株式会社 明治様の新規事業として誕生した「乳酸菌発酵液」。明治の乳酸菌と発酵の知見をいかして開発された、漬け込むだけで肉をジューシーでやわらかな「発酵熟成肉」へと進化させる発酵液です。
社内の事業起案制度で生まれた同事業は、検証期間を経て2025年に販売を開始しました。しかしBtoB領域の知見が少なく、営業・マーケティング活動に苦戦していたといいます。
才流では6か月のプロジェクトでBtoBマーケティングの戦略立案や展示会施策の伴走支援を行いました。
プロジェクト後、展示会でのトライアル件数は前年の3倍。有名ホテルやレストランでの採用が決まり、売上は上期比8倍に伸び、全国展開という次のフェーズに向かっています。 同事業を推進する吉田さん、畑中さんに、事業や取り組みについて話を伺いました。

プロジェクト概要
| 企業名 | |
|---|---|
| 会社概要 | 業種:食品 従業員数:9,845名(2026年3月時点) |
| ご支援内容 | BtoBマーケティングの戦略立案支援 |
| ご支援対象の商材 | |
| ご支援期間 | 6か月 |
| ご支援前の状況 |
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| プロジェクトのサマリ |
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明治の新規事業開発プログラムから生まれた、乳酸菌発酵液
- 今回ご支援した「乳酸菌発酵液」は新規事業と伺いました。会社としては、新規事業にどのように取り組んでいらっしゃいますか。
吉田 当社は新規事業の創出やイノベーション人財の育成を目的に、イノベーション事業戦略部を2021年に設立。社外では他社との共創によるアクセラレータープログラムを、社内では明治ビジネスディベロップメント(mBD)という名称で新規事業開発を進めてきました。
mBDは、新規事業開発に関わりたい人財を募り、手を挙げたメンバーがチームを組んで新規ビジネスの検討をする社内起案制度です。
乳酸菌発酵液は、2022年度に起案した事業です。人事、商品開発、乳酸菌研究の第一人者、営業の4名で、そこに私が事業開発のサポート役として加わり、進めてきたものです。

- 乳酸菌発酵液とは、どのような事業なのでしょう。
吉田 乳酸菌発酵液とは、乳酸菌で肉を発酵熟成させるための液体です。肉を漬け込み、真空包装で低温発酵することで、ジューシーでやわらかい肉を作れます。食肉業者様や、外食産業のお客様に使っていただいています。

食肉業界向けに販売開始するも、なかなか採用に至らなかった
- 開発にはどのような背景がありましたか。
吉田 当社は長年研究を重ね、5,500種以上の乳酸菌を持っています。さらにヨーグルトやカカオなどで培った発酵技術もあります。この強みをいかし、新しい市場にチャレンジしたいと考えたのが、事業のはじまりです。
開発段階では肉以外の食材も含めて可能性を検討しました。しかし、野菜や魚のような、鮮度に価値の重きを置く食材よりも、加工で価値が高まる食材のほうが強みを発揮しやすいだろうと考え、まずは肉にターゲットを絞りました。実際、数年前から「熟成肉」がトレンドになっており、産地やブランドが強い食肉業界で、一定の評価を得ていたことが後押ししました。
しかし、調べていくと、熟成肉にも課題があることが見えてきたんです。
熟成肉を作るためには、最低でも数週間かかります。しかも主にカビを使って熟成させるため、最終的に肉の3割ほどを削ってから提供しなければなりません。原料価格が高騰している昨今、歩留まりの悪さが、現場の痛手になっていたのです。
当社の技術をいかせば課題を解決できるかもしれない。食肉業界に新しい価値を提供できる、可能性を感じました。
そこから検証と開発を進め、2025年3月に商品として販売を開始しています。
- 販売開始後、スムーズに進んできたのでしょうか。
吉田 卸の食肉事業者様をターゲットに営業活動をスタートし、展示会にも出展しました。しかし、なかなか採用には至りませんでした。
ターゲットがズレているのか、それとも訴求内容が間違っているのか。チームにBtoB領域の経験者が少ないこともあり、確信が持てないままに、日々模索を続けていました。
半年後には、事業の継続を判断する審議会が予定されている。それまでになんとか採用実績をつくりたい。マーケティング戦略を見直し、事業継続の突破口を見つけたい。そんな思いでBtoBマーケティングに関する情報を収集していたところ、才流さんを知り、支援いただくことになりました。
エンド顧客の「欲しい」を起点に、需要をつくる
- 明治様からのご相談を受け、才流ではどのような方針で支援を考えましたか。
桂川 乳酸菌発酵液が持つ価値は高いと感じましたが、お客様にはうまく伝わっていない状況。そこで、まずは商流の特性をいかし、「エンド顧客である外食産業の方に火をつける」ことに焦点をあてましょうとご提案しました。
外食産業のお客様が「欲しい」と言えば、卸のお客様も取り扱わざるを得なくなるからです。エンド顧客を起点に需要を創造する方針でプロジェクトをスタートしました。

