自社の役員を連れて顧客の役員のもとへ伺ったのに、当たり障りのない雑談とお礼だけで終わってしまった。こんな失敗談をよく耳にします。せっかく役員同士が対面できても、表敬訪問で終わってしまえば、関係強化にもビジネス拡大にもつながりません。
本記事では、はじめてのエグゼクティブ訪問を関係構築とビジネスの起点に変える方法を解説します。対象は、自社の役員に同行し、当日の訪問全体を設計する立場の営業担当の方です。
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本記事で得られる知見
・初回エグゼクティブ訪問のゴールの設計
・事前準備の進め方
・当日「5分・20分・5分」で組み立てる面談シナリオ
エグゼクティブ訪問とは長期的な関係の起点をつくる営業活動
エグゼクティブ訪問とは、自社の役員が顧客の役員と対面し、関係を築いていく営業活動を指します。なかでも本記事で扱うのは、顧客の役員と会ったことがないメンバーでの初回訪問です。
エグゼクティブ訪問には、初回訪問のほかにも、定期的な訪問、協業提案や案件推進を目的としたビジネス訪問、大型案件後のお礼、トラブル時の緊急対応など、さまざまなシーンがあります。それぞれで最適な振る舞いは異なるため、本記事で解説する初回の作法が、2回目以降の訪問にすべて当てはまるわけではない点は、はじめにお伝えしておきます。
なぜ初回をとくに切り出して論じるのか。それは、1回目の対面でつくられた印象が、その後の関係の深さを大きく左右するからです。顧客の役員の頭のなかに「この会社といえば、あの人たち」と固有名詞で記憶されるか、「一度挨拶に来た会社」で終わるか。初回訪問で勝負が決まるといっても過言ではありません。
ここで意識したいのが、「表敬訪問」と「エグゼクティブ訪問」の違いです。受け身で挨拶に伺うのが表敬訪問だとすれば、エグゼクティブ訪問は、明確なゴールを持って設計された能動的な営業活動です。
当日に会話するのは役員同士ですが、その対面を設計するのは、同行する営業担当者です。営業担当者は付き添いではなく、役員同士が会う場をプロデュースする「訪問全体の設計者」だと捉えてみてください。この立ち位置の転換が、表敬訪問を意味ある訪問に変える出発点になります。

初回訪問のゴールは相手の理解と次回接点の創出
初回訪問のゴールは、その場で受注や合意を取りつけることではありません。相手の関心や問題意識の手がかりをつかみ、次の接点につながる約束を取りつけることです。
実際に長年にわたって金融機関へのエグゼクティブ訪問を重ねてきた、保険業界の執行役員の方は、エグゼクティブ訪問を「成果を出す場ではなく、成果を出すための材料を集める場」と位置づけていました。
公開されている情報より一歩深い全社方針への考え、社内で感じている課題の優先順位、その役員個人が成し遂げたいこと。こうした手がかりを1つでもつかめたら、初回としては成功です。
ただし、組織の力学やリアルな社内事情、他人が絡むような話は、会議室での初回訪問では引き出せません。初対面の相手に込み入った本音は明かせませんし、両社とも数名ずつが同席する公式の場では、なおさら口にしにくいからです。
こうした非公式な情報は、会食や雑談、ゴルフなどの非公式な場で聞けるものです。初回接点で非公式情報そのものを引き出そうとするのではなく、非公式な場につながる手がかりと接点を持ち帰ることに集中するのがよいでしょう。
コンサルタントの実践アドバイス

訪問が表敬で終わってしまう原因の多くは、当日対面する自社の役員の目的意識が定まっていないことにあります。自社の役員が「とりあえず来ただけ」の意識のままでは、当日は和やかな雑談で終わってしまいます。初回訪問のゴールは、必ず自社の役員と事前にすりあわせておきましょう。
初回訪問の事前準備
初回訪問では、事前準備が重要です。顧客の役員は多忙ゆえに時間にシビアで、会話の端々から相手の「準備の深さ」を見抜きます。
事前準備でやるべきことは、次の4つです。
01 リサーチ
02 自社の役員へのブリーフィング
03 当日持参する資料の作成
04 手土産の準備と根回し
リサーチ
はじめに、顧客や自社の状況をリサーチします。リサーチする情報は、次の4つです。
| リサーチする情報 | 具体例 |
|---|---|
| 顧客の役員本人に関する情報 | ・IR資料の役員紹介や有価証券報告書の役員略歴 ・前職や通ってきた部門などの経歴 ・インタビューや登壇の履歴 ・書籍や寄稿 ・SNSでの発信 ・表彰歴 ・趣味や好きな食事 |
| 企業に関する情報 | ・直近の決算説明会資料 ・中期経営計画(中計) ・最新のプレスリリース |
| 自社と顧客の取引状況に関する情報 | ・別支社、別部門を含む現在進行中の案件 ・過去の取引実績 ・顧客のキーパーソン ・自社内の担当者や接点 ・現在の契約状況 |
| (現在取引がある場合)現場に関する情報 | ・順調に進んでいる点 ・現場から感謝されている点 ・現場から今後期待されている点 |
