SaaS企業が飛躍的に成長するための戦略として、注目されているパートナービジネス。
才流(サイル)では、『先駆者に聞く、SaaS×パートナービジネスのリアル』と題して、パートナービジネスの先駆者の皆さまを取材し、パートナービジネスを進めるうえでのポイントや仕組み作りのナレッジをご紹介しています。
今回お話をうかがったのは、「採用管理システムsonar ATS」を軸にHRTech領域で複数のサービスを展開する、Thinkings株式会社の後藤 雄峰さんです。
同社では、2022年8月にパートナーセールスの専任チームを立ち上げました。
現在、「sonar ATSの世界観に共感してくれるパートナー」を中心に連携を深めており、目標に対して約140%の成果が出ているといいます。
後藤さんに、パートナーセールスを始めた経緯や体制、パートナー選定のポイントをうかがいました。
聞き手は、才流コンサルタントの桂川 誠です。
「パートナーセールスを始めるうえでの体制が知りたい」「自社のサービスと相性の良いパートナーを見つけたい」企業の方は、ぜひお読みください。
才流では「適切なパートナーと契約したい」「代理店が売りたくなる仕組みをつくりたい」企業さまを支援しています。代理店販売でお悩みをお持ちでしたら、ぜひご相談ください。
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[sonar ATSのパートナービジネスの特徴]
- パートナーセールス専任チームを立ち上げ
- パートナーへのアクション量が増加し、半年で目標を達成
- 「sonar ATSの世界観に共感するパートナー」がアクティブに活動
フィールドセールスとパートナーセールスはまったく異なる仕事
桂川 はじめに、sonar ATSについて教えてください。
後藤 sonar ATSは、企業の採用業務を効率化する採用管理システム(Applicant Tracking System)です。2022年に、サービス提供から10周年を迎えました。
近年、人材採用のハードルが上がっています。多くの企業は、複数のチャネル(応募経路)を掛け合わせて採用活動に取り組んでいますが、チャネルが増えるほど候補者のデータがバラバラになり、管理が難しくなってしまう課題があるんです。
sonar ATSは、複数のチャネルを紐づけ、採用関連の情報の一元化や作業効率の向上を実現するシステムです。また、新卒・中途採用を1つの画面で統合し、管理できる点が特徴です。
上場企業から中小企業、新進気鋭のベンチャー企業まで、1,400社以上の導入実績があります(2023年3月時点)。
桂川 sonar ATSでは、どのようなパートナービジネスを展開していますか。
後藤 パートナーには案件を取り次いでいただき、実際の商談や提案は私たちが担当しています。現時点では、代理販売やディストリビューター(※)各社とのお取引は行っていません。
※ディストリビューター(販売店)
ディストリビューターとは、顧客に直接販売せず、代理店へ商材を卸す仲介業者のこと。
(参考記事:ディストリビューターの実態が知られていないので、解説してみた | メソッド | 才流)
桂川 取次形式なんですね。何人で担当しているのでしょうか。
後藤 2022年8月に専任のチームが発足し、私を含めて2名体制です。私がパートナーセールスを、もう1人のメンバーがフィールドセールス(以下、FS)を担当しています。
具体的には、パートナーセールスが、パートナー開拓や契約、オンボーディング、案件の取次などを担当し、取り次いだ案件をFSがクロージングしています。
桂川 パートナーセールスの体制は、各社さまざまです。パートナーがリードを獲得し、商談からは直販チームのFSが関わる企業もあります。sonar ATSの場合は、パートナーセールスと、パートナーセールス専任のFSという体制なんですね。
後藤 役割をチーム内でも明確に分けた理由は、「パートナーセールスとフィールドセールスはまったく異なる仕事」だと考えているからです。
私は、Thinkingsに入社してから、2年半近くFSを経験しています。その後、パートナーセールスを担当することになったのですが、「同じサービスを販売するのに、こんなにも勝手が違うのだ」と痛感しました。
