マーケティングのDX支援サービス企業の株式会社イルグルム様。
マーケティングプラットフォームと商流プラットフォームの2事業を展開し、広告効果測定プラットフォーム「アドエビス」、運用型広告レポート自動作成ツール「アドレポ」、ECオープンプラットフォーム「EC-CUBE」(※連結子会社が運営)などを提供しています。
同社では、2004年にアドエビスをリリースし、早くからパートナー戦略に注力してきました。しかし、コロナ禍によるお客様の事業停止や広告予算縮小の影響もあり、パートナー経由の持続的な売上拡大に苦戦していたといいます。
才流は2022年11月から3か月間、SaaSビジネスのパートナー(代理店)戦略策定をご支援。アドエビス事業推進本部 副本部長であり、パートナーアライアンス部 部長の石井様に、プロジェクトの率直な感想を伺いました。
コロナ禍でパートナー(代理店)経由での成長戦略に課題
ー 今回才流が支援させていただいたアドエビスにおける、パートナー戦略の変遷と課題をお聞かせください。
石井 広告効果測定ツールのアドエビスは、2004年にリリースされ、当初からパートナー(代理店)戦略に注力してきました。
パートナー企業経由での販売比率が大部分を占めていた時期もありますが、近年はデータ活用やプライバシー保護に対する意識の高まりによって、事業主様との直接取引も増えています。
2019年には株式会社オプトからADPLAN事業の譲渡を受け、有料の広告効果測定ツール市場で実質1強のポジションをいただいています。
石井 順調に売上を伸ばしてきたアドエビスですが、コロナ禍によって、パートナー企業への訪問や常駐、勉強会などができなくなってしまったんです。
お客様の事業停止や広告予算削減などもあり、影響を受けた時期ですね。
パートナー経由でご契約をいただいたお客様の活用支援を行う部署では、どうしても売上やID数が多いお客様中心のご支援になってしまい、売上やID数が少ないお客様にまで手が回り切らない状況が続きました。
結果として、せっかくパートナー企業と一緒にやっているのに、リピートの商談や受注が少なく、お客様の解約率も高い状態になってしまったんです。
このままでは成長が継続できないのではないかと、危機感を持ちました。
しかし、実際にはパートナー企業やお客様からはネガティブな声があまり出てこなかったんです。
お客様はアドエビスを使って、それなりに満足していただいている。付き合いが長いお客様も多いので、直接不満を言いにくかったのかもしれません。
アドエビスが「効果測定の領域で1強」というポジションであることが、裏目に出てしまったんですね。
外部の知見を入れ、成果が出るたしかなプロセスを構築したい
ー 課題に対し、どのような打ち手を取られたのでしょうか。
石井 もともと、パートナー経由で新規顧客を発掘する部署・既存顧客の活用支援を行う部署の二つがありましたが、一つの部署に統合しました。
パートナー企業への提案から、パートナー経由で契約したお客さまのサクセスまで、一貫して支援する体制を作るためです。
そして、パートナー経由での売上拡大とさらなる成長を目指すためには、この機会に戦略を見直す必要があるのではないかと考えました。
業績を拡大するためのアプローチを推進しつつ、成果が出るたしかなプロセスを構築したい。それが、外部のコンサルティングを入れようと決めた理由です。
私は、事業に対して思考を深める部分に時間を割きたいので、管理・実行の部分をお任せできたほうが、スピードと質は上がるだろうと考えました。
とはいえアドエビスは、パートナー企業はもちろん、新卒や中途の社員でさえ、理解するのが難しい商材なんです。
「外部の方に、アドエビスを深く理解してもらえるだろうか?さらにパートナービジネスにも精通していて、信頼できる。そんな支援会社はあるのか?」と、半ば諦めていたんですよね。
ですから、才流がパートナー戦略の支援をはじめられたとTwitterで知ったときは、「運命かな」と思って(笑)。すぐにウェビナーのアーカイブを視聴し、問い合わせをしました。
