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営業の課題解決から信頼を育む。ABMの実践を加速するBtoBマーケティング組織の作り方

法人営業
コンサルタント
政次 貴弘

ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)を実践する企業を取材する本連載。
今回は、NECソリューションイノベータ株式会社を取材しました。

2018年にマーケティング専門組織を立ち上げた同社は、マーケティングプロセスの標準化、営業部門との連携強化などの施策を進め、BtoBマーケティングの基盤を構築。コロナ禍においては、すべての顧客接点をデジタルへシフトし、事業成長に邁進してきました。

そして現在、さらなる事業成長を目指し、ABMに注力。売上の拡大、利益率の向上といった手応えを感じているといいます。

ABMの推進に、マーケティング組織の体制構築は欠かせません。マーケティング推進本部をリードする飯島圭一さんに、同社のBtoBマーケティングの変遷と、ABMへの取り組み、そしてマーケティングと営業の連携を深める方法などをうかがいました。

NECソリューションイノベータ株式会社 
マーケティング推進本部 本部長
飯島 圭一さん

1993年より、外資系企業やスタートアップ企業において、IT企業のセールスおよびマーケティング分野で一貫したキャリアを構築。2016年11月にNECソリューションイノベータへ入社し、2018年よりマーケティング推進本部を牽引する。

NECソリューションイノベータ株式会社

NECグループが展開する社会ソリューション事業における中核会社として、クラウド、SDN、ビッグデータ、セキュリティなど幅広い領域で、時代をリードする先進のICT技術力を発揮する企業。

組織は、5つの事業ラインと営業機能、デリバリモデル・トランスフォーメーション機能、全社スタフ機能で構成され、マーケティング推進本部は経営企画部やHR戦略室、経理部などがある全社スタフ機能に所属する。

部署の役割を明確にする「ミッション・KPI・プロセス・行動指針」を定義

政次 NECソリューションイノベータでは、2018年にマーケティング推進本部を発足し、今日まで飯島さんがチームをリードされています。飯島さんがBtoBマーケティングや組織運営で重視してきたことをお聞かせください。

飯島 私は外資系企業でのマーケティング経験が長く、日本の企業もグローバルスタンダードのマーケティングを実現しなければ、未来はないと考えていました。

日本企業の多くが「マーケティングだ」と考えて行ってきたことと、グローバルスタンダードのマーケティングは、まったく違うんですよね。

NECソリューションイノベータ マーケティング推進本部 本部長 飯島 圭一さん

飯島 たとえば、営業部のなかに営業企画のような部署があり、展示会の企画や、カタログ制作などを担当する。いわば、営業の下請けのように動くことがマーケティングだ、と考えている日本の企業は多かったように思います。

かたやグローバルスタンダードのマーケティング部門は、営業と対等の立場です。マーケティングのプロセスを可視化し、獲得したリードをナーチャリング、営業へトスアップし、案件へつなげるデマンドジェネレーションを行う、デマンドセンター(※1)として機能しています。

ですから、マーケティング推進本部の立ち上げに関わることになったとき、「私たちはデマンドセンターであり、営業と横関係にある部署だ」と明確に位置づけ、ミッションはデマンドジェネレーションであると定義しました。ミッションの定義には、かなりこだわりましたね。

現在マーケティング推進本部には、営業と接するフィールドマーケティングチームのほか、調査を専門とするマーケットインテリジェンスチーム、両チームを横断的に見て、プロセスの標準化とデジタル化を行う、DXアーキテクトチームなど、複数のチームがあります。

才流コンサルタント 政次 貴弘
コンサルタント 政次 貴弘

政次 マーケティング推進本部の立ち上げにあたって、そのような思いを込められていたんですね。

日本企業におけるマーケティングの課題には、BtoB領域のマーケティング部門そのものが存在していなかったこともあると思います。

コロナ禍で従来の展示会や訪問営業に制限がかかったことで、BtoBマーケティングへの関心が高まりました。マーケティングの部署を立ち上げる企業も増え、マーケティングへの意識が変わってきたのではないかとも感じています。

しかし、マーケティング部門のやることがはっきりせず、うまく機能しないという悩みもよく聞きます。部としてのミッションの定義が求められますね。

飯島 よくある営業とマーケティングの関係性では、評価も「マーケティング、いろいろと夜遅くまでがんばってくれた」のような、感覚的な内容に留まっていたと思うんです。そのような状況も、私は絶対に「ノー」だと考えていました。

ミッションを明確にすると、それに沿ったKPIができます。部署を立ち上げた当時のKPIは、案件創出金額とリードの獲得数。それらが、マーケティング活動を評価する指標であることを、業績評価まで含めて定着させました。

