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パートナー解像度を極限まで高めよ。HQが大塚商会・日本生命と築いたパートナーシップの核心

法人営業
シニアコンサルタント
桂川 誠

パートナービジネスの成否は、戦略の巧みさだけでは決まらない。

才流シニアコンサルタントの桂川は、著書のなかでパートナービジネス成功の条件を2つに整理している。ひとつは、パートナーが自発的に「売りたくなる」構造の設計。もうひとつは、パートナーを販路としてではなく、価値を共に創る仲間として向き合うスタンスである。

そして、その両方を機能させる土台となるのが、「パートナーの解像度」だ。今回はパートナー解像度を高め続ける実践例として、株式会社HQのパートナービジネスにフォーカスする。

2021年創業のHQは、大塚商会・日本生命をはじめとする複数のパートナー企業と協業し、急成長を遂げている。パートナービジネスへの取り組み開始からわずか2年で、現在は売上の多くをパートナー経由が占めているという。

なぜHQは、大企業のパートナーを動かすことができたのか。同社でパートナービジネスに取り組む稲垣亮太さん、藤永陽太さんに話を聞いた。

聞き手は、書籍『パートナービジネス戦略 基本と実践』の著者であり、才流のシニアコンサルタント桂川誠が務める。

※関連記事:【連載】先駆者に聞く、パートナービジネスのリアル

株式会社HQ

2021年3月に創業したHRテック企業。「福利厚生をコストから投資に」というビジョンのもと、企業の経営課題解決と従業員の個別最適な支援を両立する福利厚生サービスを目指す。10年間で30プロダクトをリリースする目標を掲げ、「コンパウンド戦略」を展開。記事内でも登場する「カフェテリアHQ」は、各企業の人材戦略に合わせてリスキリング・育児支援・健康経営など多様な福利厚生メニューをカスタマイズできる、次世代型の選択式福利厚生プラットフォームである。Webサイト

HQ稲垣さん、藤永さんがHQ社のロゴの前でほほ笑んでいる
左から:HQ稲垣さん、HQ藤永さん

話者プロフィール

稲垣 亮太(いながき りょうた)さん
株式会社HQ 執行役員  VP of Partner Success & Alliance
外資系IT企業などでエンタープライズ営業の責任者を歴任し、現在はHQのアライアンス全体を統括する


藤永 陽太(ふじなが ようた)さん
株式会社HQ 事業開発部 担当部長(日本生命担当)
法人営業・代理店営業として豊富な経験を持ち、現在はHQで日本生命との協業責任者を務める

着手から2年で、売上の多くをパートナービジネスで創出

桂川 HQさんは、創業5年のスタートアップでありながら、大塚商会や日本生命といった日本を代表する大企業との協業を次々と成功させています。今や売上の多くをパートナー経由で創出していると伺いました。本日はパートナービジネスの先進事例として、リアルなお話を伺いたいと思います。

そもそもHQさんは、いつから、どのような背景でパートナービジネスに取り組みはじめたのでしょうか。 

HQの有料ユーザー数の数位2024年は5,625だったが、2025年は23,980、2026年は160,139に。前年比(2025~2026年)は668%成長
有料ユーザー数はパートナービジネスに取り組みはじめた2024年以降急拡大している ※出典:HQ 5周年特設サイト
HQ稲垣さんのインタビューカット
HQ 稲垣さん

稲垣 創業当初は、コロナ禍で急速に浸透した「リモートワークの課題」を解決するプロダクトを開発・販売しており、まだパートナービジネスには着手していませんでした。

ただ、当時からコンパウンド開発でプロダクトを連続的にリリースしていく戦略構想を持っていたこともあり、どこかのタイミングで着手する必要があると考えていました。

パートナービジネスに本格的に取り組みはじめたのは、2024年の4月。2つ目のプロダクト「カフェテリアHQ」をリリースしたタイミングです。

HQのサービスの変遷。2024年にカフェテリアHQをリリースし、それ以降2年間で5つのサービスをローンチ
2つ目のプロダクト「カフェテリアHQ」ローンチ以降、企業の多様なニーズに応えるプロダクトを次々と展開  ※出典:HQ 5周年特設サイト

