営業・マーケティングの現場では、「顧客の反応が薄いのは、商品・サービスに決め手となる価値がないからだ」と結論づけてしまうケースをよく見かけます。
現場から開発チームへ、顧客の反応や課題をフィードバックするのは重要です。しかし、現場のマーケターにできることは、本当にないのでしょうか。
答えは否です。
同じ商品・サービスであっても、価値を際立たせ、顧客の課題認識を変えるようなストーリーを提供することで、反応が大きく変わるシーンを、私はこれまで何度も見てきました。そうしたストーリーは、マーケター自らが作り出せます。
本記事では、調査を活用し、訴求ストーリーを作る方法を解説します。調査によって、失敗と成功を分ける分水嶺(ぶんすいれい)を見つけ、顧客の認識を変えるストーリーに落とし込んでいくものです。
とくに、新しいカテゴリーの認知獲得や新たな顧客層への拡販、説得材料が少ないときの訴求づくりに有効です。ぜひ取り組んでみてください。
本メソッドから得られる知見
・顧客の課題認識に働きかける「分水嶺」の見つけ方
・分水嶺を導く調査設計
・分水嶺を訴求ストーリーに変える方法
分水嶺とは、成功と失敗の分かれ目になる行動や判断の違い
本メソッドにおいては、分水嶺を「成功しているグループと失敗しているグループの分かれ目となる行動や判断の違い」と定義しておきます。
分水嶺は、顧客の認識を変えるような発見や驚きをもたらし、顧客が課題に対し、自分ごととして捉えるきっかけを作ります。流れを整理すると、次の図のようになります。

理解を深めるために、分水嶺を特定するための調査の例を2つ紹介します。
例1:展示会後における商談獲得率の分水嶺
こちらは、わかりやすくするためにごく簡単にまとめた例です。
A社・B社が展示会に参加しましたが、30日以内の商談獲得率に大きな差が出ました。
A社とB社の成否を分けた行動は何か、各社にヒアリングをして特定します。
A社:展示会後のフォロー電話の台本を事前に準備 → 30日以内に商談獲得
B社:営業個人に任せっきり → 名刺交換で終了
上記の結果から、「組織として仕組み化できていたか、個人に委ねていたかが分水嶺だったのではないか」という仮説が立てられます。
例2:BtoBマーケティングにおける目標達成の分水嶺
次は、実際の調査をもとにした例です。
2023年5月に才流が実施したもので、「BtoBマーケティングの成果に影響を与える要因はなにか」を明らかにすることを目的としています。
まず、BtoBのマーケティング業務に従事している人を対象に、自社のマーケティングで掲げる目標を達成できているかどうかを聞きました。
Q1:自社のマーケティングにおいて、掲げた目標を達成できていますか。(単一回答)
→「達成できているグループ」「達成できていないグループ」に分類
有効回答は120件で、「目標を達成できている」と「達成できていない」は、ほぼ半数ずつとなりました。次に、マーケティング活動における取り組み状況について、Q2のような設問を作りました。
Q2:あなたの会社では、マーケティング施策を実行する前に戦略を立てていますか。(単一回答)
- マーケティング戦略を立てており、資料や文章としてチーム内で共有している
- マーケティング戦略を立てているが、資料や文章としてチーム内で共有していない
- マーケティング戦略は特にない
次に、Q1で分類した2つのグループに分け、Q2の回答結果を比較しました。

