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大企業の新規事業事務局向け|起案者のスキルや適性を見極めるアセスメントの進め方【評価テンプレート付き】

新規事業開発
シニアコンサルタント
野田 拓志

大企業で新規事業の起案制度を運営している方から、「起案者のスキルや適性をどう評価したらいいかわからない」というご相談をよくいただきます。

多くの企業では、事業を評価する審査基準はあっても、「人」を見極める軸までは言語化されていません。その結果、事業の推進や起案制度そのものに弊害が出てしまうケースも見られます。

そこで本記事では、事業起案制度において、起案者のスキルや適性を見極める評価軸とアセスメントの進め方を解説します。「アセスメントシート」のテンプレートも用意しましたので、ぜひご活用ください。

起案者アセスメントシート(Excel形式)をダウンロードする

※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとファイルがダウンロードされます。

【本記事で得られる知見】

・大企業の新規事業事務局が起案者アセスメントを行うための評価軸

・起案者アセスメントの進め方

・起案者アセスメントシートのテンプレート

起案者アセスメントの4軸

起案者アセスメントを実施する際、才流で推奨しているのは4軸・12項目で見極める方法です。

評価者の主観を完全になくすことはできませんが、アセスメントの軸を明確にしておくことで、評価者は自信を持って見極めを行い、起案者は納得感のあるフィードバックが受けられます。

起案者アセスメントの4軸

  • マインド・スタンス&アクティビティ
  • ヒューマンスキル
  • コンセプチュアルスキル 
  • テクニカルスキル
「大企業の新規事業起案者アセスメントの4軸」を示した図。左側は、新規事業の成功に欠かせない要素を3層のピラミッドで表現している。土台は「マインド・スタンス&アクティビティ(対話を重視し、仮説検証を素早く繰り返し、不確実性や失敗を受け入れる姿勢)」、中段は「ヒューマンスキル(社内外の関係構築、ステークホルダーマネジメント、リーダーシップとフォロワーシップ)」、上段は「コンセプチュアルスキル(本質を見抜き、調査からインサイトを導き、抽象化と具体化を行う概念化能力)」で構成されている。 中央の「+」記号を挟み、右側には「外付けで補完できる要素」として「テクニカルスキル(専門スキル)・メソッド・ナレッジ」が配置されている。これらは研修やメンタリングによって補完可能とされ、具体例としてヒアリング、市場調査、事業計画策定、ビジネスモデル設計、競合分析、法務、ドメイン知識が挙げられている。 図全体では、新規事業人材は「マインド」「ヒューマン」「コンセプチュアル」の3つの基礎能力を備えたうえで、テクニカルスキルを外付けで補強するという考え方を示している。
※4軸の構造はカッツモデル(組織の職層に応じた要求スキル)と、リンクアンドモチベーション社が提唱する人材要件フレームをベースに、才流で独自に整理したもの

上図を見ていただくとわかるように、4つの軸は単なる並列関係ではなく、下から順に積み上がるピラミッド構造として設計しています。

1.マインド・スタンス&アクティビティ

この軸は、新規事業を前に進めるための土台となるものです。具体的には、以下の点を確認します。

  • 専門家や顧客に聞くことをためらわないマインド
  • 仮説検証サイクルが速く、スピーディーで活動量が多い
  • 不確実性への耐性があり、失敗を許容できる

新規事業では、正解がない状態で自ら道を開いていく必要があります。そのため、専門家や顧客へのヒアリングをためらわずに行い、一次情報を取りに行けるか。仮説検証サイクルを高速で回せるか。失敗や想定外の結果を受け止めながら、次の打ち手を考えられるかは重要です。

一般的に、「スタートアップの起業家タイプ」と言われるのはこの軸が強い人です。ただ、大企業内の新規事業推進の場合は、ここが突出しているだけではうまくいかないことが多いです。くわしくは、以下の記事で解説しています。

