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SaaSの無料トライアルの価値を最大化する「導入ブリッジ報告会」実践ガイド

シニアコンサルタント
野田 拓志

SaaSの新規事業でよくある課題のひとつが、トライアルユーザーは獲得できるのに有料契約にはつながらないというものです。

この課題を解消するためには、トライアル開始時点で導入目的やプロジェクトの進め方について顧客とすり合わせておくことが重要となります。目的や評価基準が曖昧なまま進めてしまうと、顧客は何を判断材料として有料契約に進むべきかがわからなくなるからです。

才流では、このトライアル導入時点で取るべきコミュニケーションを「導入キックオフメソッド」としてまとめています。(※)。

ただ、無料トライアルを有料契約につなげるためには導入開始時点だけでなく、トライアル期間中のコミュニケーションも重要となります。

そこで本記事では、有料契約につなげるためにトライアル期間中に実施したい「導入ブリッジ報告会(進捗報告会)」について解説します。導入ブリッジ報告会の資料作成に使える無料テンプレートもご用意していますので、ぜひご活用ください。

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※関連記事:SaaSの有料転換率・継続率を高める「導入キックオフメソッド」〜営業×CSでつくる新規事業の成功の型〜

無料トライアルだけで終わってしまう典型的パターン

SaaSの無料トライアルが有料契約につながらない顧客の背景には、いくつかの共通パターンがあります。まずはその代表的なものをみていきましょう。

パターン① 推進者・決裁者が現場に関与していない

現場の担当者は製品を使いこなし、その価値を実感していても、プロジェクトの推進者や決裁者がその状況を把握していないことがよくあります。

とくに、以下のような組織では起こりがちです。

  • 現場の担当者から上司への報告が義務化されていない
  • 推進者・決裁者が忙しく、トライアルの状況を確認する時間がない

要するに、トライアルが現場の担当者だけで完結してしまっているパターンです。

有料契約に至らなかった際に、顧客はその理由を事業者に詳しく説明することはほとんどありません。そのため、多くの事業者は製品の価値を感じてもらえなかったと考えがちです。しかし実際は、意思決定者に必要な情報が共有されていないために有料契約の判断が下せなかったということは珍しくありません。

パターン② 利用状況や効果を可視化できていない

現場の担当者が製品に価値を感じていたとしても、それが「感覚的に良さそう」「何となく便利」という感想だと、上層部の意思決定者は導入の妥当性を判断しづらく、有料契約の判断を下せません。

意思決定者が求めているのは、「具体的にどのような成果が出ているのか」「費用対効果はどの程度見込めるのか」といった定量的なデータです。トライアル期間中は、意思決定者が判断できるようなデータを収集しておくことが重要となります。

パターン③ 意思決定プロセスが設計されていない

パターン①、②に関連するものでもありますが、顧客側の無料トライアル中における意思決定プロセスが設計されていないことも有料契約につながらない典型的パターンのひとつです。

よくあるのが、トライアル期間が終了する数日前に慌てて検討を始めたり、導入可否を決定する会議が設けられていなかったりするケース。これでは適切な判断ができないため、導入が先送りにされてしまうことがほとんどです。適切な判断を行うには、明確な判断基準とそのタイムラインを設定する必要があります。

導入ブリッジ報告会を実施するメリット

前述した無料トライアルが有料契約につながらないパターンを整理すると、その要因は現場での利用状況や成果が意思決定者に正しく伝わっていないことに集約されます。それを防ぐために実施するのが「導入ブリッジ報告会」です。

導入ブリッジ報告会とは、トライアル期間中に事業者側と顧客側の双方が利用状況や成果について報告・共有する会議のことです。単なる進捗報告ではない点が特徴であり、実施するメリットは大きく3つあります。

メリット① 意思決定者を巻き込む場になる

先述したように、トライアル期間中に現場の担当者と推進者・決裁者などの意思決定者が十分にコミュニケーションを取れていないことは珍しくありません。その理由はシンプルに、コミュニケーションを取る場がないからです。

導入ブリッジ報告会を顧客社内における重要な会議と位置づけることで、推進者や決裁者にも参加してもらいやすくなります。その際、事業者側も単なるサービス提供者ではなく、顧客の担当者や推進者と一緒になって成果創出を目指すプロジェクトメンバーとして関与することが重要です。

利用状況や成果をリアルタイムに共有しながら密に連携を取ることで、顧客社内における現場と意思決定者の間にある情報ギャップを解消し、意思決定を前に進めやすくなります

メリット②  製品の価値を定量化して意思決定材料に変換できる

現場の担当者がトライアル中に製品に対して感じる価値は「なんとなく良さそう」といったような感覚的なものになりがちです。しかし導入ブリッジ報告会では、これらの感覚的な価値を意思決定者に理解してもらえるように具体的な成果や数値にして伝える必要があります。