まず調べるのは、訪問先の役員本人に関する情報です。相手がどんな畑を歩んできたかによって、刺さる話題は変わってきます。ただし、顧客の社内にすでに接点のある部長や担当者がいる場合は、リサーチする前にヒアリングするほうが効率的です。
2つ目に、企業に関する情報のリサーチです。直近の決算説明会資料、中期経営計画、最新のプレスリリースに目を通し、「中計の重点領域はここで、そこに自社のサービスはこう貢献できる」と1行で書けるようにしておきます。顧客の役員が中計の話題に触れた瞬間、自社の役員が「その文脈であれば、私たちのご支援は」と即座に返せる状態をつくっておくと、会話の深さが変わります。
3つ目は、自社と顧客企業との取引状況の総点検です。別支社や別部門も含めて、現在進行中の案件、過去の取引、既存のキーパーソンを洗い出しておきます。
これを怠ると、顧客の役員から「実はすでに別の部署でお付き合いがありますよね」と聞かされる事態になりかねません。自社のことを相手のほうがよく知っている、という状況は、準備不足の印象を決定づけてしまいます。社内の接点を事前に把握し、リスクになりえることはできるだけ避けておきましょう。
最後に、現場で進行中のプロジェクトの状況把握です。顧客の役員から「ところで、現場はどう?」と振られた瞬間に、自社の役員が即答できる準備をしておきます。
現場の担当者からヒアリングし、順調な点、現場から感謝されている点、期待されている点の3点セットを用意してください。この3つを短く語れると、自社との取引が有益であることを、相手に自然に印象づけられます。
上記の4つにくわえて、他業界の動向についても把握しておけるとベストです。
顧客の役員は、他業界の動向についても関心が高い傾向があります。自社の業界については社内からの情報が上がってきますが、「別の業界で何が起きているか」「どんな取り組みをしているか」は知る機会が限られているからです。
BPO業界で長年エグゼクティブ訪問を担ってきた方に聞いたところ、「経営者が渇望するのは、自社・同業の枠を超えた多角的な視点だ」と語っていました。
役員の課題やニーズに沿って話を引き出すために、他業界での動きを1~2本まとめておくとよいでしょう。
自社の役員へのブリーフィング
事前準備は、「営業担当がリサーチして終わり」ではありません。
当日話をする自社の役員に、リサーチした内容を十分にインプットしてもらう必要があります。
私が営業担当者だったころは、訪問前に役員と事前ミーティングを設けていました。内容は「どういうきっかけで商談が生まれ、相手は何を解決したくて受注に至ったのか」「決裁に関わったとき、その役員はどんな発言や期待をしていたのか」といった商談の過程などです。ミーティングは15〜30分ほどでしたが、事前に自社の役員が理解しているかどうかで、当日の会話の質がまったく変わってきます。
自社の役員用に資料を用意すべきかどうかは、役員のタイプにあわせます。資料を用意したほうがインプットしやすい方もいますし、社内資料を作るための時間が無駄だと考える方もいるからです。直属の上司や、過去にその役員と訪問した人に確認しておくと安心です。
ブリーフィング用の資料を作成する場合は、次の情報を各1ページずつ作成します。
p.1 訪問のサマリ
p.2 会社概要
p.3 契約状況
p.4 自社の担当体制
p.5 相手の経歴詳細
p.6 アカウントプラン
訪問のサマリは、日時、訪問手段、出席者、訪問目的、訪問のゴール、話してほしいポイントなどです。アカウントプランには、この取引を今後どう広げるかのストーリーを書きます。
当日持参する資料の作成
次に、当日に持参する資料を作成します。リサーチ結果をもとに立てた仮説から、相手の関心が高そうな情報を盛り込んでいきましょう。
しかし、資料は当日必ず使わなければならないものではありません。口頭の説明だけでスムーズに会話が進んでいるようであれば、相手が求めていることを伝えられているということ。わざわざ資料を出すことでトークを止める必要はありません。「念のため準備をしておき、あえて使わない」くらいで考えておけばよいでしょう。
資料を配る場合、相手が1〜2人であれば片面印刷でページ番号を入れず、ホチキスで留めないのが有効です。両面印刷でホチキス留めにして渡してしまうと、話の流れに沿った資料をその場で選んで出しにくいからです。資料のストーリーに会話が固定されてしまうリスクがあります。
手土産の準備と根回し
事前準備の仕上げとして、当日の体験価値を上げる手土産と現場への根回しにも触れておきます。
手土産は単なる訪問時の慣習ではなく、相手への理解の深さを伝える機会です。選定と手配は、訪問を設計する営業担当が担いましょう。
私が過去に、ある企業の営業変革をご支援したとき、「変革とは変わること、どんな色にも変化できるように」という願いを込めて、カラフルな箱に入った羊羹をお持ちしました。商品そのものの価値より、選定に込めた意図が伝わることが大切だと思ったからです。「自分たちのことをよく考えてくれている」と喜んでいただけました。