桂川 直販で売れる型を作り、成長が鈍化したタイミングでパートナービジネスに取り組む企業が多いなか、HQさんはパートナービジネスの立ち上げを初期から戦略に織り込んでいたんですね。

最初にアプローチしたのは大塚商会さんということですが、パートナーの選定はどんなふうにされたんですか。

稲垣 コンパウンド開発でさまざまなプロダクトが連続リリースされていくことを考えると、最終的にはさまざまなパートナー様と、多様な協業スキームに取り組むことをイメージしていました。

ただ、社内のリソースはかなり限られていたので、「どのパートナー様に最初に注力すべきか」を検討し、大塚商会様が最適なのではないかと考えました。HQが当時最もアプローチしたかった全国の中堅規模以下の企業様に対して、広く深い販売網をお持ちだからです。

また、パートナービジネスにおいて圧倒的な営業力と影響力を持つ大塚商会様と組み、認知を獲得できれば、のちに取り組む他社との協業や採用にも波及効果があるのではないかとも考えました

大企業のパートナーと組むためにやるべきことは何か

才流桂川のインタビューカット
才流 シニアコンサルタント 桂川

桂川 実際にどうやって協業まで至ったのか、リアルなお話をお聞きしたいです。

稲垣 大塚商会様の場合、知人のキーパーソンを「カフェテリアHQ」のローンチイベントにご招待しました。お問い合わせ窓口からではなく、キーパーソンと直接接点を持ち、自社が持つ協業価値の仮説をお伝えできたことは、早期に立ち上げることができた理由のひとつだったと思います。

大塚商会様のSI部門は、企業の基幹業務を一元管理するシステム(ERP)の販売を主力事業としています。ERPは導入検討から契約までのリードタイムが長い商材なので、現場の営業担当者の方からすると、日々の顧客接点をどう維持するかが課題になってきます。

そこで、人手不足を背景に、業種や規模を問わずほとんどの企業が関心を持つテーマである福利厚生を「ドアノック商材」として使ってもらえるのではないかとご提案しました

その後大塚商会様のなかで福利厚生ニーズがありそうなお客様に対して、試験的に商談をさせていただいたところ、すぐに受注が生まれて。本格的な取り組みにつながりました。

桂川 それから1年後の2025年4月に、日本生命さんとの協業を発表されていますね。ご担当の藤永さんに背景をお聞きしてもよろしいでしょうか。

HQ藤永さんのインタビューカット
HQ 藤永さん

藤永 きっかけは、とある勉強会で日本生命様の「人的資本経営支援室」の方とお会いしたことでした。

日本生命様は2024年から2026年の中期経営計画のなかで、「安心の多面体」というビジョンを掲げています。これは、保険だけではなく、ヘルスケアや保育・介護などの非保険領域も含めた多様なソリューションによる価値提供を通じて、お客様や地域社会のニーズに応えていくというものです。

その一環として企業の「人的資本経営」の支援に注力されており、とくに増えている福利厚生に関するニーズに応える、新しい切り口を探しておられました。そこに「カフェテリアHQ」がはまった形です。

「カフェテリアHQ」は各企業の人事戦略に応じてカスタマイズできるため、人的資本経営を支援するためのソリューションの穴を埋めるプロダクトとして、活用いただけるのではないか。そのようなご提案をいたしました。

おかげさまで、現在「カフェテリアHQ」も含め、複数のプロダクトを日本生命様のソリューションラインナップに組み込んでいただき、超大手企業様からの発注もいただいている状況です。

従業員数1,000名以上の企業の契約社数の推移グラフ
【従業員数1,000名以上の企業の契約社数の推移】従業員数1,000名以上の企業の契約社数は、2026年3月時点で43社。2025年の2倍以上に成長 (契約済みの利用開始前企業含む累計数値) ※出典:HQ 5周年特設サイト

桂川 日本生命さんの場合も、パートナーのニーズに仮説を当てていき、それがはまった形なんですね。2社とも知人になった方が起点となっているとのことですが、いくら知人がいたとしても、実際にそのまま契約まで至ることはめったにないですよね。HQさん独自のアプローチ法や工夫があるんでしょうか。