- プロジェクトでは実際にどんなことを行ったのでしょう。
桂川 「乳酸菌発酵液を外食事業者に売る」という一見シンプルなテーマですが、蓋を開けてみるとかなり難しいパズルになっていました。
エンド顧客は、ラグジュアリーホテルもビジネスホテルもあり、チェーン店もあれば個人商店もある。業態はさまざまです。
さらに乳酸菌発酵液そのものを売るのか、肉とセットで売るのか。肉の種類は何か。部位も掛け合わせると相当な変数があります。
そこで外食産業と卸、双方の顧客インタビューを実施。明治様ですでに実施済みの顧客インタビューと、こちらで集めた一次情報を突き合わせ、顧客のリアルなニーズや課題を議論していきました。
最終的に、注力ターゲットとなる3つのセグメントを整理。セグメントごとに抱えている課題や現場のニーズ、乳酸菌発酵液の提供価値を定義しました。
ここまでを前半の3か月かけて取り組み、後半の3か月は展示会施策の伴走支援を行いました。

犬塚 顧客インタビューを通じて、顧客の課題と乳酸菌発酵液のベネフィットはかなりクリアになりましたね。
例えばお話を伺ったホテルでは、料理人の数が減っていて、今までと同じクオリティ、同じ量の料理を提供することが難しくなってきているとおっしゃっていました。でも乳酸菌発酵液を活用すれば、誰が調理してもやわらかくておいしいお肉を提供しやすくなるので、課題解決に貢献できます。
さらにとんかつ屋さんでは、乳酸菌発酵液によってお肉の水分保持率が上がり、揚げ時間を短縮できることに価値を感じるとおっしゃっていました。
インタビューで顧客課題の解像度が上がり、予想外のベネフィットがいくつも見えてきたのが印象的でした。

顧客が知りたいのは、機能ではなくベネフィットだった
- プロジェクトを通じて、新しい発見や気づきはありましたか。
吉田 当社はBtoCの商品が多いメーカーなので、どうしても商品の機能やスペックを押したくなってしまいます。しかし今回のプロジェクトで、BtoBマーケティングでは顧客の課題に即してベネフィットを訴求することが重要だと気づきました。
例えば、「乳酸菌発酵液を使うと保水性が向上します」と機能を打ち出すのではなく、「筋が気にならないほどやわらかくなり、調理時間を短縮できます」と顧客のベネフィットに変換する。機能だけではない違うアプローチが必要なのだと、とても勉強になりました。
また、BtoCの領域では採用事例を出すという発想自体がなかったのですが、才流さんにご提案いただき、パレスホテル大宮様やレストランひらまつ様の事例をサービス資料に掲載したところ、顧客からも反応がありました。
BtoB領域では、「あの企業も使っている」という信頼感は大きいのだと学びました。
展示会でのトライアル件数は前年の3倍、売上は上期比8倍に
- 才流とのプロジェクトを経て、成果や手応えはありましたか。
吉田 チェーン展開するステーキ店に採用いただいたときは、大きな手応えを感じました。チェーン店のお客様は初めてだったので、メンバーのテンションが一気に上がった瞬間でした。
また、展示会でも数字の成果が見えました。1年前の展示会とは訴求内容をガラリと変えたところ、トライアルを希望してくださったお客様の件数は3倍になりました。
売上も、上期と比較して8倍となり、大きく伸ばすことができました。
- 展示会では、どんなふうに訴求を変更したのですか。
吉田 1年前は乳酸菌発酵液につけた肉のことを「発酵肉」と訴求していたんです。ただ、顧客インタビューや調査のなかで、発酵には「酸っぱそう」というイメージを持つ方が一定数いることがわかりました。そこで「発酵熟成肉」という表現に変えました。これは、桂川さんの発案です。
また、価値を直感的に伝えるために、乳酸菌発酵液に漬ける前後の肉を食べ比べていただく試食を実施したところ、大変好評でした。
畑中 私は才流さんとのプロジェクトが終わったあとで、チームに合流し、今は展示会や営業活動をサポートしています。先日、初めて展示会に立ったのですが、お客様から驚きの言葉をいただくことが多く、反応がすごくいいんです。ポジティブな反響は、営業の自信につながると実感しています。