KPIを適切に見るためには、業務プロセスを標準化することが前提です。マーケティング推進本部は、社内の多くの事業部にあった販促グループのメンバーを中心にスタートしましたが、それぞれが独自の方法で業務にあたっていたため、プロセスが本当にバラバラでした。それでは、施策が良いか悪いかの判断もできません。

そこで、組織の発足を機に、誰がやっても再現できる形を目指してマーケティングのプロセスを1から定義し、KPIを計測できるようにしました。

政次 部署としてのミッション、役割を定義したことで、KPIの設計、そのためのマーケティングプロセスの標準化と、必要な流れがすべて見えてきますね。

部署の新設時に定めたい、4つの運営方針
MQLとは、マーケティング活動によって得られた確度の高いリード(見込み顧客)のこと

飯島 さらに私たちは、組織発足後の早い段階からマーケティングのダッシュボードをつくってプロセスを見える化し、データをもとにしたアクションを繰り返してきました。データドリブンで、あらゆる事象を見える化し、判断しようという行動指針を立てたのです。

マーケティングと営業の共通言語は、やはりデータであるべき。主観が入り曖昧な状態にしてはいけません。ですから、活動プロセスごとにデータをしっかりと取り、データをもとに、判断ができる状態を目指しました。

プロセスが標準化され、データが取れると、横並びで事業部ごとの状況が見えてきます。

たとえば、「あの事業部はリードジェネレーションが弱い」「あちらの事業部はリード獲得の目標は達成しているが、商談の数が少ない。ナーチャリングをやっていないからだ」とわかります。データをもとにした評価ができると、適切な改善策が打てるんです。

これらの取り組みの結果、サブKPIとして見ている「100万円の販促費でどれだけ案件ができたか」という指標は、3倍以上になりました。同じ額を使っているにもかかわらず、案件創出金額が増えている。プロセスが効率化したという現れでもあります。

「営業とマーケティングは同じ船に乗らないと沈没する」

政次 マーケティングの組織を新しく立ち上げ、取り組みを進めるなかで、営業部門からはどのような反応があったのでしょうか。

飯島 疑問の声はありました。それぞれに自分たちのやり方があったわけですから。外の会社から来た知らない人が、やれMQL(※2)だSQL(※3)だと言い出して、「何を言っているのか、まったくわからない」という状態だったと思います。

とはいえ、現状の方法でうまくいっている人に何を伝えても、行動は変わりません。ですから、まずは困っている人と組むことから始めたんです

政次 困っている人、ですか?

飯島 具体的な例を挙げましょう。とある営業部に、展示会でたくさんリードを取っているのに、案件が作れないという課題がありました。そこで、マーケティング部門のほうから「我々と一緒に改善しましょう」と提案したんです。結果、案件創出額が10倍になりました。

私たちが取り組んだことはシンプルです。まずは、名刺の獲得から営業がフォローするまでのプロセスを細かく分解し、整理しました。続いて各プロセスを数値化したところ、名刺情報のデータ化に1か月かかっていることがわかったんです。展示会から、架電やメール送信といった営業の初回アプローチを行うまでに、相当な時間が経っている。このボトルネックを、次の展示会で解消しました。

私たちも展示会へ参加し、バックヤードにSansanを持ち込んで、いただいた名刺をどんどんデータ化していきました。翌日には、あらかじめお礼メールを設定していたマーケティングオートメーションから、メールを送ります。お客さまにとって、「展示会で名刺を渡して資料をもらったら、翌日にはメールが届いている」状態をつくったのです。メールの開封率は、以前に比べ何十倍にもなりました。

さらに、メール内のURLをクリックした方に対し、インサイドセールスがフォローを行い、MQLを営業へ渡す。その結果、案件創出額は10倍になりましたし、これまでかけていた営業の工数も減ったんです。

政次 営業にとって、「デマンドセンターとはどんな部署なのか」を実感する体験ですね。

飯島 このように、「営業の困りごとをマーケティングが解決する試み」を、何十回何百回のレベルで繰り返し、成果を出していくと、しだいに他の事業部からも興味や関心を集めるようになります

あわせて私は、営業部長や経営層、幹部層などのエグゼクティブが集まる場で成果やアウトプットを共有することも繰り返してきました。こうして、信頼を得て、営業とマーケティングが一緒に取り組むようになっていったのです。

政次 まず営業の課題を解決し、成果をつくる。そして、他部署のキーパーソンやエグゼクティブ層へ成果を発信していく。新しい取り組みを始めるときは、スモールスタートやスモールサクセスを目指しましょうと言われますが、飯島さんのお話からは、1回ではなく何度もそれらを繰り返し、徹底することが重要だと実感しました。