※関連記事:大企業の新規事業事務局向け|起案制度で「起業家タイプ」の人材がつまずいてしまう理由

2.ヒューマンスキル

この軸は、社内外から協力を引き出しながら、事業を前に進められるかを見極めます。具体的には、以下の点を確認します。

  • 社内コミュニケーションと信頼関係の構築力 
  • 社内政治を含めたステークホルダーマネジメント力
  • リーダーシップとフォロワーシップ 

大企業の新規事業では、顧客検証だけでなく、社内調整や合意形成も同時並行で進める必要があります。既存事業部、法務、開発、経営層など、多くの関係者を巻き込まなければならないからです。

単にコミュニケーションが得意かどうかではなく、信頼関係を築けるか。ステークホルダーとの摩擦を調整できるか。リーダーシップがありつつも、一緒に推進するメンバーに「任せる」「強みをいかす」などの判断ができるかを確認しましょう。

※関連記事:大企業の新規事業担当者がおさえるべき「社内アセット」活用術|部署別に連携ポイントとタイミングを解説

3.コンセプチュアルスキル

この軸は、検証の論点や優先順位を整理し、インサイトを発見する力を見極めます。

  • 大通りと小道(本質的な論点と枝葉の論点) を認識し、適切な優先順位をつけられる
  • インサイトを発見できる
  • インサイトから論理思考や水平思考で解決策の発想ができる 

新規事業では、限られた時間や予算のなかで「何から先に検証するか」を見極めなければなりません。また、顧客のインサイトをしっかりとらえているか、インサイトからアイデアを広げられるか、具体と抽象を行き来しながら思考できるかなども重要です。 

4.テクニカルスキル

この軸は、新規事業を進めるうえで必要になる専門知識や実務スキルを見極めます。専門知識や実務スキルとは、市場調査、事業計画、競合分析、プレゼンテーション作成、ドメイン理解を深めるためのものです。確認するのは、以下の点です。

  • ビジネス基礎力 
  • ドメイン知識
  • 事業計画・ビジネスモデル設計力 

テクニカルスキルは、事業を形にするうえで必要なスキルですが、外付けで補完しやすいという特徴があります。研修やOJT、外部専門家の支援などによって、短期間で強化しやすいためです。

大企業内で事業を推進するためには、テクニカルスキル単体が高いことよりも、「1~3のスキルがしっかり積みあがっているか」のほうが重要になってきます。

※関連記事:新規事業計画書の作り方とプレゼン時の留意点【パワーポイントテンプレート付】

起案者アセスメントシートのテンプレート

4軸を落とし込んだ「起案者アセスメントシート」のテンプレートを用意しました。判定基準や運用ガイド、記入例もセットにしていますので、ダウンロードしてご活用ください。アセスメントの進め方は後述します。

起案者アセスメントシート(Excel形式)をダウンロードする

※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとファイルがダウンロードされます。

テンプレートの構成

  • シート1:起案者アセスメントシート
  • シート2:判定基準
  • シート3:運用ガイド
  • シート4:記入例
起案者アセスメントシートのテンプレートキャプチャ
シート1:起案者アセスメントシート

各項目は◎○△×の4段階で判定します。「○○のときに××していた」「先週の△△会議で□□と発言していた」といった事実ベースのコメントを必ず添えてください。印象や性格論ではなく、具体的な行動を根拠にすることが重要です。

判定に迷ったときは、下の評価を選ぶのが原則です。◎か〇かで迷ったら、〇を選ぶという具合です。点数は関数で自動計算されます。

シート2:判定基準のシートのキャプチャ
シート2:判定基準(ルーブリック)

シート3の運用ガイドには、本メソッドの目的や評価軸、実務の手順、運用上の注意点などがまとまっています。

アセスメントの進め方

ここからは、起案者アセスメントの進め方を解説します。アセスメントのタイミングは事務局や制度によって違うと思いますが、今回は例として、私が大企業の新規事業事務局を支援する際に踏んでいる手順に沿って説明します。

  • 01 アセスメントの軸を決める(カスタマイズする)

