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新規事業開発の顧客インタビューをスムーズに実施するための営業への掛け合い方

インハウスエディター
南 大友

新規事業開発では、市場のニーズや課題、提供価値を検証するために見込み顧客へのインタビューを実施します。大企業では既存の顧客基盤を活かした新規事業を展開することが多いため、インタビュー対象は既存顧客になることが多いでしょう。

しかし、多くの顧客を抱える大企業であっても、インタビューの場を設けるのは容易ではありません。顧客との関係性があるとはいえ、それは既存事業での話です。担当も異なるほか、新規事業のために時間を割いてもらうには、顧客にとってそれ相応のメリットがないと協力してもらえません。

実際、大企業の新規事業担当者からはインタビューのやり方以前に、そもそもその機会を設けることに苦戦しているという声をよく聞きます。

そこで本記事では、大企業の新規事業において顧客インタビューを実施するのが難しい理由とそれを解決するためのアプローチについて解説します。

■監修:才流(サイル)コンサルタント・寺崎 夕夏

新規事業開発において顧客インタビューを実施するのが難しい理由

新規事業開発において顧客インタビューを実施するのが難しい理由を考える前に、まずはどのフェーズで顧客インタビューが行われるのかを整理しておきましょう。

新規事業開発では、大きく分けて以下の2つのフェーズで顧客インタビューを実施します。

  1. 前半フェーズ:事業のタネとなる顧客ニーズや提供価値、ソリューション案など、事業のコアをつくるための情報を探る段階。「解決すべき課題が何か」「顧客が本当に価値を感じるポイントはどこか」を検証する
  2. 後半フェーズ:製品・サービスを実際に売ることを想定し、より具体的かつ重要なフィードバックを集める段階。購買プロセスや決裁者、訴求ポイント、価格許容度などを検証する

そして多くの新規事業担当者が課題に感じているのは、前半フェーズ(フィットジャーニーにおいては、CPFやPSFが該当する)における顧客インタビューの依頼です。

後半フェーズは、すでに製品・サービスがあるため、顧客に対して試作品の提供や割引といったインセンティブを用意できます。また、基本的には前半フェーズでインタビューした顧客に再度打診することになるので、アポイントを取るハードルは高くありません。

一方、前半フェーズでは製品・サービスがないため適切なインセンティブを用意しづらいうえに、課題を探るのが主な目的であるため、インタビューで聞きたいことも漠然としがちです。

実際に顧客にインタビューを打診するのは普段から接点を持っている営業部門(もしくはカスタマーサクセス部門)ですが、前述の理由から営業も顧客へのインタビュー打診を躊躇してしまうことがよくあります。

営業に断られる典型的な依頼パターン

顧客インタビューは基本的に営業を通じて打診します。しかし、営業に依頼しても「動いてもらえない」「声をかけてもらえない」といった理由で顧客インタビューが実施されないケースが少なくありません。

そして、こうした事態を招く背景には依頼の仕方に問題があることが非常に多いです。ここでは、新規事業担当者がやりがちな、営業への依頼におけるアンチパターンを紹介します。

① 顧客との接点が浅い営業に依頼する

顧客インタビューを営業に依頼する際は、担当者選びが非常に重要です。そもそも顧客との接点が浅い営業に依頼しても断られる可能性が高いため、日頃からインタビュー対象の顧客と接点があり、話を通しやすい関係性にある担当者をリストアップしておきましょう。

ただし、対象顧客と接点がある営業が、他案件で手一杯であったり、退職や異動でもういなかったりするケースも少なくありません。その場合は代わりの候補を検討する必要がありますが、その見極め方にはコツがあります。次の章で詳しく説明します。

② アジェンダが不明確

営業に依頼する際は、インタビューの「目的」「対象者」「質問項目」などを明文化したアジェンダを用意しましょう。アジェンダがない状態で依頼されても、営業は誰に、何を伝えればいいのかがわかりません。

