株式会社三井住友銀行様は、個人・法人のお客さまに幅広い金融サービスを提供する、日本を代表するメガバンクです。2025年5月26日、法人ネット口座とビジネスカードを一体で提供するデジタル総合金融サービス「Trunk」をローンチしました。
新サービスの提供にあたって、同行は従来のビジネスモデルからの転換を図る必要がありました。しかし「中小企業にとってメガバンクは敷居が高い」という認知や、マスマーケティングの知見不足という課題に直面。新サービスの成功に向けて外部パートナーとの協業を検討するなか、才流(サイル)にご相談いただきました。
本プロジェクトでは、新サービスのマーケティング・PR戦略立案や予算計画、体制構築などを包括的にご支援。プロジェクトの中心メンバーでいらっしゃる山下 祐人さん、山本 賢治さんに、サービスにかける想いやプロジェクトの感想を伺いました。
三井住友銀行が中小企業市場に本気で挑む。新サービス「Trunk」とは
ー2025年5月26日より開始した法人向けサービス「Trunk」の概要と、開発の経緯について教えてください。
山下 Trunkは、法人ネット口座とビジネスカードを一体で提供するデジタル総合金融サービスです。法人のお客さまのお金まわりの課題を解決するプラットフォームとなるべく開発されました。個人のお客さま向けのサービス「Olive」で培ったノウハウを活用しているのが特徴です。

山下 Trunkの開発に至った背景には、主に3つの要因がありました。
1つは、個人のお客さま向けのサービスであるOliveの成功です。このOliveで培われたデジタル化による顧客体験の向上を、これまで手薄だった法人領域にも横展開できないかという議論がグループ内で活発になりました。
2つ目は、金融を取り巻く環境の変化です。足元で金利が上昇に転じ、銀行にとって預金をお預かりすること自体が収益につながるようになりました。ゼロ金利時代には預金がコストとなることもあったため、これは銀行のビジネスモデルに大きな変化をもたらしました。
また、コロナ禍を経て法人の取引が急速にデジタル化し、口座開設などもオンラインで完結できるようになりました。こういった環境変化が、法人市場に新たなデジタル金融サービスを投入する絶好の機会となったのです。
そして3つ目、法人の口座開設が非常に複雑化しているという現状です。特に、アンチマネーロンダリングの強化などを背景に、金融機関における口座開設時の手続きはより複雑化しています。
その結果、金融サービスの利用体験は悪化。この課題を根本から解決する必要性を感じました。
この3つの要因を踏まえて、オンラインでスムーズに利用できるTrunkの開発へとつながりました。

ーTrunkが主にターゲットとしているお客さまはどのような層でしょうか。
山下 Trunkの主なターゲットは、従業員が5名から10名程度の小規模法人、あるいは1名のマイクロ法人を含む中小企業のお客さまです。私たちには、従来の銀行の法人向けサービスにおいて、こうした中小企業のお客さまへ十分な対応が行き届いていなかったという問題意識がありました。
ターゲット企業の経営者の方々にヒアリングを重ねていくと、ある共通の課題が見えてきました。それは、従業員が少ない会社では、お金まわりの業務を任せられる人材を十分に確保できていないケースが多いということ。銀行とのやり取りやバックオフィス業務の多くを経営者自身が担っている実態が見えてきたのです。
しかし、起業された方々は、本来は本業に情熱を傾けたいと考えているはずです。お金まわりの業務はやりたくないお客さまが多いのではないか。そこで中小企業の経営者の方々が、お金まわりの煩雑な業務から解放され、心置きなく本業に集中できる環境を提供したいと考えました。
「情熱さえあれば事業を立ち上げられる世界へ」Trunkがめざす姿
ー中小企業の経営者が本業に集中できる社会。Trunkはそうした未来をめざして生まれたサービスなのですね。具体的にはどのような顧客体験の提供をめざしているのでしょうか。
山下 将来的には、Trunkが経理や財務といったバックオフィス業務の多くを担い、お金まわりのわずらわしさを解決していきたい、お客さまの本業を力強く手助けしていきたいと考えています。
経営者の方が「Trunkがあれば大丈夫。あとは情熱さえあれば事業を立ち上げ推進できる」とまで言えるような世界観を実現したいです。
ーメガバンクとして、Trunkのような新しい金融サービスを追求するなかで、どのような挑戦や困難がありましたか。
山下 開発を進めるなかで2つの大きな挑戦がありました。1つは、顧客体験とリスクのバランスをどう取るか。つまり、顧客体験を第一にするという信念と、銀行として絶対に守るべきコンプライアンスをどう両立させるかという点です。
コンプライアンスを守りながらお客さまの体験を損なわないサービスをどう実現するか。このバランスを取るのが一番大きなハードルでした。社内のコンプライアンス部門の方々にも多大なご協力をいただきながら、この点には特にこだわって開発を進めました。