稲垣 「最初に誰にアプローチするか」は重要だと考えています。

私は前職まで、エンタープライズを含む直販営業の責任者をやってきたんですが、パートナービジネスに取り組む今も、やっていることは本質的には同じように感じています。

単純に問い合わせ窓口に連絡をするのではなく、相手の組織図を理解し、キーパーソンを見つけてアプローチするという部分は、エンタープライズセールスと似ていると考えています。

桂川 稲垣さんが「HQに来てはじめてパートナービジネスに取り組んだ」とおっしゃっていてびっくりしたんですが、過去の経験を存分にいかされているわけですね。

ここで、一度まとめをしたいと思います。ご経験をふまえて、「スタートアップが大企業と組むために、もっとも重要なこと」を1つだけ挙げるとしたら、お二人は何を挙げますか。

キーワードをフリップにお書きください。私も参加しまして、一人ひとり発表する形式でいきたいと思います。

話者と聞き手の3名が、手にフリップを持って書いた言葉を見せています。Q. スタートアップが大企業と組むためには、もっとも重要なこと「パートナー様の『ロストビジネス』を埋める」/藤永「戦略の相互補完」/須垣「相手の事業計画書を勝手に描く」/佳川

藤永 私は、パートナー様の「ロストピース」を埋めると書きました。

先ほども話をしましたが、日本生命様とパートナーシップを進められたのは、人的資本経営のサービス強化をはかっていた日本生命様の戦略と、われわれの「カフェテリアHQ」が持つ特性がぴたりとはまった結果ですよね。相手の戦略を理解し、足りないピースを埋めることが、大手企業と組む際の第一歩だと私は思います。

稲垣 私は、戦略の相互補完と書きました

相手の事業や課題を理解しても、結果的に自社が貢献できなければ良いパートナーシップにはならないですし、その関係は一時的ではなく持続可能なものでなければなりません。

大塚商会様のSI部門は主力の自社商材を売るために、日々の営業のフックとなる周辺商材を求めていらっしゃいました。とくに昨今の人手不足で、お客様の関心が「採用強化」や「離職防止」に向いていることもあり、HR領域の強化を進めていらっしゃったのです。そこでHQは「福利厚生は、採用や離職防止に効きます」「人事部門と会話する際の強力なフックになります」と、相互補完のストーリーをご提案していきました。

最初のタイミングで、戦略を相互補完できる筋のいい仮説を持っていけるかどうかが肝になると思います。

桂川 私は、相手の事業計画書を勝手に描くと書きました。

自社の事業計画書を作るとき、市場環境を調べ、数字を置いて、戦略の整合性を何度も検証しますよね。あれを、パートナー候補に対しても同じ熱量でやるということです。

才流では、相手から依頼される前に仮説ベースでコンテンツを作って持参することを「勝手納品」と呼んでいます。パートナー候補の中期経営計画やIR資料を見ながら、「どういった組み方をしていけば相手の本業の成長に貢献できるか」を本気で考えて、資料を勝手納品し、ディスカッションをスタートさせる。そこから、一緒に磨き上げていけばいいと思いますね。

お二人の言葉で、自社の成功だけでなく、パートナーの成功に向き合うことの重要性をあらためて確認できました。

契約後、どうしたらパートナーに売ってもらえるのか

桂川 次に、パートナーとの契約後について伺いたいと思います。

パートナーのロストピースを埋め、契約ができたとしても、そこはゴールではなくスタートですよね。自社の商材を担いでもらわないといけない。

しかし実際のところ、「契約したら売ってもらえる」という勘違いがあるのか、パートナーに任せっきりにして成果が出ないケースも多いです。

HQさんでは、パートナーに自社の商材を担いでもらうために、どんなことに取り組みましたか。

稲垣 契約を完了させることより、その先のプロセスのほうがはるかに重要ですよね。

大塚商会様に対しては、とにかく現場に足を運びました。私ともう一人の担当者で、全国約30拠点あるSI部門すべてに訪問し、ご挨拶をし、ヒアリングや勉強会を行いました。部単位、課単位、呼ばれれば地方拠点の小さなイベントにも出向きました。

