「その場では盛り上がったのに、『社内で検討します』と言われたきり音沙汰がなくなる」「いい商材なのに、提案しても話が先に進まない」
パートナーに協業を提案する場面で、多くの担当者がこの「検討します」の壁にぶつかります。
大手リセラーの大塚商会では、実際に協業につながる提案は「1割にも満たない」といいます。
協業の提案では、「市場が伸びています」「機能が優れています」と伝えるだけでは響きません。パートナーの担当者が経営層へ稟議を上げる場面を想定し、提案内容を一本のストーリーで貫くことが重要です。
本記事では、協業を成功に導くためのフレームワーク「4つの問い」(Why Now → Why Us → Why You → Future Fit)と、提案資料への落とし込み方を解説します。
パートナーが抱く「4つの問い」に先回りせよ
パートナーの担当者がいくら「よい商材だ」と思っても、それだけでは協業は進みません。社内の経営層に「なぜこのメーカーと組むべきか」を説明し、承認を得る必要があるからです。
そのため、担当者は初回打ち合わせの時点で、以下の4つの問いに答えられる材料を集めようとしています。
- この波に乗るとよいのか
- なぜこのメーカーなのか
- 自分たちにどんなメリットがあるか
- このメーカーと、目指すビジョンや価値観を共有できるか
パートナーに協業を提案するときは、これらの疑問に順番に答えていくことが重要です。「Why Now → Why Us → Why You → Future Fit」というストーリーラインで提案を組み立てれば、パートナーの疑問に先回りして答えることができ、稟議の説得材料もそろいます。
才流では、このストーリーラインに沿った協業の提案資料テンプレートを用意しています。
※関連記事:パートナーの心をつかむ「協業提案資料」テンプレート

Why Now(いま動く理由)
「この波に乗るとよいのか」という疑問に答えます。
「市場が伸びている」といったポジティブな情報を伝えたとしても、検討は進んでも決断は先送りされがちです。いま動かなくても失うものがないため、目の前の業務が優先されてしまうからです。
ここで効くのが、「動かないリスク」をセットで伝えることです。
パートナーが恐れるのは、既存顧客や築き上げた地位を失うことです。「静観すれば、いまある資産が目減りする」と伝えれば、協業の検討が後回しにされなくなります。
伝え方ひとつで、相手の反応はまったく違ってきます。
NG例
「この市場は年率20%で成長しており、御社にとって大きなチャンスです」
(いい話だね。でもリソースも足りないし、来期検討しようか)
OK例
「この市場は急速に伸びています。一方で、すでに御社の競合A社は参入済みです。このまま静観すれば、御社の既存顧客がA社に流出するリスクがあります」
(それはまずい。うちの顧客を取られるわけにはいかない。すぐに対策が必要だ)
チャンスだけでなく、「動かないと失うもの」をセットで見せると、検討の緊急度は上がります。
協業提案資料のテンプレートにも、市場性や参入の好機を示すスライド(Why Now)が含まれています。ここに競合他社の動きや法改正といった具体的な事実を加えるとよいでしょう。
Why Us(自社と組む理由)
「なぜこのメーカーなのか」という疑問に答えます。
パートナーは、自社の看板で他社の商品・サービスを顧客に届けます。そのため「未知数の商品・サービスを顧客に導入してトラブルが起きたら、自社の信用に傷がつく」という不安を抱えています。商材の機能をアピールするだけでは、この不安は払拭できません。
有効なのは、「すでに多くの企業が選んでいる」という事実を示すことです。人は判断に迷うとき、他者の行動を正解の手がかりにします。とくにリスクを避けたい場面では、「みんなが選んでいる」という事実が、そのまま安心材料になります。
NG例
「当社は最新のAI技術を搭載しており、機能には自信があります」
(機能はすごそうだけど、実績がないのは怖いな)
OK例
「業界最大手のB社様やC社様にも導入いただいており、すでに業界標準になりつつあります」
(大手も使っているサービスなら安心だ。うちが扱って問題ないだろう)
導入実績に加え、競合他社との違いも示しましょう。パートナーの担当者が社内で「なぜこのメーカーなのか」と問われたとき、即答できる材料が必要です。導入ロゴ一覧や競合比較表をセットで用意しておくことをおすすめします。
Why You(パートナーにとってのメリット)
「自分たちにどんなメリットがあるか」という疑問に答えます。ここが最も重要です。
「儲かります」と伝えるだけでは不十分です。大切なのは、パートナーの既存事業とどう噛み合うかを、相手が直感的に理解できるように伝えることです。この噛み合いの状態を、プロダクト・パートナー・フィット(PPF)と呼びます。