山下 もう1つの挑戦は、ビジネスモデルの転換です。これまでの当行の法人向けビジネスは対面を基本とし、一社一担当制でお客さまと深く関係を築いていました。そのため、中小企業のお客さまにまでサービスを届けることが難しかったのです。そこでTrunkでは、Webマーケティングを通じて価値を届けていく体制をゼロから構築する必要がありました。
山本 加えて、中小企業のお客さまには「メガバンクは敷居が高い」というイメージが広く浸透しています。この認識をどう変えていくかということも、Trunkの大きな挑戦の1つでした。

メガバンクの安心感 × ネット銀行の利便性。Trunkが実現した新常識
ー従来のメガバンクのイメージを覆すために、どのような機能や特長でネット銀行との差別化を図っているのでしょうか。
山下 実は、ネット銀行では提供されていない機能は意外と多いのです。最初にネット銀行で口座を開設したものの、機能不足を感じてメガバンクの口座を後から開設するというお客さまもいらっしゃるほどです。
ネット銀行と比較した場合、Trunkには不足している機能が基本的にありません。むしろ、メガバンクならではの機能と信頼性を、オンライン完結という利便性と業界最安値水準の手数料で提供できる点が強みです。
実際にTrunkのお客さまの振込の内訳を見ると、三井住友銀行宛の振込の割合がかなり多いです。同一金融機関宛の振込手数料は無料ですから、メガバンクのネットワークの大きさのメリットを多くのお客さまにご提供できていると感じています。
また、お申し込みから審査、口座開設まで最短翌営業日で完了するため、スピーディーにビジネスを始めたいお客さまにも最適です。
さらに、多くのネット銀行では対応していない社会保険料や税金、日本政策金融公庫への返済など、公的費用の自動支払いにもTrunkは対応しています。

山下 さらに、お客さまのバックオフィス業務を大幅に効率化するため、Trunkでは充実したオンラインサービスを提供しています。法人口座専用アプリを使えばスマホでもお取引が可能。Web通帳で最大10年分の入出金明細を閲覧できるほか、クラウド会計ソフトとの連携機能も備えているのが特長です。
今年度には、インターネットバンキング上で請求書を読み込み、そのまま振り込み予約ができるような機能も提供する予定です。そのほかにも、お客さまの業務負担を軽減し、「Trunkひとつで心配ご無用」と感じていただけるようなサービスを拡充してまいります。
ーメガバンクへの信頼を求める方は少なくないはずです。「Trunkひとつで心配ご無用」は大きな強みですね。
山下 はい。Trunkであれば「最初からメガバンクの口座をつくっておけば安心」という信頼性を提供できますから。
「中小企業にとって敷居が高い」という認識を変えたい
ーここからは、新サービス「Trunk」のローンチに向けて才流と協業したプロジェクトについてお話を伺ってまいります。三井住友銀行様が抱えていたマーケティングの課題について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
山本 さきほどお話ししたとおり、私たち銀行の法人ビジネスは1to1、つまり対面営業中心でした。そのため、マスマーケティングについて、戦略の立て方や体制づくりに関する知見を持つ人材がいなかったという問題がありました。
また、「中小企業にとってメガバンクは敷居が高い」という認識が市場に根付いていました。この認識を変えていくという課題に、限られたリソースでどう向き合うかを模索している状況だったのです。
当初はマーケティング人材の中途採用も検討していました。しかし、ゼロから銀行業を覚えつつマーケティング戦略を構築していくのは難しいと判断し、外部パートナーの活用を決めました。
ー才流を選んだ決め手は何だったのでしょうか。
山本 BtoBマーケティング業界に詳しい方から才流の評判を聞き、資料請求を行いました。代表の栗原さんの書籍も拝読し、その知見の深さに大きな期待を抱いていましたね。
才流に依頼する決め手となったのは、商談の段階で私たちの課題感をしっかりと理解していただけた点です。今後の方針についてのご提案も的確で、スムーズに才流に決めることになりました。
ー今回のプロジェクトの概要を教えてください。
桂川 今回はTrunkが新規事業ということもあり、通常のBtoBマーケティング支援の枠を大きく超えてご支援をさせていただきました。訴求メッセージの策定だけでなく、認知、体制構築、予算配分、UI/UX改善、利用促進に関するアドバイスなど、多岐にわたる内容に関わらせていただきました。

山下 才流とのプロジェクトでは、特に見込み顧客インタビューが印象に残っています。
新サービスのローンチにあたって、PMF(プロダクトマーケットフィット)を意識し、顧客理解を深める必要がありました。そこで、プロジェクト開始前からSNSやnote、YouTubeなどを利用して調査を開始。三井住友銀行がどのようなイメージで見られているか、市場の声やお客さまの声を細かく集めていたんです。
だからこそ、才流が独自に行った見込み顧客インタビューが役に立ちました。
山本 そうですね。調査を通じて抱いた仮説が裏付けられただけでなく、新たな発見も多くありました。 見込み顧客インタビューによってお客さまへの解像度をより高められたと感じています。
それから、担当コンサルタントの桂川さんが、お客さまへの理解を深めるためにご自身で法人を設立されていたのも印象的でした。