    起案制度がスタートする前に、使用する評価軸と項目の大枠を決めておきます。過去に起案制度を運営した経験があれば、成果を出した起案者に共通する要素を棚卸してみましょう。

    棚卸しの結果と、起案者アセスメントシートの項目を突き合わせ、自社の文脈にあわせてカスタマイズしてください。たとえば「うちは事業部への引き渡しが必須なので、ステークホルダーマネジメントの重みを上げたい」といった調整です。

  • 02 評価者を決める

    次に、評価者を決めます。アセスメントは、可能なかぎり複数人で行いましょう。1人の担当者がすべての起案者を細かく見るのは、現実的に難しいからです。事務局メンバー数名と、他部門の関係者や外部のコンサルタントなど、複数の客観的な視点を取り入れましょう。

    人数は、最低でも事務局2名以上、可能であれば外部コンサルを起案者ごとに1名ずつ加える体制が理想です。

  • 03 アセスメントを実施する

    事業を評価するステージゲート審査と同じタイミングで、起案者のアセスメントも実施します。節目ごとに複数回アセスメントを行うことで、起案者の成長や停滞を時系列で追うことができます。起案者の業務を継続的に観察して評価するのが理想です。

    しかし実際のところ、起案制度の最終審査前に一度だけアセスメントを実施している事務局も多いようです。「体制やリソースが十分でないために、複数回のアセスメントが難しい」という声も聞きます。難しい場合は、1回だけでもかいまいません。まずは実施してみて、翌年の制度設計や人材評価にいかせる示唆を見つけてみましょう。

    コンサルタントの実践アドバイス
    アセスメントで見るべきは、プレゼンや書類審査の出来栄えではありません。起案者の日々の業務の進め方、ビジネスに対する考え方、「次はこういうことをしたほうがいい」というアクションの見積もり方などを、丁寧に見ていく必要があります。評価者は、ユーザーインタビューの同席や定例ミーティングなどを通じて、継続的に起案者を観察していきましょう。
  • 04 結果の集約とすり合わせ

    評価者によるアセスメントが終了したら、事務局は全評価者のシートを集約し、評価者間で差が大きい項目を特定します。差が大きい項目について、評価会議で「なぜそう判断したのか」をすり合わせ、最終評価を確定させましょう。

    ここで判定基準シートを活用します。「自分はこの行動を見て◎にした」「自分はこの行動を見て△にした」と、判定基準のシートに立ち返って議論することで、評価者のバイアスを減らせます。

    コンサルタントの実践アドバイス
    最近では、各社でAI活用が進んでいます。AI活用を前提にすると「テクニカルスキル」の一部はさらに外付け補完しやすくなります。一方で、マインド・ヒューマン・コンセプチュアルの3軸は、AIで代替できない領域です。

    実際に、私たちがアセスメントを行ったある起案者には「アウトプットはAI活用でなんとか出せているが、本人固有のコンセプチュアルスキルかは未知数」というコメントが付きました。AI時代は、「アウトプットの質」だけでなく「思考の出所」まで見る視点が重要です。

  • 05 結果から方針を決める

    集約した評価結果を読むときは、ピラミッドの下から上(下図)に向かって確認していきます。

    マインド・スタンス&アクティビティ→ヒューマンスキル→コンセプチュアルスキル→テクニカルスキルの順です。

    『評価結果の読み解き方』を示した図。評価はピラミッドの下から上に向かって確認する考え方を表している。左側には『起業者が身につけるべき、新規事業の成功に欠かせない要素』として3層のピラミッドが描かれ、①『マインド・スタンス&アクティビティ』、②『ヒューマンスキル(対人関係能力)』、③『コンセプチュアルスキル(概念化能力)』の順に評価することを示している。ピラミッドの左には『下から上の順に確認する』という上向きの矢印が配置されている。右側には『外付けで補完できる要素』として、④『テクニカルスキル(専門スキル)・メソッド・ナレッジ』が独立して配置され、研修やメンタリングのガイドラインによって補完可能であることを示している。中央の「+」記号は、基礎となる資質・能力に、外付け可能な専門知識や手法を組み合わせて評価する考え方を表現してい