特にありがちなのが、対象者を指定しないケースです。同じ顧客でも部長クラスの意思決定者なのか、現場担当者なのか、はたまた顧客サービスの利用者(顧客の顧客)なのかによって打診するハードルは変わってきます。

営業と普段接点のない相手(別部署の人や顧客サービスの利用者など)がインタビュー対象となる場合は、営業が顧客に説明しやすいように、なぜその人物にインタビューを依頼したいのか、その背景までアジェンダに加えるようにしましょう。

③ 顧客と営業にとってのメリットを伝えない

顧客にとってメリットがないインタビューは、営業としても打診しづらいものです。顧客にただ時間を割いてもらうだけでは今後の関係性が悪化する可能性があるからです。

また、営業にとっても顧客インタビューは直接的にKPI(案件創出や受注額など)に寄与するわけではありません。そのため、何かしらのメリットがないと依頼そのものが後回しにされてしまいます。

顧客へのインセンティブを用意することに加えて、営業に対してもインタビュー後はその結果をまとめたレポートをフィードバックするなど、間接的にでも営業のKPIに貢献できるような仕組みを整えることが大切です。

営業に動いてもらうために新規事業担当者がとるべきアプローチ

ここからは顧客インタビューをスムーズに実施するために、新規事業担当者がとるべきアクションをステップごとに解説します。

① 協力してもらえそうな営業をリストアップ、選定する

まずは、顧客にインタビューを打診してもらう営業の選定を行います。第一候補は、直近でインタビュー対象の顧客と接点を持った営業です。誰が該当するのかは、同僚へのヒアリングやCRMの商談・サポート履歴を確認して把握しましょう。

ただし、必ずしも顧客と接点がある営業がインタビューに協力してくれるとは限りません。普段あまり交流がない営業だと依頼しても協力してもらえない可能性もあるでしょう。

そのため、定期的に勉強会や情報共有会を開催して営業との関係性を構築しておくことが大事です。営業との交流を深めることはもちろんのこと、勉強会に自主的に参加するメンバーは情報感度が高いといえるので、協力者候補としてリストアップしておきましょう。

また、大企業では部署の縦割り感が強く、どこにも属さない新規事業部署の依頼には協力してもらえないこともあります。自分が所属するライン以外からの仕事は受けないというケースです。こうした障壁を乗り越えるためには、依頼したい営業の所属部署向けに勉強会や情報交換会を開催し、直属の上司や部門長の了承を得ておくのが有効です。

インタビューの趣旨や期待される成果をその上司に直接説明した後、営業に対しては「○○部長の承認を得ています」「××課長からお取り次ぎいただいた案件です」といった形で依頼するとよいでしょう。

② 営業にとってのメリットを伝える

顧客インタビューは営業のKPIには直結しませんが、営業活動にプラスの効果があると伝えることで相手の理解と協力を得やすくなります

たとえば、インタビューで得られた顧客の課題を営業資料に反映すれば、提案の精度が高まり、受注率の向上が期待できます。インタビューを通じて新たな部署や担当者との接点が生まれることで、アップセルやクロスセルの機会が広がる可能性もあります。

こうした成果はすぐに現れるわけではありませんが、新たなニーズや人脈を発見できるという意味では営業にとって確実にプラスになります。特に、新しい切り口やアプローチ先を模索している営業にとっては、インタビューが普段得られない情報や関係性を築く貴重なチャンスとなり得ます。

また前述したように、新規事業部門としては情報交換会や勉強会を定期的に開催し、関心を持ってくれた営業をリストアップして関係構築を進めていくことを強くおすすめします。

加えて、インタビュー後の具体的なアクションを事前に共有しておくことも大事です。たとえば、「インタビュー結果の議事録を3営業日以内に提出する」「得られた声をもとに、○○部長を交えて営業に役立つ観点を共有・ディスカッションを実施する」といったアクションプランを示すことで、協力へのモチベーションは一層高まるでしょう。