成果へつなげるためには、各パートナーの事業を理解し、「パートナーにとってsonar ATSはどのような立ち位置にあるのか」を把握しなければなりません。それを踏まえて、地道に啓蒙活動を進めていく必要があります。
同じセールスでも属性が違う。だからこそ、パートナーセールスとFSをわけ、それぞれの業務に注力できる体制を採っています。
専任チームの立ち上げを後押した「兼任でも高い受注率」
桂川 続いて、専任チームを立ち上げた背景を教えてください。
後藤 大きく2つの理由があります。1つは、当社のマーケティング活動や直販のみではアプローチしきれない企業群の存在です。より多くの企業へsonar ATSを提供していくには、パートナーの力が必要だという判断になりました。
もう1つの理由は、パートナー経由の受注率が明確に高かったことです。
実は、アウトソーシング認定パートナー(※)や他の企業からのご紹介といった直販以外の案件を、直販チームで担当していた時期があります。そのとき、ご紹介案件の受注率が高いことに気づいたんです。
※ アウトソーシング認定パートナー:sonar ATSの各種トレーニング講座や採用フロー相談会などの学習にてsonar ATSを習熟したパートナー企業のこと
他のリードソースからの受注率に比べて、ご紹介案件の受注率は2倍近い実績になっていました。
桂川 なぜ受注率が高かったのでしょうか。
後藤 アウトソーシング認定パートナーが、エンドユーザーのお客さまに対して、sonar ATSの特徴や利点をしっかりと説明されていたからです。「ATSはsonar ATSにしよう」と前向きに検討しているお客さまとの商談につながっていました。
パートナーセールスとしてご紹介案件からの受注をスケールするためには、パートナーとのコミュニケーション量を増やすことが大切。そこで、専任チームを立ち上げました。
採用業務やsonar ATSにくわしいパートナーほど成果が出る
桂川 ここからは、専任チームの立ち上げから現在まで、どのような活動をしてきたのかを教えてください。
パートナーセールスでは、まず「自社のサービスを売ってくれるパートナー」との出会いが重要です。sonar ATSでは、どのようなパートナーと契約を進めていますか。
後藤 パートナーは、「法人パートナー」「個人パートナー」「VC・金融機関」の3つに分かれています。
法人パートナーは、採用BPOの企業や採用コンサルティング、ITコンサルティングの企業が中心です。一部、アウトソーシング認定パートナーも含まれています。
個人パートナーは、採用市場に多い、自身のコネクションを活かしてフリーで活動している個人の皆さんです。そして、Thinkingsへ出資してくださっているVC(ベンチャーキャピタル)や金融機関からのご紹介案件も、パートナーセールスとして対応しています。
桂川 パートナーごとに、どのようなコミュニケーションをとっていますか。
後藤 法人パートナーの場合は、エンドユーザーのお客さまの採用活動のスケジュールから逆算して、一緒に提案するケースが多いです。
採用活動にはシーズナリティ(季節ごとのイベント)があります。たとえば新卒採用は春から一気に活動が本格化しますし、中途採用も年度が変わる4月がスタートの時期になりやすい。この動きを見て計画を立て、提案しています。
一方、個人パートナーや金融機関経由のご紹介は、経営者や企業オーナーが多いです。ご相談があったタイミングで、一緒に提案しています。
また、フィーをお支払いするタイミングもパートナーによって異なります。法人パートナーは、成約したタイミング。個人パートナーは、ご紹介から商談が設定された場合にフィーをお支払いしています。
桂川 現在関わっているパートナーは、何社くらいですか。
後藤 約180社です。アクティブなパートナーは、そのなかの20〜30%ほどでしょうか。現状は、アクティブなパートナーとしっかり関係性を築いていくことに注力しています。
桂川 一般的に、アクティブなパートナーの割合は10%前後といわれていますから、sonar ATSのパートナーセールスは順調に進んでいますね。アクティブなパートナーには、どのような特徴や傾向がありますか。
後藤 アウトソーシング認定パートナーの多い、法人パートナーの活動が活発です。法人パートナーは採用における知識や経験が豊富ですし、なおかつお客さまの採用業務にも深く携わっています。