ほかにも、アポイント取得のために集中的にお客様に架電するコールDAYを設けたり、共催セミナーを開催したり。リソース内でできうる限りのことはやってきたと思います。

桂川 やらなきゃいけないとわかっていたとしても、なかなか実行しきれないことは多いものですが行動量がすごいですね。

稲垣 私は、SaaSで一般的な分業型の営業経験が長かったので、大塚商会様の「商社の営業スタイル」に対する解像度が低くて。現場の営業の方々が、日々何を考えて動かれているのか、どういうメカニズムで組織が動いているのか、最初はまったくわかっていませんでした。

でも、訪問を重ねるうちにさまざまな気づきがありました。同じように見えても拠点によってまったく違う方針で動いていたり、トップダウンとボトムアップの組織があったり。まずはパートナー様の現場で何が起きているかを直接理解しにいかないと、どうしても表面的な関わりになってしまいますよね。

藤永 日本生命様では、社内情報に精通しているキーパーソンに、まずは「どの拠点から行くべきか」「誰につないでもらえばいいか」を聞いて、順番に勉強会を実施していきました

また、HQのシニア人材をパートナーセールスとして配置し、日本生命様の営業担当者と「チーム日生」を結成。一緒に商談やクロージングなどを担当することで、「彼らなら売ってくれる」という安心感を持っていただけたと感じています。

藤永 でも実は、立ち上げ初期には手痛い失敗もあったんです

売っていただくための指標があったほうがいいんじゃないかと思い、「このくらいの件数を目標にしましょう」と、拠点に掲示をしたんですね。そしたら、見事に空振りしてしまいました。

営業担当の方は、ただでさえ忙しいわけです。そんななかで、外から来たよくわからない人が「これをやりましょう」と一方的に言ってきたら……当然そうなりますよね。今だったらもっと方法を考えられると思うんですが、現場に対する解像度が低かったことによる失敗です。

そこから、現場のみなさんのことをもっと知り、余計なストレスや不安を与えないようにしたいと、より強く意識するようになりました

今は「この部店の今期目標はどのように設定されており、部店全体と個人それぞれの達成のためには、HQの商材をどのように活用していただくのが良いか」かなり細かく仮説を立て、関わらせていただくように努めています。

桂川 そこまでいくと、パートナー企業の「中の人」のようですね(笑)。解像度のレベルが高い。

HQさんでは、普段からパートナーと接するうえで、なにか意識していることはあるんでしょうか。

稲垣 HQはスタートアップなので、ビジョンとプロダクトに関しては自負がありますが、体力も知名度も信頼も、まだまだ不足しています。そんななか、日本を代表する企業であるパートナー様との奇跡のような出会いがあり、素晴らしいパートナーシップを築かせて頂いている。これは決して当たり前のことではなく、「自分たちはすごいんだ」と勘違いをした瞬間にうまくいかなくなる。そう肝に銘じながら、パートナー様のパートナーシップに日々真剣に向き合っています。

藤永 私は、「刻石流水(こくせきりゅうすい)」という言葉を大事にしています。

他人から受けた恩義はどんなに小さなことでも石に刻むように記憶する。逆に、自分が誰かのためにした行動は水に流し、一切の見返りを求めないという意味があるそうです。パートナー様の役員の方に教えていただいて、胸に刻んでいる言葉です。

桂川 パートナーに「やってもらおう、動いてもらおう」と求めるのではなく、まず自分たちがどう向き合うか。お二人の言葉から、その姿勢が一貫して伝わってきました。

ではここで、「パートナーに売っていただくために重要なこと」のまとめをしましょう。1つ挙げるとしたら、何だと思いますか私が書いたのは、組織はKPI。個人は野心です。

パートナー社内のKPIがあるのは当然ですが、現場には営業担当者「個人」という軸があります。そして個人が動く動機は、キャリアや昇進、組織内でのプレゼンス向上など、自身が望む評価に直結するかどうかなんですよね。

組織としての成功は大前提としたうえで、「個人の野心」を叶えるために一緒に動く。メーカー側はそういうスタンスでパートナーの営業一人ひとりに接することが重要だと思っています。

