PMFとは、Product Market Fit(プロダクトマーケットフィット)の頭文字を取ったものです。商品が顧客のニーズを満たし、正しい市場に提供されている状態を指します。プロモーションをしても商談につながらない、売上が伸びない場合、商品がPMFしていない可能性があります。
本記事では、新規事業の成功や事業の成長に欠かせないPMF達成までのプロセスと進め方をまとめました。PMFの定義や基礎情報は以下の記事で解説しています。併せてお読みいただければ幸いです。
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※関連記事:PMF(プロダクトマーケットフィット)達成ガイド~基礎から事例まで、新規事業を成功に導くためのコンテンツ集
※関連動画:【新規事業】PMFを達成するためにやるべきこと
PMFを達成するまでの6つの道のり
事業や商品がPMFを達成し、軌道に乗るまでには6つの道のりがあります。才流では、一連のプロセスをフィットジャーニーと呼んでいます。
フィットジャーニーとは、事業アイデアの立案からPMF、そしてGrowthまでの道のりを示したもの。上図の1~4を検証する「スタートアップ・フィットジャーニー」というフレームワークをもとに、フェーズ5・6を加えて作成しました。
フィットジャーニーを活用する際は、各フェーズで達成すべき目標を定義することが欠かせません。また、目標を達成するためには、フェーズごとに最適な「指標」を設定し、判断材料にすることも重要です。
- CPF(課題の存在を検証する)
- PSF(自社が提供する解決策の価値を検証する)
- SPF(解決策が商品になるか検証する)
- PMF(商品は市場に受け入れられるか検証する)
- GTM(ビジネスとしてスケール可能か検証する)
- Growth(事業が成長しているか検証する)
1.CPF(課題の存在を検証する)
CPF | |||
• バーニングニーズの 発見と検証 • 創業チームの組成 | • 課題が存在していること •課題が解決するに値する 切実な事柄であること | • 顧客インタビュー • 受託やPoC(※)での課題探索 • 創業チーム内で壁打ち • 仮説の言語化/精緻化 |
フィットジャーニー1つめのフェーズは、CPF(Customer Problem Fit:カスタマープロブレムフィット)。以下の項目が検証できている状態を指します。
- 想定している課題を顧客が抱えているかどうか
- 想定している課題は切実なものか
- (競合がいる場合)競合が解決できていない課題は何か
この検証を飛ばしたり、おろそかにすると「いくら頑張っても売れない商品」ができあがるリスクが極めて高くなります。一見すると当たり前のようですが、新規事業では一番つまずきやすいところかもしれません。
検証方法は想定見込み客へのインタビューが効果的です。30〜50社程度へ業務上の課題感などをインタビューしましょう。複数社が共通して口にする課題、今すぐ解決したがっている課題を特定してください。
できれば、バーニングニーズと呼ばれる「髪の毛に火がついたのですぐ消したい」といった、切迫したニーズや課題を特定することがベストです。顧客は「極めて速やかな対処が求められる課題」を解決できる商品にしかお金を払いません。
以下のようなシグナルが生じれば、バーニングニーズを特定できていると言えるでしょう。
- 顧客が課題について話し出すと止まらなくなる
- 商品がないにもかかわらず、発注したいと言われる
- 商品がある場合は、すぐに発注したいと言われる
顧客の課題が見つからない場合は、インタビューする業界や部署などのターゲットや、インタビュー方法を変更しましょう。受託やPoCでの課題探索は、顧客と深く関わることが多いので、具体的な課題を発掘するのに有効です。
2.PSF(自社が提供する解決策の価値を検証する)
PSF | |||
• 課題に対する 解決策の立案と検証 • お金を払ってくれるかの検証 | • 熱狂的な 数名の顧客が存在すること | • MVP(※)の作成 • 営業資料、デモの作成 • 顧客インタビュー • 営業 |
※MVP:Minimum Viable Productの略。必要最小限の価値を提供できる試作品のこと。
