東京ガス株式会社様は、都市ガスの製造・販売を中心に、電気供給、エンジニアリングソリューション、不動産開発など、幅広い事業を展開しています。2024年4月には、給湯器やコンロなどの住宅設備をオンラインで完結できるサービス「東京ガスの機器交換」を開始しました。
デジタルシフトが進む中、対面営業からオンライン営業への転換を図る同社でしたが、チャットによる営業特有の課題に直面。対面営業とは異なる難しさから、顧客満足度の向上に限界を感じていたといいます。
そこで才流(サイル)では、チャット営業の文面改善をご支援しました。顧客体験を再設計し、14の文面構成の型を構築。さらに70個の定型文を作成しました。
今回のプロジェクトにご参画いただいた、設備ソリューション開発部 WEB機器交換ソリューショングループのTさん、Kさん、Cさんに、プロジェクトの成果や今後の展望について伺いました。

対面営業とは異なる難しさ。チャットは「伝え方」が重要
ー今回ご支援したサービス「東京ガスの機器交換」について教えてください。
Tさん 最近、給湯器やコンロといった住宅設備の購入を検討する際、デジタルで情報収集されるお客さまが増えてきています。私たちも従来は対面での販売を強みにしてきましたが、それだけでは不十分だと考え、2024年4月にオンライン完結型の機器交換サービスを開始しました。

Cさん このサービスは、お客さまがご自宅に設置されている機器の写真を撮って、必要事項を入力していただくだけで、お見積もりがオンライン上で届くというものです。
その後、専用のマイページで担当者とチャットでやり取りをして、最後に交換工事だけ実際に訪問して行うという流れになっています。明朗会計、スピード感、そして東京ガスならではの信頼性を重視したサービス設計です。
ーオンライン完結型のサービスを運営する中で、どのような課題に直面されたのでしょうか。
Tさん チャット上でのコミュニケーションがうまく機能せず、私たちの伝えたいことがお客さまに伝わらないケースが多くありました。結果として、ご不満を抱いて他社へ依頼されるお客さまもいらっしゃいました。

Cさん チャット営業には、メールや対面とは違う独特の難しさがあります。メールのようにかっちりしすぎると堅苦しく、カジュアルすぎると軽い印象になってしまう。堅苦しくならず、かつ失礼のないバランスがとても難しいと感じていました。

Kさん もう1つ、情報量のコントロールにも課題がありました。東京ガスには、お伝えしなければいけないことをしっかり全部伝えるという文化があります。しかし、スマホで確認するお客さまがほとんどなので、文字量が多いと読まれないんです。
短く読みやすいように、でも必要な情報はちゃんと網羅する。この両立が非常に難しかったですね。

Tさん 社内でも常に「チャットの応対品質をどうやって向上させたらいいのか」と話し合っていました。いろいろと取り組んでいたものの、限界を感じていたんです。
Cさん チャット営業に関する書籍はほとんどなく、ノウハウもなかなか見つかりませんでした。社内だけでは行き詰まりを感じていましたね。
ーそうした中で才流にご相談いただいたのですね。才流のことはどこでお知りになったのですか。
Tさん 以前、弊社のグループ会社を才流さんが支援していたつながりで、ご紹介いただきました。
Cさん 才流さんはBtoBのご支援がメインと伺っていたので、私たちのようなBtoCのサービスにご対応いただけるのか、少し不安がありました。
そこで、依頼する前に実際に使っているチャット文面をいくつかお送りして、改善提案をお願いしたんです。その対応がスピーディーで、しかも内容も的確でした。これが依頼する決め手になりましたね。
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単なる文面改善ではない。顧客体験を再設計するプロジェクト
ープロジェクトはどのように進めたのでしょうか。
宮戸 最初に、東京ガス様の事業や既存のチャット文面について詳しくヒアリングさせていただきました。その中で、このプロジェクトは単なるチャット文面の改善では収まらないだろうなと感じました。
チャット営業は対面営業と違って、1回ミスをしたらお客さまが離脱してしまう。そのため一つひとつの文面が極めて重要です。
さらに、このプロジェクトには3つの難しさがありました。
1つ目は、商品の差別化です。給湯器やコンロは、どのメーカーも機能面での違いがほとんどありません。「どれも一緒」と言われる中で、いかにお客さまのニーズに沿った価値を言語化し、納得していただけるかが課題でした。
2つ目は、競合との接客手法の違いです。競合は対面や電話で同期的にコミュニケーションできる一方、東京ガス様はチャットという非同期コミュニケーション。この制約の中で、いかに選んでいただけるかを考える必要がありました。
3つ目は、チャットでも人間味のあるコミュニケーションを実現することです。対面や電話に劣らない温かみや信頼感を、文章だけで伝える設計が求められました。
「これは顧客体験全体を再設計する必要がある」そう直感し、最初に3C+1のフレームワークで体系的に調査を進めることにしました。
具体的には、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)、そして専門家(Expert)の4つの視点から、徹底的に情報を収集していきました。