HQ藤永さんがフリップに手書きで「パートナー様に WOW を届ける」と書いたものを説明している様子。Q. パートナーに売っていただくために最も重要なこと「パートナー様にWOWを届ける」/藤永「社内のエコシステム全理解する」/須垣「組織はKPI。個人は野心」/佳川

藤永 私は、パートナー様にWOWを届けると書きました。

1件目の紹介があったときに、まずはパートナーの営業担当者に「この商材を担ぐと自分たちにとっていいことがある」というWOW(感動)を持ってもらう。私が注力している部分ですね。

たとえば自社の商材だけでは入り込みにくいお客様に対し、HQの商材をフックに話ができたり、組織について深いヒアリングができたり。最初の1件で良い体験ができれば、次も「また売ろう」と思ってもらえるはずです。

そして個人の成功体験が増えていけば、組織の成功にもつながる好循環が生まれますよね。

稲垣 私は、社内のエコシステムを理解すると書きました。

パートナー様の組織やチーム単位、あるいは個人単位で、それぞれが「どういう役割や目標を持っているのか」「どういう利害関係で何を考えているのか」「どういうKPIで動いているのか」を理解しましょうということです。

社内のエコシステムを理解していないと、現場は動かない。現場に徹底的に足を運んで勉強会をしたり、ヒアリングを重ねたりするなかで、実感したことです。

桂川 ありがとうございます。社内のエコシステムを理解し、現場の営業担当者の野心を叶えるために一緒に動きながら、WOWを届け、成功体験を積み上げていく。まさに、やるべきことが見えた感じがしますね。

「パートナー解像度を高める」ために欠かせないこと

桂川 ここまでの話を整理すると、HQさんのパートナービジネスで一貫しているのは「パートナーに対する解像度の高さ」だと感じています。

あらためて、パートナー解像度を高めるために欠かせないことは、何だと思いますか。こちらも、フリップに書いていただきましょう。

3名がフリップを出している様子。Q. パートナー解像度を高めるために欠かせないこと「パートナー様になりきる」/藤永「『GO現場』」/須垣「『誰にも響く』は誰にも響かない」/佳川

藤永 私は、パートナー様になりきるという言葉が浮かびました。

パートナー様だったら、勉強会後、どんなふうに社内展開してくれるだろうか。HQのプロダクトをどうやって営業現場で使うのだろうか。お客様にどんなトークをしたら、メイン商材が売れるだろうか。そんなふうに、常にパートナー様を主語にして考え続けることが重要だと思っています。

そのために、当然ながらパートナー様について調べますし、調べたことをまとめて「御社の組織では、こんな感じですか?」と聞きにいくこともあります。パートナー様の社内のキーパーソンに頼りながら、仮説検証を繰り返していく感じです。

桂川 私は、「誰にも響く」は誰にも響かないと書きました。藤永さんと言いたいことはほぼ同じで、メーカーが自分たちを主語にしてはいけないということですね。

メーカー側は商材をアピールする際、「儲かる」「価値が高まる」「売りやすい」といった耳障りの良い魔法の言葉を掲げがちです。しかし多くの場合、自分たちの商材や自社の都合だけを見て、パートナーが求めるものを見ていません。

誰にでも響きそうなその言葉は、目の前のパートナーに本当に刺さっているのか。一歩、二歩踏み込んで、パートナーのことを考えていくことが大事ですよね。

HQ稲垣さんが「GO現場」と書いたフリップを見せながら話をしているところ

稲垣 私はシンプルに「GO現場」ですね。HQの行動指針の1つです。

パートナービジネス立ち上げ初期に現場に足を運んで、現場を見て、直接話を聞いて。ときには食事に行って、仕事を超えて人として信頼していただいて。「この人たちとなら一緒にやりたい」と本気で思っていただく。こういうことを、やりきることが大事だと思います。

桂川 おっしゃるとおりですね。AIで何でも効率的にできてしまう時代になりましたが、「人に動いてもらう」というのは簡単なことではありません。

戦略設計やプロダクトの素晴らしさもありますが、相手の立場になって考え、泥臭く行動し続けた先に、パートナーが売ってくれる状態が作れたというのが、HQさんのパートナービジネスなんですね。

