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プロモーション活動の前にPMFを疑おう。マーケターがもっと事業に貢献するために

才流栗原氏、DNX Venturesの稲田氏、田中氏による新連載「僕たちのPMFの話をしようか」が始動!PMF(Product Market Fit)とは「マーケットニーズを満たすプロダクトで、正しい市場にいること」を指し、スタートアップが成長する過程で目指すべき状態の1つと言われるが、3人はマーケターもこの概念を持つことが重要であると語る。連載の初回として、その理由を鼎談で語ってもらった。
※出典:MarkeZine / 公開日: 2021/04/13

売れない原因は、本当にプロモーション活動か?

MarkeZine編集部(以下、MZ):本連載「僕たちのPMFの話をしようか」では、BtoB企業のマーケティング支援を行う才流の栗原さんと、BtoBスタートアップへの投資を行っているベンチャーキャピタルファンドDNX Venturesの稲田さん、田中さんが、様々なBtoB企業のProduct Market Fit(以下、PMF)までの道程を取材していきます。栗原さんにはこれまでも様々なテーマでMarkeZineに登場いただいていましたが、今年のテーマをPMFと据えた理由をお聞かせください。

栗原:BtoBマーケティングに関わる中で、営業・マーケティング費用を投下しても思うように成果が出ず、成長が頭打ちになっているケースを多く見てきました。経営者やマーケティング担当者と話をすると、4P(Product、Price、Place、Promotion)のPromotionに原因があると考えていることが非常に多いのですが、実はProductが市場にフィットしていない、そもそも戦う市場を間違えている、という場合が往々にしてあります。マーケターが「自社の事業はPMFしているか?」という問いを持ち、PMFの過程にコミットするようにならなければ、本当の意味で事業成長に貢献するのは難しいのではないかと考えるようになりました。

才流 代表取締役 栗原康太氏

2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。2016年に「才能を流通させる」をミッションに掲げる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。

田中:PMFは主にスタートアップが規模拡大を図る前の段階に関して言及されてきた概念ですが、マーケターの世界でもこのような考え方はあるのでしょうか。

栗原:これまでマーケターの頭の中では、スタートアップ業界では行われている【PSF(Problem Solution Fit)→PMF→GTM(Go To Market)→Growth】という事業成長のフェーズを因数分解することはあまりされてこなかったのではないかと思います。過去何度かPMFしてないプロダクトのマーケティング活動に関わったことがあるのですが、リード数・商談数を増やしても売れないんです。そのときにPMFという概念がないと、広告やLP改善に終始したり、営業トークの見直しやMA/SFAツールを導入するものの、結局は売上が伸びない、という状態に陥ってしまいます。

正しい市場探しが特に重要

MZ:確かにPMFという言葉はマーケティング業界ではあまり使われてこなかったと思います。どういった概念なのか教えてください。

稲田:PMFを最初に提唱したのは、米国の代表的なVC「Andreessen Horowitz」のファウンダーであるMark Andreesen氏です。曖昧な概念でもあるのですが、本連載では彼の発言に沿って「マーケットニーズを満たすプロダクトで、正しい市場にいること」と定義したいと思います。

彼はブログ記事において、スタートアップにとって重要なものをProduct、Market、Teamの3つとしたとき、“Market”、つまり正しい市場を見つけることを特に重視すべきと説いています。マーケットにニーズがあれば、市場からの要請に応える形で良いプロダクトが勝手に出現していく。逆にどんなに良いチームができても、売り上げが立たなければメンバーは離れてしまいますし、どんなに良いプロダクトができても、正しい市場にいることができなければ、「存在しない需要」を追いかけ続けることになってしまう。これがPMFの発想です。

DNX Ventures Venture Advisor / EIR 稲田雅彦氏

2013年にデジタル製造プラットフォームを提供する株式会社カブクを設立、代表取締役兼CEOに就任。2017年に東証一部上場大手メーカーからのM&Aにより連結子会社化を行う。2019年、DNX Venturesに参画。AI、IoT、ハードウェア、デジタルマーケティングなどを中心とした投資業務を担当。

栗原:マーケターにとっては「プロモーション活動を行う前提条件として、PMFしているプロダクトが必要」という説明が伝わりやすいかもしれません。

稲田:そうですね。4PのうちPromotionだけにフォーカスしすぎず、全部をフラットに見る。4Pすべてを最適化していくというイメージが近いと思います。

田中:もう一つ、nice to haveではなくmust to haveを目指せ、という言い方がされますよね。「ないよりもあった方がいい」と「なかったら困る、なくなったら嫌だ」の差分は、想像以上に大きいものです。1,000人に好かれるプロダクトよりも、100人、10人に愛されるプロダクトになるように磨きこむ。そうすると、Promotionなしでも口コミで勝手に広がっていくようになります。

