「機能も価格も問題ないはずなのに、なぜか選ばれない」「商談では興味をもってもらえるのに、比較検討の段階で消えてしまう」。
その原因が商品・サービスではなく、カテゴリーにあるなら、改善すべきは商品・サービスではなくカテゴリーです。
本記事では、才流が支援した企業の事例と才流自身の取り組みをもとに、カテゴリー設計の考え方と現場で実践できる具体的な手順を解説します。
カテゴリー設計が必要な理由
カテゴリーとは、商品・サービスを分類するときに使うくくりのことです。「複合機」「会計ツール」「名刺管理」のように、顧客は無意識にカテゴリーで商品・サービスを整理し、比較検討を始めるときも自分が知っているカテゴリーの中から候補を探します。
カテゴリー設計とは、顧客が特定の状況に直面したときに自社が第一想起されるよう、自社がどのカテゴリーで認識されるかを定める取り組みです。「○○といえばうちのサービス」という状態をつくることが目的です。
うまく設計できると、営業コストは大きく下がります。顧客が知らないものを売るより、知っているものを売るほうが圧倒的に楽だからです。
ただし、カテゴリーの設計には2つの罠があります。既存のカテゴリーをそのまま使うと、競合他社と同じ土俵に乗ってしまい埋もれやすくなります。一方、顧客がまったく知らない言葉をカテゴリー名にすると、そもそも認知されません。仮に目に入ったとしても理解されず、比較検討の候補に入れません。
多くのBtoB企業が、この罠にはまっています。
才流が支援した株式会社カンムさまでは、将来売上の買い取りにより資金を調達できるサービスを提供していました。このサービスはRBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)という業界用語で呼ばれていたため、当初はその名称をそのままカテゴリー名として使って訴求していました。
ところが、中小法人の代表者を対象に定量調査を実施したところ、80.2%が「RBFという言葉を全く知らない」と回答したのです。顧客の頭の中にない言葉では、どれだけ訴求しても届きません。
こうした罠を避けながら、自社にとって有利なカテゴリーを定義することが、「○○といえばうちのサービス」という第一想起ポジションを獲得する近道です。では、何から始めればよいのでしょうか。
出発点は、自社が今どのカテゴリーで認識されているかを顧客に聞くことです。「この商品・サービスを一言で表すと何ですか?」と聞いて返ってくる言葉が、顧客の頭の中での自社のカテゴリー名です。
その言葉が自社の意図と乖離しているなら、次に説明するステップを踏んでカテゴリーを設計し直しましょう。
※関連記事:パートナー戦略立案と新カテゴリー設計で「お客様に想起され、パートナーが売りやすい」状態を目指す
カテゴリーを設計する3つのステップ
顧客のペインを調査し、伝わるカテゴリー名を選び、受け取られ方を整える。この3つのステップで進めます。
ステップ1.顧客の「ペイン」と競合他社への「不満」を調査する
まずは、顧客が既存の選択肢や競合他社の商品・サービスにどんな不満を感じているかを把握します。
株式会社カンムさまのプロジェクトでは、「資金調達の際に最も嫌だったこと」「資金調達の際に重視する条件は」といった設問で定量調査を実施しました。調査の結果、顧客は既存サービスを積極的に選んでいるのではなく、「よりマシなものを消去法で選んでいる」ことがわかりました。
銀行融資には「書類準備の負担」や「審査時間の長さ」があり、ファクタリングやビジネスローンなどには「金利・手数料の高さ」や「業者への不信感」がある。つまり市場には、銀行のような信頼感とファクタリングのような手軽さを両立した選択肢が存在しない状態だったのです。この空白地帯こそが、新しいカテゴリーを定義する出発点になりました。
カテゴリーの定義を社内の議論だけで済ませてしまう企業は少なくありません。しかし顧客が既存の選択肢に何を求め、何に不満を感じているかを把握しなければ、自社に有利なカテゴリーは定義できません。
