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「狙った通りの反応で結んだ契約か?」契約数で判断せず顧客満足の内実を突き詰めた、プレイドのPMF秘話

BtoBスタートアップのPMF(Product Market Fit)ストーリーを紹介する本連載。今回は2015年から「KARTE」シリーズを提供し、2020年12月に東証マザーズ上場を果たしたプレイドを取り上げる。代表取締役CEOの倉橋健太氏へのインタビューから、PMFに到達する過程で重要になる「顧客との向き合い方」が見えてきた。
※出典:MarkeZine / 公開日: 2022/01/06

PMFを実感したのは、意外にも2019年

プレイドの主力プロダクトは2015年3月より展開しているKARTEだ。“CX(顧客体験)プラットフォーム”を謳う同プロダクトでは独自のリアルタイム解析エンジンによって、Webサイトやアプリを訪問する顧客1人ひとりの行動や状態を可視化。データを基にその人の文脈を理解した上で、最適なコミュニケーションを実行するところまでをワンストップで支援する。2015年にWebサイト版からサービス提供をスタートし、2018年3月よりネイティブアプリにも対象範囲を拡大。同年12月からは顧客データや行動データなど事業者が持つさまざまなデータを統合し、より高度なアクションの実行を後押しするための「KARTE Datahub」の提供も始めた。

そのためには1人ひとりのユーザーを高い解像度で可視化し、そのデータを基に働きかけていく仕組みが欠かせない。KARTEが500社以上の企業に活用されているのも、まさにそのアクションを後押しするための機能が備わっているからだ。

サービスの用途も幅広く、ユーザーを可視化して事業を正しくしたい企業もいれば、データにまつわるエンジニアリングやデータサイエンス業務を効率化したい企業もいる。より足元で、サイトの顧客体験を改善してCVR向上を図るために使われることもある。

2015年のサービスローンチより事業を成長させ続け、2020年12月には東証マザーズにも上場したプレイド。意外にも思えるが、代表取締役CEOの倉橋健太氏がPMFを実感できるようになったのは比較的最近のこと。2019年だったという

株式会社プレイド 代表取締役CEO 倉橋健太氏

1983年大阪府生まれ。同志社大学を卒業後、楽天株式会社に入社。2011年に株式会社プレイドを創業。2015年にCX(顧客体験)のプラットフォーム「KARTE」をリリース。顧客の解像度を上げるリアルタイムのデータ解析基盤と、ポップアップやチャットなど顧客毎の多様なコミュニケーションが一気通貫で可能になること等が高く評価され、EC・人材・不動産・金融など幅広い業種で導入企業を増やす。2020年東証マザーズ上場。

倉橋氏はPMFの手応えをつかむまでに、どのような道のりを辿ったのか。プレイドのPMFストーリーを紐解いていく。

プレイドのPMFストーリー

「ユーザーデータの価値が伝わらない」悩んだPSF期

プレイドの創業は2011年10月。前職の楽天で楽天市場のWebディレクションやマーケティング、モバイル戦略の立案などに携わってきた倉橋氏が立ち上げた。創業初期はECのコンサルティングやグルメアプリなどを手がけていたが、倉橋氏にとって一つの転換点となったのが、現在同社の取締役CPOを務める柴山直樹氏と出会ったこと。もともと楽天時代からマーケターとしてアクセス解析ツールや分析ツールを触っていた倉橋氏と、大学院で神経科学や機械学習の研究をしていた柴山氏。2人がディスカッションの末に着想したのが、KARTEの原型だ。倉橋氏は最先端のテクノロジーを取り入れることで、自身がかつて苦労しながらやっていた業務を「もっと高度に、より簡単に」実現できる可能性があると気づいたという。

一方で、プロダクトの方向性に自信が持てるようになるまでには時間も要した。最初にぶつかったのがPMFの前段階にあたる「PSF(Problem Solution Fit)」の壁。つまり解決されていない課題と、その課題を解決する有効な手法を見つけるまでの工程だ。

倉橋氏たちが対象にしたのは明確に顕在化している課題ではなかったため、「自分たちが仮説として考えているような『潜在的な課題』は本当に存在しうるのか」を確かめる必要があった。ベンチャーキャピタルから最初の資金調達を行った2014年の5月ごろ、まさにそのための試行錯誤を繰り返していたという。

事業成長の過程の図(連載第1回を参照)

