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新規事業開発

「広く浅く」だった仮説検証を「鋭く深く」へ。再現性ある新規事業の創出プロセスを構築

株式会社日立ソリューションズ

https://www.hitachi-solutions.co.jp/

業種

ITサービス

従業員数

1000名以上

課題

新規事業創出のプロセス構築をスピーディーに進めたい

コンサルタント
横山 直紀
執行役員
澤井 和弘

株式会社日立ソリューションズ様は、日立グループの情報通信分野を担う企業として多岐にわたる事業を展開しています。そして同社における新規事業創出を推進しているのが、部門横断で編成された組織「日立ソリューションズ DXラボ(以下、DXラボ)」です。

DXラボは、社内の事業創出に伴走する事務局として活動しています。しかし、新規事業の仮説検証プロセスにおける属人化や質の課題を抱えていたことから、才流(サイル)にご相談いただきました。

才流は2025年1月から3月までの3か月間で、再現性のある仮説検証プロセスの確立とガイドブックの整備を支援しました。本記事では、DXラボの取りまとめを担当する宮嶋さん、技術支援のスペシャリストである大下さん、起案者に伴走するコンシェルジュの小野さん、阿部さんに、プロジェクトの感想と成果について伺いました。

画像:日立ソリューションズ様新規事業創出プロセス構築支援の概要をスライドにまとめたもの

新規事業創出のプロセス構築をスピーディーに進めたい

宮嶋 DXラボは、新規事業創出を支援するバーチャルな組織です。DX協創戦略部とイノベーションデザイン技術部に所属するメンバーが参画し、社内の新規事業創出における伴走役を務めています。具体的には、顧客と当社の事業部門との協創による新しい取り組みや、社内の新サービス創出を推進しています。

※参考:DXラボ | DXを支えるソリューション – 未来へのアクション

これまでも新規事業の創出活動に取り組んでおり、デザイン思考などをベースに、アイデアの発散と収束を繰り返すプロセスを進めてきました。

写真:インタビューに応じる日立ソリューションズ宮嶋さん
宮嶋 輝樹さん/株式会社日立ソリューションズ 事業戦略本部 DX協創戦略部 部長

宮嶋 まず、新規事業の仮説検証を進めるプロセスが属人化していたことです。担当者のスキルや経験によって、仮説検証の質にばらつきが出てしまうことが課題となっていました。

また、仮説検証を進める際に「こんなものがあったら便利そうだね」「良いアイデアだね」といった表面的な顧客の声を真のニーズと取り違えてしまい、その後の深掘りや検証が不十分になりがちでした。いわゆる総論賛成(全体の方針や趣旨には賛成するが、具体的な内容には必ずしも賛成しないこと)を得るだけにとどまってしまい、アイデアが洗練されていくプロセスがうまく機能していなかったのです。

大下 私たちの組織文化には、技術開発を重視する姿勢が深く根付いています。なかでも、先進的な技術を活かして新しいサービスを生み出す姿勢は、私たちの強みです。その一方で、議論が技術中心に偏りがちになるという課題も抱えていました。

こうした背景のなか、デザイン思考のアプローチを取り入れることで、ユーザーが「嬉しい」と感じるポイントや共感を得ることには、一定の成果が見られるようになりました。実際、顧客へのヒアリングを通じて「あったら嬉しい」といったポジティブな反応を引き出すことは、比較的容易になってきました。

しかし、そこで得られる「嬉しい」という感情的なニーズが、必ずしもユーザーが対価を支払ってでも解決したいと考えるほど明確で強いニーズであるとは限りません。つまり、ユーザーの共感を得ることと、それが実際の導入決定や事業の成立に結びつくかどうかを見極めることの間には、大きなギャップが存在していたのです。

写真:インタビューに応じる日立ソリューションズ大下さん
大下 義勝さん/株式会社日立ソリューションズ 技術革新本部 イノベーションデザイン技術部 部長

宮嶋 そのような課題が積み重なった結果、事業化の打率が悪いという状況を招いていました。

宮嶋 まずは仮説検証のプロセスを見直し、事業化の打率を上げられるようにしたい。そのために、PMF(プロダクトマーケットフィット)の概念を組織の中に取り込もうと考えました。

画像:PMFの概念を図解したもの
PMFとは、商品が顧客のニーズを満たし、正しい市場に提供されている状態を指す

※関連記事:PMFとは?読み方と定義、PMFしている状態のシグナルを解説

宮嶋 ですが、その方法論をゼロから自分たちだけで試行錯誤しながら固めていくのは、時間もかかるうえに非効率です。限られた時間の中で形にする必要があったため、外部の方の知見に頼るべきだと考えました。

才流のことは、PMF関連の記事や、新規事業・マーケティングに関するメソッド記事を多く公開されているのを拝見して知りました。また、社内の別の部署がすでに才流の支援を受けているという話も耳にしていました。

私たちが求めていたのは、新規事業創出のプロセスを形式知としてまとめた「ガイド」を限られた期間で構築することです。才流の持つメソッドは、まさにこのニーズに応えてくれるものであり、スピード感を持って進めるうえで最大のポイントになると期待していました。

