才流(サイル)では、『先駆者に聞く、パートナービジネスのリアル』と題して、パートナービジネスの先駆者の皆さまを取材し、パートナービジネスを進めるうえでのポイントや仕組みづくりのナレッジをご紹介しています。
今回は、ウイングアーク1st株式会社のパートナービジネスです。前後編でお届けします。
帳票・文書管理やデータ活用領域のミドルウェアで知られる同社は、2004年の創業以来パートナービジネスの拡大とともに事業を伸ばしてきました。
2021年には、パートナービジネスのさらなる成長を目指すアライアンス統括部を設立し、市場開拓やパートナープログラムの刷新に取り組みながら、お客さまとパートナー、そしてウイングアーク1stのビジネスが共に成長していく経済圏つくりに注力しています。
前半のインタビューでは、ウイングアーク1stのパートナービジネスの歴史とアライアンス統括部の設立の経緯、そしてパートナーのビジネスを創出するアライアンス「ISV Scrum(アイエスブイ スクラム)」について話をうかがいました。
2016年にウイングアーク1st株式会社入社後、SVF CloudのSalesforce市場開拓に従事。2017年からは大手SIパートナーやアライアンスベンダーとの協業を担当する営業部門の部門長を担当。2020年にアライアンスチームを立ち上げ、翌年アライアンス統括部に昇格。2024年4月より現職。
2008年にウイングアーク1stの新卒3期生として入社。ダイレクト・パートナーセールス、イネーブルメント、営業マネージャーなど幅広く経験し、2021年より現在の営業企画職へ。パートナープログラム・WARP(WingArc1st Relationship Platform)の運営強化、データ&デジタルを活用したパートナー活性化支援に従事する。2022年に新潟県の南魚沼へ移住。
中長期的にパートナービジネスの成長を担うアライアンス統括部
桂川 はじめに、ウイングアーク1stの事業と営業体制を教えてください。
横尾 ウイングアーク1stは、帳票・文書管理と企業のデータ活用を促進するデータエンパワーメント領域のソフトウェア、クラウドサービスを開発・販売する企業です。

横尾 帳票・文書管理事業では、市場シェアNo.1の総合帳票基盤ソリューションSVF(※)や、クラウド帳票サービスSVFCloud、電子帳票プラットフォームinvoiceAgentを主力製品とし、お客さまの帳票のデジタル化や企業間流通を支援しています。
※SVF(Super Visual Formade):商取引において発生する請求書、納品書、発送伝票や、公的機関が発行する各種証明書などの各種帳票類の設計、出力をオールインワンソリューションで実現する総合帳票基盤のこと(出典:https://www.wingarc.com/product/svf/)
データエンパワーメント事業では、累積導入社数7,200社以上のデータ分析基盤ソリューションDr.Sumやさまざまなデータをリアルタイムで可視化するBIダッシュボードMotionBoardを軸に、企業のデータ活用を支援しています。
営業本部には、営業統括部、カスタマーリレーションシップ統括部、リージョナル統括部、アライアンス統括部の4つの部署があります。そのなかでも、私たちアライアンス統括部は、単年度の予算を持たず、「営業本部のみんなのために頑張るチーム」です。

