「THE MODEL」型の直販体制が一般的なSaaSビジネスですが、近年はパートナー(代理店)制度を導入する企業が増加しています。実はSaaS上場企業の上位10社中、9社がパートナー制度を導入し売上を伸ばしているのです。
しかし、どんなに自社で戦略を立てても、パートナーが自社のプロダクトを選んでくれなければ意味がありません。パートナーの心をつかみ、「売りたい」と思ってもらうためには、どのような提案をすればいいのでしょうか。
本稿では、パートナーに選んでもらうための提案ポイントを、実態をふまえて解説します。以下のような課題を感じている方は、参考にしてください。
・パートナー企業はどのようなプロダクトを採用したいのかわからない
・提案時に、何を伝えればいいのかわからない
・提案をしてもなかなか正式な取り扱いに至らない
提案書のテンプレートも作成しましたので、ぜひご活用ください。
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※関連記事:SaaS企業のパートナーセールス入門~取り組むための判断軸とよくある誤解~
パートナーがプロダクトを取り扱う確率は10%
大手ディストリビューターB社のインタビュー調査結果によると、企業から提案を受けて取り扱いが確定する確率は全体の10%程度でした。
パートナーに取り扱いを決定してもらうためには、対象となるパートナーのことを事前に調査し、理解しておくことが重要です。
たとえば大手ディストリビューターのSB C&S株式会社と、ダイワボウ情報システム株式会社(DIS)の場合、以下の特徴があります。
提携したいパートナーに提案するチャンスは限られています。初回提案からパートナーの気持ちを引き寄せるために、重要なのは「パートナーが担ぎたくなる理由」を提示できるかどうかです。
デスクトップ調査やインタビューで、パートナーが取り扱っている商材・おもな顧客層・商圏・中期経営計画などを確認し、提案の準備を丁寧に行いましょう。
※関連記事:代理店の解像度を上げる、代理店インタビューの実践テンプレート
パートナーに選ばれる提案の構成要素
パートナーの実態をふまえ、正式な取り扱いにつながりやすい提案の構成要素を解説します。
1. パートナーの注力プロダクトとセットで提案する
パートナーは注力しているプロダクトとセットで提案してもらえると、売れるイメージを持ちやすくなります。
(例1)パートナーの注力プロダクトが「クラウドFAXソリューション」、自社プロダクトが「経費精算クラウド・AI OCR」の場合。
クラウドFAXソリューションと請求書系SaaS、AI OCRを組み合わせて利用すれば、デジタル化支援になることを提案する。パートナーは、注力プロダクトのクラウドFAXソリューションが売れるストーリーを描きやすく、取り扱いしやすい。
(例2)パートナーの注力プロダクトが「組み込み型ハードウェア(パートナー自身が開発ベンダー)」、自社のプロダクトが「クラウドデータ分析可視化IoTプラットフォーム」の場合。
自社のプロダクトで製造業のIoT支援ができることを提案。パートナーは、組み込み型のハードウェア開発を受託できる。
2. パートナーが事業性を見込めることを明示する
自社のプロダクトを取り扱うことで、パートナーが得られる利益と市場の成長性を明示しましょう。
- プロダクトの顧客ニーズと市場の成長性がわかる
- パートナー側のプロダクト販売開始までのスケジュールや、数年後にパートナーにどれくらいの利益が見込めるのかがわかる
3. プロダクトの勝ち筋を簡潔に伝える
多種多様なプロダクトを扱っているパートナーの営業担当者は、プロダクト理解にかける時間も限られています。SaaSビジネスの営業担当者と同じレベルのプロダクト理解は難しいと考えましょう。そのため、提案資料では難しい機能説明は不要です。誰の、何を解決するプロダクトなのか。一目でわかるような説明を優先しましょう。
パートナーの営業がプロダクトの顧客をイメージでき、すぐに売れるような「勝ち筋」をまとめた資料を用意します。具体的には以下の項目があると望ましいでしょう。
代理店向け提案資料の構成要素
概要 | 補足 |
提案のサマリー | パートナーが取り扱う利点を記載 |
サービス概要 | サービスを一言で紹介。紹介受賞歴など権威性を提示 |
顧客の課題とペルソナ | 誰の何を解決するのか |
サービス特長 | 課題をどのように解決するのか |
導入効果 | 数字で具体的に明示 |