SPROUND Community Manager/DNX Ventures Investment VP 田中佑馬氏

慶應義塾大学卒業。三菱商事にて金融事業の新規事業開発を担当。その後、DNX Ventures日本オフィスに参画。主に日本国内のB2B SaaSベンチャー投資案件を担当。その後、アルバイト就職情報を扱うHR Techスタートアップを創業し、CEOを務める。2021年より再びDNX Venturesに参画。

稲田:ちょうどClubhouseがPromotionを打たずに口コミで広がるということが発生しましたが、この顧客の熱狂で自然と拡がっていくことが、PMFの指標の一つです。

田中:そしてPMFを進めていく上では、プロダクトチーム、営業・カスタマーサクセス、マーケターの全員が「今はPMFのフェーズである」と意識することが本当に大切です。そうでなければ各部門で部分最適がかかり、“見せかけの成長”が作られることになりかねないからです。

CPAだけ見ていてもわからない。見せかけの成長に要注意

MZ:見せかけの成長とは、どういうことでしょうか?

栗原:PMFしていないプロダクトでも、優秀な営業、優秀なマーケターがいたら、ある程度売れてしまうのです。たとえば次のようなケースです。

【ケース1】営業は日々顧客に接する中で、売るための障壁を感じるとともに、プロダクトの改善点が見えつつある。しかし上司に問題提起すると「営業のスキルが低いのでは?」と思われてしまうかもしれず言いにくい。疑問を感じながらも、受注するための努力をする。強力な営業スキルによって売上は上がっているが、顧客にフィットしているのは彼のその営業力のみだった。

【ケース2】マーケターはプロモーション施策の中でPDCAを回してしまい、向き合っている市場がそもそも正しいのか、プロダクトが顧客の課題を解決しているのかという問いを持ちにくい。持ったとしても、ケース1と同じ理由でCPAを下げる努力、リード数を最大化する努力に終始してしまう。

田中:こうした売り切るための部分最適の結果、プロダクトチームに顧客の声が共有されず、(must haveではない)nice to haveな機能開発に邁進する、クレームの多い機能の改善にリソースを使う、といった間違った方向に突き進んでしまうことがあります。

栗原:広告や展示会のCPAやLPのCV率だけを見ていても、PMFしているかどうかはわかりません。

私自身、自分が営業パーソンだった時にPMFしていないプロダクトを扱っていたことがありました。その事業は売上が伸び悩んでいたのですが、営業のスキルが低いのでは?営業のプレゼンが悪いのでは?1日のテレアポ数が少ないのでは?という議論に終始し、チームが疲弊していました。PMFという概念を持っていれば、事業に関わる人たちの活動がもっと報われていたと思います。

田中:営業が課題を吸い上げて、マーケターがこれを客観的に分析する。そしてプロダクトマネージャーがどのようなプロダクトにするか考え、開発する。PMFにはこの有機的な動きが欠かせません。その意味で、PMFする前に各部門でKPIを置くことがむしろマイナスに作用することもあります

どんな指標を見れば良いのか?

MZ:そうすると、PMFに向かってどんな指標を置いて、どのように改善していくのかが問題になりそうです。

稲田:NPSやSean Ellis Testなどを用いることが多いですね。SaaSやサブスクのサービスでは、チャーンレートや離脱率である程度わかる部分もあります。

NPS:Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)。顧客ロイヤルティを測る指標。顧客に友人や知人にお薦めしたいかどうかを尋ね、0(まったく思わない)から10(非常にそう思う)の11段階で評価してもらう。0~6を「批判者」、7と8を「中立者」、9と10を「推奨者」とし、推奨者から批判者を引いた数をスコアとする。

Sean Ellis Test:「このプロダクトが使えなくなったらどう感じるか?」を尋ね、とても残念、まあ残念、あまり残念ではない、無回答(もうこのプロダクトを使っていない)で答えてもらう。「とても残念」の回答が全体の40%を超えたら、PMFしていると判断する。

田中:顧客の熱狂という定性的な現象を客観的な指標で捉えないといけないため難しいのですが、こうした指標の設定、計測は、マーケターの知見が活きるところではないかと思います。

PMFに至る過程においても、マーケティングの手法が役に立つ点がたくさんありそうです。たとえば、PMFに至るためにはマーケットから正しくインサイトを抽出する力が重要になります。BtoBビジネスでは業種や規模などのデモグラベースで市場を切ることが多いですが、マーケターは行動ベースで切ってみるなど、より多様な方法で顧客を捉えていますよね。そうした発想を活かせば、PMFしているセグメントを見つけられるかもしれません。