PPFは「価値が高まる」「儲かる」「売りやすい」の3軸で構成されます。自社の商材を扱うことでパートナーの提案力が上がる、収益の見通しが立つ、営業現場で無理なく提案できる。こうした軸でメリットを伝えられたとき、パートナーは「この商材を担ぐ意味がある」と納得します。
NG例
「販売手数料は30%です。紹介だけいただければ、あとは当社で巻き取ります」
(単発の手数料が入っても、自社の主力事業の導入につながらなさそう。わざわざ時間を割いて紹介するほどではないな)
OK例
「御社の主力商材○○と組み合わせることで、独自の付加価値を提案できます」
(たしかに○○と一緒に提案できるし、差別化にもなる。やらない手はないな)
「奉行シリーズ」で知られるオービックビジネスコンサルタント(OBC)は、契約前に仮説提案書を作成しています。パートナーの既存ビジネスを調べ上げ、どの事業とどの製品を組み合わせればシナジーが生まれるかを具体的に示した資料です。
協業によって主力事業の価値がどう高まるか、現場の営業が無理なく提案できるか。その道筋が見えたとき、パートナーは初めて本気になります。
※関連記事:パートナービジネスを成功させる2つのポイント
Future Fit(中長期で組む価値)
「このメーカーと、目指すビジョンや価値観を共有できるか」という疑問に答えます。
新しい商材を扱うには、営業担当者の教育や販促体制の整備など、パートナー側にも相応の投資が発生します。そのためパートナーは、短期で終わる相手ではなく、長く付き合える相手かどうかを見ています。
今後の機能拡張の計画や、パートナーと共同で顧客に提供するサービスの構想など、この先どんな未来を一緒につくれるかを示して「長く組む価値がある」と伝えましょう。
大手リセラーの大塚商会も、マージンや機能・価格の前に「ビジョンの一致」が最初のマッチングポイントになると語っています。パートナーと組むことでどんな世界を実現できるか。その共有が、協業の出発点になります。
三菱UFJ銀行とLayerXの業務提携も、ビジョンの共有から深い協業体制を築いた好例です。三菱UFJ銀行は「世界が進むチカラになる。」というパーパスのもと、パーパスを共有できる企業との協業を模索していました。一方、LayerXは「すべての経済活動を、デジタル化する」をミッションに掲げています。
両社は「日本企業の生産性向上に貢献する」という共通のビジョンを描きました。LayerXの社員が三菱UFJ銀行へ出向するなど、単なる商材の紹介にとどまらない協力体制を敷き、「バクラク for MUFG」という新たな価値を顧客に届けています。
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協業提案を前に進めるための打ち手
4つの問いを踏まえ、初回打ち合わせは以下の流れで進めるとよいでしょう。
- アイスブレイク、アジェンダ共有(5分)
- Why Nowの説明(10分)
- Why Usの説明(10分)
- Why Youの説明(5分)
- ディスカッション、次のアクションの整理(25分)
- クロージング、次回の打ち合わせやNDA合意(5分)
ただし、響くポイントは相手の役割によって異なります。
営業担当者が相手の場合は、収益性を前面に出しましょう。単価や粗利率、販売数に応じた売上予測など、具体的な数値で示すと響きます。
一方、事業開発担当者や経営層が相手なら、既存事業との親和性を示すことが重要です。パートナーの顧客基盤や得意な業種と、自社商材が売れやすい領域がどう重なるかを伝えましょう。
| 営業担当者 | 事業開発担当者・経営層 | |
|---|---|---|
| 関心事 | 売上・粗利、売りやすさ | 中長期のビジョン、既存事業との相性 |
| 重視する評価軸 | 収益性 | 親和性 |
| 強調ポイント | Why You(単価・利益シミュレーション)、ユースケース(業種別の売れ筋例)、販促支援内容 | Why Now(市場の潮流)、Why Us(差別化・実績)、Future Fit(共創のビジョン) |
4つの問いを提案資料に落とし込む
先述した「Why Now → Why Us → Why You → Future Fit」のストーリーラインを、そのまま提案資料の構成にします。
以下は、初回打ち合わせ用の提案資料の骨子です。

才流では、この流れに沿った協業の提案資料テンプレートを用意しています。具体的な作成のポイントは、以下の記事で解説しています。
※関連記事:パートナーの心をつかむ「協業提案資料」テンプレート
よくある質問(FAQ)
Q1. 初回打ち合わせでは、どんな状態を目指すのがおすすめ?