    たとえば1〜3軸に△や×があれば、まずその補強プランを議論します。打ち手は育成・体制の見直しなど、根本的なものになります。社内政治が弱い起案者には、社内調整に強いメンターをつける、事業部出身の協力者をチームに加えるといった「体制変更」で補強しましょう。

    1〜3軸が十分で4軸のみ弱い場合は、研修・メンター・専門家のアサインなどで補完します。

  • 06 起案者本人への共有

    結果が確定したら、起案者本人にも共有しましょう。アセスメントの目的は合否判定で人を切ることではなく、事業を前に進めることです。本人が納得感を持って受け止められるよう、次のアクションを一緒に考える場を持ってください。

  • 起案者アセスメントシートの応用

    起案者アセスメントシートは、事務局が起案者を選抜したり、ステージゲート制を進める起案者を支援する目的で多く使われます。ただ、大企業の新規事業事務局の方と話をすると「こういう使い方もできるのか」と、私自身が気づかされることもあります。その一例を紹介していきます。

    新規事業人材プールの全体傾向を見る

    複数の起案者を同じアセスメントシートで見ていくと、一人ひとりのスキルや適性にとどまらず、自社の新規事業人材プール全体の傾向が見えてきます。

    たとえば、評価結果を集計してみたら「自社の起案者は全体的にマインド・スタンス&アクティビティは強いが、ヒューマンスキルが弱い」という傾向が見えてきたとします。これは単に個人の問題ではなく、自社の人材育成や組織文化に根ざした構造的な課題である可能性が高いです。

    この気づきは、新規事業部門だけでなく、人事部門や経営層への示唆にもなります。「うちの会社は、顧客に向き合う力はあるが、社内を動かす力が不足している。育成プログラムを見直す必要がある」といった、組織全体の人材戦略の議論につなげられます。一人の起案者を見るための道具が、組織の鏡になるということです。

    新規事業担当者のジョブディスクリプションのベースとして使う

    起案者アセスメントシートの軸は、そのまま新規事業担当者に求める要件の素案としても使えます。

    社内公募の募集要項を作るとき、新規事業担当者のジョブディスクリプションを整理するとき、中途採用で新規事業経験者を採用するときなど、いずれの場面でも必要なのが「人材に何を求めるか」を具体的に言語化することです。ところが多くの企業では、「起業家精神のある人」「チャレンジ精神旺盛な人」といった抽象的な表現にとどまりがちです。

    起案者アセスメントシートの項目を使えば、「一次情報を取りに行くマインドがあり、仮説検証を週次で回せて、社内のキーパーソンのインセンティブを理解して動ける人」というように、行動レベルで求める人物像を描けます。判定基準と組み合わせれば、「入社1年目でこの水準、3年目でこの水準を目指してほしい」といった成長段階の設計にもつなげられます。

    起案者アセスメントシートは、使い方次第で、選抜ツール・組織診断ツール・人材要件定義ツールと、複数の顔を持つメソッドになります。自社の状況にあわせて、活用の幅を広げてみてください。

    【まとめ】アセスメントは事業を前に進めるために行う

    アセスメントは、起案者を合否判断のために行うものではなく、起案者と事業を前に進めるために取り組むものです事務局・評価者・起案者本人が同じ言葉で対話するための共通言語ともいえます。

    起案者の弱い部分・苦手な部分が見えれば、起案者自身の気づきや成長につながり、事務局もどのサポートを手厚くすればいいかわかります。実際に起案者アセスメントシートを導入した事務局からは、以下のような声がありました。

    「選考の途中で起案者の弱点が見えているので、次の検証フェーズで何をサポートすればよいかが事前にわかりました。結果として起案者が迷わず、弱点を補完しながらスムーズに進められるようになりました」

    まずは現在進行中の起案者に対し、アセスメントを行ってみてください。評価コメントを書き出してみるだけで、いままで言語化できていなかった起案者の強みと弱みが、事務局全体で共有できる形になっていくはずです。

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