宮戸 顧客の調査では、契約していただいたお客さまと、途中で離脱されたお客さま、両方にヒアリングを行いました。なぜ選んでいただけたのか、なぜ離れてしまったのか。その声が後の改善につながる重要な示唆になりました。
競合については、家電量販店や競合サービスをベンチマークとして、接客手法やコミュニケーションの工夫について調査・分析しました。
さらに専門家として、チャットやメールのみで営業している他業界の企業にもインタビューを行い、チャット営業特有の工夫やノウハウを学びました。

ー調査・分析を経て、どのようなアウトプットを作成されたのでしょうか。
宮戸 最終的に14の文面構成の型を構築し、それをもとに70個程度の定型文を作成しました。
加えて、「クッション言葉」や「お詫び」といった表記ガイドライン、さらに継続的に改善していくための運用方法も整備しました。

Kさん プロジェクトを進める中で、私たちの要望も変化していきました。最初は「文面構成の型と定型文を作ってください」とお願いしていたのが、だんだん「なぜその構成にしたのかという意図も記載してください」に変わっていったんです。「この場面にはどういう構成が効くのか」という考え方自体を教えていただきたいと思うようになったからです。
Cさん 実際に納品していただいた文面構成の型は、単に文面サンプルが並んでいるだけではありませんでした。なぜこの構成にしたのかという思考回路と、実際の例文をセットでご提示いただけたんです。
これがあることで、私たちも「なるほど、こういう考え方でこの文面になるのか」と理解できましたし、他の場面でも活用しやすくなりました。
Kさん 才流さんの支援が終わった後も、いただいた文面構成の型や指針を活用しながら、自分たちで同じような品質の文面を作れるようになっています。プロジェクト期間だけではなく、私たちが今後進んでいくうえでの指標になるようなものを作っていただけたと感じています。
「東京ガスなら安心」という当たり前の強みに気づいた
ープロジェクトを通じて、どのような気づきがありましたか。
Cさん 大きな気づきは、東京ガスの強みである安心感や信頼について、チャット営業の場面でまったく案内できていなかったということです。
実際にお客さまから「東京ガスなら安心」という声をいただいていましたが、私たちはそれを当たり前だと思っていて、文章で訴求していませんでした。そういう強みこそ、ちゃんと文章で案内したほうがいいと才流さんに教えていただき、はっとさせられました。
Tさん 才流さんが第三者の立場で客観的に見て、ベンチマーク企業と比較しながら「ここが優位性ですよね」「ここがお客さまの心に響くポイントですよね」と明確に示していただけました。これは非常に有効でしたね。
加えて、「お客さまにとってのベネフィットを訴求する」ということについて改めて考えさせられました。私たちが伝えたいポイントではなく、お客さまにとって何がベネフィットとなるのか。この視点の転換が、チャット文面の改善だけでなく、営業全体の質を高めることにつながったと感じています。

ー作成した定型文を実際に検証されたとのことですが、どのような取り組みをされたのでしょうか。
Cさん 代表的な取り組みが、「おまかせ見積もり」の提案方法の変更です。従来は1商品のみを提示していましたが、これを2商品提示に変更し、それぞれの提案理由や選択基準を明示する形で検証しました。
具体的には、ミドルグレードとハイグレードの2つの商品を提示し、「こういう場合はこちらがおすすめ」といった選び方のポイントをお伝えする形です。
ー検証の結果はいかがでしたか。
Cさん 2商品を提示したことで、トライアル案件の移行率や顧客満足度が向上しました。加えて、ハイグレード商品を選ばれるお客さまが増え、アップセル効果も生まれました。
Tさん お客さまは1個だけではなく、2、3個の中から選びたいという心理がある。比較して選べることで、納得感が高まるのだと思います。
1商品のみ提示していた頃、「他の商品も見たい」というお問い合わせは少なくありませんでした。最初から2商品を提示することで、そうした追加の問い合わせが減り、セールス側の負荷も軽減されるという副次的な効果もありました。
正直に言うと、すぐに成果が出るとは思っていなかったんです。ですが、実際に検証してみるとお客さまに響いて、数値として表れたことに驚きました。
移行率も満足度も向上。誰でも一定品質の応対が可能に
ープロジェクトの成果を教えてください。
Cさん 検証フェーズでは明確な成果が出ました。先ほどの事例だけでなく、他にもトライアルを実施したのですが、そちらも契約移行率や契約者アンケートの提案満足度の向上が見られました。さらに、先ほど申し上げたように、ハイグレード商品を選択いただくお客さまも増えています。グレードの高い商品をご利用いただくことで、お客さまの生活価値向上にもつながると思っています。
現在は、検証で効果が実証された定型文から順次、現場への展開を進めているところです。
ー数値以外の変化もあったのでしょうか。
Cさん 少しでもお客さまに良いご案内をしようという意識が、現場に根づいてきたと感じています。
まだ検証が済んでいない定型文もあるのですが、すでに完成している文面構成の型を活かして、自分で工夫して送ってみるメンバーも出てきました。普段の業務でも、学んだ型を意識しながら案内するようになりましたね。

