初回の訪問で顧客の役員と関係の糸口はできたけれど、2回目以降どう深めればいいかわからず、毎回似たような近況報告と雑談で終わってしまう。定期的なエグゼクティブ訪問について、こうしたご相談をよくいただきます。
本記事では、2回目以降のエグゼクティブ訪問の目的を、「フィードバック収集」「リレーション強化」「ポジショニング強化」「組織力学の把握」「売上創出」「ビジネス機会の発見」の6つに整理。目的達成を狙う順番、質問・トーク例、事前準備などについて解説しています。初回訪問で得た情報をもとに、信頼を積み上げ、成果につなげるために取り組んでみてください。
対象は、自社の役員に同行し、定期訪問を設計する立場の営業担当者の方です。当日に会話するのは役員同士ですが、成果につながるかどうかは、設計者である営業担当者の準備次第です。
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※関連記事:はじめてのエグゼクティブ訪問|表敬訪問で終わらせない準備と面談の進め方
2回目以降のエグゼクティブ訪問、目的は6つ
2回目以降のエグゼクティブ訪問の目的は、6つに整理できます。ただ訪問の回数を重ねるのではなく、1回ごとに訪問の目的を1~2つほどに絞ると、目的を達成しやすくなります。
| 目的 | 概要 |
| ①フィードバック収集 | 自社サービスへの本音や苦言を引き出し、改善につなげる |
| ②リレーション強化 | 役員個人のプロファイルやキャリア観を把握し、関係を深める |
| ③ポジショニング強化 | 競合と比べた自社の立ち位置や、選ばれている理由を確認する |
| ④組織力学の把握 | 部門ごとの予算・意思決定者・キーパーソン・反対勢力を押さえる |
| ⑤売上創出 | 進行中の案件の停滞要因を、役員の力で取り除く |
| ⑥ビジネス機会の発見 | 経営方針の深掘り、投資の優先順位、未公開プロジェクトなど、ビジネス機会の兆しをつかむ |
どの目的をどの順番で達成しにいくのがよいか迷う場合は、基本的には番号の順に進めていきましょう。
②リレーション強化、③ポジショニング強化、④組織力学の把握は関係性を発展させるための土台となるものです。①フィードバック収集は、②~④と常に同時並行で進められます。初契約の直後であれば、不満を早期に拾うために①の優先順位を上げるとよいでしょう。
⑤売上創出、⑥ビジネス機会の発見は、①~④を経て、踏み込んだ会話ができる関係ができてからのほうが達成しやすくなります。
ただし、上記はあくまでも基本です。「ここは聞く」「ここは聞かないほうがいい」などは、状況に応じて臨機応変に判断する必要があります。目的達成にばかり意識が向いて、相手が踏み込んだ話をはじめたのにスルーしてしまうことのないようにしましょう。
コンサルタントの実践ポイント

一度の訪問で深い話を聞けることはほとんどありません。最初は話しやすい現場の課題や改善点のフィードバックなどから入り、徐々に関係を深めるなかで会食・接待といった非公式な場が生まれます。より踏み込んだ組織の話や個人としての思いなど、本音で語り合えるようになるまでには積み重ねが重要です。半年~1年に1度の頻度で訪問を設定しましょう。
目的に応じた質問・トーク例と事前準備
ここからは、目的に応じてどのような質問や事前準備をすればいいのかを解説していきます。
質問案は目的を達成するために必要なことをまとめていますが、そのまま使うのではなく、顧客の状況や役員の好みに応じて必ずカスタマイズしてください。とくに他社に対する批判的な話や、個人的な話などはタイミングや聞き方によって、心象を損ねてしまうこともあります。人と人として、丁寧に向き合う姿勢は忘れないようにしましょう。
目的①フィードバック収集
フィードバック収集を目的にする場合、現場では吸い上げられない自社への本音や不満を引き出すための質問をします。現場の状況を共有し、反応を見ながら、サービスや自社への率直な意見や改善点などを聞くようにしましょう。
現場の状況共有
現在、○○部門の皆さまと○○の取り組みをご一緒させていただいております。
おかげさまで現場では○○が進んできた、とご担当者から伺っております。
○○様から見て、この取り組みが今後さらにお役に立てるとしたら、どのあたりだとお感じになりますか?