見込み顧客インタビュー(最低5〜8名)と定量アンケート(n=200以上を推奨)を組み合わせ、顧客のペインと既存の選択肢や競合他社への不満を定性・定量の両面から把握しましょう。
調査では、以下のような設問が有効です。
- 現在どの選択肢を使っているか
- 選択肢を選ぶ際に重視する条件は何か
- 現在の選択肢に感じているマイナス面は何か
- 何社・何種類の選択肢を比較検討したか
- 情報収集や相談はどこで・誰にしたか
ステップ2.顧客が知っている言葉の組み合わせで命名する
次に、ステップ1で発見した自社の強みや空白地帯を、顧客がすぐ理解できるカテゴリー名に置き換えます。
同プロジェクトでは、候補となるカテゴリー名を8個リストアップし、アンケートで「サービスの特長を読んだ上で、一言で言うとどんなサービスだと思いましたか?」と問いました。その結果、「売上の前借り(24.4%)」「将来売上の前払い(16.5%)」「売上の先払い(15.7%)」が上位に並びました。
次にMeta広告でのA/Bテストを実施したところ、「将来売上の前払い」という訴求が最も高いCTR・CVRを記録しました。こうして「将来売上の前払い」を最終的なカテゴリー名として採用しました。
アンケートで「意味が通じるか」を確認し、広告テストで「実際に反応が取れるか」を確かめる。この2段階の検証が、伝わるカテゴリー名を選ぶ鍵です。
「将来売上の前払い」という命名の背景には、「給与前払い」というBtoCですでに定着した言葉をBtoBに転用したという発想があります。「オンライン+診療=オンライン診療」のように、顧客がすでに知っている言葉を組み合わせるという考え方です。説明なしに意味が伝わるカテゴリー名をつくるには、この発想が有効です。
候補をつくったら、実際に受け入れられるかを検証しましょう。以下のような方法が選択肢になります。
| 検証方法 | 内容 |
|---|---|
| アンケート | ターゲットとなる見込み顧客や既存顧客に候補となるカテゴリー名を複数提示し、「意味が通じるか」「どれが最もしっくりくるか」を確認する |
| 広告テスト | Meta広告などでA/Bテストを実施し、「実際に反応が取れるか」をCTR・CVRで測定する |
| 商談での観察 | 営業活動の中で新しいカテゴリー名を使い、顧客の反応や理解度を観察する |
| LPテスト | LPのファーストビューのコピーを差し替え、CVRの変化を測定する |
大規模な調査が難しい場合は、まず商談の場で新しいカテゴリー名を使い、顧客の反応を確かめるところから始めましょう。
ステップ3.カテゴリーの受け取られ方を変える
最後に、定義したカテゴリーが顧客にポジティブに受け取られるよう、語り方を整えます。
同プロジェクトでは、「借金」「融資」という言葉が「経営が苦しいから借りる」「返済が重荷」といったネガティブな感情を喚起し、事例取材の依頼を断られやすい状況が続いていました。そこで「お金を借りる(マイナス)」から「自分の売上を早めに受け取る(プラス)」へと転換しました。
前払いには後ろめたさがなく、顧客にスマートな印象を与えられます。販売を担うパートナー企業の営業担当者からも「一言で説明できる」と好評でした。
このように、カテゴリー名の語り方を変えると顧客の受け取り方は大きく変わります。
語り方を見直す際は、Before / Afterの対比表をつくることをおすすめします。既存の語り方と新しい語り方で同じ事象がどう表現されるかを並べることで、Webサイトや広告のコピー、営業資料への落とし込みがスムーズになります。
カテゴリーを想起させる「CEPs」の設計
ここまででカテゴリー名は定義できました。しかしそれだけでは第一想起は獲得できません。「どんな場面で思い出してもらうか」まで設計して、はじめて実際の想起につながります。