飯島 私はよく、「営業とマーケティングは同じ船に乗らないと沈没する」という表現を使います。同じ船に乗るためには、同じゴールと共同作業が必要です。

私たちが実践している共同作業に、マーケティングと営業と事業部が一緒に、ペルソナとカスタマージャーニーをつくるワークショップがあります。1日かけて、一緒に取り組むんですね。期初や新しい分野に参入する際に行っています。

あくまで一例ですが、協力して作ったという体験により、同じ船に乗れるようになるんです。日本の企業の方に知っていただきたいのは、「まずは懇親会、じゃないですよ」ということ。共同作業をやらなければ、同じ船には乗れないことを伝えたいです。

未経験からのマーケター育成。理論のインプット、議論、実践、アセスメントをくり返す

政次 これまでの取り組みから、事業にはどのような成果が出ましたか。

飯島 最新の実績でいいますと、案件創出金額が3倍以上、新規リードの獲得単価は70%減となりました。また、インサイドセールスの商談獲得数は2.7倍となり、100万円の販促費で創出できる案件金額は3倍となりました。

政次 素晴らしい成果ですよね。コロナ禍においても、マーケティング予算の削減が検討されるなか、飯島さんが顧客接点をすべてデジタルへシフトすることを提案され、そのきっかけはセキュリティ製品の事業部がウェビナーで実績を出していたからだということもうかがいました。

NECソリューションイノベータには、もともとマーケティング経験者が多かったのでしょうか。

飯島 2018年にチームが発足したときは、未経験者ばかりでした。そこで、理論のインプットと実践を繰り返してきたんです。

まずは、マーケティングプロセスを標準化するときに、やることをドキュメント化しました。たとえば、デマンドジェネレーションのやり方として、ターゲティングの方法からペルソナ、カスタマージャーニーの作り方、営業数字から逆算したファネルの作成、それらをどうメディアミックスへ反映していくかなど、すべてドキュメント化しました。

100ページくらいでしょうか。それをもとに、実践してふり返るというトレーニングを徹底して行い、ベーススキルを高めました。

さらに理論のインプットでは、オフライン、オンライン問わず、コンサルティング会社や産学で主催しているマーケティングのプログラムを活用しました。ただ受講するだけではなく、3日以内にレポート提出、エグゼクティブサマリーを作って、少人数で議論するところまで行う。このようなサイクルを回してきました。

その結果、定期的に行っているBtoBマーケティングのアセスメントの評価は年々上がっています。理論はしっかりインプットできており、実践力もついてきていますよ。

「マーケター育成の一環として、ツールベンダーのコミュニティ参加や活用事例のアワードを狙うのもおすすめ」と飯島さん。とくにアワードの獲得は、自社内におけるマーケティング活動の認知にもつながる。

政次 ここまでの大きな実績をつくるには、営業のみなさんもデジタルツールを日常的に使いこなしているのではと思います。ツールを導入してもなかなか使われないという問題も根強くありますが、飯島さんは、どのような対応をされたのでしょうか。

飯島 社内にマーケティングの役割を浸透させていったときと同じ方法です。

たとえば当社では、ターゲティングにBtoB事業向け顧客戦略プラットフォームのFORCASを導入しています。毎年4月に各営業が戦略発表会を行いますが、FORCASの名前が出ない発表会はありません。それぐらい浸透しています。

しかし、FORCASを導入した初期は「ツールを使ったターゲティングより、営業の勘と経験が正しい」という声が大多数でした。そこで私たちは、ツール活用に積極的なチームと協力し、FORCASでターゲティングを行い、実績をつくりました。「FORCASでターゲティングしたリストのDM開封率は、そうでないリストより圧倒的に高い」というような結果が出れば、他のチームも活用しよう、となります。

政次 「売上を伸ばしたい」という営業の本音をシンプルに刺激することが重要なんですね。

ターゲティングを見直し、利益を追求するためのABM

政次 ここからは、ABMについてうかがいます。2023年頃から、ターゲティングの精度を高め、個社単位でターゲティングリストをつくり、マーケティング・営業活動を進めているとうかがいました。その背景を教えてください。

飯島 NECソリューションイノベータの提供価値は、高度なシステム・エンジニアリングです。金融システムや自治体のシステムなど、絶対に止めてはならない社会ソリューション事業を支えるシステムを開発する。そして、メンテナンスを行い、安定したサービスの提供が当たり前の状態をつくれることが、私たちの提供価値なのです。

