パートナービジネスに取り組む目的を設定する

第2章では、パートナー戦略の策定に取り組みます。

戦略策定のゴールは、ターゲットとなるパートナーを選定し、KPIを設計すること。まず自社がパートナービジネスに取り組む目的を明らかにしておくのが大切です。パートナービジネスに取り組む目的が明らかになれば、自社が選ぶべきパートナーも明確になります。

本コラムでは、パートナービジネスに取り組む目的を検討する際のポイントを解説します。ポイントは次の2つです。

  1. パートナービジネスは顧客にリーチする手段の一つとして考える
  2. 自社にとって、パートナービジネスは本当に適切な打ち手なのか。一度立ち止まって考える

ポイント1.パートナービジネスは顧客にリーチする手段の一つとして考える

パートナービジネスに取り組む目的を考えるときは、営業担当者の数を増やす観点ではなく、顧客にリーチする手段の一つとして検討します。取り組む目的は、大きく次の2つに分けられます。

  1. マジョリティ層へのリーチ
  2. 新規セグメントの攻略

たとえば市場の約70%を占めるといわれるマジョリティ層へリーチしたい場合。「事業成長の鍵を握るパートナービジネス」でも触れたとおり、マジョリティ層は能動的に情報収集を行いません。よって、積極的に情報収集を行う層とは異なり、アプローチの難易度は高くなります。

その場合、ローカルキングと呼ばれるような当該商圏に強いパートナーは、マジョリティ層にリーチするのに有力なチャネルとなるでしょう。

新規セグメントの開拓を目指す場合も、同じ考え方が適用されます。

たとえば、これまで接点のなかった業界への拡販を考える際には、その業界への理解や専門知識が必要になります。中小企業だけでなく大企業もターゲットにする場合は、アプローチ方法を変更する必要があるでしょう。

さらに、こうした新規セグメントに対しては、認知獲得も必要です。すでに顧客との関係を構築しているパートナーがいれば、これらのセグメントにリーチするための有力なチャネルとなります。

Web会議サービスを提供するアメリカのZoom社は、北米では直販の売上が90%を占めます。一方、日本での売上は、70%がパートナーによるもの(※)。日本の商習慣にあわせて、すでに顧客との関係が構築できているパートナーを活用した好例です。このように顧客へリーチする手段の一つとして、パートナービジネスに取り組む目的を設定しましょう。

※出典:月刊コールセンタージャパン「ウィズコロナ時代のコミュ二ケーション基盤、大本命!会議、イベント、電話──新市場開拓に挑む

また、商品・サービスの価値を向上させたい場合に、連携強化や新たなビジネスモデルの開発を目的としてパートナービジネスに取り組むこともあります。

前者は周辺システムとのAPI連携などを実現し、シームレスな顧客体験を提供するケース。顧客が複数のシステムを利用している場合にあてはまるでしょう。後者は広義のアライアンスビジネスを指します。自社だけでは生み出せない価値をパートナーとともに生み出します。

図版:縦軸が市場、横軸が商品・サービスでパートナービジネスに取り組む目的を整理したマトリクス図

ポイント2.自社にとって本当に適切な打ち手なのか。一度立ち止まって考える

そもそもパートナービジネスは本当に自社に必要なのか。一度立ち止まって考えることも必要です。

たとえば次のどれかにあてはまる場合、自社にとってパートナービジネスは適切な打ち手ではない可能性があります。

図版:パートナービジネスが適切な打ち手ではない可能性がある状態をテキストで示した図

商品・サービスがPMFしていない

PMFとは、Product Market Fit(プロダクト・マーケット・フィット)の頭文字を取ったものです。

商品が顧客のニーズを満たし、正しい市場に提供されている状態を指します。ここでいう正しい市場とは、「その商品をほしがる顧客がたくさんいる」市場のこと。PMFしていない商品・サービスの場合は、営業担当者が必死に売り込みをかけても受注できず、たとえ売れたとしても商品・サービスを使った顧客が満足しません。

PMFしていないゆえに直販でも売れない商品・サービスは、パートナー経由でも売れません。パートナービジネスに取り組む前に、直販で商品・サービスが売れるストーリーを整理してターゲット顧客を明らかにしましょう。

商品・サービスのターゲット顧客が限定的

ターゲット顧客が500社にも満たない、限られた層しか商品・サービスを購入しない場合は、自社で直接販売するほうが早く成果が得られ、コストも抑えられる可能性があります。

商品・サービスのLTVが低い

パートナーはLTVが低い商品・サービスには、営業リソースを割きません。たとえば1社あたりの月額が数万円のような、低価格の商品・サービスは取り扱ってもらえない可能性が高くなります。解約率が高い商品・サービスも同様です。

逆に、1ユーザーあたりの利用金額が月額5,000円であったとしても、継続的に利用ユーザーが増えるようなサービスであればLTVが伸びるため取り扱ってもらえる可能性は高まります。検討するときは、このようにLTVの観点でパートナーの売上を考えるとよいでしょう。

商品・サービスの専門知識が必要

専門知識が必要な商品・サービスは、売る難易度が高いもの。パートナーも専門知識を習得する必要があるため、取り扱いを避ける傾向があります。

経営層の理解がない

第1章でも述べたとおり、パートナービジネスの立ち上げは中長期の取り組みになることがほとんど。短期的な売上貢献はできないことを経営層に理解してもらう必要があります。

これを理解してもらえない場合、パートナービジネスの取り組みは現実的ではないでしょう。また、経営層の理解がないことから投資をしてもらえない、人を増やしてもらえない、パートナービジネスの優先度を上げてもらえない場合も同様です。

専任担当を置かない

直販とパートナービジネスを兼務するケースもありますが、多くの場合うまくいきません。なぜなら多くの担当者は目先の売上(直販の売上)を優先するからです。パートナービジネスは片手間では進みません。専任担当を置かない・置けない場合もパートナービジネスの取り組みは現実的ではないでしょう。

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