最初はKeynoteにサイトのキャプチャを貼り付け、アニメーションをつけてコンセプトを説明するところからのスタート。初期のKARTEは、エンドユーザーのデータを裏側でリアルタイム解析しつつも、顧客が直接目にするインターフェース上ではチャートやグラフを用いてその状況をわかりやすく表現するようにしていた。

倉橋氏いわく、それは「既存のアクセス解析ツールと同じようなUI」で、そのほうが顧客にとって使いやすいと考え、採用していたという。しかし、試作品を見た顧客の反応は芳しくなく「『裏側でユーザーのデータを解析している』という価値が伝わっていなかった」という。

「私たち自身はユーザーデータが企業にとって大きな価値になると信じている一方で、企業からはNOと言われる。潜在的な課題があるはずと思いながらも、それを確認できていない状態でした」(倉橋氏)

倉橋氏たちはプロトタイプをチューニングしながら企業にヒアリングを繰り返していたが、ある時を境に企業の反応が180度変わった。

食い入るように画面を見つめる顧客も。方向性が見えた瞬間

変えたのはKARTEのUIだった。グラフやチャートで表現するのをやめ、代わりにトップページで「1人ひとりのユーザー」の動きが直感的にわかるように変更。ユーザーごとに流入経路や過去のサイト上でのアクションなどが表示され、「今この瞬間」の行動がアイコンと共に、リアルタイムに可視化されるようにした。

「こんなにも変わるのか、というくらい鮮明に、お客様の反応が変わったんです。多くの企業の方が食い入るように画面を見ながら、『どうやって計測・解析しているの?』『この人は今サイト上にいるの?』とおっしゃる。その様子を目にして、『インターネットでは人が見えていなかったのだ』と感じました」(倉橋氏)

ユーザーを人軸で、高い解像度で計測したデータを“人”として可視化できるソリューションが求められている。その気づきを得られたことで、倉橋氏は潜在的な課題が存在することと同時に、KARTEの進むべき方向性についても確信が持てたという。

導入数が増えてもPMFを実感できなかった

2015年に正式ローンチを迎えたKARTEは、コンセプトに共感した企業を中心にどんどん広がっていった。見方によってはこの段階をPMFと捉えることもできるかもしれないが、倉橋氏自身が「本当の意味でPMFを実感できた」のはそれから4年後、2019年になってからだったという。

その理由は、KARTEの導入が続々と進む一方で、一定数の解約が発生し続けていたことにある。倉橋氏を始め社内のメンバーが活用支援をした会社はパフォーマンスが出ていた反面、KARTEを自力で運用して納得できる成果を出せている企業は限られていた。それが解約の原因にもなっていたのだ。

「コンセプトやプロダクトの先進性を評価いただき事業自体は伸びていましたが、バケツの穴がふさがり、事業がきちんと受け入れられるようになったと実感できたのはしばらく経ってからのことです」(倉橋氏)

プレイドではKARTEの運営にあたり、四半期から半年の期間ごとに「解約件数」と「解約を差し引いたMRR(純増のMRR)の獲得ペース」を主要な指標として追いかけていた。特に後者の成長スピードが加速していたため「かえって痛みが見えにくい状態にもなっていた」と倉橋氏は当時を振り返る。

1つの方針転換が奏功し、解約率が低下

2019年から2020年にかけて、顧客の活用状態やプロダクトへのフィードバックに徹底的に向き合い続けバケツの穴をふさぐための方策を考えた倉橋氏。ここで重要な気づきを得る。

「KARTEはいろいろな使い方ができる分、シンプルなプロダクトではないので、プロダクトだけを提供していてもダメなのだという事実を、改めて突きつけられました。私たちのプロダクトは、プロダクトとサービスの両面があって成立する。だからこそ顧客の活用状況をつぶさに見て、丁寧なコミュニケーションを取っていかなければならないと痛感したんです」(倉橋氏)

リソースが限られるスタートアップにおいて、“会社の重心”をどこに置くかは重要な意思決定だ。PMFを実感する前の倉橋氏たちは「とにかく新しいお客様にプロダクトをデリバリーしていくことを大事にしていた」。一方カスタマーサクセスチームは、どちらかといえば「何か問題が起きた時にサポートする」という動き方が中心であり、顧客の成功に積極的にコミットする体制にはなっていなかった。