サービスへの率直な意見
私どものサービスについて、〇〇様のお立場から見て、物足りない点や期待と違っていた点はございますか?
現場の皆さまからは言いにくいこともあるかと存じます。率直なご意見をお聞かせいただけますと幸いです。
改善点・今後への期待
今後もご一緒させていただくうえで、私どもに改善すべき点はございますか?
〇〇様として、今後私どもにどのような役割を期待されていますか?
現場の担当者は、日々連絡を取り合うなかで、なかなか不満を言いにくいものです。エグゼクティブ訪問では、役員というレイヤーだからこそ言える率直な不満を聞き出すことがポイントです。ここで得た情報は、サービス改善の貴重な材料になります。
営業担当者の事前準備として、自社サービスの提供状況と、現場から上がっている課題感を整理し、自社の役員にインプットしておきましょう。
目的②リレーション強化
リレーション強化を目的にする場合は、役員個人を深く理解し、自社の役員と直接連絡し合える関係を作るために時間を使います。基本属性やキャリア観などを把握し、個人的な関心事をヒアリングしつつ、共通の話題を探っていきましょう。
役職・決裁権限・懐刀にしている部下などのプロファイル
この春から〇〇もご管掌されていると伺いました。現在はどのような範囲をご担当されていますか?
〇〇のような新しい取り組みは、〇〇様のご判断で進められることが多いのでしょうか?
〇〇の件は、どなたにお任せになることが多いのでしょうか?
本人が任期中に残したい成果
〇〇様がこのポジションにいらっしゃる間に、これだけは形にしたいとお考えのことはございますか?
1年後に振り返ったとき、どのような状態になっていれば手応えを感じられそうですか?
個人として情熱を注いでいる事柄
お仕事のなかで、〇〇様ご自身がとくに思い入れを持って取り組まれていることはございますか?
〇〇様がこの領域に関わられるようになったのは、どのようなきっかけだったのでしょうか?
秘書を通さず直接連絡してよいか
今後、何かございましたら、〇〇様へ直接ご連絡を差し上げてもよろしいでしょうか?
ご連絡の際は、メールとお電話など、どの方法がよろしいですか?
ポイントは、趣味などの世間話にとどめず、本人の「勝負どころ」を理解することです。役員が退任までに自分の功績として刻みたいものは何か。ここがわかると、その実現に自社がどう貢献できるかという長期の提案軸が見えてきます。
事前準備として、これまでの面談で得た役員個人の情報を整理し、自社の役員にインプットしておきましょう。前回までの情報を踏まえて会話を重ねることで、関係が積み上がります。
目的③ポジショニング強化
ポジショニング強化を目的にする場合、競合と比べた自社の印象や、自社を選んだ理由、価値を感じる点などについて質問をします。
顧客から見た自社の位置づけ
〇〇様から見て、私どもはどのような会社という印象をお持ちでしょうか?
社内で私どものことが話題に上がる際は、どのような会社として紹介されていますか?
自社が選ばれている理由
数ある会社のなかから私どもをお選びいただいた決め手は、どのような点だったのでしょうか?
現在もお取引を続けていただいている理由を、率直にお聞かせいただけますか?
競合と比べて自社が勝っている点
ほかにお付き合いのある会社と比べて、私どもならではと感じていただいている点はございますか?
〇〇の領域で、私どもにお任せいただいている理由はどのような点でしょうか?
競合の弱み・他社への不満
私どもや他社も含め、ベンダーとやりとりをする際、どのような点が気になりますか?
今後、私どもにお任せいただける領域があるとすれば、どのような分野でしょうか?
ポイントは、自社が顧客からどう定義されているかをつかむことです。競合と比べて自社は何の会社と認識されているか。なぜ自社が選ばれているのか。競合の弱みや自社が勝っている点まで聞ければ、今後の提案戦略やサービス改善にいかせます。
事前準備として、顧客への販売商品一覧や取引金額を把握し、自社の役員にインプットしておきましょう。自社の現在地を理解していると、強みの再確認と次の提案の糸口をつかみやすくなります。
目的④組織力学の把握
組織力学の把握を目的にする場合、実質的な意思決定者やキーパーソン、部門間の関係やプロジェクトの推進を阻む壁などについて質問をします。組織力学の把握は、プロジェクトの成功確率や進行スピードを上げ、これからぶつかる壁を予測するための一助になります。
部門ごとの予算規模と実質的な決裁ルート
〇〇のような取り組みの予算は、各部門でお持ちなのでしょうか?