お客さまの課題をsonar ATSでどのように解決できるかを提案したうえで、案件を紹介くださるので、受注率も高くなるのだと考えています。
桂川 採用課題は、企業によってさまざま。sonar ATSのユースケースも一緒に提案できるパートナーの存在は、心強いですね。
後藤 SaaS事業者によっては、パートナー契約の条件に、販売するサービスの導入を含めるケースがあります。
私たちはその条件を設けていませんが、なかには「サービス理解を深めたいから」という理由で、sonar ATSを導入するパートナーもいます。パートナーの自社採用にも活用してくださっているんです。
桂川 パートナーがsonar ATSを導入することで、商品理解が深まり、受注につながるだけでなく、パートナーの採用活動にも貢献できる。双方にとってよい効果が出ていますね。
では、非アクティブなパートナーには、どのようなコミュニケーションをとっているのでしょうか。
後藤 インサイドセールスのメンバーからアプローチをしています。ベーシックな方法ですが、「お客さまへのご提案の状況はいかがですか?」と進捗を確認したり、勉強会のような施策も取り入れながら、「一緒に提案しませんか?」など、連絡をしています。
パートナーへのアクション量が増加。半年で目標の140%を達成
桂川 専任チームが始動してから約半年が経ちます。どのような成果が出ていますか。
後藤 パートナーセールスチームの目標値に対して、約140%の成果が出ています。
専任チームになったことで、アクティブパートナーと月次で定例会を行ったり、パートナーの組織に合わせて勉強会を実施するなど、パートナーへのアクション量が担保できるようになりました。
また、ありがたいことに、「パートナー契約をしたい」というお問い合わせも増えています。以前は直販業務の合間で対応せざるを得なかったのですが、今ではすぐに対応でき、パートナー数やパートナー経由の成約の増加につながっています。
「パートナービジネスでやるべきことを、きちんと取り組める体制が整った」成果です。
桂川 ここまでをふりかえって、困難なことはありましたか。
後藤 2つあります。1つ目は、sonar ATSとの相性がよいパートナーと出会うことです。
立ち上げ初期は、半年間で120社近いパートナーと面談をしました。当然ながら、すべてのパートナーがアクティブにsonar ATSを案内してくれるわけではありません。
やはり「“この方達にsonar ATSを取り扱ってほしい!”と思うパートナーは、簡単には見つからなかった」が現実です。
パートナーセールスの成果をつくるには時間がかかります。活動量と成果が比例することは確かですが、目に見える成果はすぐには出ません。パートナーセールスは長期的な目線で考える必要があると思います。
2つ目は、お客さまとの期待値調整です。勉強会などを含め、私たちの啓蒙活動の不足が原因でもありますが、パートナー経由でお客さまへ誤った情報が届いてしまう場合があります。
商談時やオンボーディングでの期待値調整がズレてしまうと、チャーンのリスクに直結します。
SaaSに慣れているパートナーばかりではありません。人を介するパートナーセールスにおいて、このリスクをゼロにすることは難しいです。パートナーとのコミュニケーションの量を十分に確保して、正しい情報を伝えていく取り組みが必要だと感じています。
啓蒙活動のスタートは「会社の考え方」を伝えること
桂川 パートナービジネスによくある課題として、「契約したパートナーが思うように売ってくれない」があります。
パートナー内での自社サービスのプレゼンスを高めたり、パートナーの営業が売る理由をつくることが重要です。sonar ATSでは、パートナーへの啓蒙活動で、どのような工夫をしていますか。
後藤 「採用に関する私たちの考え方」をしっかりお伝えすることから始めています。私たちは、社会情勢や働き方が目まぐるしく変化していく時代において、採用活動もあるべき姿へ向けて、アップデートしていかなければならないと考えています。
sonar ATSは、「採用を変えていこう」と考えている企業から好まれるサービスです。私たちも、sonar ATSの世界観に共感してくださる企業の採用活動を後押ししたいですし、一緒に活動したいと考えているパートナーを支援したい。
