産業資材から生活関連資材まで、幅広いプラスチック資材を国内外に展開する株式会社イノベックス様。持続可能な社会への貢献を目指し、環境配慮型ソリューションにも注力しています。
しかし、新規事業である地中熱利用空調システム「サーチェス™」において、深刻な営業の属人化や革新的な製品ゆえの価値伝達の難しさ、マーケティング戦略の不在といった課題に直面していました。この状況を打破し、事業成長の基盤を築きたいと才流(サイル)にご相談いただきました。
才流では、9か月間の支援を通じて、ターゲット顧客の明確化、営業資料の標準化、コンテンツ発信の仕組み構築などを推し進めました。才流の支援に対する感想や得られた成果について、執行役員 兼 ジオサーマルトランスフォーメーション事業部 部長の福宮 健司さん、マーケティング&EC部 部長の内藤 正徳さん、同部 釜江 歩さんにお話を伺いました。

マーケ戦略がなく営業も属人化。新規事業の成長を阻む壁
ーはじめに、イノベックス様の事業内容と、今回ご支援したサービスについて教えてください。
福宮 株式会社イノベックスは、樹脂加工資材の製造・販売をはじめ、多岐にわたる事業を展開しています。今回ご支援いただいたのは、新規事業の地中熱利用空調システム「サーチェス™」です。
サーチェスは、年間を通して温度変化の少ない地中の熱エネルギーを利用して建物や大型施設園芸ハウスの冷暖房を行うシステムです。私たちが独自開発した従来比5倍の高性能な熱交換器を用いることで、省エネルギーで環境負荷が少なく、かつ快適な室内環境を実現できます。

ー才流にご依頼いただく前は、どのような課題があったのでしょうか。
福宮 まず大きな課題として、地中熱という言葉自体の認知度が低いという点がありました。そのため、お客さまには「地中熱とは何か?」という基本的なご理解をいただくことから始める必要があったんです。商談では本来訴求すべき価値をお伝えする以前に、その説明に多くの時間を費やしている状況でした。
また、サービスが革新的であるがゆえに、営業担当が顧客にどのように販売すればよいのか理解できていない、価値を適切に伝えられないという課題もありました。事業部長であり開発者でもある私でなければ、サービスの技術的な側面や導入効果を深く理解し、お客さまに合わせた説明ができなかったんです。結果として、販売できるメンバーが限られているという属人的な状況に陥っていました。
さらに、ターゲット顧客も明確に定められていなかったため、問い合わせがあれば無選別に対応していました。すべての案件に均等に営業リソースを割いていたため、結果として効率が悪く、真に注力すべき案件に注力できていませんでした。

ーなぜ外部の支援を受けようと思ったのですか。
内藤 当社の場合、前身の会社から続く慣習もあって新しい手法を取り入れるのが難しい状況でした。それを打破するには、外部の専門家の力が必要だと感じたんです。そんな時、才流の書籍に出会いました。
書籍にはBtoBマーケティングの体系的なメソッドが記されていました。これを実践することで、営業、マーケティング、組織における多くの課題を解決できるのではないか。そう考え、当時の社長に相談しました。
複数の支援会社の中から才流を選んだ理由は、BtoBマーケティング、とくに私たちのようなメーカーの新規事業支援において実績が豊富な会社に依頼したかったからです。
また、Webマーケティングなど部分的な手法の提案に留まる支援会社が多いなかで、才流は事業の本質的な部分までていねいにヒアリングし、提案してくれる点が優れていると感じました。

営業・マーケ体制の構築から組織の自走までを伴走支援
ープロジェクトはどのように始まったのでしょうか?。具体的な進め方を教えてください。

野田 まずプロジェクト開始からの3か月間を戦略フェーズと位置づけ、イノベックス様の現状と課題を徹底的に理解することから始めました。
具体的には、事業責任者である福宮さんをはじめ、社内外の関係者のみなさまにインタビューを実施。同時に見込み顧客インタビュー、そして実際に地中熱システムを導入されたお客さまへのインタビューも試みました。
そもそも地中熱システムを導入している事例が少なかったため、見込み顧客のインタビュー対象を探すのに苦労しましたね。福宮さんが持つ豊富な事例や知見、書籍や公的機関が公開している事例なども参考に情報収集を行いました。