実績 | 導入企業のロゴや導入社数 |
導入事例・ユースケース | メインターゲットの課題と成果 |
市場規模・市場の成長性ポジショニング | 市場規模が大きい、または伸長していることを明示。競合 や代替手段と比較したポジション |
競合比較表 | 機能比較ではなく、顧客の選定軸比較 |
4. パートナーを支援する体制を示す
パートナービジネスを拡大するには、パートナーと一緒に市場を攻略する体制や仕組みが必要です。自社のプロダクトを取り扱う場合、どのような支援が受けられるかを明示しましょう。
以下に、パートナービジネスを成功させているSaaSビジネスの「パートナー支援内容」をまとめました。制度を策定する際のヒントになれば幸いです。
パートナーへの営業支援
・案件を紹介する
・商談同席を行う
・ビジネス開発をともに行う
・パートナーが顧客に提案する際に必要なツールを提供する
・パートナーがSaaSビジネスのプロダクトを導入する際は、優遇価格で提供する
パートナーへのマーケティング支援
・パートナー主催セミナーに登壇する
・支援金を用意し、共同でマーケティングを行なう
・パートナー認定ロゴの使用を許可する
・SaaSビジネスのWebサイトにパートナーの情報を掲載する
パートナーへのサポート支援
・販売後の顧客をサポートする
・SIなどの開発が必要なプロダクトの場合は、技術的な支援を行なう
・代理店主催のイベント運営、パートナーのWebサイトでの訴求内容を支援する
パートナーへの情報提供・交流
・プロダクトのロードマップをパートナーに先行公開する
・プロダクトのβ版を先行で提供する
・パートナー限定コミュニティに招待する
・パートナー限定の勉強会を開催する
【事例】市況の変化を捉え、パートナー契約を締結したケース
パートナーがプロダクトを採用するかどうかは、市況の変化も大きく影響します。市況の変化は顧客ニーズの変化を生み、新しいビジネスチャンスとなるからです。たとえば新型コロナウイルス感染症拡大によるリモートワークの普及や、2020年1月の改正電子帳簿保存法の施行によるペーパーレス化の加速などが、市況の変化として挙げられます。
例1:アスエネ株式会社「アスゼロ」(2022年8月に発表)
アスエネ株式会社が提供する「アスゼロ」は企業のサプライチェーンにおけるCO2の排出量を見える化するプロダクト。大阪ガス株式会社の100%子会社であるDaigasエナジー株式会社と業務提携を発表しています。Daigasエナジーが売りたい注力商材と、提携脱炭素経営に活かせるSaaSプロダクトをセットで販売し、企業の脱炭素化を支援するという訴求です。ESG投資(※)が広がる中で、市況の変化をとらえたケースだといえるでしょう。
※ESG投資:従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。
採用例2:株式会社インフォマート「BtoBプラットフォーム 請求書」(2021年2月に発表)
株式会社インフォマートの「BtoBプラットフォーム 請求書」は電子帳簿保存法やインボイス制度に対応した電子請求書サービス。2023年に導入されるインボイス制度や、2024年に宥恕(ゆうじょ)期間(※)を終える電子帳簿保存法への対応という、バックオフィスのトレンドに合致したプロダクトです。企業の対応義務が生じる法改正は、新しいプロダクト導入のインセンティブが強く働きます。パートナーにとっては顧客に提案しやすいプロダクトといえます。
※宥恕(ゆうじょ)とは「寛大な心で許す」ことを指します。2020年1月に施行された改正電子帳簿保存法ではもともと、「電子取引」によってやり取りされたデータを紙で保存することが禁止される予定でした。しかし対応できない企業が続出したため、完全義務化する時期を2024年1月1日に延期しています。
SaaSビジネスにとって、パートナーとの契約締結は通過点に過ぎず、パートナーが継続的に売ってくれる状態がゴールです。しかし、パートナーがプロダクトを担ぎたくなる理由が弱いと、せっかく契約をしても、思うように売ってもらえない事態に陥りかねません。
だからこそ、SaaSビジネスのプロダクトを代理店に提案する際は、「パートナーが担ぎたくなる理由づくり」が重要なのです。
ターゲットとなる代理店への解像度を高め、提案内容をブラッシュアップしましょう。
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