しかし、数年前までを振り返ってみると、ターゲティングが適切ではありませんでした。小規模なシステムのほうが適している案件や、我々の提供価値が充分に評価されない案件へ提案するような状況があったんです。

重視するべきは、受注の数や売上金額ではなく利益です。私たちの提供価値を評価し、その投資コストを認めてくださるお客さまは誰だろうか?という本質的なことを考えたことが、ABMへシフトする始まりでした。

現在は、FORCASのデータや帝国データバンクの評点、Salesforceに蓄積した活動履歴など、さまざまなデータを分析し、400社前後の統合ターゲティングリストをつくり、営業とマーケティングが一緒になって取り組んでいます。

政次 ABMをはじめたことで、マーケティングにはどのような変化がありましたか。

飯島 これまでは、プロダクト営業だったんですよね。プロダクトありきで、セキュリティや物流などのシステムを営業していました。しかし、営業戦略としてソリューション営業へシフトするようになると、最初にアプローチすべきは、現場の主任や課長ではなく、部長や事業部の本部長といった層になってくる。

これを踏まえると、マーケティングのコンテンツが変わってきます。これまでは「現場でわかるセキュリティ対策」のようなテーマだったのが、部長職以上の人が関心を持ちやすい、経営課題とセキュリティを結びつけた上位概念のテーマになります。このようなアプローチの変化が起きていますね。

あわせて、マーケティングプロセスの磨き直しにも取り組んでいます。これまでは、MQLもSQLも、その定義を人間が判断していましたが、システムが判断できるように基準を精査しているところです。

営業とマーケティング間のSLA(Service Level Agreement ※4)の認識を揃えるところにも着手しています。

MQLを渡しても、営業(インサイドセールス)が放置してしまって動かないケースってよくありますよね。SLAとして「MQLが渡されたら、営業は3日以内に架電もしくはメールをする」というようなルールを決めようと準備をしています。

ABMにシフトしたからではなく、これまでのプロセスを見直して、よりパフォーマンスを高めていこうという考えです。

役員層・管理職層の強いコミットメントを現場との対話で示す

政次 NECソリューションイノベータには、複数の事業部があります。ABMは、特定の事業部からスタートしているのでしょうか。

飯島 横並びでスタートをしました。一部をのぞいて、ほぼすべての営業チームが統合ターゲティングリストにそった活動をしています。

もちろん、戸惑いもありました。

政次 そうですよね。なかには、営業チームとして担当するお客さまが変わったり、対応の優先順位を調整したりという変化もあったと思います。

飯島 しかし、会社として成長していくための大きな決断です。その結果、ABMを進める前に比べ、狙った効果をあげることができています。苦渋の判断もありましたが、今はみんな納得して取り組んでいると考えています。

政次 数字で成果を示していくことが、心境の変化にもつながる。

飯島 数字は重要ですが、対話も同じく重要です。当社は、対話をとても大切にしています。大きな戦略変更があるときは、役員層が現場と対話を行い、会社としての狙い、3年後のビジョンをきちんと伝えます。現場からも、不安や意見がさまざま出てきます。それに対しても、役員層が真摯に回答するんです。すると、みんなが一つの方向を向いていきます。

政次 おっしゃるとおりだと思います。NECソリューションイノベータのマーケティングや営業DXが進んでいる背景には、対話があるからなのだと感じました。

ABMのみならず、戦略の変更においては、エグゼクティブ層や管理職層の熱意が伝わらなければ、現場も動きません。対話やコミュニケーションの重要性は、あらためて意識したいところです。

では、現場間でのコミュニケーションはいかがでしょうか。営業とマーケティングの会議体について教えてください。

飯島 まず、営業、マーケティング、実際のプロダクトを持つ事業部で行う、クロスチームの会議が週次であります。ビジネスの状況を共有し、課題はその会議で解決するような内容です。

そして、マーケティングの月次の会議があります。横断で各プロモーションのデータを見ながら、「リードのなかのMQLの割合が多いけれど、どんな取り組みをしたの?」のような知見やノウハウを共有し、それぞれが取り入れていく。マーケティング活動の質を高めることにつながっています。

政次 会議体の設計では、「誰を呼ぶか」も問題になりやすいです。会議体の参加者について、アドバイスをいただけますか。

飯島 「参加者は誰か」ではなく、会議のアウトプットが何で、誰にどんな意思決定をしてもらいたいのか?から、決めていくとよいですね。

まずは、プロセスが標準化されデータで分かる状態があることが前提です。そのうえで、データを見て、たとえば「今週はMQLが何件で、昨年対比1.5倍だね」「でも、コンバージョンは昨年に比べて半分になっている」という状況を読み取り、評価できる上司であれば参加の意義はあります。しかし、データを読み取り、レビューができないならば、経営層が参加しても無意味な会議になってしまうと考えています。