規模の大きな投資をご判断される際は、どのような流れで決まっていくことが多いのでしょうか?
役員が全幅の信頼を置く懐刀
〇〇様が日ごろ、とくに頼りにされている方はどなたでしょうか?
新しいテーマを検討される際に、最初にご相談される方はいらっしゃいますか?
実質的なキーパーソン
この件を実際に動かしていくうえで、中心になられる方はどなたでしょうか?
肩書きにかかわらず、現場で実務を取りまとめていらっしゃる方はどなたでしょうか?
推進を阻む壁
こうした新しい取り組みを進める際に、社内で調整が必要になりやすい部門はございますか?
過去に同様の取り組みを進められた際、どのあたりで時間がかかりましたか?
この件を進めるうえで、事前にご説明しておいたほうがよい方はいらっしゃいますか?
公式な組織図では見えない関係性を知ることが重要ですが、いきなり踏み込んだ話はしにくいものです。非公式な場も含めて、段階的に話を聞いていくのがよいでしょう。
事前準備として、過去の商談で見えている組織構造や人物関係を整理し、自社の役員にインプットしておきましょう。
目的⑤売上創出(現場案件の格上げ)
売上創出を目的にする場合、停滞している案件の現状やボトルネックを聞きます。顧客の役員が「一言現場に伝えておくよ」と言ってくださると、現場同士ではどうにも動かなかったことが、一気に動き出すこともあります。
事前準備として、現場の担当者へのヒアリングを行い、どこまで話してよいのかすり合わせておくことが何より重要です。「どこで、何が理由で止まっているか」「役員にどう動いてほしいか」を具体的に聞き、それに応じて質問案を調整してください。
長期スタック中の案件の現状
御社の〇〇部門の皆さまと、〇〇の件でご一緒させていただいております。
〇〇様のお耳にも入っておりますでしょうか?
〇月からご検討いただいているのですが、社内では現在、どのような状況になっていますでしょうか?
ボトルネック
現場の皆さまとお話しするなかで、〇〇の点でご判断が難しくなっているように感じております。
社内では、どのあたりがハードルになっているのでしょうか?
この件を前に進めるには、どなたのご判断が必要でしょうか?
自社への要望
この件を前に進めるために、私どもでご用意すべき情報や、見直すべき点はございますか?
〇〇様からご覧になって、私どものご提案に足りない点があれば、率直にお聞かせいただけますか?
ここで話をした内容は現場の担当者へ直接共有し、進捗があればすぐに対応できるように準備してもらうとよいでしょう。
目的⑥ビジネス機会の発見
ビジネス機会の発見を目的にする場合、公開情報の先にある経営層の本当の関心や事業機会の兆しをつかむための質問をします。顧客への理解をさらに深め、投資の優先順位や真の懸念事項を特定し、将来の事業機会につながる種を探りましょう。
経営方針・戦略のより深い話
中期経営計画で〇〇を注力分野に掲げていらっしゃいますが、社内では具体的にどのような取り組みから着手されているのでしょうか?
計画を発表されてから〇か月ほどたちますが、想定どおりに進んでいる点と、想定より時間がかかっている点はございますか?
経営層が本当に気にしているテーマ
中期経営計画やプレスリリースで〇〇に注力されていると拝見しましたが、最近の経営会議ではどのようなテーマに最も時間を割いて議論されていますか?
〇〇様ご自身は、今どのようなことに最もお時間を使っていらっしゃいますか?
実際に予算と人員が投下されている領域
今期、新たに人員を増やされたり、体制を変更されたりした部門はございますか?
来期に向けて、優先度が高まりそうな領域はどちらでしょうか?
役員個人が抱える真のリスク
3年後を見据えたときに、このままでは難しいと感じていらっしゃることはございますか?