ネクストアクションが明確になっている状態です。
一度の打ち合わせで協業が決まることはほとんどありません。本気度が高いほど、価格や体制面の確認が入るからです。
協業に対する相手の温度感や意思決定プロセスに応じて、PoCの進め方の提案、条件面や体制面のすり合わせ、上長や決裁者への説明など、具体的なネクストアクションを合意することを目指しましょう。
Q2. Why Nowを語ろうとすると、ありきたりな内容になってしまいがち。どうすればいい?
Why Nowは「相手ごとに作り変える」が正解です。
提案先が複数あると、つい汎用的な資料で済ませたくなります。しかし、誰にでも当てはまるWhy Nowは、誰にも刺さりません。
有効なのは、パートナーの顧客の困りごとで語り直すことです。「人的資本経営の市場が伸びています」と語っても、パートナーの担当者にとっては自分の顧客と結びつかず、ピンときません。しかし「御社の主要顧客である製造業やサービス業の現場で、人手不足による納期遅延や店舗の休業が常態化していませんか?」と問われれば、リアリティが生まれます。
どうしても作れないときは、他の3つの問いでカバーすれば問題ありません。ただし、Why Nowが弱いと協業の優先度が下がりやすい点は認識しておきましょう。
Q3. 協業の成否はどのような要素で左右されますか?
「PPF」「担当者の熱量」「稟議突破力」の3つです。
大前提として、自社の商材がパートナーの主力事業と噛み合っている必要があります。「ついでに売れる」レベルではなく、「これを扱わないと主力事業が危ない」あるいは「主力事業が伸びない」という必然性がなければ、協業は根付きません。
たとえば、「御社の新規開拓のきっかけとして使えます」という提案はPPFが浅い状態です。パートナーの主力事業との結びつきが弱く、優先度が上がりません。一方、「御社の主力商材Aと組み合わせることで、課題だった解約率を改善できます」であれば、主力事業に直結するため、本気で検討する理由になります。
そのうえで、どんなにPPFが噛み合っていても、社内稟議を通すのは人です。ここで必要なのが「担当者の熱量」と「稟議突破力」です。
担当者の「この商材を扱いたい」という熱量はWhy YouやFuture Fitで火をつけられます。しかし、熱量だけでは稟議は通りません。組織として承認を得るには、Why NowやWhy Usで「なぜいま、なぜこの会社なのか」を論理的に説明できる材料が必要です。この両輪がそろって初めて、協業の提案は前に進みます。
「検討します」の壁を越える鍵は、相手の関心に噛み合った稟議の材料を渡すこと。協業の提案が通らないのは、パートナーが慎重だからではなく、その材料がそろっていないだけです。
協業提案資料の具体的な作成方法やテンプレートについては、以下の記事で解説しています。
※関連記事:パートナーの心をつかむ「協業提案資料」テンプレート