100点をめざした3か月間。個社に最適化したガイドを制作

画像:日立ソリューションズ様支援プロジェクトの全体スケジュール
本プロジェクトの全体スケジュール(※プレイブックはガイドブックのことを指す)

横山 プロジェクトの進め方は非常にシンプルです。まずはガイドブックという形で、新規事業創出のメソッド(型)をDXラボのみなさまにインストールしていただくところから開始しました。ですが、才流が提供するメソッドはいわば70点から80点程度の出発点であり、そのままでは日立ソリューションズ様にとっての最適解ではありません。

そのため、このメソッドをベースに、ガイドブックを日立ソリューションズ様にとって最適な100点をめざしてカスタマイズしていくという2段階のアプローチを推進しました。

画像:プロジェクト初期に納品した新規事業創出メソッド一覧
才流の新規事業創出メソッドをガイドブック形式で納品

横山 最も重視したのは、日立ソリューションズ様の社内、特に新規事業創出に関わるDXラボの方々や起案者へのインタビューを通じ、現場の声を深く理解することです。才流からは「顧客理解が重要」と繰り返しお伝えしていますが、DXラボにとっての顧客は起案者の方々です。ですから、「起案者理解」なしにプロジェクトを進めることはできません。このヒアリングと分析を経て、組織全体が抱える本質的な課題を明確化するためのアセスメント(現状を客観的に評価・分析すること)を実施しました。

そして、アセスメントで得られたインサイトを踏まえて、日立ソリューションズ様の組織文化や実情に合わせ、ガイドブックをアップデートしていきました。

画像:プロジェクトの成果物一覧
プロジェクトの最終成果物一覧

横山 プロジェクト期間は3か月と、本来必要となる期間の約半分程度。限られた時間での成果創出が求められます。そのため、日立ソリューションズ様との密な連携と集中的な議論を心掛けました。途中で定例ミーティングの回数を増やさせていただくなど、スピード感を保ちながら推進するための工夫も行いました。

写真:インタビューに応じる才流の横山
横山 直紀/株式会社才流 コンサルタント(https://sairu.co.jp/member/48949/

小野 才流はメソッドをベースとしながらも、私たち現場の声をていねいに吸い上げてくれました。テーラリング(個々のプロジェクトや部署の状況に合わせて調整・最適化すること)をしてもらっている実感がありましたね。

短期間で最適解を導き出すため、定例ミーティングの回数を増やすなど密に連携していただいたのも、私たちの事情を汲み取ってくれたからこそだと感じています。

写真:インタビューに応じる日立ソリューションズ小野さん
小野 順也さん/株式会社日立ソリューションズ 事業戦略本部 DX協創戦略部 部長代理

アセスメント結果をもとにガイドブックをカスタマイズ

宮嶋 プロジェクトが進行するなかで、才流が起案者などへのインタビューの結果を客観的に分析し、現状の新規事業創出プロセスに関するアセスメントを実施してくれました。

私たち自身も新規事業創出のプロセスに課題感は抱いていましたが、組織の内部にいると、どうしても根掘り葉掘り聞きづらいこともあります。私たち自身が直接聞くのは難しいことを、才流が代行して聞き出してくれたのは非常に大きかったですね。

才流には4名の起案者に対してインタビューをしてもらいました。その結果として提示された課題は的を射ていたと感じています。私たちの認識ともズレはなかったので、非常に納得感がありました。

小野 はっきりとしたのは、ビジネス上の提供価値の検証と、技術的な価値の検証がごちゃまぜになっていたということです。検証目的が分散すると、焦点がぼやけてしまいますし、検証効率も低下します。本来はフェーズごとに検証の目的を明確に絞るべきでした。

顧客ヒアリングで「嬉しい」という反応は得られても「本当にお金を出してでもそれを買うのですか?」という問いにまで踏み込めない検証の甘さは、この検証目的の混同が原因だったのだと腹落ちしましたね。

宮嶋 以前から、検証の基準や手法を根本から見直す必要性があると感じていました。仮説検証では、表面的な反応にとどまらず、顧客が対価を払ってでも解決したいと思う真のバーニングニーズを捉える必要があります。アセスメントを通して、私たちが仮説検証で真に問うべきものが何なのかがより明確になりました。

写真:インタビュー中の日立ソリューションズのみなさま

横山 アセスメントで特定された課題を踏まえ、フェーズごとにガイドブックをアップデートしていきました。

ガイドブックを体系的にアップデートするために、毎回の定例ミーティングで出た疑問や論点を蓄積。それをDXラボのメンバーの方々と一つひとつていねいに紐解く形で反映しました。これは、ガイドブックの理解や実践において、DXラボのメンバーと才流の間でギャップを生まないための取り組みです。

また、もう1つ重要なポイントがあります。それは、実際の仮説検証を進めるうえで「ここからはケースバイケースで判断しましょう」で片付けられがちなテーマに対しても、メソッドとして明文化を心がけたことです。

具体的には次のとおりです。

  • 自分たちは今、仮説検証のどのステージにいるのか?
  • そのなかで、今重要な論点はなにか?
  • その論点は、どんな基準をクリアすることで次に進めるのか?
  • もし今の仮説検証が上手くいかなかった場合、どこまで戻って検証し直すのか?

