「代理店販売をしたいが、ディストリビューターとリセラーの違いってなんだろう」
「全国に代理店ネットワークがあるディストリビューターを通して販路を広げたい」
「ディストリビューターと契約したのに売ってくれない」
このような疑問、期待の声をよく聞きます。
ディストリビューターとの取引契約の締結は、代理店ビジネスを拡大するうえで重要な意思決定の一つです。販路拡大や代理店管理コストの軽減といったメリットがある一方で、ディストリビューター特有の商流である二次店や三次店の収益を見越したプライシング設計が必要になることも。
本記事では、ディストリビューターの位置付けや役割、営業活動の実態について、ディストリビューター各社へのインタビュー内容も交えて解説します。
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※関連記事:SaaS企業のパートナーセールス入門~取り組むための判断軸とよくある誤解~
ディストリビューターとは?リセラーとの違いは?
ディストリビューターとは
ディストリビューターとは、顧客に直接販売せず、代理店へ商材を卸す仲介業者のこと。上図のとおり、多くのリセラー(二次代理店)と取引します。また、二次店の先に三次代理店を挟んで顧客に提供するケースもあります。
多くのメーカー(ベンダー)と取引を行ない、同一カテゴリーのプロダクトを複数のメーカーから仕入れる点も特徴の一つ。理由は、リセラーおよび顧客の要望を満たすプロダクトを提供することが価値になるから。何でも取り扱っているため、リセラーから「とりあえず相談する相手」というポジションを獲得できている点もディストリビューターの強みです。
国内では、ディストリビューターとリセラーを同義語として使っているケースをよく見かけますが、代理店ビジネスを進めるうえでは分けて考えましょう。
リセラーとの違い
リセラーとは、メーカー(ベンダー)またはディストリビューターから仕入れて、顧客に販売する会社のこと。代理店、特約店、セールスパートナーと呼ばれることもあります。契約形態は、仲介方式や再販方式などがあります。
国内の大手ディストリビューター各社の特色
国内の大手ディストリビューターは「SB C&S株式会社」「ダイワボウ情報システム株式会社」の2社。各社の特色を代理店ビジネス視点で紹介します。
SB C&S株式会社
国内トップクラスの販売ネットワークと技術・商品開発力を持つディストリビューター。IT、ICT(Microsoft Azure、ファイル管理、Microsoft 365、Google Workspaceなどの導入支援)、IoT領域を中心に、マルチベンダー(メーカー約4,000社、40万アイテム)としてプロダクトを提供しています。
- IT製品・サービスの情報サイト『IT-EXchange』
- 『SB C&Sがおすすめするビジネスソリューション』
- 【才流×SB C&S 対談】SaaSパートナービジネスの架け橋となる「ディストリビューター」とは
※ 世の中ではあまり知られていない、ディストリビューターの実態を深掘りした記事です。SaaSベンダーの製品も数多く取り扱うディストリビューターが、どのような立ち位置でビジネスを行っているのかがわかります
ダイワボウ情報システム株式会社(DIS)
IT関連商品を取り扱う国内最大級のディストリビューター。“顧客第一主義、地域密着”を基本方針に、マルチベンダー(メーカー約1,300社、220万アイテム、在庫3万点)として、販売パートナーを通じて顧客へプロダクトを届けています。
全国各地に営業拠点を展開し、さまざまなパートナーと取引していること。導入前のキッティングサービスから導入後の保守まで体制を整えている点も強みです。
【ダイワボウ情報システム株式会社のサイト】
・ダイワボウ情報システム株式会社公式HP
・BtoB ECサイト『iDATEN』
・サブスクリプション管理ポータル『iKAZUCHI』
その他、株式会社ネットワールドやTD SYNNEX株式会社、キヤノンマーケティングジャパン株式会社など、得意領域や顧客基盤、ネットワークを持つディストリビューターがいます。企業規模だけでなく、注力領域、顧客基盤や営業体制などを考慮し、パートナーを選定しましょう。
