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パートナービジネスの成長を阻む「商談バッティング」の処方箋

法人営業
シニアコンサルタント
桂川 誠

直販が追っていた顧客に、パートナーも提案していた。パートナービジネスが拡大するほど、こうした商談バッティングは避けられなくなります。放置すればパートナーの離反や値引き競争を招き、築いてきたパートナーとの信頼関係が崩れかねません。

本記事では、商談バッティングが起きる要因と影響を整理したうえで、発生時の対応原則やメーカー各社の運用事例を紹介します。

商談バッティングとは何か

商談バッティングとは、直販とパートナー、またはパートナー同士が同じ顧客に対して営業活動を行ってしまう状態を指します。たとえば、ある顧客に対して、直販チームとパートナーが同時に提案を進めてしまうといった状況です。「チャネル競合(チャネル・コンフリクト)」と呼ばれることもあります。

商談バッティングが発生する背景には、主に3つの要因があります。

1つ目は、直販とパートナーの役割分担が不明確なこと。「どのチャネルが、どの顧客を担当するか」が定義・共有されていないと、担当領域があいまいなまま各チャネルが動いてしまいます。

2つ目は、商品・サービスが汎用的で業種を問わず売れること。あらゆる企業が提案先になりうるため、複数のチャネルが同じ顧客に営業活動を行い、バッティングが発生しやすくなります。

3つ目は、メーカーがパートナーに共有する情報に差があることです。新商品や限定価格の情報が一部のパートナーにしか届いていなければ、知らされていないパートナーは不公平感を抱くでしょう。「自分たちも早く動かなければ」と焦り、結果として同じ顧客への重複提案が起きやすくなります。

こうした要因があると、同じ顧客に複数のチャネルが同時にアプローチし、商談バッティングが発生しやすくなります。

商談バッティングを放置するとどうなるか

商談バッティングを放置すると、問題は個別の案件にとどまりません。パートナービジネス全体に深刻な影響を及ぼします。たとえば次のような状況に陥るでしょう。

1. パートナーの離反

パートナーは自社の営業リソースを投じて案件を獲得しています。それにもかかわらず直販や他のパートナーに案件を取られれば、「時間もコストも無駄にされた」と感じるでしょう。

バッティングの相手が直販であれ他のパートナーであれ、パートナーの不満はメーカーに向かいます。こうした事態を把握・調整できるのはメーカーだけだからです。バッティングが繰り返されれば、そのメーカーの商材に力を入れる理由はなくなり、提案の優先順位は下がっていきます。

パートナーは複数メーカーの商材を扱っています。優先順位が下がれば営業リソースは別のメーカーに流れ、最終的にはパートナー契約の打ち切りにまで発展しかねません。

2. 顧客体験の悪化

価格提示にばらつきが出て問い合わせ窓口も乱立すれば、顧客は「一体どの情報を信じればいいのか」と不信感を抱きます。こうした状態が続けばブランドへの信頼は揺らぎ、顧客が競合他社を選んだり購買を見送ったりする可能性が高まります。

3. 値引き競争の常態化

同じ顧客を複数のチャネルが取り合えば安売り競争となり、利益率は低下。営業活動や商品・サービスの改善に回す原資も削られ、中長期的にはメーカーもパートナーも競争力を失います。

4. 社内の分断

直販部門とパートナービジネス部門の間に不信感が生まれ、情報共有や協力が滞るようになります。「あの案件はうちが先に動いていた」といった主導権争いが増え、社内調整に時間を取られます。その間に顧客への提案が遅れ、重要案件を失うこともあるでしょう。

シニアコンサルタント・桂川

前職時代、忘れられない光景があります。同僚がパートナー企業の案件と知らずに同じ顧客へアプローチしてしまい、そのパートナーとの関係は絶縁寸前に。事態は現場の手を離れ、本社の事業責任者まで巻き込んだ謝罪行脚へと発展しました。憔悴しきった同僚の横顔を見て痛感したのは、「パートナーとの信頼を修復するコストは、新規開拓の何倍も高くつく」ということです。
バッティングが多発する現場は、いわば信号機のない交差点です。ルールのない交差点に飛び込めば、どれほど運転技術(営業スキル)が高くても衝突は避けられません。衝突が起きてから営業担当者を責めても、問題は解決しないのです。
責任者の役割は、事後処理や謝罪ではありません。現場が迷わずアクセルを踏めるよう、信号機(ルール)を設置することです。

商談バッティングを防ぐ3つの仕組み

商談バッティングを減らすには、組織としての仕組みを整えることが大切です。以下の3つを押さえておきましょう。

1. 直販とパートナーの役割、販売方針を明確にする

直販とパートナーそれぞれの役割と販売方針を言語化し、社内で共有します。方針が明確なら現場は迷わず、バッティングの芽も早期に摘めます。

一例として、顧客規模で担当を分ける方法があります。大企業や中堅企業は直販が担当し、中小企業はパートナーが担う、といった整理です。「どのチャネルがどの顧客を担当するか」をパートナーとも合意しておけば、顧客対応も一貫します。