インタビューや調査を通じて見えてきた課題を踏まえ、属人化からの脱却と、再現性のあるマーケティング・営業活動の仕組みを構築することを大きな目標として設定。主に次の取り組みをイノベックス様と二人三脚で計画・実行しました。
本プロジェクトにおける主な取り組み
- 製品のターゲット顧客の再定義(①ビル・工場向け②農業向け)
- 戦略やペルソナなどを言語化し、訴求メッセージを整理
- 営業資料の作成とプロセスの標準化
- コンテンツマーケティングの体制構築
ープロジェクトの進め方はいかがでしたか。
内藤 週に一度の定例ミーティングで、課題の進捗確認や次のアクションについて議論を重ねていきました。プロジェクトの進め方はとても参考になりましたね。
才流はプロジェクトの全体像と最終ゴールまでのステップ、各フェーズのスケジュールを提示してくれます。おかげで、常にプロジェクトの先行きを見通すことができました。
また、「この時点でこのタスクが完了していなければ、後工程に影響が出るのではないか」というように、全体像を把握しながら逆算して考えることができました。これは本当に良かった点です。
釜江 日々のコミュニケーションも非常にスムーズでした。主にSlackを活用し、不明点などを連絡するといつも迅速に返信をいただける。おかげで、作業が滞ることなくプロジェクトを進めることができました。

行けば分かる。現地訪問で見えてきたサービスの本当の価値
ー地中熱ビジネスへの理解を深めるために、プロジェクトチームのみなさんで導入企業を訪問されたそうですね。
野田 はい。福宮さんほか数名のメンバーと一緒に、サーチェスを実際に導入しているいちご農園と建設会社へ訪問しました。
福宮 多くの方が地中熱をただのコストダウン目的の技術だと思いがちですが、実はそれだけではないんです。地中熱システムを導入することで、いちご農家さんは収穫時期を調整できるようになる。通常なら甘くないいちごしかできない時期でも、甘くて美味しいいちごを収穫できるようになります。これがサーチェスの本当の価値なんです。

福宮 また、建設会社への訪問では言葉では伝えにくい空気の質を実感していただきました。実際に訪問して空間に入ると、「何この空気?」と感じるんです。ホコリもなく風も感じないのに快適で、居心地がいい。
野田 福宮さんがよく「空気の質が違う」とおっしゃるのですが、「空気の質とは何か」と私もずっと疑問に思っていました。しかし、実際に現場を訪問することで「空気の質」という言葉だけでは伝わりにくい価値を体感できました。

野田 この現地訪問の体験によってお客さまへの理解が深まり、訴求すべきポイントが整理されていったと感じています。
内藤 その結果、ターゲット顧客の再定義がスムーズに進むようになりましたね。
以前は、ビル・工場向け、農業向け、あるいは企業のSDGs担当者など、さまざまな可能性を漠然と考えていました。ですが、それぞれのお客さまが何を求めているのか、私たちが提供できる本当の価値は何なのか、解像度が低い状態だったんです。
才流と共にターゲットを明確に定義できたことで、その後の営業資料作りやメルマガ配信など、すべての施策の精度が格段に上がりました。
福宮 ターゲットを明確にしたことで、優先順位付けもできるようになりました。以前は見境なくあらゆる可能性を追っていましたが、議論を重ね、当面はビル・工場向け市場に注力するという戦略的な意思決定ができた。
もちろん、農業市場の可能性を捨てたわけではありませんが、注力すべき領域を定めた結果、潔く判断できるようになったことは、大きな前進でした。