既存事業とのシナジーを見いだし、販路拡大に向けて前進
- プロジェクトスタート時に目指していた、「マーケティング戦略を見直し、事業継続の突破口を見つけたい」という課題はクリアできましたか。
吉田 できました。顧客の解像度が上がり、マーケティング戦略や取り組むべき施策が明確になりました。
とくに、当初想定していた卸のお客様だけでなく、外食産業のお客様に注力する方針に転換できたことは大きかったです。
当社は既存事業で外食産業のお客様が多くいらっしゃるので、シナジーが期待できます。既存事業のアセットを活用すれば、よりスピード感のある展開が可能になる。事業の可能性を提示し、実際に売上も大きく伸びたことで、社内の審査でも評価をいただいています。
今まさに、既存事業の営業ルートで拡販できないかと社内調整を進めています。
畑中 支社の営業向けに説明会も開催していて、すでに顧客に紹介を始めている営業もいるんですよ。採用まである程度時間がかかるので、今から種まきをしているところです。

チームの建設的な議論と、対応の速さが事業を前に進めた
- コンサルタントから見て、プロジェクトで印象的だったことを教えてください。
犬塚 プロジェクトを通じて印象的だったのは、みなさまの受容性の高さと、前向きさです。私たちが持ち込んだインタビュー結果や提案を決して否定することなく、「それならこういうアプローチができるのでは」と、すぐに次のアイデアへとつなげてくださいました。
受け入れてくださるみなさまだったからこそ、私たちも臆することなく意見を出すことができました。
桂川 それぞれが現場に足を運んで顧客のリアルな声を拾い、得られた気づきを持ち帰って、全員が同じ熱量を持って議論が進められたと感じています。みなさまのこうしたスタンスが、プロジェクトの推進に大きく寄与したのは間違いありません。
事業が確実に次のフェーズへと進んでいて、関わらせていただいた者として本当にうれしく思います。実はこのプロジェクトをきっかけに、自宅でお肉の低温調理に挑戦するようになりました。プロジェクトが終わった今も、趣味として続けているんです。ゆくゆくは乳酸菌発酵液を家庭でも味わえるようになったらうれしいですね。これからの展開を、心から楽しみにしています。

明治の「乳酸菌・発酵」の知見で社会課題解決にも寄与したい
- 最後に、乳酸菌発酵液の今後の展望について聞かせてください。
吉田 乳酸菌発酵液は明治が持つ「乳酸菌」や「発酵」の知見を、新しいカテゴリーへと広げる挑戦です。まずは発酵熟成肉をカテゴリーとしてしっかり確立させるべく、採用事例を増やし、食べていただける場所を増やしていきたいです。
畑中 最近では業者様からの声がけで、海外からの相談も受けています。国によって菌の扱いなど法律が違うので課題は多いですが、高い関心を寄せていただいています。乳酸菌発酵液で海外に進出できるタイミングがあれば、挑戦したいです。
吉田 新規事業として、社会課題の解決も重要なテーマだと考えています。実証はこれからですが、菌の力で賞味期限を延ばすことができれば、食料廃棄問題の解消につながります。
また、鳥獣被害対策で狩猟したジビエが、販路不足に悩まされている現状もあります。乳酸菌発酵液に漬け込むことでジビエをおいしく食べられるようになれば、そうした問題の解決にも貢献できるかもしれません。
さらに将来的には、BtoCにも展開できたらいいですね。例えば漬け込み用の調味料として販売できれば、食料価格の高騰に悩む消費者のお役に立てるはずです。乳酸菌発酵液が、社会課題を解決する一助になればうれしいです。

撮影:植田 翔
取材・執筆・編集:藤井 恵