TIS株式会社様は、SI(システムインテグレーション)事業を軸に、コンサルティングからクラウド、アウトソーシングまで幅広いITソリューションを提供する総合ITサービス企業です。近年、自社発のサービスを市場に送り出す新たなビジネスモデルへの挑戦を加速させています。
市場環境の変化が激しさを増す中、これまで各現場で独自に進めてきたサービス展開を、体系的なメソッドに沿ってより効率的に推進したいと考えていた同社。課題解決のパートナーとして、才流(サイル)に研修をご依頼いただきました。
本研修では、顧客理解からペルソナ設計までを実践的に学ぶ全6回のオンラインワークショップを実施。ワークショップで学び、宿題で手を動かし、フィードバックで磨くサイクルを通じて、メンバーへのメソッド定着をご支援しました。
デジタルイノベーション事業本部 デジタルイノベーション営業統括部 副営業統括部長の伊丹さん、同本部 デジタルイノベーション営業推進部 セクションチーフの小林さんに、研修で得られた成果と今後の展望について伺いました。

受託開発からサービス型ビジネスへの転換で直面した壁
ーTIS様の事業内容と、今回の才流との協業の背景を教えてください。
伊丹 TIS株式会社は、コンサルティングからシステム設計・構築や運用・保守、クラウド、データセンター、アウトソーシングまで、幅広い業界にITソリューションを提供する総合ITサービス企業です。
長年にわたり受託開発を中心に成長してきましたが、現在、自社でサービスをつくって市場に展開していくビジネスモデルへの転換を進めています。
私たちが所属するデジタルイノベーション事業本部は、まさにその推進役を担う約1,600人規模の組織です。決済・ペイメント、ECや経営管理、ヘルスケアといった領域で事業を統括しています。
しかし、推進役とはいえ、サービスやプロダクトを一から立ち上げて市場に展開するという経験は、組織としてまだ十分ではありませんでした。

ー具体的には、どのような課題を感じていましたか。
伊丹 これまでも各領域でサービス展開には取り組んできましたが、市場環境の変化が激しくなる中で、より体系的なアプローチが必要だと感じていました。
振り返ると、それぞれの現場が自己流で進めていた部分があり、顧客ニーズの検証プロセスが標準化されていなかったんです。業界知識やお客さまへの理解は深いのですが、マーケティングのメソッドを体系的に学ぶ機会が少なく、サービスの価値を市場に届けるための共通の型が整備されていませんでした。
そうした中、経営管理の領域ではいち早くGTM(Go-to-Market)のメソッドを取り入れ、専任チームを立ち上げて成果を上げていました。この成功体験を他の事業領域にも効率的に展開するために、外部の知見も借りながら組織全体の型として整備していこうと考えました。
※関連記事:GTM(ゴートゥーマーケット)|PMFを理解するために必要な用語
ー才流にご相談いただいた経緯を教えてください。
伊丹 以前、BtoBマーケティングの見直しで才流さんにお世話になったことがあり(※)、今回も迷わずご相談しました。
才流さんほど、メソッドやノウハウをオープンに公開している会社は他にないと思っています。私もよく参考にしていますが、それを自社の状況に落とし込み、組織に定着させるには、やはりプロの支援を受けるのが確実だと感じていました。
小林 そこで、今回は研修形式での支援をお願いしました。営業企画のチームが2名から6名に拡大したタイミングで、メンバーをスピーディーに育成する必要があったんです。私からのOJTで進めるよりも、プロによる研修でしっかりメソッドを定着させたいと考えました。
※関連記事:「営業・マーケティング・開発の共通言語を作りたい」部門横断プロジェクトの裏側

ワークショップ→宿題→フィードバック。全6回の実践型研修
ー研修の全体像を教えてください。
亀井 今回は全6回のワークショップ形式で実施しました。GTM戦略の策定は、WHO(誰に)、WHAT(何を)、HOW(どのように)の順序で整理しますが、今回の研修では特に、戦略の土台となる顧客理解とターゲット設定に重点を置きました。