パートナーは商材の価値を理解しているが、腹落ちしていない
ー プロジェクトでは、具体的にどのようなことを行ったのでしょうか。
桂川 プロジェクトは、大きく分けると3つのテーマがありました。
- 調査・分析
- 代替手段との位置付けをまとめる
- モニターテストからの気づきをまとめる
桂川 1か月目は、主に調査・分析です。見込みパートナー(代理店)と、見込み顧客に計7社、既存パートナー6社にインタビューを行いました。
アドエビスは、石井さんがおっしゃったように実質1強のポジション。広告代理店営業の認知度も100%でした。
一方、パートナー企業の営業担当者が認識しているアドエビスの印象や価値には、それぞれ違いがあったのです。
過去の経験や先輩から聞いた話などをもとに、なんとなく理解しているが、実践したことはない。アドエビスの価値に対し、腹落ちしていない状態の方が多かったんです。
ここに理解の壁があると感じました。
桂川 パートナーからの案件増加に向けて。次にやるべきことは、アドエビスの価値をパートナーに「腹落ちしてもらう」ことだと位置づけました。
桂川 ただ、調査・分析の結果は、アドエビスのパートナー戦略にたずさわってきた石井さんからすると、既知の情報だったんですよね。
石井 はい。これまでの社内調査や経験などから、想定していた内容でした。
桂川さんからは、プロジェクト開始前に「遠慮しないでください」と言っていただいていたので、新たな示唆が得られていないこともお伝えしました。
桂川 このとき率直に言っていただいたことで、エキスパートインタビューに舵を切れたんですよね。
石井 そうですね。ただ、結果的には調査・分析をまとめていただいたことで、大きな気づきがあったんです。
頭でわかっていることと、コンテンツとして表現できているのでは、天と地ほど差があるということです。
考えてみれば、社内でも頑張って説明しないと理解してもらえないことを、パートナー企業の方がすぐに理解できるわけがない。理解してもらうためには、価値を言語化し、可視化して見せてあげないといけないですよね。
同じように、「パートナー企業が感じていることや課題を、いかに言語化するか」がパートナービジネスの肝だったんだと……。いい意味で、自分自身がやってきたパートナービジネスのあり方が崩れ去り、新たな視点をいただきました。
2か月目でぶつかった「壁」をどう乗り越えたか
ー 2か月目には、壁にぶつかったこともあったそうですね。
桂川 1か月目の終わりごろから2か月目を使って、アドエビスとGA4のポジションの違い、訴求をどうすればいいのかを議論しました。ここは悩みましたし、時間がかかったところです。
業界のエキスパート3名に何度もヒアリングを重ねたのですが、たしからしい仮説がなかなか見つからず、ゴールが見えない状態でした。
石井 一緒に悩みましたよね。ただ、僕は「ここは才流に頼るところじゃない」と思っていたんです。アドエビスの事業者として考え抜かなくちゃいけないと。
才流のお二人には、とんでもない長文のSlackを送って、とにかく自分で考えたことをシェアしまくっていましたよね。自分が考え抜きさえすれば、具現化は才流のほうでやっていただける。お任せできると思っていましたから。
高橋 お互い、同じ量で思考する必要がありましたね。
プロダクトに対する理解の深さでは、石井さんレベルまではなかなかいけません。思考を言葉にしてくださって、こちらもアップデートができました。
石井 当初の話では、GA4との立ち位置については「短期の伴走支援をやりきるために、あまり踏み込めないだろう」と期待値の調整をいただいていたんです。でも、実際に走りはじめたとき、一番期待値を超えて動いてくださった部分がここでした。
社内でアプローチするときも、GA4の何から手をつけたらいいのかわからない人が多いし、自分で勉強できるものでもない。手が止まってしまうんですよね。
そんな中で、才流は自分たちで手を動かしてくださって、頑張ってくださる。それがひしひしと伝わってきたんです。
優秀な社員が急に増えたような感覚で、頼もしかったし、ありがたかったですね。