Tさん 私自身、日常の中で変化を感じています。パートナーの方に連絡をしようと思った時に、この人に対してどう提案すると動いてもらえるか、彼にとっての価値は何かを、ぱっと頭に浮かべながら行動するようになりました。
お客さまにとってのベネフィット(価値・利益)を考える。この視点は、営業活動全体に活きていると感じています。
ー組織全体としての変化はいかがでしょうか。
Kさん 誰でも一定の品質を確保できる定型文と構成の型を作る、というプロジェクトの目的は達成できたと思っています。
プロジェクト後に才流さんが実施した勉強会では、現場のメンバーから「こういう視点があるんですね」「次に直すとしたらこういうところを気にしたいです」といった発言がありました。私たちだけではなく、実際に現場がそう思ってくれたことが嬉しかったです。
宮戸 今回、商品の差別化の難しさや、非同期コミュニケーションという制約がある中で成果を出さなければならないという難しさがありました。
プロジェクトを通じて、商品の良さをしっかり伝えられるようになったこと、そしてチャットでも人間味のあるコミュニケーションができるようになったことで、成果が出たのだと感じています。
スピード、柔軟性、専門性。信頼を築いた支援スタンス
ー才流のコンサルタントとの協働について、印象に残っていることを教えてください。
Cさん まず驚いたのが、宮戸さんのSlackでのレスポンスの速さです。何か送ると、すぐにリアクションがある。本当にびっくりするほど速かったですね。
また、定例ミーティング以外でも、毎週のように電話やZoomで相談に乗っていただきました。しかも、今回のテーマはチャット文面の改善でしたが、それ以外の領域についても快く相談に応じてくださいました。
小東 まだ課題が完全に整理されていない段階でも気軽にご相談いただけたことで、定例を待たずにすぐ対応できる体制が取れました。東京ガス様の「スピーディーに検証を進めたい」というスタイルに、うまく合わせられたのではないかと思います。

Kさん 私が感じたのは、才流さんの支援スタンスと専門性のバランスの良さです。
担当のお二人は非常にフランクで、相談しやすい雰囲気をつくってくださいました。一方で専門知識も豊富で、不明点があれば必ず下調べをしたうえで、根拠のある資料を提示していただけました。
大手のコンサルティング会社と比較しても、スピード、アウトプットの量と質、そして費用面のバランスが非常に優れていたと感じています。
ープロジェクトの進め方についてはいかがでしたか。
Tさん 才流さんは私たちのペースに合わせて進行を調整しつつ、コミュニケーション手段も状況に応じて柔軟に対応してくださいました。
プロジェクトを進めていく中で、私たちの要望も変化していきます。「この時点でアウトプットが欲しい」といった、当初想定していなかった依頼にも柔軟に対応していただけました。こうした対応の積み重ねが、強い信頼関係につながりました。
結果として数値面の成果も出ましたが、それ以上に、プロジェクトを通じて信頼関係を築けたことが、大きな価値だったと感じています。

型の横展開から顧客体験の向上。さらなる事業拡大へ
ー最後に、今後の展望について聞かせてください。
Cさん 今回作っていただいた文面構成の型をもとに、他のサービスにも展開していきたいと考えています。実際に他グループにも文面構成の型やポイントについて、共有する機会を設けることになりました。まだ着手できていない定型文も多くありますし、定型文にない質問が来た時も、セールスメンバーが構成の型を意識しながら対応できるようになることを目指しています。
Kさん 今回のプロジェクトで、誰でも一定の品質を確保できる定型文と文面構成の型ができました。
次の段階としては、この型をベースにしながら、各メンバーの個性ややりたいことを大事にして、それをしっかり伸ばしていくことが重要だと考えています。お客さまに応じて、どういう言葉が刺さるのかを考えて営業していく。文面構成の型があることで、そこに各自の工夫を加えられるようになります。
また、組織として人が入れ替わる中で、新しく入ってくる人にいかに早く立ち上がってもらうかも課題です。今回のアウトプットが良い教材になると思っています。
Tさん 東京ガスのオンライン事業をもっともっと大きくしていきたいですし、多くの方に使っていただきたいと思っています。
オンラインでの購入に不安はつきものです。その不安に対して、チャット上でもしっかりと寄り添う。東京ガスだから安心できるというお客さまの期待を裏切らないようなことができれば、オンラインで完結するサービスはもっと魅力的になると考えています。
一方で、オンラインが苦手な方も一定数いらっしゃいます。そういった方には、グループのチャネルを活用して対面で寄り添いながら対応する。トータルでお客さまの生活価値を上げていくことで、事業全体のレベルを向上していくのが目標です。
(撮影/関口達朗 取材・文・編集/ 河原崎 亜矢)