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新規事業チームのための「ユーザーマニュアル」作成ガイド|CS不在の組織こそ持つべき戦略的ツール

新規事業開発
シニアコンサルタント
野田 拓志

本記事では、以下の知見が得られます。対象者は、新規事業(新商品・サービス)の営業担当者です。とくに、CS(カスタマーサクセス)不在で、導入後のフォローと新規営業を一手に取り組まなければならない組織の方に推奨する手法です。

本記事で得られる知見

  • 新規事業の営業チームで起きること
  • ユーザーマニュアルが果たす役割
  • ユーザーマニュアルの作成ステップ
  • ユーザーマニュアルの効果的な運用方法

ユーザーマニュアルのテンプレートは、以下よりダウンロードできます。

■ ユーザーマニュアルテンプレート(ショートバージョン/13ページ/Powerpoint形式)
■ ユーザーマニュアルテンプレート(フルバージョン/24ページ/Powerpoint形式)

※個人情報の入力は必要ありません。クリックするとダウンロードされます。

ユーザーマニュアルテンプレートのフルバージョン
目次

新規事業の営業チームで起きること

新規事業を立ち上げ、いよいよ販売開始。少しでも導入数を増やすために、営業に注力したいフェーズです。しかし、CS(カスタマーサクセス)先任者がいない組織では、導入後の個別フォローが営業担当者に委ねられ、本来取り組むべき「新規営業」が停滞してしまうことがあります。

また、導入後のフォロープロセスが標準化されていないと、人によって質にばらつきが出ることが考えられます。質の低い、場当たり的なフォローを行っても、ユーザーは商品・サービスについて深く理解することはできず、早期の解約につながるケースもあるでしょう。まさに悪循環です。

このような課題に対応するため、私は営業担当者とユーザー、双方にとって拠りどころとなる「ユーザーマニュアルの作成」を推奨しています。

ここで言うユーザーマニュアルは、機能を網羅した「辞書」的なものではなく、新規事業を成長させるための「戦略的なツール」と位置づけます。

ユーザーマニュアルがあれば、営業担当者は商談や導入後のフォロー時に一貫した説明ができるようになり、ユーザーは早期に価値を実感できるようになります。導入後のユーザーフォローにかける時間が減れば、その分新規営業に時間をかけられるでしょう。

野田

コンサルタントの実践アドバイス 
本来、ユーザーマニュアルを読まなくても使える商品・サービスが、ユーザーにとっては理想的です。しかし、立ち上げ期の商品・サービスは機能やUIが未成熟であり、利用目的も多様になりがちです。提供側もユーザーも、迷ってしまうことがあります。だからこそ初期段階では、ユーザーマニュアルによって暫定的に体験を安定させることが必要です。

ではどのようなユーザーマニュアルならば、戦略的ツールとして成り立つのか。次のセクションで具体的に説明していきます。

ユーザーマニュアルが果たす役割は4つ

本記事で作成を目指すユーザーマニュアルは、以下の4つの役割を果たします。

  • ユーザーが目的を達成するためのガイド
  • ユーザー理解を深めるセンサー
  • ユーザーの期待値の調整弁
  • 属人化を防ぐ共通言語

1. ユーザーが目的を達成するためのガイド

導入初期のユーザーは、新商品・サービスの価値をまだ十分に認識していません。機能の説明を並べた辞書のようなマニュアルでは、「自社の目的をどうやって達成すればいいのか」イメージがつかないものです。

そこで、ユーザーマニュアルに「どんな場面で、どう使えば、どんな成果が出るのか」を具体的な手順で示すことで、ユーザーが実践しやすい状態を作れます。

たとえば、「レポート出力機能の使い方」ではなく、「会議用の売上レポートを10分で作る手順」を示し、実践できるレベルまで具体的な手順を落とし込みます。

2. ユーザー理解を深めるセンサー

新規事業の初期フェーズでは、販売しながら商品・サービスの仮説検証をしたり、機能改善をしたりすることがよくあります。ユーザーマニュアルを活用することで、「ユーザーがどこに迷っているのか」「本当は何をしたいのか」といったインサイトを見つけ出すことができます。

たとえば、「マニュアルに書いてあるのに問い合わせが多い」「マニュアルとは違う使い方をしている」などの状況は、ユーザーがつまずくポイントや新たなユースケースの発見につながります。

これらの気づきを、開発部門や担当者にフィードバックすることで、新規事業全体の完成度を高められます。

3. ユーザーの期待値の調整弁

新商品・サービスを導入したユーザーによくあるのが、「これを導入すれば、あらゆる課題が解決する」かのような、過度な期待を抱くことです。

そこで営業時にユーザーマニュアルで、できることや最初にやるべきこと、手順や成果の範囲などを明確に示しておくことで、期待値の調整が可能です

また、導入後すぐに目指すゴールを確認するためにも役立ちます。ゴールが明確になることで、最短距離で商品・サービスの価値を実感してもらえます。

4. 営業の属人化を防ぐ共通言語

新規事業としてリリースされた商品・サービスは、ユーザーのみならず、社内の人にとっても「知らないもの」です。新規事業の開発担当者自身が販売も担うのであれば問題ありませんが、大規模な組織になればなるほど、関わる人が増えることも想定されます。