業界の変化のなかで、〇〇様が最も注視されているのはどのような点でしょうか?
未公開の新規事業や投資計画の兆し
既存事業とは別に、検討を始めていらっしゃる取り組みはございますか?
その取り組みは、現在どの段階にあるのでしょうか?
構想の段階か、すでに試験的に動き始めていらっしゃるのか、お聞かせいただけますか?
質問のポイントは、中期経営計画やIR資料の抽象的な言葉を、具体的に掘り下げることです。
たとえば「注力分野」と書かれているものは、実際に何にどのような投資をしているのか。役員個人が仕事から離れた時間でも気になって仕方ないような課題やリスクは何か。あわせて、その関心事が今どの段階か(構想・検証・実行)まで把握できると、自社が提案する最適なタイミングが読めます。
営業担当者の事前準備は、中期経営計画などの公開情報を読み込んで要点をまとめ、自社の役員にインプットすることです。これに加えて、最新の業界動向と現在までの商談情報も整理して渡しておきましょう。
エグゼクティブ訪問で収集した情報の蓄積と共有
エグゼクティブ訪問は、何度も訪問を重ねることで役員同士の関係性を深めていくものです。そのため、情報は「カルテ」に蓄積し、社内で共有できるようにしておきましょう。
カルテとは、面談で得た情報を役員ごとに記録・更新していく情報台帳です。SalesforceやHubSpotなど、すでに営業で活用しているツールで、商談履歴とひもづけて見られるようにするとよいでしょう。ツールを使用していなければ、Excelやスプレッドシートなど、社内で使いやすいものでかまいません。
記録しておくことで、前回からさらに深掘りした質問をしたり、履歴をもとに方針を立てたりすることができ、次の訪問時に役立ちます。
運用のポイントは、次の4つです。
- 訪問を設計する営業担当者が、作成・管理する
- 情報を記載する際は、何の目的で聞いた話なのかをメモしておく
- 訪問後、すぐにカルテに記載することをルーティンにする
- 担当が変わったときや、別部門が同じ役員に会うときにも共有できる形で記載しておく
コンサルタントの実践ポイント

関係が深まってきてからも、役員単独での訪問は避け、できるだけ複数人で接点を作りましょう。役員、本部長、営業担当者などの組み合わせが基本です。自社の役員が異動になった場合でも、顧客との関係を「個人のもの」ではなく「会社の資産」として引き継ぐためです。また、顧客の役員が異動してしまった場合は、新任の役員への訪問から「初回」だととらえ直します。顧客の現場担当者が残っていれば、新任役員について聞き、早めに初回訪問の機会を作りましょう。
2回目以降のエグゼクティブ訪問の時間配分
2回目以降の訪問も、初回と同じく30分を目安に「5分・20分・5分」で設計します。顧客の役員の時間が限られているのは、2回目以降も変わらないためです。ただし、それぞれの時間の使い方は初回と変わります。

冒頭の5分は、自己紹介ではなく「前回の続き」から入ります。カルテをもとに「前回伺った〇〇の件、その後いかがですか」と切り出すとよいでしょう。
中盤の20分は、6つの目的から選んだ1~2つに絞って深掘りする時間です。初回のように広く浅く探る必要はありません。
終盤の5分では、次の接点を仕込みます。関係が深まっていれば、会食など非公式な場に誘うのもここです。訪問後は、24時間以内のお礼メールとあわせて、得た情報をカルテに記録しておきましょう。
まとめ|定期訪問は、情報を積み上げるプロセスととらえる
2回目以降のエグゼクティブ訪問は、近況報告と雑談で終わらせず、毎回の目的を決めて臨むことで成果につながります。
目的は、フィードバック収集、リレーション強化、ポジショニング強化、組織力学の把握、売上創出、ビジネス機会の発見の6つです。1回の訪問ですべてを狙う必要はありません。関係の深まりにあわせて目的を選び、回を重ねながら少しずつ情報を集めていきましょう。
得た情報はカルテに記録し、次の訪問で前回の続きから話せるようにしておきます。この積み重ねが役員同士の信頼になり、やがてビジネス機会の発見につながります。
まずは直近の訪問1回分について、6つの目的のどれを狙うかを決めることから着手しましょう。