桂川 アライアンス統括部は、2021年に横尾さんが立ち上げたとうかがいました。どのような背景があったのでしょうか。
横尾 当社はパートナービジネスによって成長を続けてきた会社ですが、まだまだ開拓できていないパートナーさまもいらっしゃいますし、既存のパートナーさまへのサポートももっと強化したいという課題があったんです。
ただ、単年度の予算を追うフィールドセールスがその課題を解決するのは難しい。そこで、中長期的な視野を持ってパートナービジネスの体制を整え、新市場を開拓していく組織が必要だと考えたんです。
まずは、2020年にパートナーアライアンス部が立ち上がり、翌年に営業本部の1つの部署としてアライアンス統括部へと昇格しました。
パートナーの活動支援と「GO TO MARKET」でパートナービジネスを支える
桂川 アライアンス統括部のミッションを教えてください。
横尾 販売パートナーさまの活動支援と新市場開拓の2つが、アライアンス統括部の大きなミッションです。
1つ目の販売パートナーさまの活動支援とは、パートナープログラム・WARP(WingArc1st Relationship Platform)の運営と発展です。現在、のべ560社のパートナーさまに参画いただいています。
2つ目の新市場開拓は、「GO TO MARKET」(※)として、ウイングアーク1stが参入できていない市場を開拓し、アライアンスで新規のビジネスをつくることを目的としています。
多くの販売パートナーさまがいるウイングアーク1stですが、ISVと呼ばれる独立系のソフトウェアベンダーの企業さまとの協業は、あまり進んでいませんでした。たとえば、マイクロソフトさまやAWSさまが持つ大きな市場で、ウイングアーク1stの知名度はほとんどありません。
※Go To Market:自社の商品をどのような流れで顧客へ届けるかをまとめた戦略のこと(出典:GTM(ゴートゥーマーケット)|PMFを理解するために必要な用語)
桂川 販売パートナーとの関係は築けていたが、製品連携のようなアライアンスは少なかった、ということですね。
横尾 そこで、ウイングアーク1stにとっての新しい市場を開拓するGO TO MARKETのチームを立ち上げました。のちほどお話しする「ISV Scrum」は、GO TO MARKETの象徴的な取り組みです。

桂川 アライアンス統括部は売上目標を持たないとのことですが、どのような目標や評価指標を設定していますか。
横尾 シンプルに「アライアンス統括部の活動からどれだけ新規案件を発掘できたのか」や「パートナーさまの売上が何%上がったのか」といった指標を意識しながら取り組んでいます。営業本部全体が予算を達成できたかどうかがすべてです。
中原 私の部門でも、「営業本部としてどのような目標設計をするのか」は、日々悩んでいます。KGIの「売上」に貢献するプロセスをどう分解していくか、試行錯誤しています。
桂川 予算を持たず、パートナーのサクセスを追求する部署の設立は、パートナービジネスへの強いコミットを感じます。
横尾 単年度で結果を出すことを追求するのであれば、アライアンス統括部は必要ない組織でしょう。しかし、当社の売上の8割近くがパートナーさま経由。パートナービジネスをもっと大きくするための活動や組織化については、会社の理解がありますね。
お客さまからもパートナーからも支持されるウイングアーク1stの製品力
桂川 続いて、ウイングアーク1stのパートナービジネスの歴史をうかがいます。まずは、パートナープログラムWARPの立ち上げから教えてください。
中原 WARPは2005年に発足し、翌年には第1回目のパートナーアワードを実施しています。
ウイングアーク1stの創業は2004年ですが、主力商材の帳票ツールは1995年に発売されており、一定の市場ができていました(※)。さらに売上を伸ばす目的でパートナービジネスをスタートしたと聞いています。
※ウイングアーク1stは、1993年に前身となるシステム会社の帳票ツールの開発、販売を新規ビジネスとする事業部として始まった。
横尾 その頃、私はウイングアーク1stのパートナーの1社に所属していたのですが、ウイングアーク1stはパートナー総会やアワードを精力的に行っていました。勢いと迫力があると感じましたね。
桂川 どのようなきっかけから、パートナービジネスが大きく伸びたのでしょうか。
中原 2000年前後のSAP ERPを始めとしたERPの導入ブームです。その流れに乗り、当時、帳票をPDF化できるという先進的な機能を持ったウイングアーク1stのSVFの導入も一気に伸びました。
ウイングアーク1stの製品はミドルウェアのため、開発が必要です。事業を広げていくうえでは、開発を支えてくださるシステムエンジニア(以下、SE)の方々の力が欠かせません。
ERPの商談や官公庁系の大きな契約が取れはじめると、大手のSIer企業をふくめ、パートナーさまたちが「ウイングアーク1stと取り組むとビジネスになる」と、積極的に販売を進めてくれるようになったんです。