目標を達成できているグループでは「マーケティング戦略を立てており、資料や文章としてチーム内で共有している」という回答が6割を超えました。
一方、目標を達成できていないグループは、「マーケティング戦略は特にない」、あるいは「戦略は立てているが、資料や文章としてチーム内で共有していない」という回答が多く見られました。
この結果から、マーケティング戦略を立て、資料や文章としてチーム内で共有しているかどうかが、成果を分ける分水嶺であると仮説を立てることができます。
実際には、マーケティングの成否を分ける分水嶺は戦略立案や社内共有だけではなく、リソースや予算などさまざまな要因があります。上記は、あくまでも分水嶺の出し方の例だと考えてください。
このように、成功と失敗の分かれ目となる「行動や判断の違い」に着目して調査設計に取り組むことで、分水嶺を導けます。
調査設計のステップ
ここからは、分水嶺を導く調査設計のステップを具体的に解説します。ステップは5つあります。
- Step1:調査テーマの設定
- Step2:定量調査で成功・失敗それぞれのグループに分類する
- Step3:設問を設計する
- Step4:調査結果から分水嶺の仮説を立てる
- Step5:定性インタビューで深掘りする
調査テーマの設定
まず、顧客が抱えている課題を洗い出し、調査テーマを設定します。もし顧客の課題がはっきりしない場合は、営業へのヒアリングや見込み顧客インタビューによって確認しましょう。
営業や顧客へのインタビューについては、次の記事でくわしく解説しています。
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定量調査で成功・失敗それぞれのグループに分類する
次に、定量調査を行います。顧客の課題に対し、成功しているグループと失敗しているグループを分類するための設問を設計しましょう。
例のように、満足度や達成度合いなどを聞くとよいでしょう。主観と客観の両面からたずねることで、分類の精度を高めることができます。
設問と分類の例
【設問】
- Q1 所属企業において、DX推進の結果を総合的に判断したときの満足度を教えてください。(主観)
- Q2 所属企業において、DX推進における目標の達成度合いを教えてください。(客観)
【分類】
- 成功しているグループ:満足度〇以上、達成度合い〇%以上
- 失敗しているグループ:満足度〇未満、達成度合い〇%未満
設問を設計する
次に、分水嶺を導く設問を設計します。
成功しているグループに対しては、成功に寄与したと考えられる要因を、失敗しているグループに対しては、失敗につながったと考えられる要因をそれぞれ質問していきます。
設問設計のポイントは、回答の選択肢を成功と失敗が対になるように設計することです。取り組みの段階や強弱をはかりたい場合は、間に選択肢を増やしてもOKです。ただし、選択肢が多くなりすぎると正確な回答が期待できなくなってしまうため、多くとも10個以内に絞ることを推奨します。
対になる選択肢の例
| 成功しているグループ | 失敗しているグループ | |
| KPIが明確だった | ⇔ | KPIが不明確だった |
| 社内の巻き込みに成功した | ⇔ | 社内の巻き込みに失敗した |
| 経営層のコミットメントがあった | ⇔ | 経営層のコミットメントが不足していた |
選択肢として提示する内容は、次の3つの要素に分解して考えることで決定的な抜け漏れを防ぐことができるでしょう。
- 目的・計画に関する要素
- 明確な目標・KPIの有無と妥当性
- 戦略の具体性と実現可能性
- 定期的な進捗確認・振り返りの仕組みの有無
- 組織・人的資源に関する要素
- 経営層のコミットメントと関与度
- プロジェクト体制と責任範囲の明確さ
- 他部署との連携・巻き込みの程度
- 実行・プロセスに関する要素
- 必要なツールやシステム導入の有無
- 予算や時間といったリソースの十分性
- 想定外のトラブルや変化への対応力
加えて、「要因として当てはまるものすべて(複数回答)」と「最も大きな要因として当てはまるもの(単一回答)」の設問や、最大の要因についてよりくわしく聞く自由回答なども組み合わせましょう。
質問のなかには、自社の商品・サービスの提供価値を示すものを含めるとよいでしょう。ただし、自社に都合の良い回答を得るために誘導するような聞き方や選択肢はNGです。
調査にあたって必要なサンプルサイズや調査票のテンプレートは、次のメソッド記事も参照してください。
調査結果から分水嶺の仮説を立てる
次に、アンケート結果の選択肢上位を確認し、分水嶺の仮説を立てていきます。才流の調査を例に説明します。