MZ:マーケターがPromotionが自分の主な職域だ、と限定せず、PMFのプロセスにもどんどんスキルや経験を活かしていくと良いのかもしれませんね。

稲田:はい。他にも、今はペルソナマーケティングの手法がかなり現場で使われていますよね。BtoBであっても商品を検討して、買うのは最後は“人”なので、BtoBでも法人の先にいる正確なペルソナを抽出してそこに向かっていくことは、PMFにおいても大切なことです。

スタートアップ業界にはマーケティングに強い人がまだまだ少ないので、マーケターがコミットしてくれることで、より早くPMFに到達できるようになるはずです。

「PMFしていないかも」はここを見て判断する

栗原:ここまで話してきたように、PMFしているかどうかを客観的に判断するのは難易度が高いのですが、逆に「PMFしていないかも」という特徴は挙げやすいです。典型的なのは顧客獲得コストが高くて利益が出ないこと。他にも挙げてみましょうか。

稲田:プライシング、顧客に権限があるか、予算が確保できるかも重要ですが、本当に芯を食ったmust haveなプロダクトであればそういう障壁も乗り越えていくはずなんです。逆にnice to haveに留まっているものは、「大変だしやめておこうか」となってしまう。

それから、有料広告をやめた瞬間に売れなくなるというのもよくあるパターンです。スタートアップでも、資金調達で集めたお金をマーケティングに突っ込んで、それが尽きた瞬間に成長が止まるというケースが度々見られますが、これは誰にとっても良いことではないと思います。

田中:お客さんに提案して「いいね」と言ってもらっても、そこから先が進まない、というケースもありますね。「××でお困りですか?」「ニーズありますか」と聞いてみると感触が良く、マーケットがありそうだ、と思うものの、ペルソナベースでヒアリングをかけていくと、その人が抱えている数多くの課題の中での相対的な優先度が見えてきて、それほど高くなかったということがわかったりします。

真にmust haveなものを見つけるためには、営業・カスタマーサクセスが持つ“顧客に寄り添いニーズを聞き出す力”と、マーケターが持つ“客観的なファクトを抽出する力”の両方が必要と言えるでしょう。

鼎談はDNX Venturesと日鉄興和不動産とで共同運営するB2Bスタートアップのためのインキュベーションオフィス「SPROUND」で行われた

しっかりしゃがんで、思い切りアクセルを踏むための知見を提供したい

MZ:本連載では今後、PMFを達成したBtoB企業に取材することで、そのエッセンスを紐解いていきます。開始にあたって、皆さんが今考えていることを教えてください。

稲田:最近では大企業でも、新規事業やオープンイノベーションといったアントレプレナー的な動きが求められるようになっています。数年前に0から1を作る「デザインシンキング」が流行りましたが、今は、さらに1を10にしていく方法論が求められていると感じます。

もちろん、Promotionを改善するためのマーケティング知識が不要になることはありませんが、Place、Product、Priceなど他のPも含めてマーケティングするということがこれから非常に重要で、それらをひっくるめて統合的に最適化していくPMFという概念がその役に立つと考えています。ただ、PMFに至るまでの過程はあまり情報が出回っていないので、取材を通じて肌触りのあるストーリーを見出していきたいですね。

田中:PMFに至る前にPromotionのアクセルを踏んでしまうのには、スタートアップが抱える構造的な課題もあります。常に結果を出して次の資金調達を目指さなければいけませんし、投資家からも成長を作れというプレッシャーがかかります。そのような中でも、PMFとはどのようなものかを明確にし、今がそのフェーズであるということをチーム全体で意識できるようになれば、成長を急ぐプレッシャーを跳ね除けられるのではないかと思っています。

稲田:大企業の新規事業でも同じで、まず初期の予算が設定されて、KPIが達成できないと止められてしまいます。だからPromotionを打って、背伸びをしてしまう。そうではなく、一度しっかりしゃがんで、きちんとPMFを達成した上で思い切りアクセルを踏んでほしい、そのために必要な知見を提供したいという思いでいます。

栗原:前職でBtoB事業のマーケターをやった後、新規事業の部門に2年ほどいたことがありましたが、その時にスタートアップ的な事業成長の方法論を学べたのはとても有益でした。他業界にある良い概念や方法論は、マーケティング業界も取り入れていくべきではないでしょうか。PMFについては、どうすればそこに到達できるのかまだ曖昧なところがありますので、取材を通じて成功パターンを類型化して、お伝えできればと考えています。

MZ:これから「チームPMF」で取材を進めていきましょう。本日はありがとうございました。

著者/ 栗原 康太
株式会社才流 代表取締役社長

東京大学卒業。2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。「メソッドカンパニー」をビジョンに掲げる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。著書に『事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践』(すばる舎)など。カンファレンスでの登壇、主要業界紙での執筆、取材実績多数。

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