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無料トライアルから有料版へのコンバージョン率を上げる方法【SLGモデルのSaaS向け】

BtoBマーケティング
コンサルタント
金森 悠介

無料トライアルのユーザー数は増えたが、そこから有料ユーザーに転換する割合が低い

有料ユーザーを増やすために他社ではどんな施策を実施しているか知りたい

BtoB SaaS事業を展開していて、このようなお悩みを感じたことはありませんか?

才流(サイル)では、無料トライアルを提供しているBtoB SaaS運営のエキスパートに対してインタビューを実施。本記事では、インタビューの回答からわかった無料トライアルから有料版へのコンバージョン率を上げるためのポイントや成功事例を紹介します。

なお、本記事では営業を軸に成長を志すSLG(Sales-Led Growth)モデルに焦点を当てて解説しています。日本企業のBtoB SaaS事業の多くがSLGモデルであるためです。ビジネスモデルの違いによっては参考にならない可能性が高いため、ご注意ください。

プロダクトを軸に成長を志すPLG(Product-Led Growth)モデルにおける、無料トライアルから有料版へのコンバージョン率を上げる事例についても情報を収集中です。取材を受けていただける方は、ぜひお問い合わせください。
■取材についてのお問い合わせ⇒こちらから

そもそも無料トライアルを提供するべきか?

BtoB SaaS事業では、無料トライアルを提供している企業が数多く存在します。そのため「自社のプロダクトにおいても無料トライアルを提供するべきなのでは?」と思われるかもしれません。

しかし、すべてのBtoB SaaS事業にとって有料契約を増やすのに無料トライアルが最適な方法とはいえません。プロダクトの完成度や顧客へのサポート体制が未熟なままだと、見込み顧客は価値を感じられないまま離れていく可能性があります。

まずは今のタイミングで無料トライアルを提供するべきなのかよく検討しましょう。

才流で行ったインタビューによると、以下のような回答もありました。

無料トライアルは市場に投入するタイミングが大事である。プロダクトの完成度が低く、カスタマーサクセスの体制も弱く、見込み顧客の課題を十分に解決できない段階では、無料トライアルは設けるべきではない。なぜなら、無料トライアルを案内されて使ってみたものの価値を感じず、課金もしないという状態になってしまうから。また、市場シェアがキャズムを超えるまでは無料トライアルを設けるべきでない

無料トライアルには2種類ある

前提として、無料トライアルには大きく分けて2つのモデルがあります。

  • オプトインの無料トライアル
  • オプトアウトの無料トライアル

それぞれの特色について解説していきます。

※本記事の「無料トライアル」は、オプトインの無料トライアル、オプトアウトの無料トライアル、両方を包含する前提で記載しています。

オプトインの無料トライアル

オプトインの無料トライアルは、登録時にクレジットカードの番号などの支払い情報を求めずに、プロダクトを無料で試用できるようにするモデルです。Google Workspacebacklogといったプロダクトがこれに該当します。

オプトインの無料トライアルから有料版への転換率は、製品カテゴリと対象の顧客によって異なりますが、数%から25%以上といわれています※。ただし、さまざまな前提条件によって左右されるため、例外も存在します。

※出典:fastspring|8 Strategies for Converting Free Trials Users into Paying Customers

backlog登録画面
参考:Backlog|チームで使うプロジェクト管理・タスク管理ツール

オプトアウトの無料トライアル

トライアル登録時にクレジットカードの番号などの支払い情報を求め、入力が完了してから製品を無料で試用できるようにするモデルです。Shirofuneがこれに該当します。

shirofune登録画面
参考:Shirofune|広告運用自動化ツール

オプトアウトでは支払い情報を事前に収集しているため、無料トライアルから有料版への転換率が高く、通常30%から50%になるといわれています※。一方で、情報入力のハードルが高く無料トライアルの登録中にユーザーが離脱してしまうこともあり、オプトインの無料トライアルと比べると、無料トライアルの登録のコンバージョン率は低い傾向があります。
※出典:fastspring|8 Strategies for Converting Free Trials Users into Paying Customers

フリーミアムとの違いは?

無料トライアルと似たようなモデルとして、フリーミアムモデルがあります。

フリーミアムモデルでは、機能に制限を設けていることが多いです。基本的な機能は無料でユーザーに提供しますが、高度な機能は有料ユーザーにのみ提供します。事例としては、ZoomSlackが有名です。

フリーミアムモデルの場合、無料トライアルから有料版への転換率は一般的に数%といわれています。なお、フリーミアムは無料トライアルの一種だという考え方もあります※。


ハイブリッドモデルは、フリーミアムとオプトイン・オプトアウトの無料トライアルを組み合わせたものです。たとえば、基本的な機能は無料で利用可能、1か月などの期間限定で有料版の機能も開放されます。事例としては、Chatworkがこれに該当します。

※出典:fastspring|8 Strategies for Converting Free Trials Users into Paying Customers

Chatworkサービス比較画面
参考:Chatwork|Chatwork無料版と有料版の違いを比較

無料トライアルから有料版へのコンバージョンを増やすには?