2. テリトリーと担当範囲を整理する

直販とパートナー、またはパートナー同士が同じ顧客にアプローチしないよう、担当範囲を明確に分けます。地域、業種、顧客規模、商品・サービスなどの軸で担当を割り振り、案件発掘から契約・導入後のサポートまで各プロセスの分担を定義します。

3. 案件登録制度(Deal Registration制度)を導入する

案件登録制度とは、パートナーが見込み案件をメーカーに届け出ることで、その案件への提案権を得られる仕組みです。登録された案件には直販や他のパートナーが重複して提案できなくなるため、先に動いたパートナーの活動が保護されます。

これら3つの仕組みを整えることで、商談バッティングのリスクを減らすことができます。

チャネル競合を防ぐ基本の仕組み。一貫したチャネル戦略の策定・テリトリーと役割の設計、案件等ろうそく制度の導入

商談バッティング発生時の基本原則

仕組みを整えても、商談バッティングを完全になくすことはできません。重要なのは、バッティングしたときにどう対応するかを事前にルール化しておくことです。すべてを細かく決める必要はありません。方針と判断基準だけでも明文化しておくことで、現場の混乱を防げます。

1.直販とパートナーがバッティングした場合

原則として、パートナーを優先します。案件の起点がパートナー側にあると確認できたら、直販は提案を取り下げるか、パートナーとの共同提案へ切り替えます。これは「せっかく獲得した案件をメーカーに奪われるのではないか」という不信感を防ぎ、パートナーからの信頼を守るためです。

なお、直販が顧客に見積もりを提示する際には、パートナーへの卸価格や利益分を下回る金額を出さないことが大前提です。これはバッティングの有無にかかわらず徹底すべきルールです。

直販のほうが安いとわかれば、顧客はパートナー経由で購入する理由がなくなります。パートナーは営業リソースを投じて提案してきたにもかかわらず、メーカー自身がその努力を無駄にしてしまう形です。大クレームに発展し、顧客にも迷惑をかけます。パートナーとの信頼関係が浅ければ、二度と振り向いてもらえません。

2.パートナー同士がバッティングした場合

基本は自由競争です。独占禁止法などの法的リスクを避けるため、最終的な選定は顧客に委ね、メーカーはその選定に直接介入しません。

同じ顧客・同じ案件が複数のパートナーから登録されることはめずらしくありません。その場合は、重複している事実をパートナーに伝えたうえで、先に登録したパートナーを優先します。顧客が特定のパートナーからの購入を希望している場合は、その意思を尊重します。

重要なのは「メーカーが恣意的に決めたのではない」とパートナーに理解してもらうことです。

3.入札・複雑案件の場合

入札や複雑な案件は、条件や商流がケースごとに異なるため、最終的には個別に優先チャネルを調整する必要があります。基本は案件登録制度に基づく優先順位ですが、入札案件のようにRFP(提案依頼書)の作成に関わったパートナーがいる場合には、その貢献を判断材料とすることもあります。

最終判断は直販の営業責任者とパートナービジネスの責任者が行い、決定内容は関係パートナーに説明します。「なぜその判断になったのか」を明確に伝えることで、不満や誤解を防ぎやすくなります。

バッティング時の対応原則と運用ルール例。直販とパートナーの場合はパートナーを優先する。パートナーとパートナーの場合は顧客に選択権。入札・複雑案件の場合は顧客視点で最適な提案体制を構築する。

シニアコンサルタント・桂川

100社以上のパートナービジネスを見てきて感じるのは、バッティング対応がうまい企業は「事前の期待値調整」が秀逸だということです。
パートナーとの契約締結時に「こういうケースではこう判断する」を明示し、社内においてもヨーイドンで始まった商談は基本はパートナー優先でオーソライズされている。だから、実際にバッティングが起きても「約束どおり」の対応をする。この一貫性が信頼の源泉になっています。

メーカー各社の事例に学ぶ、バッティング対応の型

ここまで基本原則を整理しましたが、実際に各社はどのように運用しているのでしょうか。

各社の対応事例を見ると、パートナービジネスの売上比率が5割を超えるメーカーは「パートナー優先」を基本方針としています。売上比率が5割未満のメーカーも含め、属人的な判断ではなく会社として方針を決めて運用している点は各社に共通しています。

パートナービジネスの売上比率が5割以上の企業

売上比率が高い企業ほど、パートナー優先の姿勢が明確です。

直販 vs パートナーパートナー vs パートナー
外資系M社パートナーを優先する顧客に選択権がある(自由競争)。
商談情報を最も早く提出したパートナーを優先する
勤怠管理サービスH社パートナーを優先する。
ただし、顧客の意向で直販になるケースはある
顧客に選択権がある(自由競争)。
パートナーごとに仕切り価格が異なるため、結果的に実績の多いパートナーが受注しやすい
基幹システムO社パートナーを優先する先に商談したパートナーを優先する。
商談ごとに自社の営業担当者が1人つくため、異なるパートナーが同一顧客と商談しても社内調整が発生しない仕組みになっている
情報通信業K社先にアポイントを獲得したほうを優先する