導入ブリッジ報告会を設けることで、担当者は単に利用するだけでなく、利用状況や成果を整理し、意思決定に使える材料としてまとめられるようになります

メリット③  セールスイベントとして機能する

導入ブリッジ報告会は単なる進捗確認や成果報告の場ではなく、事業者側にとっては導入価値を訴求できるセールス機会にもなります。実際の利用データをもとに、「本格導入すればどのような成果が期待できるのか」「どのような活用が見込めるのか」といったことを顧客に伝えられるので、トライアル開始前の提案よりも説得力は増すことでしょう。

また、もし顧客側の使い方に誤りや改善余地があり、トライアル期間中に十分な成果が出ていなかった場合は報告会の場で正しい使い方や改善策を示すこともできます。導入ブリッジ報告会は、製品の価値を正しく、確実に伝えるために重要な役割を果たしてくれるのです。

導入ブリッジ報告会の実践ステップ

それでは、導入ブリッジ報告会を実践する際の流れについて解説します。プロセスは大きく「タイミング設計」「参加者設計」「アジェンダ設計」「データ設計」 の4つに分かれます。

  • 01 タイミング設計

    導入ブリッジ報告会はトライアル期間に応じて、適切なタイミングで設計しましょう。

    トライアル期間別の実施回数と最適なタイミングの目安は以下のとおりです。

    トライアル期間回数タイミング
    2週間1回最終週
    1か月2回2週目、4週目
    3か月以上3回以上2週目、6週目、最終週

    トライアル期間にかかわらず、初回はトライアル開始から2週目あたりに設定することをおすすめします。初期の不具合や課題感を確認できるのと、ある程度のデータは収集できているため、軌道修正するのにも適しているからです。

    トライアル期間の中間に実施する導入ブリッジ報告会は、ちょうど折り返し地点(1か月なら2週目、3か月なら6週目)に設定するのが一般的です。

    ただし、製品の特性によって適切なタイミングは異なります。たとえば、短期間で成果が出やすい製品であれば前倒ししたほうがよいケースがありますし、逆に使いこなすまでに時間がかかる製品であれば、利用データが十分にたまるタイミングまで後ろにずらしたほうが賢明です。

    中間の導入ブリッジ報告会は、成果が出ている部分と強化すべき部分を整理して後半に向けた打ち手を検討する機会となるので、それらを判断材料が出揃うタイミングで設定しましょう。

    最終の導入ブリッジ報告会は、十分なデータが出揃う最終週に設定するのが基本です。ただし、社内の承認フローが複雑で最終週までに結論を出すのが難しい場合は、1〜2週前倒しして実施するなど調整しましょう。データが揃うタイミングと意思決定が可能なタイミングのバランスをみて判断してください。

  • 02 参加者設計

    次に、導入ブリッジ報告会の参加者を決定します。

    顧客側と事業者(自社)側のそれぞれ、最低でも以下のメンバーに参加してもらってください。

    顧客側は現場担当者、推進者、決裁者の最低3名には参加してもらうようにしてください。とくに決裁者はスケジュール調整が難しいことが多いため、できるだけ早めに予定を伝えましょう。また、参加者は多すぎても議論が散漫になるため、顧客側・事業者側合わせて 6〜8名程度 に抑えるのが理想です。

  • 03 アジェンダ設計

    続いて、導入ブリッジ報告会のアジェンダ(会議の流れ)を設計しましょう。


    標準的なアジェンダ(60分)は以下の通りです。

    1. オープニング(5分)

    • 参加者の簡単な自己紹介(必要であれば)
    • 会議の目的、ゴールの確認
    • 前回からの変更点やアップデートの共有

    2. 利用状況・成果の報告(20分)

    • 主要KPI(ログイン率、利用率、主要機能の使用状況)の共有
    • 導入前との成果比較(業務量削減、作業時間短縮など)
    • 前回からの変化(改善・課題)の報告

    3. 現場からのフィードバック(10分)

    • 現場ユーザー代表による使用感、不満点などの共有
    • 現場マネージャーによるレビュー
    • 成功事例、うまくいった活用法などの共有

    4. Good & More の整理(10分)

    • 評価できる点・継続したい点(Good)の共有
    • 改善点・追加機能の要望(More)の共有
    • 他部門展開の可能性や課題の洗い出し

    5. 今後の展開とネクストアクション(15分)

    • 導入可否の方向性の確認
    • 有料契約に向けたステップ(導入規模・対象部門・開始時期)の整理
    • 次回アクションの合意

    注意してほしいのが、上記はあくまで標準的なアジェンダであり、導入ブリッジ報告会は初回、中間、最終でその内容を変える必要があることです。

    初回は立ち上がりの課題把握や軌道修正に重点を置き、中間は成果と課題の整理、後半に向けた打ち手の検討が中心となります。最終回は、これまでのデータをもとに導入可否を判断する場となるため、意思決定のために必要な議題を盛り込む必要があります。

    各フェーズにおける目的を明確にし、それに合わせたアジェンダを設計しましょう。

  • 04 データ設計

    導入ブリッジ報告会で最も重要なのは、どのデータを扱うかです。意思決定者はそのデータを根拠に導入可否を判断するため、提示するデータの種類や粒度によって結果が左右されます。