ー桂川さん、顧客理解のために法人を設立されたのですか。
桂川 はい。山本さんがおっしゃったように、「中小企業にとってメガバンクは敷居が高い」という中小企業の固定概念を変えていくことが本プロジェクトの鍵になると考えていました。そして認識を変えるためには、お客さまの行動心理の機微を捉え、変容を促す必要があります。そのためには、お客さまが何を考え、どう感じているかを深く知り、共感することが不可欠です。
しかし、どれほど見込み顧客インタビューを重ねても、自らがその体験をしていなければ、真の共感には限界があります。そこで、実際に法人を設立し、法人口座の開設先を検討・比較するプロセスを追体験したのです。
「思いのほか時間がかかるな」「もう待てないな」といった生々しい感情を肌で感じ取ることで、お客さまが抱く心理的な障壁や迷いの深層に触れることができました。
山下 私たちが対象としているお客さまへの理解を深め、解像度を上げるために顧客の気持ちを追体験してくれた。そのことがプロジェクト推進の鍵になったと感じています。
ー「中小企業にとってメガバンクは敷居が高い」という認識を変えていくために、どのような戦略を取ったのでしょうか。
桂川 プロジェクトの初期、口座選定プロセスにおける顧客の基準を明確にするための調査を実施しました。お客さまがどこで情報を得て、何を基準に口座を選ぶのか。すると、そこには顧客の最終決定に強く影響するプレイヤーが複数いることが可視化されたのです。
そこで、その複数のプレイヤーの認識を覆していくための戦略をご提案させていただきました。
山下 「中小企業にとってメガバンクは敷居が高い」という認知を変えるために、この戦略は非常に有効でした。プレイヤーが的確に構造化されており、納得度も高く、私たちにも浸透しやすかったです。
武田 このような大胆な戦略を実行に移すにあたっては、特に予算の割り当てや承認プロセスなどで多くの苦労がありましたね。

山本 そうですね。私たちが初めて経験するマスマーケティングの領域で、特に認知広告にどれくらいの予算をかけるか。その効果を社内にどう説明するかは簡単ではありませんでした。才流とは、この予算の割り当てに関するディスカッションを行ったり、社内説明のための資料作成にも入っていただいたりしました。
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中小企業の生産性を向上させたい。Trunkが描く日本の未来
ーサービスが始まってしばらく経ちますが、申し込み状況はいかがでしょうか。
山下 サービス開始から3週間(※取材時点)、好調な滑り出しとなっています。この勢いをさらに加速させるべく、今後も挑戦を続けてまいります。
まずは、法人口座とビジネスカードの機能まわりを充実させることに注力します。具体的には、これまでお客さまに十分な体験を提供できていなかった部分を改善し、シンプルで便利な機能を低価格で提供していきます。
それが実現したうえで、今後はサービスをさらに拡充していく計画です。請求書関連機能やファイナンス機能など、お客さまのお金まわりの業務をよりスムーズにするためのサービスを展開していきます。
近い将来、財務や経理といったバックオフィス人材の採用が難しくなる社会が来るかもしれません。そんな時でもTrunkが、そうしたリクワイアメント(要件)を満たせる存在になれればと考えています。

ーTrunkで日本の社会にどのような貢献をしていきたいとお考えですか。
山下 SMBCグループは社会課題解決への貢献を重視しており、Trunkを通じて日本の再成長に貢献したいという強い思いがあります。
日本の中小企業は生産性が低いと言われることがありますが、その一因にはお金まわりのUX(ユーザー体験)が悪いことや、バックオフィス業務の非効率性があります。
Trunkがその課題を解決し、中小企業がバックオフィス部門を雇うことなく会社経営ができるようになれば、結果として生産性が上がっていくはずです。
ーTrunkというサービス名には、どのような想いが込められているのでしょうか。
山下 Trunkという名前には、2つの意味を込めています。1つは、旅行に使う「トランク(カバン)」、もう一つは「木の幹」です。
お客さまが常にトランクを持ち、その中に入っているさまざまなツールに助けられながら、経営という長い旅を続けていく。そんなお客さまの旅を、私たちに支えさせていただきたいという想いがあります。
また、木の幹のようにお客さまの経営をしっかり支え、成長をサポートするような立ち位置でありたい。日本の未来を支える中小企業にとって、Trunkが“なくてはならない存在”になることを願っています。

(撮影/関口 達朗 取材・文・編集/ 河原崎 亜矢)