たくさん行動し、失敗しよう。突破口は必ずある

桂川 最後に、今まさにパートナービジネスに取り組み、試行錯誤しているみなさんに向けて、お二人からメッセージをお願いします。

稲垣 今日は僭越ながら「先駆者」という立場で、成功事例のように話をしましたけれども、本当はまだまだうまくいかないこと、やりたいけれどできていないことだらけです。

新しいパートナー様との協業を始めるのはもちろん大変ですが、立ち上げた協業を維持・拡大することを怠れば、すぐに停滞してしまうかもしれない。私たち自身も日々試行錯誤し、たくさん失敗をしながらなんとか前に進んでいるのが実態です。

失敗を恐れず、たくさん行動して、得られた知見を共有し、みなさんと共にパートナービジネスを盛り上げていけたら嬉しいです。

藤永 パートナービジネスに取り組むにあたり、私が日々胸に刻んでいるのは「突破口は必ずある」と信じることです。

開拓初期にうまくいかなかった拠点でも、パートナー様の解像度が高まってくると必ず道が見えてきます。徹底的に相手を知り尽くす行動をやり続ければ、何か打つ手はあると信じています。

桂川 本日は貴重なお話をありがとうございました。

シニアコンサルタントの取材後記

ディスカッションを振り返ってみると、印象的だったことがある。各テーマでフリップに書かれたキーワードは三者三様なのに、話を深めるほど同じ場所にたどり着くことだ。

「事業計画書を勝手に描く」「戦略の相互補完」「パートナー様のロストピースを埋める」。表現は違えど、核にあるのは一点。パートナーを主語にして考え抜くということだった。

3名がフリップを見せながら、インタビューの終わりに語っているところ

HQのパートナービジネスは、パートナー解像度の高さが戦略レベルから個人レベルまで一気通貫している。さらには、ぶらさずに施策に落とし込み、やりきる実行力も高い。パートナービジネス開始から2年で、売上の多くをパートナー経由にできた大きな要因だろう。

また、対談中に稲垣さんがおっしゃった、「いま取り組んでいることはエンタープライズセールスと似ているという言葉も頭に残っている。

パートナーの中期経営計画を読み込み、組織構造を把握し、キーパーソンを特定して個別の価値提案を作り込む。HQがやっていたことは、パートナー企業に対するABM(アカウントベースドマーケティング)そのものだ。

パートナービジネスを「代理店管理」の延長で捉えている限り、打ち手は総花的になる。パートナー1社1社に対するABMだと捉え直したとき、戦略の精度は変わるはずだ。

自社のパートナービジネスに、その視座があるか。問い直すきっかけにしていただければと思う。

才流シニアコンサルタント 桂川誠

書籍『パートナービジネス戦略 基本と実践』のご紹介

最後に、本対談でファシリテーターを務めた桂川の著書をご紹介します。

『チャネルを広げBtoB事業をスケールさせる パートナービジネス戦略 基本と実践』(日本実業出版)は、2025年12月に発売したパートナービジネス専門の実務書です。これまで属人化しがちだった知識や暗黙知を、約300ページにわたって体系化しました。

稲垣さん・藤永さんにも読んでいただいており、「付箋をたくさん貼って使っています」とのお言葉をいただきました。本記事とあわせて、パートナービジネスの実践にお役立ていただければ幸いです。

記事内に登場した3名の話者がカメラ目線でたっている。HQ藤永さんは桂川の著書である本を手に持っている
写真左から:HQ 稲垣さん、HQ 藤永さん、才流 桂川

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【目次】

第1部 基本編 パートナービジネスの全体像をつかむ
 第1章 パートナービジネスの基本を理解する
 第2章 パートナービジネスの立ち上げ方を理解する

第2部 戦略編 立ち上げの設計図を描く
 第3章 パートナー戦略を策定する
 第4章 パートナープログラムを設計する
 第5章 コンテンツを整備する
 第6章 パートナー候補にアプローチする
 第7章 最初の成功者を生み出す

第3部 実践編 信頼・集中・共創で協業を拡大する
 第8章 接点を広げ・深め、協業を拡大する
 第9章 注力パートナーに集中し、仕組みで拡大する
 第10章 ロイヤルティプログラムで成果を最大化する

撮影:関口 達朗

取材・執筆・編集:安住久美子

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