フィットジャーニー2つめのフェーズは、PSF(Problem Solution Fit:プロブレムソリューションフィット)。CPFで顧客の課題を特定できたら、以下を検証します。
- 自社の提示する解決策が、顧客の求めるものかどうか
- 顧客はその解決策に対し、対価を払うかどうか
検証は、以下のようなアイテムを制作して顧客に提示する方法が有効です。
- MVP(Minimum Viable Product:顧客に価値を提供できる最小限のプロダクトのこと)
- 営業資料やランディングページ
- モックやプロトタイプ
- 紙芝居やサービスの紹介動画
PSFの有名な事例としては、オンラインストレージサービスのDropboxがあげられます。Dropboxは商品の開発前に、サービスの動き方を紹介した3分間のデモ動画とランディングページを公開。その結果、一晩で約75,000人がサービスに登録したことから、十分な課題が存在しており顧客が求める解決策であると判断したといいます。
ひとつ注意したいのは、既存の取引先にプレゼンする場合です。すでに関係性があるとネガティブな意見が言いづらく、忖度した反応が得られることも少なくありません。「すぐにでも注文したい」という声がなければPSFに至っていないと判断し、解決策を練り直すのが妥当です。
3.SPF(解決策が商品になるか検証する)
SPF | |||
• 課題に対する解決策を プロダクト化できるか | • 契約の基本合意書の締結 | • プロトタイプの作成 • 共創パートナー顧客の発見 |
フィットジャーニー3つめのフェーズは、SPF(Solution Product Fit:ソリューションプロ ダクトフィット)。PSFしていると判断した解決策に対して、以下を検証します。
- プロダクトとして実現可能か
- プロダクト化された商品は、解決策を十分に実現できているか
単純にプロダクトとして実現可能かどうかだけではなく再現可能か、価格やコストが妥当かも重要な観点です。商品開発に協力してくれる顧客を見つけ、意見をもらいながら検証していくことが望ましいでしょう。
しかし、プロダクトを作り込み過ぎてはいけません。ビジネス特化型のSNSとして有名なLinkedInの創業者リード・ホフマン氏は「製品の最初のバージョンで恥ずかしい思いをしていないなら、リリースが遅すぎだ」と語っています。
まずは素早く商品をローンチし、フィードバックを得ながら改善していくのが定石です。
4.PMF(商品は市場に受け入れられるか検証する)
PMF | |||
• プロダクトが市場に 受け入れられるかの検証 • バリュープロポジションの明確化 • 顧客が定着するかの検証 | • NPS(※) • ショーン・エリステスト • リテンション • エンゲージメント | • プロダクト開発 • ローンチ • カスタマーサクセス |
※NPS:Net Promoter Scoreの略。顧客ロイヤルティを測る指標。
フィットジャーニー4つめのフェーズは、いよいよPMF(Product Market Fit:プロダクトマーケットフィット)。商品が市場で受け入れられるか検証し、バリュープロポジション(自社が提供できて、競合他社が提供できない、顧客が求める独自の価値)を明確にします。
ここで注意が必要なのは、このフェーズの目的があくまでPMFの検証であり事業の成長ではない点です。リードの大量獲得や広告のクリエイティブを最適化するといったことも重要でなく、リソースを割くべきではありません。
PMFにおいて重要なのは、以下の3つの確認です。
- 顧客は買ってくれるのか
- 顧客は喜んでくれているのか
- 顧客は熱狂してくれているのか
主に4つの方法を用いて、PMFを検証します。
検証法① NPS(ネットプロモータースコア)
顧客へ、その商品は他者に対してどの程度おすすめできるか? と聞いて測定する方法です。0(全く思わない)〜10(非常にそう思う)の11段階に分けて評価してもらい、0~6を批判者、7と8を中立者、9と10を推奨者とし、推奨者の割合から批判者の割合を引いた数がNPSになります。
検証法② ショーン・エリステスト
その商品を使えなくなったらどう感じるか? を聞く測定方法です。「とても残念」「まあ残念」「あまり残念ではない」「無回答(もうこのプロダクトを使っていない)」の4段階で聞きます。「とても残念」の割合が4割を超えたらPMFと判断します。