マーケティングの評価指標は案件創出金額からMQLへ

政次 続いて、マーケティングの評価指標について教えてください。

飯島 2023年度までは案件創出金額を評価指標にしていましたが、営業のさじ加減で変動しやすい指標でもあります。そこで、2024年度からは一旦KPIから案件創出金額を外し、マーケティングでコントロールできるMQLを最重要KPIとして定義することにしました。

もちろん、MQLからの商談化率・受注率も見て、量と質の両方を追っていきます。そして、MQLがしっかりと案件化し、受注、利益となり、ROIがプラスになったという状態までわかる評価サイクルをつくろうと考えています。

また、一緒に動く営業や他部署からの定性的なフィードバックも重要です。たとえば、営業のリソースを顧みず、ひたすらMQLを送り続けることは、やはり適切ではありません。

政次 ABM、とくにエンタープライズセールスにおいて、評価指標は永遠の課題ですよね。お客さまが数年かけて検討されるなかで、さまざまなイベントに参加したり、営業と面談をしたりと複数の接点を持ちます。いったいどの施策が寄与したのかも含めて評価を考えると、難しさを感じます。

いっぽうで、MQLをKPIにすることが難しいケースもあります。とくに、営業の役員、管理職層にとっては、「MQLが100個あって営業は嬉しいの?」と受け止めかねません。

飯島 私たちの場合は、営業と築き上げてきた信頼関係があります。たとえば、「マーケティング基点で案件創出額が200億円あります」と言うと、営業はそれが自分達の売上に貢献していることを認識できるんです。

ですから、KPIをMQLにしても「マーケティング部がそういっているなら、間違いない」となる。

完璧でなくてもいいんです。マーケティングが、受注や売上にどれだけ貢献しているのかを見える化すると、信頼関係はつくれます

政次 今後、NECソリューションイノベータのマーケティングは、どのような展望を描いていますか。

飯島 これまでは、マーケティングをデマンドセンターと呼んでいましたが、市場進出を意味するGTM(Go-to-Market)グループという名前に変えました。もう一段階高く上がろうという意味を込めています。

マーケティングから営業、カスタマーサクセスに至るまで一貫のプロセスをシームレスにしっかりと回し、成果を出していくチームへと昇華していきたいです。

才流のコンサルタントが解説

コンサルタント・政次

飯島さんがおっしゃる、「営業とマーケティングは同じ船に乗らないと沈没する」という表現、とても共感しました。

とくにABMは、マーケティングと営業の協力体制が大前提です。
とはいえ、部署間の壁は高く、なかなか思うようにいかないですよね。

政次 では、どうしたらよいのでしょうか。

飯島さんのお話を参考に、マーケティングサイドから取れるアクションをまとめました。

  • 営業部門で困っている人を見つけ、マーケティングの仕組みで支援する
  • 支援と周囲への成果の共有を何十回とくり返し、影響範囲を広げる
  • ベンダーコミュニティの活動やアワード獲得などで社外から評価を受ける機会をつくり、社内での存在感を高める
  • 営業と同じゴールを持ち、共同作業を行い、信頼関係をつくる

これらのアクションは、ステークホルダーの本当のニーズに応えようとする信念と、粘り強い実行力があってこそ成功します。飯島さんは、「マーケティングとはインテリジェンスが10%、残りの90%は血と汗と涙」ともおっしゃっていました。

そして、NECソリューションイノベータでは、経営層と現場の対話を大切にしていることも印象的です。経営層や管理職層の強いリーダーシップがあってこそ、ABMは推進すると実感しました。


※1 デマンドセンター:獲得したリードをナーチャリング、営業へトスアップし、案件へつなげるデマンドジェネレーションを行う機能、組織のこと

※2 MQL(エムキューエル):Marketing Qualified Leadの略。マーケティング活動によって得られた確度の高いリード(見込み顧客)のこと

※3 SQL(エスキューエル):Sales Qualified Leadsの略。MQLのなかからインサイドセールスや営業がフォローし、案件と認定されたリード(見込み顧客)のこと。案件の定義は、商談化や提案など企業によって異なる。

※4 SLA(サービスレベルアグリーメント):Service Level Agreementの略。「サービスを、このレベル、この範囲で提供します」と示す基準。ここでは、営業とマーケティングにおいて、リードの質や、MQL、SQLを受け取ったあとに何をするかを明確にすることを指す。


(撮影:関口 達朗)

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