亀井 テーマは3つです。
1つ目は「顧客理解とインタビュー」。施策から入らず、まず顧客理解から始めるという原則を学びます。さらに、見込み顧客や営業担当へのインタビューを通じて、顧客の課題やニーズを検証する手法を実践しました。
2つ目は「マーケティング分析」。問い合わせ分析、商談分析、受注・失注分析、競合分析など、社内に蓄積されたデータを定量的に分析し、自社の強みや差別化ポイントを明らかにしていきました。
3つ目は「ペルソナ・ターゲット設計」。インタビューで得た定性情報と、分析で得た定量データを掛け合わせて、狙うべき顧客像を具体化し、優先順位をつけていきました。
ーそのようなテーマを設定した意図を教えてください。
亀井 マーケティング戦略を考えるうえで、最も大事なのは顧客理解、つまり「WHO」の部分です。「誰に届けるのか」が曖昧なままでは、どんなに良いサービスでも市場に届きません。今回は、まず顧客理解を徹底的に深めることに重点を置き、そこからペルソナ設計につなげていく構成にしました。
また、一度やり方を覚えれば、他のサービスにも応用できます。 繰り返し実践していただくことで、型として身につけてもらうことを目指しました。

ー研修はどのような流れで進めたのでしょうか。
亀井 各テーマは、ワークショップと宿題フィードバックの2回構成。計6回で3つのテーマを学ぶ形式で進めました。
ワークショップを1時間行い、そこで宿題を提示します。参加者のみなさんには約3週間かけて、実際にインタビューや分析に取り組んでいただき、約1か月後にその宿題へのフィードバックを行う。この流れを3つのテーマで繰り返しました。
小林 メソッドの知識があっても、実務で使えなければ意味がありません。宿題として実際のサービスを題材にインタビューや分析に取り組み、フィードバックを受けることで、「こう考えればいいのか」という感覚をつかんでほしいと考えていました。
ー参加されたメンバーの構成を教えてください。
伊丹 営業企画のメンバーが中心ですが、マーケティングの実務を担当するメンバーにも参加してもらいました。 「誰に、何を届けるのか」を考える視点を共有し、部門間で共通言語をつくりたかったんです。

「オンラインなのに空気が変わった」実体験が響いた瞬間
ー研修で特に印象に残った内容はありますか。
小林 ペルソナを設計する際、ターゲットを「BtoB大手の部長以上」という括りで定義すると、情報収集チャネルやタッチポイントがどれも似たようなものになってしまい、差別化したアプローチが見えてこない、という悩みが出たんです。
それに対して、コンサルタントの亀井さんがご自身の経験をもとに具体的に切り込んでくださいました。あの時のメンバーの集中度合いはすごかったです。オンラインなのに空気がパッと変わる瞬間を感じられましたね。
ー具体的にはどのようなアドバイスだったのでしょうか。
亀井 「BtoB大手の部長以上」という設定だと、ターゲットが漠然としてしまいます。ただ、業界や職種で分類すると、情報収集のチャネルはまったく違ってくるんです。
たとえば製造業の部長とIT系の部長では、参照するメディアが異なります。製造業や物流業界なら業界専門メディア、IT業界ならビジネス系のWebメディアを読んでいる方が多い。
職種でも変わります。営業部長なら大規模なカンファレンスに毎年参加しているケースがある一方、経理部長なら経理専門誌や、コンサル会社が発行する会計分野のレポートを読んでいる。同じ「部長」でも、業界×職種で分類して考えると、より効果的なアプローチが見えてきます。
小林 この話を聞いて、メンバーの理解が一気に進みました。研修後の内部ディスカッションでは、「業界特性×部門特性×役職の掛け算で整理すればいいんだね」という共通認識ができました。
実体験のエピソードが入ってくると、「これって実戦で使えるんだな」という感覚が持てる。 研修に参加したメンバーに聞いても、亀井さんの体験談が一番印象に残ったという声が多かったですね。