検証法③ リテンションレート
顧客維持率とも呼ばれる、「何日後に何割の顧客が残存しているか」という指標です。一般的にtoC向け商品なら、1日後、7日後、30日後(28日後)、toB向けなら月次や年次が対象期間としてあげられます。
検証法④ エンゲージメント
新規ユーザーが商品を使用しはじめた後、ちゃんと使ってくれているか、どの程度の頻度で使っているかといったアクティブ率を測定します。基準となるアクティブ率は商品によって異なります。
PMFのフェーズではプロモーション活動に資本を投下するのではなく、PMFに到達することのみにリソースを集中させましょう。
5.GTM(ビジネスとしてスケール可能か検証する)
GTM | |||
• ビジネスモデルの検証 • スケーラビリティの検証 | • 売上、受注数、 ユーザー数などの成長率 • ユニットエコノミクス | • チャネルの発見、最適化 • 採用/育成方法の発見 |
PMFに到達できたら、売り方を考えましょう。フィットジャーニー5つめのフェーズは、GTM(Go-to-Market:ゴートゥーマーケット)です。重要な観点は、以下の2つです。
- ユニットエコノミクスが合うような単価で商品を販売できるか
- 設定できる単価の範囲内で、顧客に商品を届けられる営業やマーケティングチャネルがあるか
ユニットエコノミクスとは、平たくいえば商品の採算性のこと。計算式は以下になります。
・ユニットエコノミクス=LTV(顧客生涯価値)÷CAC(顧客獲得コスト)
・LTV=1顧客あたりの月次粗利×平均継続月数 ※SaaSビジネスの場合
・CAC=新規顧客獲得に関する営業・マーケティング費用の合計÷新規顧客獲得数
一般的に、ユニットエコノミクスが「3」以上であれば、健全な状態といわれます。
顧客獲得にはマーケティング費用や、営業の人件費などのコストが必ずかかります。なおかつ、どれだけ最適化したとしてもゼロになることはあり得ません。適正な価格で売れる体制とチャネルが確保できてはじめて、事業のアクセルを踏めるのです。
マーケティング戦略の考え方や、フレームワークについては以下の記事を参考にしてください。
※関連記事:
BtoBマーケティングとは?戦略の立て方とプロセス理解【基本編・用語解説付き】
BtoBマーケティングの手法大全 – 社内会議で使える79個の施策アイデア
LTV・CACの計算方法とよくある質問への回答
6.Growth(事業が成長しているか検証する)
Growth | |||
• 計画通りの事業成長 | • 売上規模や顧客数 • 営業利益率やEBITDA (税取引前利益に支払利息 と減価償却を加えて算出さ れる利益) | • チャネルの拡張 • セグメントの拡張 • 採用/育成 |
最後のフェーズは、Growth(グロース)。GTMのフェーズでユニットエコノミクスが成り立つチャネルを発見できたら、それを拡大して再生産していく方法を考えましょう。
いわゆるスケールのフェーズになり、マーケティングや営業だけでなく、人材採用や育成など組織マネジメントの課題を乗り越えていく必要があります。たとえば、優秀なエンジニアを社員として採用するのは難しいですが、業務委託のプロフェッショナル人材をアウトソースで確保するといった工夫はできます。
また、商品に人的サポートやコンサルティングなどのサービスも含む場合、従業員の育成が課題になるときもあります。1on1の実施や業務の型化を進めるなど、各従業員が商品価値を十分に発揮できる仕組みを考えましょう。
以上が、PMFを達成するまでのフィットジャーニー。6つの道のりを通過していくことで事業は成長していきます。
PMF達成の肝となる「バリュープロポジション」については、以下の記事で解説しています。併せて参考にしてください。
※関連記事:バリュープロポジションとは?作り方と事例~テンプレート付きで解説~
PMFを達成した2社の成功事例
才流では、PMFを達成している企業へ成功の背景を取材する連載「僕たちのPMFの話をしようか」を展開しています。その中から、本記事では2社をご紹介します。
顧客満足度の向上を最優先して成功:株式会社FLUX
株式会社FLUXは、パブリッシャー向けのソリューション「FLUX AutoStream」を提供している企業です。メディアに表示される広告をオークション方式で選定する仕組みであるヘッダービディングを中心に、メディアの収益向上を支援しています。