パートナービジネスの売上比率が5割未満の企業

売上比率が5割未満の企業でも、先着ルールや事前のターゲット共有など、明確な判断基準を設けています。

直販 vs パートナーパートナー vs パートナー
情報通信業S社都度、コミュニケーションをとって決める顧客に選択権がある(自由競争)。メーカーとしてはすべてのパートナーに適切に誠意をもってフォローする
外資系S社先に商談したパートナーを優先する
バックオフィスサービスC社先に商談したパートナーを優先する
勤怠管理サービスJ社先にアポイントを獲得したほうを優先する先に商談したパートナーを優先する
情報通信業I社直販、パートナーの間でターゲット企業を共有し、バッティングを防止する先に商談したパートナーを優先する

案件登録制度(Deal Registration制度)の設計ポイント

商談バッティングを防ぐ3つの仕組みのひとつとして挙げた案件登録制度について、設計のポイントを解説します。

パートナーの営業担当者の最大の不安は、せっかくの案件を直販や他のパートナーに奪われることです。案件登録制度は、この不安を解消し、「動いた分だけ報われる」と実感できるようにするための仕組みです。

制度を効果的に運用するには、以下の4点を整理しておくことが重要です。

登録のタイミング

商談日程が決まっているなど、ある程度具体化した案件のみ登録を受け付けます。まだ顧客に連絡さえ取れていない案件は対象外にしておくと、見込みの薄い案件で登録数が膨れ上がることを防げます。

登録時には、以下の情報を報告するよう求めます。

  • 顧客の企業名
  • 顧客の部門名
  • 提案中の商品・サービス名
  • 商談状況の概要
  • 受注予定日
  • パートナー情報(企業名、部署名、氏名、メールアドレス、電話番号)

承認までのスピード

申請が来たら48時間以内に「承認」か「差し戻し」かを回答します。承認が遅れると、パートナーは提案を進められず、顧客の盛り上がりに合わせて畳みかけたいタイミングを逃してしまいます。承認者をあらかじめ固定しておけば、判断が滞らず流れもスムーズです。

保護する期間

案件ごとに「どのくらいの期間、優先権を守るか」を設定します。商談サイクルが短い小規模案件なら30日、大型案件なら180日といった具合に、商材の平均リードタイムを目安に決めるとよいでしょう。

優先権が切れる条件

進捗報告が一定期間みられない、失注が確定した、顧客が検討を中止した場合は、優先権を解除して案件を自由競争に戻します。優先権の失効条件を設けておけば、案件がだらだらと抱え込まれることを防ぎ、他の商談機会を逃すリスクも減らせます。

※ 価格や案件保護に関する取り決めを行う際には独占禁止法や不正競争防止法への配慮が必要です。必ず法務部門と協議しながらルールを設計してください

分業で商談バッティングを解決したカオナビの事例

ここまでルールや制度による対応を紹介してきましたが、組織の分業によってバッティングを防いでいる事例もあります。タレントマネジメントシステムを提供する株式会社カオナビの事例を紹介します。

カオナビでは、パートナーの開拓・育成はパートナーセールスチームが、商談同席以降のサポートやカスタマーサクセスは直販チームが担う分業体制を採用しています。この体制は、SaaSビジネスの直販でよく採用されている「The Model型」組織構造に基づいて構築されています。

同社が分業を採る最大の利点は、同一案件での商談バッティングが発生した際の社内調整の負荷を減らせる点にあります。役割が明確なため社内摩擦が起こりにくく、案件をスムーズに進行できます。

さらにパートナー経由の商談には直販チームの営業担当者が同席し、的確な提案で顧客満足度を高めています。その結果、契約後のLTVも高く、解約も抑えられています。

また、パートナーセールスチームは、MRR(Monthly Recurring Revenue)や受注数といった売上指標に加え、新規パートナー契約数や案件登録数など「パートナーとのつながり」を示す指標にも重きを置いています。これにより、単純な売上追求だけでなく、パートナーとの長期的な関係構築にも集中できる環境が整備されています。

この分業体制は「お客様よし・パートナーよし・カオナビよし」の三方よしを実現する仕組みです。

※関連記事:直販チームとの分業で、パートナー開拓と育成に注力。新時代のSaaS×パートナーセールスに挑むカオナビ

商談バッティングは、パートナービジネスが成長している証でもあります。大切なのは、バッティングを恐れることではなく、発生したときに一貫した対応ができる仕組みを持っておくこと。その一貫性こそが、パートナーからの信頼の土台になります。

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