無料トライアルを提供することが決まったら、有料版へのコンバージョンを増やすために以下の基本方針を押さえておきましょう。

有料版へのコンバージョンを増やす基本方針

それぞれについて解説していきます。

①有料版で得られる価値を無料版でも提供

無料トライアルを利用する見込み顧客には、機能からカスタマーサポートに至るまで、実際のプロダクトと同様の使いごこちを体感してもらうことが大切です。

無料トライアルユーザーだからとないがしろにせず、プロダクトの価値を伝えてサポート体制にも満足してもらいましょう。有料版と同様の価値を提供したほうが、結果として有料版の導入へのコンバージョン率の向上につながる、といったケースもあります。

さらに、使い心地がよければ口コミで広まりやすく、プロダクトの認知向上も期待できるでしょう。

有料版にアップグレードするメリットを提示

無料トライアル中の見込み顧客に対して、有料版にアップグレードするメリットを伝えることもポイントです。

有料ユーザーに転換すれば、高度な機能の追加、品質の向上、より細かな顧客サポート、ストレージ容量の増加、セキュリティ機能の追加など、顧客もさまざまなメリットを享受できるはずです。

作業をより効率的に行うためにも、アップグレードが必要であることを提示しましょう。

③無料トライアルユーザーのフォローアップ

無料トライアルの最中もしくは終了後に、ユーザーのフォローアップを実施することで有料版へのコンバージョン率が上がるケースがあります。

無料トライアル中はユーザーの利用状況をモニタリングして、設定につまずいている人を見つけたらフォローを実施しましょう。また、可能であれば使用感についてフィードバックをもらいましょう。

無料トライアル終了直後は有料契約につなげるための営業の機会です。プロダクト利用の感謝の意を伝えつつ、有料契約の提案をしましょう。その際に、製品に関する質問やフィードバックがあるかどうかをヒアリングするのもおすすめです。

もし有料ユーザーにならなかったとしても、顧客のフィードバックに耳を傾けて、今後の改善に生かしましょう。

④アクティブ化率を指標としてモニタリング

無料トライアルから有料版へのコンバージョンを増やす観点で重要となる指標が、アクティブ化率(アクティベーション率)です。

アクティブ化率とは、サービス登録フローを完了した見込み顧客のうち、アクティベーションマイルストーンを達成したユーザーの割合のことです。

アクティベーションマイルストーンは、決まったものがあるわけではなく各プロダクトによって定義が必要です。たとえば「月に◯回以上、特定の機能を使っていたらアクティブ化」「初期設定が10段階あるうち、7段階以上まで設定が完了したらアクティブ化」といったように、アクティブ化したとみなす指標を設定します。

アクティブ化率をモニタリングできる環境が整っていれば、無料トライアルを利用したユーザーが有料版に転換するのか、それとも無料期間中で終了するのか予測可能になります。すなわち、見込み顧客に対するフォローの判断がしやすくなります

また、無料トライアルの獲得数有料版へのコンバージョン率もあわせてチェックしておくのがおすすめです。

※参考:Lenny’s Newsletter|What is a good activation rate

【アクティベーションマイルストーンの設定】

ユーザーがアクティブ化したかどうかの定義は、プロダクトによってさまざまです。

自社のプロダクトの場合、どういう状態になればユーザーがアクティブ化しているといえるでしょうか。アクティベーションマイルストーンが定まっていない場合は、これを機に検討してみてください。

「アクティベーションマイルストーンを何にしよう?」と設定に悩んでいる場合は、有料版につながった顧客のプロダクトの利用状況を分析してみるとよいです。利用状況のデータが把握できれば、有料版への転換の勝ちパターンとなる仮説が立てられるでしょう。もしデータが取れていないのであれば、顧客にヒアリングしてみるのもおすすめです。

【成功事例】無料トライアルから有料ユーザーが増えたケース

ここからは、無料トライアルから有料ユーザーを増やすことに成功した事例を紹介します。

※ここで紹介している施策がすべてのプロダクトにフィットするとは限りません。自社のプロダクトに当てはまるかどうかは、慎重にご検討ください。

事例1:初期設定を代行

低価格帯のSaaS事業を展開するA社の事例です。

施策を打つ前:マニュアルを送るだけで、無料トライアル後のフォローは実施せず


施策の内容:無料トライアル期間中に初期設定ミーティングを実施し、無償設定サポート

無料トライアル開始後、1時間の初期設定ミーティングを実施。一部の設定を代行することで、プロダクトの核となる体験をしてもらうのが目的です。

使い方がわからないことが原因で、プロダクトをまったく触らないまま無料トライアル期間が終わってしまうケースは意外と多いです。そのような事態を避けるために、営業担当のサポートを導入したところ、有料版への転換率を向上させることに成功しました。