インタビューから見えるディストリビューターの実態
ディストリビューターはメーカー(ベンダー)にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。期待することとしてよく挙げられるのは、以下の2点です。
- 二次店や顧客に営業してくれる
- 全国にネットワークがあるので、地方の顧客にもアプローチできる
しかしながら、ディストリビューターが勝手に営業してくれるイメージは、よくある誤解の一つ。実態は異なります。
あまり知られていないディストリビューターの理解を深めるために、各社の営業活動や評価制度に関するインタビュー調査を実施しました。その結果を紹介します。
インタビュー調査結果
ディストリビューターを理解するうえで大切な3つのポイント
インタビューから見えてくるポイントは、以下の3点です。
1.「自主的に提案する」ではなく、顧客から「聞かれる」
ディストリビューターの営業活動を紐解くと、「◯◯をしたいが、御社で取り扱いありますか?」といった代理店からの問い合わせ対応が多いことがわかります。これは取り扱い製品が多いディストリビューターならではの特徴の一つです(すべての営業が受け身のスタンスという意味ではありません)。つまり、ディストリビューターが営業してくれるというイメージは誤ったものであり、本質的な価値は、代理店との間口を広げる役割にあります。
2.「売上・利益・注力商品の販売数」で評価される
営業の評価において、売り上げ・利益は言うまでもありませんが、特筆すべきは注力商品。メーカー視点では、これに選ばれると案件数が増加することに。注力商品に選ばれるか否かで販売数に雲泥の差が出ます。
3.「かんたんに売れる」「利益が大きい、ストック収益が見込める」ことへの意識が強い
ディストリビューターは取り扱い件数が多いため、専門知識が必要なプロダクトは相性がよくありません。なぜなら、売るためのスキルが必要になるから。専門知識が必要なプロダクトは、かんたんに売れる仕組みを構築することから始めましょう。
また、営業の個人予算が大きいため、案件単位で営業利益が小さいプロダクトも相性がよくありません。月額モデルの料金体系は年額モデルを用意するなどの工夫が必要です。
代理店ビジネスを拡大するには、ディストリビューターやリセラーの理解が大切です。インタビューをして具体的なインサイトを引き出せれば、どこに重点を置いて施策を打つべきか見えてきます。
ヒアリング項目は、以下の記事を参考にしてください。
※関連記事:パートナー(代理店)向けインタビューの実践テンプレート
ディストリビューターの介在価値とは?取引するメリットと注意点
「小ロットやスポットでの取引に手間がかかる」
「地方を攻略するために、数十〜数百社と代理店契約を締結するのはリソース負荷が大きい」
このような課題を解決する手段として、取引口座数や代理店ネットワークに秀でているディストリビューターとの契約締結は有効です。その一方で、注意すべき点もあります。
取引するメリット
ディストリビューターと取引する際に得られるメリットは以下の4つです。
- 代理店管理コストの軽減
- 全国ネットワークの享受
- セミナー登壇、展示会出展の機会の獲得
- 在庫管理や物流コストの負荷軽減
1.代理店管理コストの軽減
- 契約書のやり取り、締め支払い処理、機能アップデートの案内、在庫管理など
- 例:スポット案件は「ディストリビューターから仕入れることができます」の一言で対応できる
2.全国ネットワークの享受
- 地方の代理店を通して、地場の顧客にアプローチできる
- リセラー向けシステムに登録して検索してもらうことで認知獲得ができる
3.セミナー登壇、展示会出展の機会の獲得
- ディストリビューター各社は、自社で展示会やセミナーを主催しているため、新規リードに接触することができる
4.在庫管理や物流コストの負荷軽減(物販の場合)
- 急な需要増があっても、ディストリビューターが在庫運用をしていると、欠品リスクを軽減することができる
- 注文のたびに代理店へ直接配送をする件数が減るため、物流コストを圧縮できる
取引する際の注意点
ディストリビューターと取引する際に注意すべきポイントは3つです。