CEPs(Category Entry Points:カテゴリーエントリーポイント)とは、顧客が自社の商品・サービスのカテゴリーを検討し始めるきっかけとなる「文脈」のことです。
たとえば、才流では以下のようにCEPsを設計しています。

このCEPs設計で意識したのは「想起の向き」です。才流はBtoB領域の戦略立案・実行を支援するコンサルティング会社です。「才流といえば何?」という問いへの答えを増やすのではなく、「○○で困ったとき、才流が頭に浮かぶ」という状態をつくることを目指しました。
新規顧客を増やすためには、ブランドから何かを想起してもらうより、特定の課題や状況からブランドを想起してもらう方が重要です。まず、ターゲット顧客が実際に直面する具体的なシチュエーションを10個書き出し、最も共感を得られる6〜8個に絞ることから始めましょう。
カテゴリーを定着させる「粛々+モメンタム」戦略
カテゴリーとCEPsを定義しても、発信が続かなければ記憶に定着しません。そこで重要になるのが、日常的なコンテンツ発信と定期的な大型施策を組み合わせる戦略です。才流では、この2つの取り組みを「粛々」「モメンタム」と呼び、自社でも実践しています。
日常的な発信(粛々)だけでは印象に残りにくく、大型施策(モメンタム)だけでは一時的な話題で終わり風化します。定期的に大きな話題をつくりながら、継続的な発信で顧客の記憶に積み重ねていく。この両輪がそろって初めて、カテゴリーは定着します。

粛々コンテンツ(定常的な発信)
自社Webサイトを起点に、専門的で役に立つ情報を継続的に発信する取り組みです。コンテンツのテーマはCEPsと連動させ、「○○で困っている人が検索しそうなキーワード」から逆算して設計することが重要です。
才流では2018年4月以降、自社Webサイトで月6本ペースでコンテンツを公開し続けた結果、2年間でCVRが3倍、CV数が7倍弱まで増加しました。
モメンタムコンテンツ(山をつくる施策)
3〜6か月に1回程度、大きな話題をつくる施策です。具体的には、調査レポートの発表(調査PRでメディア掲載を狙う)、カンファレンスや大型セミナーの開催、複数のホワイトペーパーを一気にリリースするなどがあります。
才流では定期的にカンファレンスを開催し、2,000名以上が参加しています。また2024年4月から2025年6月にかけて6冊のホワイトペーパーを立て続けにリリースし、1年弱で累計ダウンロード数が10,000件を突破しました。

※関連記事:累計1万ダウンロードを達成。新規事業開発からマーケティング、ABMまで6シリーズを展開—BtoBビジネスの成長に役立つ「メソッド」をまとめたガイドブックを無料公開中
モメンタムは「カテゴリーを決めてから実行する」という順番が大切です。カテゴリーが確定していない状態で大型施策を打っても、何の印象を残したいのかがあいまいになり、効果が分散します。逆に言えば、カテゴリーとCEPsが定まれば、限られた予算でも「何を言うか」が明確になり、どのチャネルに集中すべきかも見えてきます。
予算が限られている場合は、複数のチャネルに薄く投資するより、ターゲットにリーチできる特定のチャネルに集中投下するのがセオリーです。複数のSNSに分散して発信するよりも、ターゲットが定期購読している業界メディア1本に全力で露出するほうが記憶に残りやすくなります。

カテゴリー設計の核心は、「○○といえばうちのサービス」の「○○」をどう設計するかです。この「○○」は抽象的な課題ではなく、顧客が実際に直面する具体的な状況である必要があります。
カテゴリーを設計する3つのステップでペインと空白地帯を見つけ、顧客が知っている言葉でカテゴリー名を決める。CEPsで想起される場面を設計し、粛々とモメンタムを組み合わせた発信で定着させる。この一連の取り組みが、「○○といえばうちのサービス」という第一想起のポジションを築く近道です。