上図は、「マーケティングを推進するメンバーについて、自社の状況にあてはまるものをお選びください」という設問に対する回答です。
自社の目標を達成できているグループの64.4%は「マーケティング専任者がいる」と回答しています。一方、自社の目標を達成できていないグループは83.6%が「マーケティング専任者はおらず、他業務と兼務している」と回答しています。
この場合、専任者の有無がマーケティングの成否に影響を与えている分水嶺なのではないか、と仮説を立てることができます。
ちなみに、「複数回答の設問」「単一回答の設問」どちらの回答結果を使っても問題ありません。
定性インタビューで深掘りする
Step4までの結果は、あくまでも成功・失敗を分ける分水嶺の仮説が見えたにすぎません。
また、多かった回答を提示するだけでは、顧客からすると「当たり前」の結果と思うこともあります。
顧客の認識を変えるほど説得力のある情報が得られていないと判断した場合には、追加で定性インタビューを行い、データの背景や状況までを深く理解しましょう。
たとえば、「同じ取り組みをやり直せるとしたら、どんなことに気をつけますか?」「振り返ると、プロジェクトのどのタイミングまで遡りたいですか?」などの質問を投げかけることで、具体的な行動の示唆を得られます。
定量調査の結果を定性インタビューでも確認することで、よりたしかなものとして、自信を持って顧客に訴求できます。

本手法の目的は因果自体の証明ではなく、顧客が自社の課題を自分ごととして捉え、課題解決を前に進めるための説得力のある仮説を組み立てることにあります。学術研究のように厳密な因果推論を行うものではないことを意識して進めましょう。
分水嶺からストーリーを描くポイント
調査で分水嶺を特定できたら、そこから訴求ストーリーを描きます。
前述したとおり、営業やマーケティングで活用する調査では「その結果から顧客が何を考え、どう自社の課題に結びつけてもらうか」を設計することが重要です。分水嶺を提示された顧客は、どんな感情になるか想像してみましょう。
たとえば、「マーケティングがうまくいかない」と課題を抱えている顧客がいたとします。
その顧客に「成功と失敗の分水嶺は、戦略をチームで共有していたかどうかです。戦略立案の共有を怠っていた〇割の企業は失敗しているという結果でした」と伝えます。
すでに取り組んでいる顧客であれば、「自社はやっていてよかった」「やっているけれど、成果は出ていない。やり方が違うのかな」などと考えるでしょう。
逆に取り組んでいない顧客は「自社が取り組めていないことが成果につながっていない要因かもしれない。取り組みを真剣に検討しなくては」と思うはずです。
ここでようやく、顧客は自社の課題を認識し、自分ごととして捉えてくれます。まったく課題感がなかった人も、なんとなく課題感は持っていたという人も、認識が変わるタイミングです。
課題感を持つと、顧客は「自社もやるべきなのか」「うまく進めるためには、どうすればいいのか」といった問いを持つでしょう。顧客のこうした問いに対し、カテゴリーや商品・サービスの価値でどう答えられるのか、言語化していけばよいのです。

顧客がアクションしたくなるストーリーというのは、論理性と共感性の双方を兼ね備えています。次の6つの要素に分解しながら、ストーリー設計をしてみましょう。
論理性の要素
①定量化されているか
②差分がわかるか
③真因がわかるか
共感性の要素
④ニュース性があるか
⑤ストーリー性があるか
⑥客観的な視点で自社を内省できるか

才流では、商談の場で分水嶺から導いたストーリーを活用することもあります。
たとえば、ヒアリングをした結果、マーケティング戦略のご支援が必要だと判断したとします。しかし、こちらから「マーケティング戦略のご支援が必要です」とだけお伝えしても、そもそもマーケティング戦略を立てたことがない方、戦略の重要性を認識していない方には響きません。頭では理解していても、腹落ちしないという言い方が正しいかもしれません。
そこで、マーケティングに関する複数のデータをもとに分水嶺をお伝えし、「だから御社にはマーケティング戦略立案が必要なのでは」とお伝えすると、お客さまの反応が変わり、納得していただけるケースも多いです。
まとめ
本記事では、調査データを活用して顧客の行動変容を促す「分水嶺」メソッドについて解説しました。
分水嶺とは、成功と失敗の分かれ目となる「行動や判断の違い」のことです。単に調査結果を提示するのではなく、成功企業と失敗企業の決定的な違いを、根拠を持った仮説として提示することで、顧客は自社の課題を「自分ごと」として認識し、具体的なアクションを起こす動機が生まれます。
分水嶺から導いたストーリーは、論理性と共感性の両方を兼ね備えることで、顧客にとって説得力のある訴求材料となります。
新規事業での市場開拓や、既存事業での新規顧客層へのアプローチなど、顧客の認識を変える必要がある場面で、ぜひ本メソッドをご活用いただけると幸いです。