この施策は、プロダクトの価格帯、自社のリソース状況や思想によって実施できるかどうかが左右されるでしょう。

事例2:営業による事前説明と契約の締結を実施

低価格帯のSaaS事業を展開するB社の事例です。

施策を打つ前:「無料トライアル期間中で十分に分かったので有料版の契約はしない」というケースが多発していた


施策の内容:無料トライアル時に契約を締結し、請求先の情報を受領

Webサイトからの無料トライアルの申し込みだけでアカウントを発行するフローを廃止。トライアル開始前に営業による事前説明を行う、契約を締結して請求先の情報を受領する、キャンセルしない限り有料版に移行する、といった施策を実施しました。その結果、有料版へのコンバージョン率が向上したといいます。

先述した「オプトアウトの無料トライアル※」と似ていますが、営業による事前説明を行うことでプロダクトの正式導入のメリットを伝えられたのではないでしょうか。

※オプトアウトの無料トライアル:トライアル登録時に支払い情報を求め、その記入が完了してから、製品を無料で試用できるようにするモデルのこと

事例3:現地への訪問、設定のサポートを実施

ソフトウェアだけで完結しないSaaS事業を展開するC社の事例です。

施策を打つ前:営業からサポートまで、すべてオンラインで実施。しかし商材自体の設定難易度が高く、マニュアルを配布するだけでは初期設定ができない顧客もいた

施策の内容:現地訪問して設定をサポート。その場でプロジェクトの進め方を合意

見込み顧客の中でも単価が高い業種を中心に、現地訪問して設定サポートを実施。その場でプロジェクトの進め方や計画を立てたことで、無料トライアルから有料版への転換率が改善しました。

同社ではほかにも以下の取り組みを行いました。そのなかでも現地訪問が最も成果が出たそうです。

  • お客さまの業種ごとに最適なメッセージを整理し、セールス・マーケティングで活用
  • 関係者に価値を伝えるために、社内説明会をサポート
  • 無料トライアル期間中に契約をしたら割引

この事例は、IoTなどソフトウェアだけで完結しないSaaS事業者の参考になるでしょう。

事例4:期間を区切ったKPIマネジメントを実施

最後にD社の事例を紹介します。

施策を打つ前:無料トライアルの獲得数は増えるものの、有料版へのコンバージョン率に課題があった

施策の内容:営業チーム全員が特定の期間、ひとつのKPIに集中するようマネジメント

その事業では、営業担当のリソース不足で無料トライアル後のサポートが満足に実施できていませんでした。そこで、あるときは獲得に集中し、あるときはサポートに集中するというように期間を区切ってKPIを設定。営業がやり切ることで最終的な目標達成につなげることができたといいます。

D社の例は、営業のやり切り力が高い企業には参考になりそうです。

「とりあえず無料トライアル」は失敗する

取材の結果、最も多かった失敗事例は「とりあえず無料トライアルしてもらう」ことでした。顧客がプロダクトに必要性を感じていない場合、無料トライアルだとしても利用しないで終わってしまうことがほとんどです。

やみくもに無料トライアルを案内するのは得策ではありません。まずは顧客に対してニーズ喚起を行い、納得してもらってから無料トライアルを利用してもらうようにしましょう。

とくにプロダクトのリリース初期、無料トライアルの獲得数を追うために「とりあえず無料トライアルしてもらう」施策を実施する場合があります。しかし、それでは肝心の有料版へのコンバージョン率が下がってしまいます。くれぐれもさじ加減に注意しましょう。

最後に

執筆にあたって、当初は英語圏の事例を中心に情報収集をしていました。そこで気づいたのは、英語圏ではPLGモデルを前提にした話が多いことです。そこで本記事では、日本のBtoB SaaSで主流となっているSLGモデルにフォーカスして、有識者に取材を行いました。

無料トライアルの提供にはメリットもデメリットもあります。自社のプロダクトは本当に無料トライアルを提供するべきなのか、よく検討してください。無料トライアルを提供すると決めたら、アクティブ化率などの指標のモニタリングは欠かさないようにしましょう。

とくに無料トライアル期間中に起こりやすいのが、使い方がわからなくて利用をやめてしまうケースです。しかし、設定のサポートや丁寧なフォローを実施することで有料版へのコンバージョン率が上がる可能性があります。

今回は4つの成功事例を紹介しましたが、本記事で紹介した成功事例以外にもさまざまな施策が存在すると思います。「こんな施策も効果的だった!」といった情報があれば、ぜひ提供いただけますと幸いです。

■取材についてのお問い合わせ⇒こちらから

参考文献

Lenny’s Newsletter|What is a good activation rate

fastspring|8 Strategies for Converting Free Trials Users into Paying Customers

Product engagement: the most important metric you aren’t tracking for your SaaS business

One Capital|フリーミアム と フリートライアル、どちらを選ぶべきか

databox|8 Proven Strategies for Converting Free Trial Users to Paying Customers

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