このようにリアリティある現場の悩みに対して、仮説検証の細やかなフローチャートを用意しました。実際の活用はこれからですが、仮説検証に不慣れな方でも経験者の目線を持って進行いただけるようになったものと自負しています。

画像:フェーズ2(顧客課題・ニーズの把握)フローチャート
仮説検証のフローチャート

ガイドブックが活動の指針に。属人化や抜け漏れも解消

阿部 最も大きな変化は、作成いただいたガイドブックが新規事業の創出活動における拠りどころになったことです。これまでは、支援するメンバーによって進め方や判断にばらつきがあったのですが、立ち戻る先ができたことで、活動における検討内容に抜け漏れがなくなりつつあると実感しています。

写真:インタビューに応じる日立ソリューションズ阿部さん
阿部 瑞穂さん/株式会社日立ソリューションズ 事業戦略本部 DX協創戦略部 コンシェルジュ

大下 プロセスが整備されたことで、それがチーム内の共通言語として機能し始めました。以前は、メンバーの経験領域や視点が異なっていたため、認識をすり合わせるのが難しい場面も多くありました。ですが、「あのガイドブックの、あの項目だよね」といった形で共通認識を持てるようになり、コミュニケーションが格段に取りやすくなりました。

宮嶋 プロセス全体の作業ボリュームも可視化されました。以前はやるべきことを積み上げていくだけで、いつ終わるのか、どのくらいの工数がかかるのかが見えにくい状況だったのです。

しかし、次のフェーズに進むためのゲートが明確になったことで、3か月ごとの区切りのなかで「今何ができていなければならないのか」「残りの作業ボリュームがどのくらいあるのか」という勘所を持てるようになりましたね。

小野 判断基準も明確になり、活動の品質の良し悪しの振れ幅も小さくなりました。こういった変化の積み重ねが、最終的には検証の精度を上げ、事業化の確度を向上させるという、今後の大きな成果につながっていくと期待しています。

横山 まだ足りない部分はあると思いますが、みなさんがおっしゃるとおり、最終的には事業化の確度を高めるために品質の振れ幅と抜け漏れをなくすことが重要です。インタビューのやり方を見直すなど、すぐに実践できる改善点も多くあります。これらを着実に積み重ねていくことで、さらなる成果につながっていくはずです。

写真:インタビュー中の才流 横山、澤井

「現場の事情を汲み取ってくれた」才流の寄り添う支援スタイル

小野 横山さんはレスポンスが本当に早い。何か連絡するとすぐに返してくださり、プロジェクトが滞ることもありませんでした。

私たちとも現場目線で接してくれました。決して大上段に構えることがなく、現場サイドの事情や想い、意図を汲み取ってくれたうえで発言してくれました。だからこそ私たちも提案を受け入れることができ、内容も腹落ちしましたね。

阿部 才流からの提案は押し付けるようなものではなく、私たちの自主性を尊重してくれた点も良かったですね。私たちに寄り添い、共に考えてくれる姿勢がとてもありがたかったです。質問しづらい雰囲気もなく、いつでも気軽に聞いていましたね。

宮嶋 ベースとなるガイドブックと当社の実像とのずれを議論する際のことです。その場限りの議論にとどまらず、横山さんが一度持ち帰って「社内でも揉んでみました」と、より洗練された形で提案し直してくれたのは非常に印象的でした。社内の他のコンサルタントとも意見を交わし、才流の総意として私たちに提案してくれたのです。

澤井 才流では、コンサルタント1人の意見を押し付けることはよくないと考えています。そのため、迷いが生じる部分や、より良いと思える提案については、必ず社内の他のコンサルタントにも意見を聞きながら提案させていただきます。このスタンスが、今回のプロジェクトに良い効果をもたらしたかもしれません。

写真:インタビューに応じる才流の澤井
澤井 和弘/株式会社才流 執行役員・コンサルタント(https://sairu.co.jp/member/46/

宮嶋 現在は、才流と作成したガイドブックを新規事業創出の現場で実践的に使いこなし、磨いていく段階です。まずは私たちのチームでしっかりと運用し、将来的には全社へと普及させていきたいと考えています。最終的な目標は、確度の高い新規事業の種をたくさん生むこと、そして事業化の打率をさらに向上させることです。

横山 今後の課題としては、ガイドブックをただ型に沿って使うだけでなく、自社のものとして深く理解し、状況に応じて柔軟に、かつ自律的に使いこなせるようになる必要があると考えています。また、難易度の高い案件にどう対応していくか、という点も今後の強化ポイントです。

宮嶋 まさに、今後私たちが直面するであろう新たな課題や、さらなる高難度案件への挑戦において、才流には引き続きサポートしていただけると心強いです。

写真:談笑する日立ソリューションズと才流の面々

(撮影/関口達朗 取材・文・編集/ 河原崎 亜矢)

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