ユーザーマニュアルは、営業担当者によって説明内容が異なったり、ユーザーのフォローの質にばらつきが出たりしないように、社内の「共通言語」となります。

新規事業をスケールさせるために、改善を積み重ねる土台となります。

ユーザーマニュアル作成のステップ

ここからは、実際にユーザーマニュアルを作る際の手順を3ステップで解説します。

  • 01 商品・サービスを導入したユーザーの目的を整理する

    まず、「ユーザーが商品・サービスを導入し、達成したい目的」を整理していきます。ユーザーによって目的はさまざまですが、商談時のヒアリングやユーザーの問い合わせなどから、多くのユーザーに当てはまる目的を複数洗い出します。「誰・いつ・何」を分解するとわかりやすいでしょう。

    ユーザーが商品・サービスを利用する目的
    誰に対して使うのか自分用、役員への報告資料、顧客への提案
    いつ使うのか(頻度はどうか)毎朝、週に1回、商談の前だけのスポット
    最終的な成果物は何かPDFレポート、Excelのリスト、数値

    たとえばWebサイトの分析ができるSaaSであれば、「ユーザーは分析機能を使いたい」ではなく、「ユーザーは月次会議のために、役員報告用のレポートをPowerPoint形式で出力したい」のように、できるだけ具体的に言語化しましょう。

  • 02 タスクを書き出す

    目的が整理できたら、そこから逆算し、目的達成のためにユーザーが行うべきタスクを書き出します。タスクが明確になると、各タスクに取り組むためにどの機能を説明するか、どんな図版や画像を掲載すればいいのか、ユーザーマニュアルの構成が自然と決まってきます。

    タスクの例

    • 初期設定(連携設定、データソースの選択)
    • データの取得(期間設定やデータの読み込み)
    • データの可視化(グラフ作成、レイアウト調整)
    • レポート出力の方法(PowerPointの出力、共有設定)
  • 03 ショートバージョン → フルバージョンの順に作成する

    ユーザーマニュアルは、機能や概要をすべて網羅しようとすると、情報量が多すぎて読まれないマニュアルになるリスクがあります。まずは「ショートバージョン」で骨格を作り、その後に「フルバージョン」で詳細を肉付けしていく順序で進めるのがよいでしょう。用意したテンプレートに沿って、情報を埋めてみましょう。

    野田

    コンサルタントの実践アドバイス
    新規事業フェーズでは、ショートバージョンとフルバージョンの併用が安定した利用促進につながります。 ショートバージョンで方向性を示し、フルバージョンで詳細を補完する構成が、初期フェーズでは最も負荷と効果のバランスがよい方法です。

    ユーザーマニュアルテンプレート(ショートバージョン)

    ショートバージョンはユーザーが最初に触れる「入り口」として、情報を絞り込んだ簡易マニュアルです。

    ショートバージョンの利点は、ユーザーが「まず最初に何をすべき」が一目でわかることです。情報を絞った分、優先順位が自然と明確になり、ユーザーの動き出しが早まります。特に PLG(Product-Led Growth)型の事業では、ユーザーが自走して価値を感じるまでの時間を短縮できるため、ショートバージョンが価値を発揮します。

    ユーザーマニュアルショートバージョン
    ■ ユーザーマニュアルテンプレート(ショートバージョン/13ページ/Powerpoint形式)をダウンロードする

    ユーザーマニュアルのテンプレート(フルバージョン)

    フルバージョンは、ショートバージョンでは書ききれなかった詳細手順や、トラブルシューティングを網羅した詳細マニュアルです。 詳細な画面キャプチャ、機能の深掘り、FAQ(よくある質問)、ユースケース別活用例などを盛り込み、運用が軌道に乗ったあともユーザー自身で調べ、活用できるものです。

    ■ ユーザーマニュアルのテンプレート(フルバージョン/24ページ/Powerpoint形式)をダウンロードする
  • 事例

    ここで、事例としてSansan株式会社のユーザーマニュアルページを紹介します。同ページでは、ユーザー向けSansan はじめてガイドとして、活用準備のための3ステップをまずは紹介しています。これがショートバージョンの役割を果たしています。さらに詳細について知りたい方はPDFのフルバージョンをダウンロードできるように設計されています。