横尾 SVFの次にリリースしたDr.Sumも、SEによる開発が必要な製品でした。SVFと同様の座組で広がり、お客さまもパートナーさまも私たちも、みんながハッピーになる構造が作れました。
ウイングアーク1stは、メーカーの一人勝ちではなく、パートナーさまと一緒に、お客さまの課題を解決してきたのです。
桂川 ウイングアーク1stのパートナービジネスの勢いは、世の中のビジネスの変化にフィットしたことと、製品特性にあったんですね。
中原 もう一つ大きな理由があると考えています。それは、エンドユーザーのお客さまが「ウイングアーク1stの製品が良い」と選んでくださったこと。お客さまからの評判が良ければ、パートナーさんも少しずつ担いでくれるようになります。
桂川 パートナービジネスを伸ばすうえで、「パートナーに担いでもらうには?」は重要な観点です。しかし、何よりも良い製品、売れる製品であることが大切。ウイングアーク1stのパートナービジネスの強みは、エンドユーザーから選ばれる製品群とその開発力にあると感じました。
横尾 ウイングアーク1stでは、基本的にパートナーさま自身が案件を創出しています。さらに「横尾さん、こんな案件ができましたよ」と共有してくださるので、私たちも喜んで伴走支援をする。
「ウイングアーク1stの製品をお客さまへ提案したい」というパートナーさまの力によって、パートナービジネスは拡大してきました。このビジネスモデルを私たちのような規模で取り組んでいる会社はなかなかないと思いますよ。
ベンダー同士で連携。両社のパートナービジネスを拡大するISV Scrum
桂川 では、ISV Scrum(アイエスブイ スクラム)についてくわしく教えてください。
横尾 ISV Scrumは、ウイングアーク1stと独立系ソフトウェアベンダーさまと組むアライアンスの総称です。
これまでに、コンテンツクラウド「Box」とinvoiceAgent 文書管理が連携した「invoiceAgent Adapter for Box」や、RPAの世界シェアNo1.であり、日本でも高いシェアを占めるUiPath社との連携「invoiceAgent & UiPath 連携ソリューション」などを提供しています。
桂川 従来のアライアンスと、どのような違いがあるのでしょうか。
横尾 invoiceAgentは、他の製品と連携することで「1+1が3になる」タイプの製品です。
たとえば、コンテンツクラウドとしてBoxを導入済みのお客さまがinvoiceAgentを組み合わせて活用すると、日本固有の電帳法やインボイス制度などの法対応が実現でき、業務負担の改善につながります。
システムそれぞれの得意領域を活かすことで、単一の課題解決だけではなく、顧客のDXや業務効率化を促進できます。

横尾 そして、この連携した製品を双方のパートナーさまの新しい製品として売っていただく。
ウイングアーク1stの製品とシナジーが生まれる製品を持つベンダーさまと協業戦略からデザインし、連携した製品をパートナーさまが販売する。これが、ISV Scrumです。
桂川 なるほど。invoiceAgentをはじめとしたウイングアーク1stの製品と相性の良いソフトウェアと組み、おたがいのパートナーが販売することで、一気にシェアを伸ばしていく設計なんですね。
横尾 ウイングアーク1stは「パートナービジネスで成功している会社」として名前を挙げていただく機会が増えてきました。しかし、SVFという製品が強力であるゆえに、パートナーさまに新しい製品を取り扱っていただくことが難しいという課題があったのです。
とくに、invoiceAgentはウイングアーク1stの戦略製品の1つ。パートナーさまにも注力して販売いただくためは何ができるかを考えるなかで、「仲間(ISV)の力を借りよう」という発想にいたりました。
また、昨今SEの人材不足が問題となっています。パートナーさまからも、「新製品を売るための体制づくりが難しい」と聞きます。しかし、「今あるワークフローツールの販売体制のなかでinvoiceAgentが取り扱えるのであれば、対応できます」という声が多かったんですね。それが、各ワークフローツールとinvoiceAgentの連携ソリューション化のきっかけになったんです。
連携の結果として、ウイングアーク1stのパートナーさまが取り扱う製品も増え、案件数の増加や規模の拡大につながっています。
パートナーの販売網でビジネスがどう広がっていくか?をイメージする
桂川 パートナービジネスの製品連携というと、ベンダー同士で完結する形が多くなりますが、ISV Scrumはパートナーにとっても売れる製品が増え、新しい案件創出にもつながる、よりスケールの大きな連携なんですね。
横尾 たとえば、日本で1万7000社が導入しているBoxは、100%パートナーセールスですが、ウイングアーク1stの製品を取り扱っていないパートナーさまもいらっしゃいました。
ISV ScrumとしてBox社と連携をしたことで、ウイングアーク1stに新しいパートナーさまが増え、invoiceAgentを販売してくださる機会が増えました。
なかには、両社の製品を扱っているパートナーさまもいますが、Box社の製品と当社の製品では主幹の部署が異なっていました。同じパートナーさまでも、従来はリーチできていなかった部署にinvoiceAgentを広めることができたんです。
Box社にとっても、新しい市場の開拓につながっています。