同社は、PMFに到達するまではプロダクトの汎用化や組織拡大に着手せず、ひたすら顧客満足度の向上に注力しました。創業社長として事業をゼロから育ててきたCEOの永井氏が、以下のようにPMFを振り返っています。
日本のメディア企業にとって馴染みのないプロダクトだったこともあり、創業当初は時間をかけて説明をして導入してもらい、少数の人に使い続けてもらうステップが必要でした。ですがPMFした後は紹介での導入が増え、お客様が既にプロダクトの存在を知っていて、導入前提でお問い合わせいただき、営業に行った瞬間に発注が決まることも多くなりました。営業した際の獲得率は50~60%に上がっています。
FLUX CEO 永井 元治氏
同社がPMFのために取り組んだことは、主に以下の5つです。
初期の導入先は業界大手の5社に絞り、採算度外視で顧客の売上貢献に多くのリソースを割いています。そこで検証していたのはFLUXに対して報酬を支払えるくらい、顧客の売り上げを伸ばすことができるかどうかのみ。プロダクトのカスタマイズなども行い、PMFに集中した結果、大手で成果が出たことが強力な武器になりました。
また、参入前に競合他社を徹底的にリサーチしています。国内では比較的新しい分野だったため、競合が参入していない理由をつかむべく国内外60社ほどヒアリングして回ったそうです。徹底した事前調査とPMFへリソースを集中することによって、事業を成長させました。
鬼のようなチャーン(解約)からの回復:株式会社ベーシック
株式会社ベーシックは、オールインワン型のBtoBマーケティングツール「ferret One」を提供する企業です。同社はWebマーケティングに長年取り組んでおり、彼ら自身が抱える具体的な課題から着想を得てサービスを開発しました。リリース後、順調に思われた事業ですが、鬼のような多さのチャーンに直面したといいます。その割合はなんと年間70%。
その理由は、想定課題と販売先とのギャップにありました。当初想定していた顧客は、同社も含めてマーケティングへすでに力を入れている企業。しかし実際に販売していた顧客層は、これからコンテンツマーケティングに力を入れる段階の企業であり、必ずしも社内にマーケティングの知見があるわけではなかったといいます。
そこで、サービスの利用料金を5万円から10万円に値上げすると同時に、Webサイト制作やマーケティング施策のサポートも手厚くするよう方針転換しました。機能説明が中心だった営業の商談も、ヒアリング中心に変えていったそうです。
そんな同社がPMFのために取り組んだことは、主に以下の4つ。
大きな方針転換をしたことで、月の受注ペースも数十件から1〜2件まで下がることもあったそうです。しかし、痛みを伴いながらも次第に顧客から寄せられる声が「使い切れていない」といったネガティブなものではなく、ツールを活用することで「はじめて受注が生まれました」といったポジティブなものに変わっていったそうです。
同社取締役COOの林宏昌氏は、才流のインタビューに対して以下のように締めくくっています。
(初期の検証は)時間をかけてでもしっかりとやるべきだと思います。顧客にヒアリングをしても、必ずしもすべての人が本音でフィードバックをくれるわけではありません。本当に自分たちのサービスをお金を支払ってでも使いたいのか、他のサービスでは代替できない価値があるのか。しっかりと検証していくことが重要です。
ベーシックCOO 林宏昌氏
現在は急成長を遂げている企業も、さまざまな課題に直面しながら試行錯誤してPMFを達成したことがわかる事例でした。
まとめ
PMFは、企業や顧客はもちろん従業員も、みんなが豊かになる取り組みです。筆者は、CPFやPSF、あるいはSPFのあいまいな状態で事業が進み、そこにアサインされた従業員がつらそうに働いている姿を何度も目の当たりにしてきました。ベーシック社の取り組みのように、PMFはときに痛みを伴うこともあるかもしれません。しかしその取り組みによって、事業の成長はもちろん、そこで働く従業員もまた大きな成長を遂げられるはずです。
才流では成果が実証されたメソッドにもとづき、新規事業の立ち上げからPMFに至るまで一気通貫で支援しています。新規事業で課題を感じている方はお気軽にご相談ください。⇒才流のサービス紹介資料を見る(無料)