属人化脱却へ。誰でも価値を伝えられる仕組みづくり
ー次に取り組んだ重要な課題は何でしたか。
福宮 私にしか売れないような属人的な状況から脱却するために、まずは営業資料の抜本的な見直しに着手しました。正直に申し上げて、以前の資料は古くデザインも洗練されていません。情報も整理されておらず、多色刷りでやや古めかしい印象でした。
才流には、ターゲット顧客や商談のフェーズに合わせて、3種類の営業資料の作成を支援してもらいました。デザインも洗練され、私たちが伝えたい価値や情報が非常に分かりやすく構造化されました。
この新しい資料のおかげで、営業活動の標準化が大きく前進。新しく入社したメンバーに説明する際にも、これらの資料を活用しています。誰が説明しても、ある程度のレベルでサーチェスの価値を伝えられるようになったのは大きな一歩でした。
ー営業資料の改善と並行して、コンテンツ発信の強化にも取り組まれたそうですね。
福宮 はい。そもそも、お客さまの多くは地中熱やサーチェスについてほとんどご存じない状態。その方々に一から詳細に説明するのは、とても非効率だと感じていたんです。
そこで、Webサイトやメルマガなどを通じて適切に情報発信を行い、サーチェスのことをある程度ご理解いただいた上で興味を持ってくださった方との接点を増やすことが重要だと考えました。
釜江 プロジェクトの途中から私が参加し、主にメルマガ配信の体制構築と運用を担当しています。才流には、まずその仕組みづくりからサポートしていただきました。
メルマガのネタは福宮の頭の中に豊富にありましたが、それをどのように引き出し、コンテンツとして具体化していくか。ネタ出し、執筆、配信というプロセスと役割分担を明確にし、継続的にコンテンツを生み出せる体制を整えていきました。

福宮 印象的だったのが生成AIの活用です。メルマガ作成の効率化について相談したところ、野田さんが「このように作成できますよ」と、生成AIを活用して素早く10本程度のメルマガ案を作成してくださいました。
最初は半信半疑でしたが、そのスピードとクオリティに驚きました。それがきっかけとなって、私自身も生成AIを積極的に活用するようになり、今ではさまざまな業務で役立てています。
内藤 それから、才流には地中熱利用空調システム「サーチェス™」というサービス名を一緒に考えてもらいましたね。
野田 はい。当初、社内では技術ブランドとして「ヒートクラスター」という名称が使われていました。しかし、この専門的な名称ではお客さまに価値が直感的に伝わりにくかったのです。
そこで、お客さま視点で魅力が伝わる新しいネーミングを検討し、その過程で社員のみなさまがサービスへの理解を深め、自分ごととして捉えていただくきっかけをつくりたい。そう思い、社内公募をご提案しました。
福宮 社内公募を実施したところ、150もの案が集まりました。正直なところ、私は「地中熱」や自ら名付けた「ヒートクラスター」という名称に長年愛着があり、当初は名称変更に積極的に取り組む気持ちにはなれませんでした。
しかし、公募プロセスを通じて、社員たちが「地中熱とは何か」「どのような価値があるのか」といった点について深く考え、サービスを自分自身の課題として捉えることで、主体的に関わる非常に良い機会になったと感じています。あれは面白い取り組みでした。
売上見込み10倍。「安心して引退できる」新規事業の土台を構築
ープロジェクトを通じて、具体的にどのような成果が出ていますか。
福宮 まず、売上に明確な成果が表れています。才流の支援を受けた2024年の売上は、前年比で約3倍に増加。そして2025年の売上は、才流が支援に入る前の2023年比で約10倍に達する見込みです。
内藤 プロジェクト前後を比較すると、リード数は大幅に増加しました。コンテンツ発信を強化してからは、ほぼ毎日のように問い合わせが届くようになり、以前とは比較にならないほどお客さまとの接点が増えています。現在、多くの見込み案件を抱えている状況です。
ー組織としてはどのような変化がありましたか。
福宮 実は私自身、あと2年ほどで定年を迎えます。そのため、私がいなければ回らないという状態を解消し、この事業を次の世代へしっかりと引き継ぐ体制を整えることは、個人的にも非常に重要なテーマでした。
プロジェクトを経て、以前は私がいなければ進まなかったような案件も、メンバーのみで迅速に対応できるようになりました。部門全体の処理能力は格段に向上したと実感しています。
自分が心血を注いできたこの事業が、この先もチームの手でしっかりと成長していけるという確信、そして安心して次世代にバトンを渡せる目処が立ったという意味で、本当に感慨深い、そして嬉しい変化でしたね。