桂川 3か月目には、既存のパートナー企業の方に、営業資料を見ていただくモニターテストをしたり、ディスカッションをしたりしながら、アウトプットや訴求の検証を行いました。
桂川 最後の1か月ということで、才流が支援を終えた後を見据え、イルグルム様の社内で資料を作成してもらったり、ワークショップで意見を出し合ってもらったりもしました。
「支援が終了しても、プロセスやメソッドは社内に残る」
ー プロジェクトを通じて、一番の成果は何だったと思いますか。
石井 当初想定していた以上のアウトプットをいただきましたし、パートナー戦略のあり方を見直すことができたのが、何より大きな成果だったと思います。
これまで社内で取り組んでいたときは、アイデアを検討する時間が長く、アウトプットを作るのも時間がかかり、完成したころには課題の緊急度が下がってしまうことがありました。
ですから、まずは顧客解像度を高めてアイデアが浮かびやすい状態を作る、生煮え状態でもモニターテストをしながら、クイックにフィードバックサイクルを回す。頭でわかっていることもしっかりと言語化する、などのプロセスを体感できたのは収穫でした。
プロジェクトを一緒に進めてきた社内のメンバーからも、非常にポジティブな声があがっています。
「これまでの4年で積み重なってきた負の遺産を、プロジェクトでほとんど解消できました。これからパートナーさんと取り組みをはじめることが、とても楽しみです」(上石様)
「これまでは、どうやってアドエビスを売っていこうか、漠然と不安に思うことが多かったです。今回のプロジェクトで、アドエビスの見落としていた価値が見え、ポジティブに向き合えるようになりました」(福井様)
石井 もともと「なんとかお客様のためになりたい」という気持ちが強いメンバーなのですが、進め方やプロセスがわからないことで、うまくいかない部分もありました。
今回のプロジェクトで、提案のステップに基づくメソッド、テンプレートなどはすべてご用意いただきました。次になんらかの課題にぶつかったときも、「自分たちでやってみよう」と思えるのではないでしょうか。
今まで以上に、「仕組み化する、コンテンツ化する、言語化する」ことへの感度も上がったと思います。
ー ひと言で表現するなら、プロジェクトはどのようなチームでしたか。
桂川 私は、同じ船に乗っているような気持ちでした。石井さんが情報をくださり、思考を深めてくださる。私たちはそれを形にする。ゴールに向かって一緒に悩みながら、全力で進んできた3か月でした。
石井 僕はアクション映画をよく見るんですが、敵に周りを囲まれて1人だと背中を撃たれちゃうようなシーンってありますよね。そんなときに、才流に背中を任せている感覚でした。
僕が思考を深めてぶつければ、才流が具現化するところをやってくれるという役割分担で、とにかく密にコミュニケーションをとっていましたから。
社外の人に背中を任せられるというのは、幸せなことですよね。
契約終了の3営業日前まで、桂川さんと会話しながらメモをとりながら議論して。そこからキラーコンテンツも生まれました。粘り強くご支援してくださり、妥協なくやりきることができました。
社内に残った資産もたくさんあります。成果につながることを期待しつつ、プロジェクトの点数をつけるとするなら、忖度なしの100点ですね。
パートナービジネスは立ち上げ初期にこそ、仕組みを作るべき
ー 今後、才流に期待することはありますか。
石井 才流はさまざまなメソッドを発信されていて、社会的にとても意義のある活動をされていると思います。
これから、パートナー戦略の伴走支援や、マーケティング戦略でもご支援をいただくことが決まっています。どんどんメソッドや領域を増やして、ご支援をいただけるとありがたいです。
パートナービジネスは最初の設計が非常に重要です。だからこそ、立ち上げ初期に正しいプロセスをインストールしたほうがいい。これからパートナー戦略に取り組みたい会社は、才流に依頼するとよいのではないでしょうか。
(撮影:植田 翔、執筆・編集:安住 久美子)