンツの力で作り出したいですね。
岩木 製造業には、未来の変化に強い生産ラインを求められています。これまでの工場は、決められた数を安定してつくることが重要でした。しかし、世の中の変化が早いため、「来月1,000個必要で、その翌月は200個」のように、需要が読みにくいんです。
そこでFAプロダクツでは、変化に強いモジュール型の生産ラインを提案しています。国内初の導入事例も進んでいますし、今後は主流になっていくと思います。このような新しい情報の発信も、Webやコンテンツからしかけていきたいです。
FAプロダクツでは、さまざまなサービスを展開しています。治具だけではなく、FAやロボットにも強いことを世の中へ発信し、認知を広げていきたいです。
才流コンサルタントが解説
FAプロダクツのWebマーケティングを紹介しました。
マーケティングの基本に忠実に取り組み、継続することで、しっかりと商談や受注につなげている点がとても参考になりますね。
製造業では、「ターゲットが狭いから、Webマーケティングは上手くいかないのでは?」「マーケティングリードから、受注に繋がらないのでは?」という先入観を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、FAプロダクツの事例のように、製造業でもWebマーケティングは機能します。
「営業パーソンの人数が限られ、新規顧客開拓に時間を割けていない」という場合は、外部パートナーに依頼しコンテンツを作成する、営業や技術以外のメンバーでウェビナーを開催できるようなコンテンツを設計するなど、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
また、顧客を知らずに打ち手を増やしても空振りになりがちです。FAプロダクツのように、顧客インタビューや商談の同席を行い、マーケティング部も顧客理解を深めましょう。
ひとつひとつは基本的な内容です。その積み重ねや継続が大きな成果につながります。ぜひ、小さなことから始めてみてください。
(文:杉山直隆|オフィス解体新書)
連載「BtoBマーケティングの履歴書」
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