③ 依頼メールと質問事項を作って共有する

顧客インタビューに協力してもらう営業にはできるだけ手間をかけさせないことが大切です。顧客へ送るメールの文面やインタビューの質問事項を事前に作成し、「このまま転送すればOK」という状態で営業に共有しましょう。

質問事項に関しては、「現状把握→理想状態→ギャップ解消案」というストーリー構成がおすすめです。新規事業では、今の状態と理想の状態とのギャップを見つけ、そのギャップを埋めるためにはどのようなサービスが理想なのかを議論していくことが有効だからです。

たとえば以下のように質問を整理しておくと、顧客は答えやすく、こちらも説明しやすいでしょう。

現状を明らかにする質問
「現在〇〇の運用はどのようにされているのでしょうか、この図と同じ流れでしょうか」

理想の状態をイメージさせる質問
「本来はこのようなことが理想だと伺いますが、貴社だとどうでしょうか」

ギャップを探る質問
「それを行うための課題は何でしょうか。例えばAのやり方とBのやり方、どちらがより課題解決に近いとお考えですか」

逆に「何でもご自由にお話しください」といったフリースタイルな依頼では、顧客が何を目的に何を答えればいいのか分からず、核心に迫るような情報は引き出せません。

④ 初回は短時間&少人数形式で打診する

初回のインタビューは参加のハードルを下げることが重要です。気軽に参加しやすいように30分程度の短時間かつ2〜3名程度の少人数での実施を提案しましょう。オンライン(Zoom や Teams 等)での実施を検討するのもよいでしょう。

なお、営業には顧客とのアポイント取得だけを依頼し、当日の運営(進行役・議事録作成・資料共有など)はすべて新規事業チームが担当します。

⑤ 顧客に渡せる価値(お土産)を作成する

すでに関係値がありカジュアルにインタビューを依頼できる場合はよいですが、そうでない場合はインタビュー協力への見返りとして、顧客に何かしらの価値(協力したい/してよかったと思えるもの)≒お土産を提供しましょう。

企画フェーズにおけるインタビューでは、業界動向レポートやベンチマーク企業調査(分析)、最新トレンドレポートなどを提供するのがおすすめです。たとえ内容がオープン情報(Web上に公開されている情報、二次情報)ばかりだとしても、顧客にとっては自社が関連する業務や業界の情報をまとめて知ることができ、新たなトレンドを学ぶ機会にもなるので感謝されることが多いです。

また、こうした資料を提供することで一定の業界知識や経験を持つ人からのインタビューであると感じてもらえるため、信頼関係を築きやすくなります。インタビュー打診の時点で資料を提供できる旨を伝えておくとアポイントを取得できる可能性も高くなるでしょう。

インタビュー依頼メール&質問事項例

前章で解説したアクションを実践するために、依頼メールとそこに添付する質問事項の例文を紹介します。これらをベースに、自社の状況に合わせてカスタマイズしてください。

インタビュー依頼メールの例

インタビュー依頼メールは新規事業担当から営業宛てのものと、営業から顧客宛てに送るものの2種類を用意しておきましょう。

新規事業担当者 → 営業宛て(社内)

件名:【依頼】◯◯様(ABC社)へのオンラインヒアリング設定のお願い

◯◯部 ◯◯様

お疲れ様です。新規事業開発室の△△です。
現在、◯◯領域での新サービス企画のため、既存顧客10社に
課題ヒアリングを実施しております。

▼ご協力いただきたい内容
・対象 :ABC社 ◯◯業務のご担当者様(〇〇業務担当部署で、現場の解像度もあり意思決定権を持っている方を希望)
・形式 :Zoom 30分(当社企画部の2名が参加。営業部の同席は任意です。日程調整のみお願いできれば幸いです)
・目的 :業界内の◯◯業務プロセスの実態と課題のヒアリング
・インタビュー対象者へのインセンティブ(提供資料)
 ‐ 業界トレンド・ベンチマーク資料(全15p)