事前リサーチで把握した役員の背景や、顧客企業の文脈にひもづけて選ぶと、手土産は強いメッセージになります。
渡すタイミングは、冒頭の挨拶後か退出時のどちらかでかまいません。自社の役員から手渡しましょう。
そして手土産ともう1つ、当日のためにやっておくべきなのが根回しです。
当日会う役員の部下の方や関係する現場担当者がいれば、事前に話をしておきましょう。訪問の目的と当日話したいテーマを共有しておくと、現場から役員へ前向きな文脈で伝わり、当日の会話が進めやすくなります。
あるアパレル業界の元経営者の方も、エグゼクティブ訪問の前には必ず現場への根回しを済ませていたといいます。
コンサルタントの実践アドバイス

一点、注意したいのが受け取り可否への配慮です。企業によっては、コンプライアンス上、贈答品を受け取れない規定があります。高額なものは避け、その場で分けられる菓子折り程度にとどめるのが安全です。事前の根回しの段階で、相手が受け取れるかをそれとなく確認できるとなお安心です。
当日の進め方|「5分・20分・5分」で設計するシナリオ
初回訪問は30分を目安に、「挨拶・お礼に5分、情報交換に20分、締めに5分」という配分で設計します。この骨格を自社の役員と共有しておくことで、限られた時間を本題に集中させられます。
訪問後のフォローまで含めて、4つのステップで見ていきましょう。

挨拶・お礼(5分)
冒頭に、挨拶と日頃のご愛顧へのお礼を伝えます。
ここでおすすめしたいのが、冒頭で訪問の意図を宣言してしまうことです。自社の役員から「本日は売り込みではなく、お礼と、〇〇さまのお考えを伺いにまいりました」とストレートに伝えることで、相手は身構えずに本音を話しやすくなります。
5分の後半は、事前にリサーチした現場のプロジェクトがあれば触れておきましょう。順調な点・感謝されている点・今後期待されていることを共有することで、よい印象を持ってもらえます。
情報交換(20分)
ここが、訪問の核となります。役員同士で、相手が話したくなるような問いを軸に語り合う時間です。
質問はできるだけ具体的で、役員の関心や問題意識に寄せたものを用意します。
たとえば、「他業界では〇〇ですが、この業界ではいかがですか」「中計で一番難しいのはどこですか」「〇〇業界はこの3〜5年でどう変わると見ていますか」といった質問です。逆に、「御社の課題は何ですか」など、何を答えるべきかわからない漠然とした質問は避けましょう。
あわせて意識したいのが「ギブの精神」です。情報を引き出す(テイク)ばかりでは、次の面談は断られてしまいます。相手が喜ぶ情報や機会を常に用意しておく。この姿勢が、一度きりで終わらない関係をつくります。
先述したエグゼクティブ訪問のエキスパートである保険業界の方は、役員同士が「来週近くに行くから、夜少し会えないかな?」と非公式に連絡を取り合える関係を目指していたそうです。初回訪問は、これから続く長い関係の入り口だと考えましょう。
締め(5分)
最後の5分で、次の機会への種まきをします。
自社の役員から、本日の振り返りと次のアクションについて話をしてもらいましょう。加えて長期的な関係を見据えている旨をお伝えします。たとえば、「今回のプロジェクトが終わったあとも、また情報交換をさせていただけるとうれしいです」といった言葉です。
資料の送付、関係者のご紹介、会食の打診など、再接触の口実を1つ用意しておくと、次の接点につながりやすくなります。
お礼メール
訪問後は、24時間以内にお礼をするのが鉄則です。
自社の役員は相手の役員へ、自社の営業担当は相手の担当者へそれぞれメールを送ります。役員はccで顧客担当者と自社担当者を、営業担当はccで両社の役員を入れておきましょう。
このとき、相手の役員が話した具体的なキーワードを1つ入れると、「しっかりと聞いてくれた」という印象につながるのでおすすめです。
また、面談に関わった秘書の方にもお礼のメールを送っておくと、その後のやり取りが円滑になります。
あわせて、社内用に面談記録を登録し、担当者へ共有しておきます。こうした実務は、営業担当者が主体となって進める部分です。
まとめ|初回訪問の質が、その後の関係の深さを決める
はじめてのエグゼクティブ訪問は、表敬訪問で終わらせるか、関係とビジネスの起点に変えるかで、その後の展開が大きく変わります。当日の会話の主役は役員同士ですが、その対面を成功に導くのは、設計者である営業担当の準備です。
次のチェックリストを活用しながら、まずは事前準備を進めてみてください。
訪問前チェックリスト
□ 役員の経歴・価値観・関心領域を整理した
□ 顧客の中計 × 自社サービスの接続点を1行で書けた
□ 自社全体での既存接点・案件を把握した
□ 現場の状況を確認した(すでに取引がある顧客の場合)
□ 他業界の動向を1〜2本準備した
□ 役員の背景に紐づく手土産を選定した
□ 顧客の関係者(秘書や現場担当者など)に事前に根回しをした
□ 挨拶5分・情報交換20分・締め5分の配分をイメージできた
□ 再接触の口実(資料送付・ご紹介・会食)を1つ準備した