ー各テーマの宿題として、実際にインタビューや分析に取り組まれたと思います。苦労した点はありましたか。
小林 はい。インタビュー設計をして、アポイントを取って、実際にインタビューする。この一連の流れを約1か月でやり切るのは、想像以上に大変でした。
結局、顧客へのアポイント調整が間に合わず、まずは営業担当や開発担当など、お客さまと接している社内担当者へのインタビューに切り替えました。
ですが、思った以上に社内に情報が蓄積されておらず、商談の記録がきちんと残っていないケースも多かったんです。分析をしようにも、元データがしっかりしていないとミスリードにつながる可能性がある。そういった課題も見えてきました。
顧客理解を深めるためのインタビューや分析には、想像以上に時間と準備が必要だということを実感しました。
研修によって共通言語が生まれ、メンバーの行動も変化
ー研修を終えて、どのような変化がありましたか。
伊丹 「WHO(誰に)、WHAT(何を)、HOW(どのように)を整理してから始めよう」という考え方が、メンバー同士の会話の中で自然と出てくるようになりました。
マーケティング部門と営業企画の間で、用語の統一も進んでいます。プロモーション企画を考える前に何をすべきか、サービス企画でどこまで検証すべきか。そうした共通見解ができたのは大きな成果です。
高橋 以前は型がなかったので、何をすればよいかわからない状態だったと思います。研修を通じて型が整理され、実践を通じて身についたことで、「このタイミングでは何をすべきか」を自分たちで判断できるようになったのではないでしょうか。

ー参加したメンバーの行動に変化はありましたか。
小林 はい。研修を受けたメンバーが自発的に動き始めているんです。今まさに、実際のサービスを題材にペルソナを作成しています。
以前は「やらなきゃいけない」とわかっていても、どういう論理展開で整理していけばよいのかがわかりませんでした。今回の研修で、その道筋が見えたことが大きかったと思います。
伊丹 営業企画とマーケティングが合同で、仮説検証のタスクをチーム化しようという動きも出てきています。仮説を立てたら、それが本当に市場に当たっているのかを検証してから次に進む。そういうプロセスを組織として回していこうという意識が生まれました。
レスポンスの速さと個別対応。研修の枠を超えたサポートも
ー才流のコンサルタントの対応はいかがでしたか。
小林 レスポンスの速さには驚きました。「仕事してるの?」と思うほど早いんです(笑)。 質問を投げると、本当に驚くほどのスピードで返ってきました。
それから、参加メンバーのスキルやサービスの成熟度にばらつきがあることを理解したうえで、丁寧に接していただいていると感じました。メンバーのモチベーションを上げるような接し方をしてくださるので、研修も進めやすかったです。

ー宿題のフィードバックの内容に対して、どのようなご感想をお持ちですか。
小林 こちらのレベルに合わせてくれるのがありがたかったですね。画一的なフィードバックではなく、それぞれの状況を踏まえた内容でした。
亀井 参加者の方々が担当されているサービスは、事業特性がそれぞれ異なります。リードを多く獲得して進めていくモデルもあれば、対象企業が限られるモデルもある。そうした特性に基づいて、個別にフィードバックさせていただきました。
小林 まだ成熟しきっていないサービスについても、研修の枠外で相談に乗っていただきました。それがすごくありがたかったですね。
ー研修で得られた成果を今後どのように発展させていきたいですか。
伊丹 研修をきっかけに、GTMの考え方が組織に定着してきました。
次のステップとして、サービスが本当に市場に受け入れられるのかを検証する考え方を、開発部門にも浸透させたいです。営業やマーケティングだけでなく、サービスをつくる人たちとも同じ目線で会話できるようになることが理想ですから。
今回の取り組みは、全社規模で見ればまだ小さなスタートです。これを成功事例にして、ゆくゆくは全社の営業部門にも展開していきたいと考えています。
ー最後に、才流の研修はどのような企業におすすめできますか。
伊丹 マーケティングの型ができていない企業、サービスの立ち上げをやったことがない企業にはぴったりではないでしょうか。
小林 「良いサービスなのに、なんで売れないんだろう」と悩んでいる方ですね。 そう感じているなら、おそらく「良いサービス」の言語化ができていないのだと思います。誰に、何を届けるのか。その整理を一緒にやってもらえる才流の研修は、とても価値があるはずです。

(撮影/関口 達朗 取材・文・編集/ 河原崎 亜矢)