    ※出典:Sansan株式会社(https://sin.sansan.com/must_guide/

    ユーザーマニュアル運用の「つまずきポイント」と対策

    ユーザーマニュアルの運用では、多くの方がつまずきやすいポイントがあります。以下に対策とセットでまとめましたので、参考にしてください。

    つまずきポイント対策
    情報が増えすぎる・ショートバージョンを入り口に、詳細はフルバージョンへ切り分ける
    ・すべてを1つにまとめようとせず、役割を明確に分ける
    ・「これは本当に最初に必要な情報か?」を常に問いかける
    個別要望に引っ張られる・ユーザーからの要望すべてにマニュアルで答えようとしない
    ・目的に関係するかどうかで判断する
    ・多くのユーザーに共通する内容を優先する
    ・個別要望はWebサイトのFAQやサポート記事などで管理する手もあり
    営業が使わない・説明の場面(商談・導入直後)を想定して構成する
    ・営業のトークスクリプトとしても使えるレベルまで実用性を高める
    ・一緒にマニュアルを作ることで、現場で本当に必要な内容が見える
    ユーザーが読み飛ばす・直感的に理解できる構成にする
    ・読むだけでなく、実際に手を動かせる説明を心がける
    ・長文は避け、箇条書きや図解を活用する
    更新が追いつかない・モジュール構造にし、変更箇所だけを差し替える
    ・スクリーンショットは独立したスライドに配置する
    ・更新履歴を記録し、どこを変更したかを追跡可能にする

    野田

    コンサルタントの実践アドバイス 
    新規事業は機能追加もUI変更も早いため、更新しにくいマニュアルはすぐに陳腐化します。画像や文章の差し替えだけで済む設計にするなど、大幅な変更をせずに更新できるような構成にしておくとよいでしょう。また、タスク単位でページを分割するモジュール形式にしておくと、一部の変更が全体に影響しません。これらを押さえるだけで、運用コストを大幅に抑えられます。

    ユーザーマニュアルの形式はPDFだけとは限らない

    近年、マニュアルの形式は多様化しています。商品・サービスのターゲットや運用体制に応じて最適な形式を選びましょう。以下に例を記載していますので、参考にしてください。

    デジタルアダプションプラットフォーム(インアプリガイド)

    ユーザーは別途マニュアルを開く必要がなく、実際の操作画面上でリアルタイムにサポートを受けられます。迷いやすいポイントにガイドを表示できる、シーンごとに最適な案内を提供できる、PLGと相性が良いプロダクト内で完結するため学習負荷を最小化できるなどのメリットがあります。ツールは、テックタッチ、WalkMe、Pendo、Userpilotなどです。

    ナレッジベース

    更新性の高いマニュアルが求められる場合に便利です。ページの差し替えやチーム内での編集・更新が簡単にできる、URLで共有できるFAQや関連ページへのリンクが柔軟にある、検索機能が充実しているなどがメリットです。ツールはNotionが代表的です。

    専用のオンボーディングサイト化

    ヘルプセンターとマニュアルを統合し、初期設定ガイド→トレーニング→FAQまでをワンストップにする方法です。ユーザーが必要な情報を1箇所で見つけられる、段階的な学習パスを設計できる、動画・テキスト・インタラクティブコンテンツなどを組み合わせられるのがメリットです。

    ユーザーマニュアルに関するよくある質問(FAQ)

    Q.ユーザーマニュアルはどこまで書けば十分だと言えますか?

    ユーザーの目的外の説明が増えてきたら、書きすぎかもしれません。「これは本当にユーザーが最初に知るべきことか」を常に問いかけましょう。ショートバージョンを作成する際はとくに、情報の取捨選択が重要です。

    Q.ユーザーマニュアルのUI更新が多く、更新に手間がかかります。工夫できることはありますか?

    タスク単位でページを分け、画面部分だけ差し替える構成が最適です。説明文とスクリーンショットを分離することで、更新コストを最小化できます。

    Q.ユーザーマニュアルは、動画よりスライドのほうが良いでしょうか

    初期フェーズはスライドが更新しやすく、運用に向いています。動画は完成度が高い反面、修正コストが高いため、プロダクトが安定してから検討するのがよいでしょう。

    Q.CS部門ができたら、別のユーザーマニュアルを作るべきでしょうか

    基本的には同じマニュアルを使うことで、組織として一貫した説明が可能になります。役割に応じて「どの部分を重点的に説明するか」を変えるのが効果的です。

    Q.ユーザーマニュアルはいつ渡すのが効果的でしょうか?

    契約直後、または初回ログイン時が最も効果的です。ショートバージョンは、商談時に見せることで導入後のイメージを具体化する役割も担います。

    【まとめ】マニュアルは「使われながら役割を終えていくもの」

    ユーザーマニュアルは、作って終わりではありません。新規事業の初期段階で重要なのは、ユーザーマニュアルが継続的に使われ、改善され続けることです。日常業務で使いやすく、ユーザーが迷った瞬間にすぐ参照できる形で運用されてこそ、ユーザーマニュアルは資産になります。

    また、ユーザーマニュアルは、ユーザーがどこでつまずき、何を求めているのかを可視化する手がかりでもあります。参照される箇所や問い合わせ内容をもとに改善を重ねることで、プロダクトは少しずつ「マニュアルに頼らなくても使える状態」へ近づいていきます。

    新規事業におけるユーザーマニュアルは、完成形ではなく進化の過程を支える装置だと捉え、取り組んでみてください。

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