ですから、私たちの考えにご納得いただいたうえで、sonar ATSの活用方法やパートナー契約のプロセスをご案内しています。
桂川 採用は、企業の経営方針に密接するもの。だからこそ、採用への思いや採用の変革への情熱を伝えることが、より重要になるんですね。
後藤 ATS市場には、大きく2種類のプレイヤーが存在します。1つは、特定の採用媒体を起点とし、その媒体と親和性が高いサービス。もう1つは、sonar ATSのようにさまざまなシステムとオープンに連携していくエコシステム型のサービスです。
前者のサービスのほうが認知度は高く、パートナーも販売しやすかったと思います。しかし、時代の変化にともない、採用市場には「求人広告を中心とした従来型の採用活動では採用が難しい」というリアルな声が届き始めています。
そのため、パートナーもあらためてATSごとの特徴や、注力するATSの見直しを始めている。この需要を、sonar ATSは少しずつ捉え始めているところです。
パートナーとの関わりから「自分たちだけでは考えつかない発見」が生まれる
桂川 sonar ATSのパートナービジネスの展望を教えてください。
後藤 私たちThinkingsは、「”予測困難で激変する時代には、変化の先をいく組織づくり”が必要である」という世界観のもと、その起点を「採用」から作っていこうというメッセージを発信しています。
パートナーセールスとして、私たちの世界観や考えに共感してくださるパートナーとのお取引を増やし、採用を変えたいと考えているエンドユーザーのお客さまへsonar ATSを広げていきたいです。
そして弊社は、IPOを目指しています。さらなる非連続な成長のため、販売代理やディストリビューター各社との取り組みも検討しています。
パートナーセールスが直販を超えていくフェーズを見据え、「既存の方法を根本から変えなければ」という危機感を持ちながら、私自身もしっかりと準備を進めていきたいです。
桂川 おわりに、これからパートナービジネスをはじめる企業や、担当者へアドバイスをお願いします。
後藤 パートナーセールスは面白いです。パートナーと一緒なら、自分たちだけでは考えつかないようなアイディアや気づきが生まれます。
「この領域にも自分たちのサービスが広がるんだ」「こんな付加価値をつけられるんだ」など、パートナーの存在が加わるからこそ、生まれる面白さがあります。
ただ、パートナーと面白いビジネスができるまでの過程では、地道なコミュニケーションが必要ですし、制度の設計、オペレーションの整理などが山積みです。
はじめは、さまざまなパートナーの話をうかがって、勉強することから。パートナービジネスにも、「量をこなした結果、質に転嫁されていく」ことが当てはまります。
そこはもう、愚直にやっていくしかありません。
才流のコンサルタントが要点を解説
パートナーセールスにおけるアクティブなパートナーの割合は、平均して10%前後とされています。
後藤さんによると、「sonar ATSと関わるパートナーのうち、アクティブなパートナーは20〜30%」とのこと。とても高い数値であり、世界観への共感の重要性が示されています。
sonar ATSは、「採用を変えていこう」と考えている会社から好まれるプロダクトです。私たちも、sonar ATSの世界観に共感してくださる企業の採用活動を後押ししたいですし、一緒に活動したいと考えているパートナーを支援したい。
ですから、私たちの考えにご納得いただいたうえで、sonar ATSの活用方法やパートナー契約のプロセスをご案内しています。
Thinkings 後藤さん
一般的に、パートナーは、同一カテゴリー内で競合する複数の製品・サービスを取り扱っています。才流で実施したパートナービジネスの実態調査によると、競合を扱っている割合は80%以上でした。
ベンダーの立場からは、差別化の要素としてパートナーへのインセンティブやサービスの機能拡充に注目しがちです。しかしパートナーは、「誰(会社や営業担当)とビジネスを行なうか?」も、重視しています。
したがって、パートナーが「ベンダーが目指す世界観に共感し、ともに世界観を広める仲間になりたい」と考えるような関係性をつくることは、強固な差別化要素になるのです。
Thinkings後藤さん、ありがとうございました。
(文/大崎 真澄 取材・編集/水谷 真智子)