営業部の皆様へのフィードバック:
・実施後は3営業日を目処に議事録を共有します。

下記候補日を転送いただくだけで設定可能です。
【候補】7/25(木)10:00‑18:00、7/26(金)13:00‑17:00
※顧客へのメール文面も後ほど送付します。

ご負担は最小限にしますので、何卒ご協力をお願いいたします。

営業 → 顧客宛て(転送利用可)

件名:ご協力のお願い|◯◯領域に関する短時間ヒアリング(30分オンライン)

◯◯様

いつも大変お世話になっております。◯◯社 ◯◯です。
弊社新規事業開発室より、◯◯領域の業務実態について
ぜひ◯◯様のお考えを伺いたいとの依頼がございました。

▼概要
・趣旨 :業界課題の整理と新サービス検討の参考情報収集
・所要 :30分(オンライン)
・形式 :事前に質問リストを共有、当日は選択式中心
・お伺いしたいこと:〇〇業務のフロー、現状課題、新サービス案へのフィードバック
・当日共有資料・お礼:業界トレンド・ベンチマーク資料

もしご都合が合えば下記候補よりご選択ください。
【候補】7/25(木)10:00‑18:00、7/26(金)13:00‑17:00

当日お伺いした情報は弊社でのサービス検討のみに利用させて頂きます。
またご担当者様にて回答が出来る範囲で構いませんので、ご検討いただけますと幸いです。

質問事項の例

新規事業開発における顧客インタビューの質問事項は、以下の例のように「現状把握」「理想状態」「ギャップ解消」の3つの視点ごとに整理する方法のほか、検証したい仮説に応じて柔軟に設計するとよいでしょう。

【現状把握パート】
 1. 現在の○○業務はどのようなフローで実施されていますか?
 2. その中で最も時間を要している作業は何でしょうか?
 3. その作業で特に負担を感じられている点を教えてください
 4. 現在どのような解決方法を取られていますか?不満に感じる部分はありますか?
【理想状態パート】
 5. 理想的には、○○業務をどのような状態にしたいとお考えでしょうか?
 6. もし予算や技術的制約がなければ、どのようなことがしたいですか?
 7. 業界全体として、今後どのような変化が起こると予想されますか?
【ギャップ解消パート】
 8. 理想に対して、最もインパクトが大きいと感じられる業務は何ですか?
 9. 現状と理想のギャップを埋めるために、AとBの方法ではどちらが有効だと思われますか?
 10. 新しい方法を導入する際、最も重視する点は何でしょうか?

新規事業開発における顧客インタビューの準備およびインタビュー項目の設計について詳しくは以下の記事で解説しています。

関連記事:新規事業における課題探索インタビューのメソッド/進め方

まとめ

新規事業開発における顧客インタビューは、営業との連携が不可欠です。営業に協力してもらうには彼らの立場を理解し、顧客と営業の双方にとってのメリットを明確に示す必要があります。依頼時には当日のアジェンダや質問事項を用意し、営業の負担を最小限に抑える配慮を欠かさないようにしましょう。

また将来的には、インタビュー対象者限定のオンラインセミナーやワークショップを開催したり、最新企画の仮説検証やディスカッションの場を設定したりすることもおすすめです。企画過程に巻き込むことで一体感が生まれ、顧客との関係性も「インタビュー対象者」から「共創パートナー」へと深化します。

新規事業担当者はインタビューの相手が営業の大切な顧客であることを常に意識し、自身と営業および顧客が中長期的にwin-win-winの関係を築けるよう、ていねいなコミュニケーションを心掛けましょう。三者間でwin-win-winの関係性が構築できれば、テーマが変わっても協力を得やすくなり、情報収集や仮説検証も早く回るようになります。

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