    データは定量と定性に分けるのが基本です。導入判断に必要な情報として過不足がないように揃えましょう。

    例としては、以下のようなデータが挙げられます。

    【定量データ】

    ◎基本要素

    • 登録ユーザー数 / アクティブユーザー数
    • ログイン率(週次・月次)
    • 主要機能の利用頻度

    ◎成果要素

    • 業務時間の削減率
    • 売上/受注率/CVRへの影響
    • 費用対効果

    ◎ベンチマークとの比較要素

    • 業界標準値との比較
    • 競合ツールとの差分
    • 他社での類似事例

    【定性データ】

    ◎基本要素

    • 日々の使用感(使いやすさ・難しさ)
    • 体感ベースの改善要望
    • マネージャーからの評価

    ◎成果要素

    • 成功ケース(具体的にどの業務がどう改善したか)
    • チーム内での新しい活用方法
    • 業務の属人化解消に関する実感

    ◎従来との比較要素

    • 従来の業務フローとの比較(どこがどのように変わったか)
    • 既存ツールや旧システムとの体感差
    • 意思決定スピードの変化

    データ設計において大事なのは、意思決定者が導入後の姿を具体的にイメージできるだけの材料を揃えることです。ただしデータは多すぎると焦点がぼやけてしまうので、判断に直結する必要最低限のものに絞るようにしましょう。

  • 導入ブリッジ報告会テンプレート

    才流では導入ブリッジ報告会に使える資料のテンプレートをご用意しています。基本要素を押さえた構成となっているので、自社用にカスタマイズしてご活用ください。

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    導入ブリッジ報告会に関するよくある質問

    導入ブリッジ報告会に関してよくある質問にお答えします。つまずきやすいポイントを整理しましたので、実施する際の参考にしてください。

    才流 野田

    才流のコンサルタント野田がお答えします!

    Q. 推進者や決裁者が参加してくれない場合はどうすればよいですか?

    A. 会議時間を短縮する、必要パートだけ参加してもらうなど、少しでも参加してもらえるように工夫しましょう。

    推進者や決裁者は忙しいため、スケジュール確保が難しいケースはよくあります。しかし、導入ブリッジ報告会は意思決定者に必要な情報を届けることが目的であるため、現場の担当者だけでの実施はなるべく避けたいものです。

    会議時間を短縮する、必要なパートのみ 10〜15分だけの参加を提案するなど、少しでも参加してもらえるように調整しましょう。

    また、意思決定者に参加する必要性を感じてもらえていない可能性もあるため、事前にアジェンダや資料を共有し、会議の重要性や参加するメリットを理解してもらうように心掛けましょう。

    Q. 企業規模によって注意すべきポイントはありますか?

    A. 大企業と中小企業では意思決定プロセスが異なることがあるため、必要に応じて報告会の内容や回数を調整しましょう。

    大企業は意思決定層が多く、部門間の調整も複雑なことがあるため、「部門→ 事業部 → 全社」 のようにレイヤーごとに段階的な報告会を設けることを検討してもよいでしょう。また、他部門への展開まで視野に入れたロードマップを示すことで、導入後のイメージを持ってもらいやすくなります。

    一方、中小企業は意思決定が速やかで、関係者も少数であることが多いため、報告会ではより実務に踏み込んだ具体的な議論がしやすいのが特徴です。また、人員が少ない会社ではサポート体制が不安材料になりやすいため、導入後のサポートについて丁寧に説明してあげるとよいでしょう。

    Q. データ収集に協力してもらえない場合はどうしたらよいですか?

    A. 収集方法の見直しや代替データの活用を検討しましょう。

    たとえば、アンケートは回答率を高めるために5問以内・選択式中心など簡単な回答形式のものに変更したり、回答者へのインセンティブを設けたりすることは効果的です。

    現場メンバーからの協力が難しい場合は、プロジェクト推進者へのインタビューや、システムログからの利用状況把握など、現場の負担が少ない形でデータを取得する方法へ切り替えるのもよいでしょう。

    Q. 報告会後に「もう少し検討したい」と言われた場合はどうすればよいですか?

    A. 結論を出してもらう会議の日程をその場で決めましょう。

    トライアル期間中に結論が出ないことは珍しくありません。避けたいのは、そのまま結論が先延ばしになって自然消滅してしまうことです。そのため、検討してもらうにあたって必要な資料を整理して提示したうえで、最終判断の期限を決め、その場で次の会議を設定しましょう。

    まとめ

    導入ブリッジ報告会は、単なる進捗共有ではなく、有料契約に向けた合意形成を確実に進めるための会議です。有料契約の判断を下すために必要なデータや議論すべき論点を、過不足なく盛り込むことが重要です。

    今回紹介したテンプレートも活用しながら、自社の製品や顧客の状況に合わせて設計してみてください。

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