また、もともとプレイドではプロダクトに重心を置くべく、全社の人員がプロダクトサイドとビジネスサイドでおおよそ半数ずつになるように意識してきたという。そのため2019年まではビジネスサイドの採用でアクセルを踏まず、ある意味“採用を抑制”しながらバランスを保ってきた。たとえばセールスにおいても、体制を強化して「人力で売る」という選択肢を避け、「プロダクトカンパニー」として強固な基盤を築くための組織作りにこだわっていたのだ。

しかし前述の気づきを基に、倉橋氏は意図的にカスタマーサクセスの体制を手厚くするという判断を下す。これからさらにプロダクトに注力していくためにも、一度会社の重心を変えることを決めたのだ。この意思決定がうまく機能し、KARTEの解約率は劇的に下がっていった。

満足してもらっている=PMFとは言い切れない

インタビューの終盤、倉橋氏に「もしもう一度最初からやり直すとしたら、何を変えるか」を尋ねてみた。

倉橋氏はまったく同じ事業であれば経験を踏まえてショートカットする道を選ぶものの、異なる事業であれば最適な方法も異なるため、想像できるやり方をまずは試してみて、結果が伴わなければその選択肢を捨てるというやり方を選ぶという。

「やってみないことには、正しいかどうかはわかりません。だからこそ、選択肢を一つずつ潰していくというこのアプローチだけは、確実に真であると思います」(倉橋氏)

一方で“やらないこと”があるとすれば、サービスのプライステーブル(料金プランの種類)を増やしすぎないことだという。KARTEではローンチ時に4種類の料金モデルを設けていたが、従量課金型のモデルでは、結果的に顧客の利用を制限してしまうことになった。特に初期の段階ではプロダクトが未成熟であることが多く、ユーザーにたくさん使ってもらうことによって磨かれていく側面もある。だからこそ、「プロダクトを磨き込むために、十分に使ってもらえるようなプライシング設定をする」ことが大切だ。

最後にPMFのポイントを尋ねたところ、「目の前の数字に騙されないこと」を挙げてくれた。

「契約が取れたり、顧客からお金を払っていただけたりすることは本当に嬉しいですし、最高の体験です。ただその感情を抜きにして、顧客がなぜお金を払ってくださるのか、その意思決定が本当に心から納得できる結果なのか、どこかに違和感がないかを冷静に考える必要があります。

汎用的なプロダクトであるほど、顧客の満足ポイントも分散します。時として、顧客の満足している部分が、自分たちが提供しようとしているものとズレている時があるのです。『満足してもらっているから直ちにPMF』と捉えてはダメで、自分たちが見据えている未来を踏まえて、もう少し粘らなければならないこともあります。

顧客の反応に確かな自信を持てるか。自分が狙った通りの反応を持って、その契約が行われたのか。その点が最も重要だと考えています」(倉橋氏)

プレイドのPMFストーリー(再掲)

取材後記

今回、倉橋CEOにKARTEの歴史を伺うことができ、改めて参考になったのがPMFに向かう際のお客様との向き合い方です。

整理すると、まず、倉橋CEOの事業開始前のご経験や、KARTEがローンチされてからのお客様との向き合い方を通して顧客課題が手に取る様に理解できていた。つまり、「顧客仮説」に対する確信がありました。顧客が何に困っていて、どういった価値を求めているのかは明確ですが、その価値をどの様なプロダクトで表現してお客様に届けるか、その手法論にPMFの試行錯誤がありました。

KARTEの場合はUIの変更が解決策でしたが、CSを手厚くしてビジネスモデルをマイナーチェンジしたCommuneさん(第7回)や、運用コンサルを強化したXICAさん(第8回)など、これまで本連載で取材してきた会社も、価値の届け方については様々に試行錯誤し、必ずしもセオリー通りではない方法でPMFを達成してきました。

求める価値をお客様自身が言語化できていなかったり、新しい解決策を提示する場合は、プロダクトやサービスの形に拘らず、幅広く、かつクリエイティブにお客様に提案していくことが重要です。フィードバックを素直に受け取り、実直に対応し続けるだけでは、お客様の想像を超えるプロダクトを作ることはできないということです。(SPROUND 田中氏)

著者/ 栗原 康太
株式会社才流 代表取締役社長

東京大学卒業。2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。「メソッドカンパニー」をビジョンに掲げる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。著書に『事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践』(すばる舎)など。カンファレンスでの登壇、主要業界紙での執筆、取材実績多数。

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