桂川 パートナーを1社1社リクルーティングするのではなく、ベンダー同士の販路を活用する。まさに「仲間の力を借りる」仕組みだと感じます。
横尾 もちろん、既存のパートナーさまへの良い影響もうまれています。
先日、ISV Scrumを組んでいるとあるワークフローベンダーさんと関西でイベントを行い、同社のパートナーさまと会う機会がありました。
その多くがウイングアーク1stのパートナーでもありましたが、当社の営業担当者から「長いお付き合いのあったパートナーさまとも、ワークフローツールとinvoiceAgentの観点から、新しい会話がたくさんできました」といわれたんですよ。パートナー深耕にもなっています。
桂川 ウイングアーク1stの営業担当にとっても、パートナーへ提供する情報や提案の切り口が増えている。すばらしいですね。
横尾 「ワークフローツールのオプションです」といった提案でも構いません。すでに構築されているワークフローツールの販売体制や開発体制のなかで、invoiceAgentも一緒に取り扱っていただきたい。
当たり前の話のように聞こえるかもしれませんが、意外とここまで踏み込んでやっている企業は少ないのではないでしょうか。
桂川 ISV Scrumの取り組みを始めてから、どのような成果を感じていますか。
横尾 大手のパートナーさまからの案件が増えています。「もしISV Scrumがなかったら、こんな提案が実現していただろうか?」という世界観になっていますね。
中原 お客さまにとってもメリットが大きいです。「ワークフローだけ」「invoiceAgentだけ」のような部分的な提案が、「ワークフローの構築と帳票DXがまとめてできます」と提案できるようになります。
お客さま、パートナーさま、ベンダーと、みんなにとって幸せな座組が作れているのではないかと感じます。

横尾 お客さまから「invoiceAgentと連携するワークフローツールを提案してほしい」という要望をいただき、ISV Scrumを提案したこともあります。
ウイングアーク1stとして、ISV Scrumの連携先のパートナーアワードも積極的に狙い、今後も露出や知名度を高め、新しいパートナーさまと協業していきたいです。
(執筆:大崎 真澄 撮影:関口 達朗)
後半では、パートナープログラムWARP(WingArc1st Relationship Platform)の運営強化についてうかがいます。
ウイングアーク1stでは、パートナー活動の支援にあたり、パートナー制度の仕組みを刷新。あわせて、パートナーの活動状況を可視化し、販売実績やパートナーグレードの評価基準に関する進捗状況をリアルタイムに表示するデータダッシュボード「WARP SuccessBoard」の提供も開始しました。
その結果、売上が増えたり、上位のグレードになったパートナーが増えたそうです。メーカーとの協業を深める、パートナーコミュニケーションの事例をぜひお読みください。
インタビュー後半⇒ウイングアーク1stの最新パートナービジネスを大公開②営業活動をデータで支援。パートナーが儲かるパートナープログラムの設計方法
書籍『パートナービジネス戦略 基本と実践』のご紹介
最後に、本対談でファシリテーターを務めた桂川の著書をご紹介します。
『チャネルを広げBtoB事業をスケールさせる パートナービジネス戦略 基本と実践』(日本実業出版)は、2025年12月に発売したパートナービジネス専門の実務書です。これまで属人化しがちだった知識や暗黙知を、約300ページにわたって体系化しました。
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【目次】
第1部 基本編 パートナービジネスの全体像をつかむ
第1章 パートナービジネスの基本を理解する
第2章 パートナービジネスの立ち上げ方を理解する
第2部 戦略編 立ち上げの設計図を描く
第3章 パートナー戦略を策定する
第4章 パートナープログラムを設計する
第5章 コンテンツを整備する
第6章 パートナー候補にアプローチする
第7章 最初の成功者を生み出す
第3部 実践編 信頼・集中・共創で協業を拡大する
第8章 接点を広げ・深め、協業を拡大する
第9章 注力パートナーに集中し、仕組みで拡大する
第10章 ロイヤルティプログラムで成果を最大化する