- 受け身の営業体制であることを理解する
- 二次店の収益を見越したプライシング設計が必要
- 顧客が見えづらくなる
1.受け身の営業体制であることを理解する
ディストリビューターと契約を締結すれば営業が勝手に売ってくれることはありません。むしろ、ディストリビューター側の注力商品に選ばれない限り、営業が積極的に二次店に紹介・販売することは稀です。ほとんどの商材は受け身の営業体制に埋もれてしまいます。したがって、カテゴリー認知度やプロダクト認知度がない場合は、ディストリビューターの開拓の前に、顧客や二次店の指名を増やすようなプロモーションを優先しましょう。
2.二次店の収益を見越したプライシング設計が必要
ディストリビューター経由での販売の場合、二次店の存在を考慮したプライシング設計が必要です。もし二次店に利益が渡らないプライシング設計にすると、二次店は販売メリットがなくなります。競合または代替手段を提案するケースも出てくるでしょう。
3.顧客が見えづらくなる
ディストリビューターがどの顧客にどのように提案したのかといった情報はわからないため、マーケティングが見えなくなりがちです。もし、マーケティングを兼ねて提案先の情報も欲しい場合は、ターゲットリストを作成するなど、ディストリビューターのMD担当(マーケティング・仕入担当)への働きかけが必要です。
よくある質問
よくある質問をまとめました。
Q1. ディストリビューターに動いてもらうにはどうしたらいいか?
ディストリビューターの営業が商材を選ぶ動機は以下の4つです。
- 会社または自組織の方針で、注力商品として位置づけられている
- 例:コロナ禍でのオンライン会議サービス、セキュリティなど
- リセラーや顧客からの問い合わせがある
- 例:「問い合わせ対応を効率化したくて、チャットボットを検討しているんだけど、おすすめある?」
- リセラーに訪問する際の小ネタとして使える
- 例:電子帳簿保存法の改正といったトレンドやコンペリングイベント
- 取引先にニーズがあると判断する
- 例:個々の営業が、取引先にフィットするソリューションを探して自主的に提案する
一例を紹介します。
1のケースでは、例えば、SB C&S社はICT事業に注力し、Microsoft 365やGoogle Workspaceの導入支援をしています。ディストリビューターの事業や他商材と組み合わせたソリューションパッケージを作ると、ディストリビューターが積極的に提案する必然性が生まれます。
2のケースで自社のプロダクトが選ばれるためには、「チャットボットの選び方ガイド」「顧客の選定軸でみる競合製品比較表」といったセールスツールを用意し、ディストリビューターの社内イントラに掲載してもらう方法があります。また、ディストリビューターの各拠点の営業や事務サポートからすぐに相談してもらえるように、日頃からコミュニケーションを図り、関係を構築することも大切です。
Q2. スタートアップが大手ディストリビューターと組むことはできるのか?
できます。ディストリビューターは新たな商材を常に探しています。よくあるシチュエーションは以下のとおりです。
- リセラーから「顧客が◯◯を求めているけど、御社では引けますか?」と問い合わせを受ける
- ディストリビューター自ら、自社の事業と相乗効果を出せる商材を見つけるために、展示会を視察する
- ディストリビューター各社のWebサイトの問い合わせフォームから売り込みを受ける
- 取引しているリセラーの経営層経由で紹介を受ける
一方で、ディストリビューター視点では、メーカー(ベンダー)からの売り込みが多くて対処しきれないことも事実です。すべてのメーカーと面談する時間はありません。したがって、メーカーがディストリビューターに初回アプローチを行なう際は、Why you now(なぜ、いまやるべきなのか)を端的に伝え、詳しい話を聞いてみたいと思われることが大切です。
ディストリビューターと取引することで、販路拡大やパートナー管理コストの軽減などのメリットを享受できます。他方で、二次店の収益を見越したプライシング設計が必要になります。
本記事が、メーカー・ディストリビューターの双方にとって円滑な契約、有意義な取引になるための一助となれば幸いです。