内藤 メンバーの意識にも変化がありました。サーチェスのような商材はリードタイムが長いのですが、以前は短期的な成果を求めがちだったんです。しかし、プロジェクトを通じて、受注までに2年、3年を要する長期的な取り組みであるという認識が共有された。それからは、過度なプレッシャーから解放され、長期的な視点で施策に取り組めるようになりました。
ー他部署との連携にも変化はありましたか。
福宮 社内の既存事業、例えば農業資材やシート素材といった部門との連携が強化されました。
特に工場向けの提案などでは、当社のシート素材とサーチェスを組み合わせることでお客さまへの提供価値が高まります。ですが、以前は私の口頭での説明が中心で、その具体的な連携メリットが社内の他部署のメンバーに十分に伝わりにくかったんです。
しかし、プロジェクトを通じて実際にシート素材と連携した具体的な成功事例が生まれたことで、「ああ、こういう形で連携できるのか」と、社内の誰もが具体的なイメージを持てるようになりました。これにより、部門間の連携提案が格段に進めやすくなった点も大きな成果だと考えています。
高野 今回のプロジェクトですばらしい成果が現れた要因は、まず福宮さんの高い顧客解像度というポテンシャルがあったこと。そして、それを言語化し、実行の優先順位付けができたことにあると考えています。
さらにプロジェクトに内藤さん、釜江さんが加わり実行体制が強化され、施策を着実に進められたこと。これらのピースがうまく組み合わさった結果ではないでしょうか。

才流は事業や組織の進むべき道を示してくれる伴走者
ー才流のコンサルタントの印象はいかがでしたか。
福宮 毎週の定例ミーティングが本当に楽しみでしたね。世の中にはこれほど優秀な方がいるのかと純粋に驚いたんです。これほど私たちの思考を整理してくださる方がいるのか、と。自分たちだけでは整理しきれなかった混沌とした状況を見事に整理し、進むべき道筋を示してくれました。
私たちの考えやこれまでの取り組みを一切否定されることもありませんでした。頭ごなしに否定するのではなく、私たちの意図を汲み取ったうえで、「こちらの方法を試せば、現状の行き詰まりを改善できますよ」といった形でより良い方向へ導いていただきました。
内藤 専門性の高さも際立っていました。あらゆる点において解像度が非常に高い。事業や顧客に対する理解が深く、こちらが1つ質問すると2つ3つと示唆に富んだ回答が返ってくるので、議論がスムーズに進みました。
また、才流が作成した戦略や提案には、綿密なヒアリングに基づいた、たしかな根拠がありました。だからこそ、プロジェクトを最後までやり遂げることができたと感じています。
釜江 実行段階でのサポートも手厚いものでした。私自身、途中からプロジェクトに参加しましたが、才流の進め方や関係者とのコミュニケーションの取り方は、社内の他部署と連携を進める上で大変参考になりました。
ー才流の支援は、どのような課題を持つ企業におすすめできますか。
内藤 私たちのように、ある程度の社歴があり確立された業務プロセスを持つ企業が、変革を必要としている場合に非常に有効だと思います。
社内の人間が改善点を指摘しても、人間関係などから難しい場合もあります。それを才流のような外部の専門家が客観的な視点で整理し、進むべき道を示してくれるのは大きな価値がありますから。
福宮 あとは、新規事業に懸命に取り組んでいるものの状況が整理されず、進むべき方向性が見えにくくなっているような会社にもおすすめです。
才流は、そのような状況を客観的に見て役割を明確にし、事業の軸を確立してくれます。無駄な動きを減らして、注力すべきところにフォーカスしたいと考えている企業にはフィットするはずです。
ー最後に、サーチェスの今後の展望を教えてください。
福宮 今回の取り組みで、目標達成が現実的な視野に入ってきました。現在は、その目標を超えてさらに事業を成長させるにはどうすべきか、という次の段階の議論を進めている状況です。
今後は一部の重点地域にリソースを集中し、確実に売上を上げていきます。その次の展開として重点地域の拡大も見据えています。また、現在2〜3年かかることもあるリードタイムを短縮するという挑戦も始めていきたいですね。

(撮影/慎 芝賢、取材・文・編集/河原崎 亜矢)